ただしユーリの影が薄い……。メインはディアーチェということで……。
やっぱりはやてのところでお泊まり、です。
シュテルとレヴィがなのはとフェイトの家へと向かってから。ディアーチェとユーリは二人だけで洗い物をしていた。それほど多くのものがあるわけではないので、それもすぐに終わる。洗い物を終えて、それらの食器を新聞紙で包んで段ボール箱に入れる。しっかりと封をして、部屋の隅に置いた。
一段落して、ディアーチェはキッチンとリビングをゆっくりと見回す。ユーリも同じように部屋を見て、寂しくなりましたね、と小さくつぶやいた。
「うむ。もうすぐ引き払う故に当然なのだが、少し寂しくも感じるな」
「はい。たくさんの思い出が詰まっていますから……」
できることなら、ここも手放したくはない。ユーリはそう思っているのだろう。ディアーチェも未練がないと言えば嘘になるが、残しておいても意味がないのもまた事実だ。使わないもののために維持費を払い続けるわけにもいかない。金銭面ではまだ余裕はあるが、この先がどうなるか分からないのだから。
ユーリもそれが分かっているのだろう、寂しそうにしてはいるが、残しておきたいとは口にしない。ユーリが言えば、ディアーチェがどうにかしようとする可能性が高いためだ。ただ、せめて、と思うことはある。手放す前に、綺麗にしていこう、と。
ユーリのその提案にディアーチェが賛同し、昨日は午前中は部屋の掃除をして過ごした。それでもまだ少し時間が余ったので、残りは図書館で静かに読書をしていた。掃除以外はいつもと変わらない一日だったが、それでも充実していたと自信を持って言える。
「さて、では我々も行くとしようか」
「はい」
シュテルやレヴィと同じく、ディアーチェもはやてに招待されている。ただディアーチェはあまり乗り気ではなかったが、断ろうとしているディアーチェを見たはやてが、とても悲しげに自分を見つめてきていた。それ故にどうにも断れなくなり、ユーリも同行していいのならと行くことになっている。
「まったく、なぜ我がわざわざ出向かねばならんのだ……」
文句を言いながら靴を履くディアーチェ。そんなディアーチェを見て、ユーリは忍び笑いを漏らした。どうした、と聞くと、ユーリが笑顔で答える。
「ディアーチェは口では色々言いますけど、はやてさんととても仲が良いですよね」
「は……? いや待て、なぜそうなる!」
「でももっと素直にならないと、はやてさんの方が嫌っちゃいますよ?」
そんなことを言いながら、靴を掃き終えたユーリがディアーチェの横を通り過ぎる。だから違うと言っているだろうに、とディアーチェも慌てながらそれを追った。
はやての家へと向かいながら、ディアーチェは途中の公園の時計で時間を確認する。十一時過ぎ。お昼ご飯までに来て欲しいと言われていたが、十分間に合うだろう。
「あ、王様!」
そう思っていたのだが、聞こえてきた声にディアーチェはため息をついた。進行方向から聞こえてくる声で、そちらへと視線を向けるとはやてが手を振っていた。なぜここに、と思うが、すぐにその答えを予想する。おそらくは、
「お昼ご飯ができたからなあ。迎えに来たで」
「ああ、そうであろうな……」
ディアーチェがやれやれと首を振る。こんなことならもう少し早く出れば良かった、と。
「なぜ道中まで貴様と行動を共にしなければならんのだ」
「ええ、ひどいわ、王様。あたしは王様と会えるのが楽しみやったのに」
「我は会いたく……。ええい、そんな顔をするな!」
悲しげに顔を伏せるはやてにディアーチェが叫ぶ。いつものやり取りなので当然はやての意図にも気づいているのだが、なぜか演技と分かっていても見たくはないと思ってしまう。
「王様はあまあまですねえ」
「ですねえ」
背後からの声が一つ増えていた。頭を抱えたくなる衝動を堪えながら振り返ると、ユーリの隣にはいつの間にか小さな人影が増えている。リインフォースの名を受け継いだはやてのユニゾンデバイスだ。
「外に出るな、リイン。何も知らぬ者に見られるだろう」
そう苦言を呈すると、リインと呼ばれた子は残念です、と気落ちしながら返事をして、はやての元へと戻っていく。彼女の服の中へとその姿を隠した。
「もう少し注意させろ、子鴉」
「あはは、ごめんな? でもリインも久しぶりに王様たちに会えて嬉しいんやと思うよ?」
それは何となくだが理解できる。特にユーリはリインと仲が良い。ディアーチェが仕事などで出かけユーリが留守番をする時など、よく八神家へ、リインに会いに行っていると聞いている。もっとも、同じようにリインも家にいれば、の時だけだが。
ただ、最近は引っ越しなどの準備で会いに行けていないとも聞いていた。それ故に久しぶりに会えてお互いに嬉しいのだろう。邪魔をするのは無粋だと思うが、せめて誰にも見られない家まで我慢してほしいと思う。
ただ単純に、あまりおもしろくない、と感じてしまうためかもしれないが。
「じゃあ、行こか」
はやてがそう言うのと、もう一つの声が届くのは同時だった。
「あれ? ディアーチェにユーリ。はやても一緒だなんて珍しいね」
声の主を求めて公園へと視線を投げる。公園の入り口にシュウが立っていた。
「シュウか。どうしたのだ?」
ディアーチェが聞いて、シュウが答える。
「散歩、だよ。文花の邪魔にならないように。ちなみにお昼ご飯作ってくれてます」
「ふむ。そうか」
昼食の予定がないなら作りに行くのも悪くない、と思ったのだが、どうやら心配する必要はなかったらしい。早めに戻って一緒にいてやれ、と言うと、シュウは少し考える素振りを見せ、やがてしっかりと頷いた。
「次はいつ二人で過ごせるかは分からないしね。じゃあ戻るよ」
そう言って、きびすを返すシュウ。その背中へと、ディアーチェは思い出したかのように口を開いた。
「ああ、そうだ。事後承諾になるが、言っておくことがある」
「ん?」
「事業開始の書類だがな、店の責任者、つまりは店長にはうぬの名前を書いておいた」
シュウの動きがぴたりと止まる。はやても初耳だったのだろう、目を丸くして驚いていた。
「な、なんで僕が店長? ディアーチェじゃないの?」
シュウのその問いにディアーチェが首を振った。薄く苦笑の色をにじませ、言う。
「我は料理を作らなければならんのでな。それに、うぬは経営の勉強をしていると言っていたであろう。適任だ」
それはそうかもしれないけど、とシュウの笑みが引きつっていく。ディアーチェはそんなシュウから視線を逸らし、はやてを促して歩き始める。
「よろしく頼むぞ、店長」
ディアーチェが悪戯っぽく笑いながら言うと、シュウは目を瞠り、やがて、まあいいかと頷いていた。
「シュウ君が店長さんかあ」
八神家のキッチンにて、はやてが昼食を作りながらそう口を開いた。ディアーチェはリビングで本を読みながらそれを聞く。返事はしない。
一方的に世話になるのは不本意だからとディアーチェは手伝おうとしたのだが、はやてがそれを拒否した。晩ご飯の時にお願いします、と。
「シュウが経営……でしたっけ。それを勉強してるって聞いた時から実は決まってました」
はやてに答えるのは、ディアーチェの隣に座るユーリだ。ユーリの目の前にはリインがいて、こちらも二人で本を読んでいた。
「へえ……。じゃあ早めに教えてあげたら良かったのに。ミッドチルダと日本やとやっぱり細かいところで違うやろうし」
「それは考えたが、シュテルと相談して学校が終わってからと決めたのだ。こちらの勉学にまで時間を使って学生生活に悔いを残してもらっては困るのでな」
「なるほどなあ。さすが王様、優しいな! そんな王様にご褒美のあめ玉や!」
「いるか阿呆!」
「あ、私は欲しいです」
「む……。よこせ子鴉」
はやてに怒鳴っていたディアーチェだったが、ユーリの言葉ですぐに表情を改めた。はやてが笑い出しそうになるのを堪えながら、あめが入ったかごをディアーチェに渡す。それを受け取り、目の前のテーブルに置いた。
ユーリが瞳を輝かせ、ディアーチェとはやてを交互に見る。はやてが、遠慮せんといてな、と言い、ディアーチェが頷くのを見て、ユーリは嬉しそうに飴へと手を伸ばした。
「でももうすぐこっちも出来上がるから、あまり食べ過ぎんようにな?」
「はい! もちろんです!」
ユーリの笑顔を見て、はやてが目を細める。遠くを見るような、懐かしい思い出を思い出すかのように。ディアーチェはそのはやての表情を見て、何も言わずに本へと視線を落とした。
リインフォース。リインの先代は数年前に旅立った。そのリインフォースともユーリは仲が良かったようで、やはり八神家へとよく遊びに行っていたそうだ。ユーリの笑顔は、リインフォースのことを思い出させるのかもしれない。
「子鴉」
ディアーチェが呼ぶと、はやてがはっと我に返った。照れくさそうに苦笑してキッチンへと戻っていく。
そんなはやての背中をディアーチェが少しだけ気遣わしげに見ていたのだが、そのことには誰も気づかなかった。
「ただいまー!」
玄関から元気な声が届く。駆けてくる足音に続いて顔を覗かせた相手に、ユーリは笑顔で言う。
「おかえりなさい」
「ただいま! そっか、今日はユーリが来る日か」
声の主、ヴィータが得心したように頷く。彼女に続いて、シグナムとシャマル、ザフィーラもリビングへと入ってきた。ザフィーラは狼の姿だ。三人とも挨拶を交わす。
「ユーリちゃん、はやてちゃんは?」
シャマルが聞いて、ユーリがキッチンへと視線を向けた。
「ディアーチェとご飯を作っていますよ」
「え……。あの二人が? 一緒に?」
信じられない、といった様子のヴィータに、ユーリは思わず苦笑してしまった。ヴィータの反応は正しく、一緒に料理を作るということは今までにほとんどなかったはずだ。
「一緒にといっても、二人で分担しているだけみたいで……」
「貴様! それは作りすぎだろうが! 何を考えているのだ何を!」
「あはははは!」
「笑い事かああ!」
突然響き渡るディアーチェの怒声とはやての笑い声。ユーリとリインが顔を見合わせて笑い合い、ヴィータが驚きで目を丸くする。シグナムはやれやれと首を振り、シャマルは困ったような笑顔を見せる。ザフィーラは、ため息。
「でもまあ、いつも通りだよな」
ヴィータが言って、シグナムもそうだな、と頷いた。
「でもこのままじゃ心配ね。ちょっと手伝ってくるわ」
「いやそれはいいと思う!」
「そうだシャマル! 疲れているだろう、まあ座って休め!」
キッチンへと向かおうとしたシャマルを慌てて止める守護騎士たち。ザフィーラまでがシャマルの通り道を塞ぐほどだ。息の合ったコンビネーションである。
「この光景もいつも通りですよね」
「あはは、そうですね」
ユーリとリインはそう言って笑い合った。
食卓に豪華な料理が並ぶ。テーブルの中央に並ぶ五枚の大皿には五種類のおかずがそれぞれ盛られているのだが、中でも目を引くのは中央の大皿。唐揚げがこれでもかというほどに盛られ、ちょっとした山になっていた。どうやらこれが、ディアーチェが作りすぎだと怒っていたものらしい。
「喜べ。ギガうまの唐揚げが山になっているぞ?」
ディアーチェが発する珍しい皮肉にヴィータの表情が引きつる。ディアーチェの隣、はやては楽しそうな笑顔でヴィータを見つめている。シグナムたちは誰も視線を合わせようとはせずに食器の準備を黙々とこなしていた。
「たくさん食べられますねー」
「食べられますねー」
ユーリとリインが柔らかい笑顔で嬉しそうに言う。その二人に毒気を抜かれたのか、ディアーチェは力なくため息をついた。食器の準備を終えて全員が食卓についてから、
「これだけ人数がいれば……何とかなるだろう……」
小さな声でそうつぶやいた。
――なぜこうなる?
心の中でディアーチェは自問する。答えは決まっている。自分に甘さが残っているからだ。
夕食はいつも通りはやてと料理の批評を交わし合った。はやては料理の腕に関しては確かだ。お互いに学べるところがあると思っている。口には出さないが、それに関してははやてを信頼していた。
夕食まではいい。ディアーチェは思う。問題はなぜ自分がここにいるかだ、と。
「よし、準備完了や! さて、寝よか?」
ディアーチェへと笑顔を向けてくるはやて。ディアーチェはそれを一瞥して、不愉快そうにそっぽを向く。それでもはやては楽しそうに笑ってくる。
夕食後。ディアーチェとユーリは八神家の空き室に泊まることになっており、いざその部屋に向かうところではやてが言い出した。
「王様! せっかくやし一緒に寝よ?」
無論その言葉に対する返答は、断るという短いものだ。ユーリを一人にするわけにもいかない、という思いもあったのだが、
「じゃあリイン。今日は私と一緒に寝ませんか?」
「はい、もちろんですよ!」
さらりと決まったユーリとリインの就寝。ディアーチェが言葉を失い、はやては笑みを深くする。
「王様。一緒に寝よ?」
「だ、誰が貴様となど寝るか! 我は一人で寝る!」
「ええ! そんなさみしいこと言わんと! なあ、お願いやから、ね?」
「誰が! 貴様となど! 一緒に! 寝るか!」
一語ずつ言葉を句切り、はっきりと言ってやる。そしてあてがわれた部屋に向かおうとしたディアーチェの背へと、はやての悲しげな声が届けられた。
「最後の機会やろうから、と思ってたんやけどなあ……。やっぱり、あかんか……」
ぴたり、とディアーチェの動きが止まる。ふっとディアーチェが笑みをこぼす。何度も使われた手だ。未だ騙されるほど自分は馬鹿ではない。
「もうその手には乗るか。大人しく一人で……」
振り返りながらのディアーチェの言葉は、途中で途切れてしまった。はやてを見て、動きを完全に停止、思考も止まっている。
いつもの雰囲気はなく、悲しげに顔を伏せたまま、無理強いはあかんよな、とつぶやいてきびすを返すはやて。いつもの元気さはなく、とぼとぼと一人で歩いて行く。泣きそうな、とは言わないが、それでも本当に悲しげな姿。
久しく見るその姿に、ディアーチェは絶句する。このようなはやての姿を見たのは、ただの一度だけ。リインフォースが旅立った日だけだ。
ディアーチェはとても長いため息をつくと、寝室へと足を向ける。そして、
「早くしろ」
「え……?」
「我らも明日はやることがある。早めに休みたい。だから早くしろと言った」
ぶっきらぼうにそう告げて、はやてを追い抜いて彼女の寝室へ。はやては一瞬呆けた後、満面の笑顔を浮かべた。とても嬉しそうに、自分の寝室へと向かう。
「やっぱり王様、大好きやー!」
「ええい、抱きつくな阿呆!」
ディアーチェの叫びは空しく部屋に響いただけだった。
「優しいですねー。ユーリさんがちょっと羨ましいです」
二人が消えていき、未だに騒がしい寝室の扉を見つめながらリインが笑う。ユーリもその扉を優しげな笑みで見つめながら、頷いた。
「私たちの自慢の、優しい王様ですから」
――まったく、なぜ我がこやつとなど……。
ベッドの中で、ディアーチェは心の中でため息をついた。隣でははやてが整った寝息を立てている。それを見て、かつて一度だけ見た姿を思い出し、最後ぐらいは良いかと考えを改めた。
ディアーチェは思い出す。リインが生まれる前。リインフォースが旅立つ日のことを。笑顔で見送って欲しいというリインフォースの言葉を受け、はやては彼女が消えるその時まで、ずっと笑顔だった。もっとも、最後は泣き笑いに近いものになっていたが。
消えた後、少し一人にしてほしいとはやては一人で自宅へと戻った。何となく一人にするのは愚策だと思い、ディアーチェは黙ってその後を追う。そして見たのは、リビングで泣き続ける、見たこともない姿だった。
かける言葉が見つからないディアーチェは、黙ってキッチンに入り、ホットココアを二人分入れてから戻る。テーブルに突っ伏して嗚咽をもらすはやてに、置いておくぞと一言言って、そして彼女の隣に座った。
そこから先は何もしていないし、何も言っていない。それが正解だったのかは今でも分からない。ただ、長い時間泣き続けたはやてがようやく顔を上げた時、とても照れくさそうな笑みを浮かべていて安堵したものだ。
「ありがとな、王様。隣にいてくれて」
「貴様のためではない。ここに用事があっただけだ」
少しでも心配したなどとは絶対に言えない。ディアーチェはそう答えると、はやてから視線を逸らした。はやては、それでもありがとな、とやはり笑っていた。
「なあ、王様。起きとる?」
記憶を辿っていたディアーチェは、隣からの声で我に返った。そちらへと顔を向けると、自分を見るはやてと目が合った。
「なあ、王様。聞きたいんやけどな?」
「何だ」
「やっぱり管理局に入るつもりはないんやでな?」
ディアーチェは小さくため息をつく。はやてから何度も聞かれたことであり、それに対して自分は同じことを答えている。つまりは、
「阿呆か貴様は。管理局に入って我らに何の利点が……」
「隣に王様がいてくれたら、安心やから」
ディアーチェが目を瞠り、口を閉ざした。何を言っているのだ、と。はやては真剣な表情で続ける。
「あたしはまだまだ世間知らずや。だから、一人やと不安で……」
「騎士共がいるだろう」
「うん。でもみんな、王様ほどはっきりとは言ってくれへんからな……。王様なら、間違ってたら無理矢理にでも引き戻してくれるやろ?」
だから、一緒に来てくれへんか?
はやてのその言葉を真正面から受け止め、ディアーチェは小さく嘆息した。どうやらはやてはずっとこれを言いたかったらしい。
「もちろん、マテリアルのみんなそろって来てくれてもええよ?」
まるで引き抜きだな、とディアーチェは内心で苦笑する。そして、言った。
「管理局と関わる気はない。我らは誰にも縛られたくはないのでな。我らを縛っていいのは、我らだけだ」
「ん……。そっか。そうやでな」
変なこと言ってごめん、とはやては照れくさそうに笑う。じゃあおやすみ、と今度こそはやては瞳を閉じた。程なくしてから隣から整った寝息が聞こえ始める。
ディアーチェははやての寝顔を一瞥すると、自分も瞼を閉じた。
――もう少し、言い方があったか……?
心の中でそんなことを考えながら。
翌日。朝食を済ませ、ディアーチェとユーリは八神家を出る。見送りははやてとリインだ。騎士たちは管理局での仕事のためにすでに家を出ている。はやてもこの後すぐに行かなければならないらしい。
「無理に見送りなどせんでも良いだろうに」
「あはは。そんな寂しいこと言わんといてや」
ディアーチェの言葉を聞いてはやてが笑う。その二人の側では、
「絶対に来てくださいね。約束、ですよ?」
「はい! もちろん行きますよ!」
ユーリとリインが手を取り合って仲よさそうに話をしていた。それを微笑ましく思いながらも、ディアーチェはユーリを促す。行くか、と。
「はい。行きましょう、ディアーチェ」
名残惜しそうにしながらもユーリがディアーチェの側へ。手を振るはやてとリインに見送られながら、ディアーチェたちは八神家を後にする。
「……ああ、そうだ。子鴉」
途中でディアーチェが振り返り、はやてが首を傾げた。
「昨日のことだがな……」
「え……? あ、ああ! 忘れてええよ! むしろ忘れて!」
慌てたように手を振るはやてに、なら言うなという言葉は心の中で留めた。その代わりに、一晩考えた末の言葉をはやてに告げる。
「我らは管理局に関わるつもりはない。だが、まあ……」
そこまで言いかけて、少し気恥ずかしく感じてディアーチェはそっぽを向いた。その先にユーリの笑顔があって、赤くなりつつある顔を見られないようにさらに顔を背ける。
「貴様らの頼みなら、少しぐらいなら手を貸してやらんでも、ない」
「え……。王様、それって……」
唖然とした様子でつぶやくはやてへ、ディアーチェは顔だけ振り返り、
「だからたまには顔を出すといい。はやて」
そう言い終えると、足早に歩き出す。今までのことがあるだけにとても恥ずかしい。はやての顔を見ないようにして急いでその場を離れていく。そのすぐ後ろを歩くユーリは、嬉しそうに微笑んでいた。
「あはは……。どうせやったら、もっとはっきり言ってくれたらええのになあ」
ディアーチェたちが見えなくなるまで見送ってから、はやては家の中へと戻る。そろそろ準備をしなければならないだろう。そのはやての背中を追ってくるのは、リインだ。
「はやてちゃん。泣いているのですか?」
おずおずといった様子で問いかけてくるリインに振り返り。
「大丈夫や、リイン。嬉しかっただけやから……」
泣き笑いの表情を浮かべながら、そう答えた。
今回はディアーチェ編。やはり他の二人と流れが近くなっています。
ちょっとだけ独自の見解?みたいなものが入っています。
はやてとヴォルケンリッターの関係?に関して、です。
不快に思われた方には申し訳ありません。
話の流れ上、仕方なく、ですね……! 言い訳ですよ!
次は最後に後編をして、また甘い話でも書きたいと思いますよー。
ただその前にアナザーの方が書き終わりそうなので、先にそちらになるかもです。
……あと、いずれまた1週間ほど毎日投稿にチャレンジしたいなと思います。思うだけです。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。