ギフテッド   作:龍翠

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最初に。時系列を思い切り間違えました。
なのはが大けがをしたのって、まだ小学生の頃ですよね。
なのに主人公が喫茶店にいる不思議。見事にやらかしました。
修正も間に合わないので、このままいっちゃいます。

というわけで、本編からの変更点。
なのはの怪我の時期を中学卒業後ぐらいに変更。
もしくは。
主人公たちが超早期に喫茶店を開業。
どちらかのifストーリーとでもしてください。
いや、ほんとどうしてこんな間違いをしたのでしょう。
以後気をつけますよー……。


悪夢

 ぽたり、と液体が落ちる音。次いで誰かが倒れる音がして、少年は振り返った。少年の目に映ったのは、親しい少女の姿、親しい少女の、血だまりに沈む姿。

「あ……」

 少年はふらふらと少女に近づき、その手を取る。まだ温もりはあるが、おそらくすぐに失われてしまうだろう。なぜ、と自問して、何が、と心の底から返答があった。

 なぜ、こうなった。これは何だ。少年が心の中で問いかけ、そして奥底から返答がある。

 お前がここにいたからだ。足を引っ張ったからだ。

 ぴくり、と少女の体がわずかに動き、少女が少しだけ顔を上げる。少女の視線が少年を捉え、そして淡く、優しく微笑んだ。

 無事、ですね。ああ、良かった……。

 少女は言い終えると再び倒れ伏し、そして二度と動くことはなかった。

 そして気づけば、少年は喫茶店の中にいた。

 いつもの喫茶店。元気な少女が接客をして、リーダー格の少女が厨房で料理をしている。少し内気なもう一人の少女は、一生懸命に料理を運んでいるところだ。

 いつもの光景。だがこの中に、もう一人、本来いるべきはずの少女がいない。

 一人、いなくなった。

 そして気づけば、シュウは荒野に立っていた。目の前で倒れているのは、先ほど元気よく働いていた少女。なぜこうなった、やはり自分がいたからだ。

 そしてまた一人いなくなり、気づけばもう一人も失われ、最後の一人は待っていてください、必ず方法があるはずです、と少年の前から姿を消した。

 そして少年は一人になった。薄暗く、静かな店内。ぽつんと一人残された、使えないロストロギアだけを抱えた少年。少年は長い間茫然自失としていたが、出入り口からの物音で我に返った。そしてそれを見る。

 最後の一人の息絶えた姿。

 

「うわあああ!」

 そこで、目が覚めた。荒い息をつきつつ、シュウは周囲を確認する。見慣れた、自分の部屋だ。だが安心できない。できるはずもない。この部屋に、シュウは一人だ。

 ふらふらと立ち上がり、扉へと向かおうとしたところで、

 その扉が開いた。

 そして見るのは、血まみれの少女……ではなく。

「シュウ、どうかしましたか?」

 心配そうにこちらを見つめるシュテルがそこにいた。

 確かに、そこにいいた。

「シュテル……」

「はい」

 シュウに呼ばれ、シュテルが首をかしげる。シュウはそんなシュテルへと覚束ない足取りで近寄り、そしてその体を抱きしめた。

「シュウ?」

 戸惑いの声をかけてくるシュテル。それでもシュウは何も言わずに、シュテルの体を強く抱きしめる。

 ああ、温かい……。

 シュテルは首をかしげながらも、そっとシュウの背に腕を回し、頭を優しく撫でてくれた。

 

 先日、なのはが重傷を負って入院したとフェイトとはやてから連絡が届いた。顔などを見られないようにして病院へと向かったシュウとシュテルは、それを見て絶句したものだ。

 なのはが日頃の訓練を含め、無茶をしていたことは知っている。いずれしっぺ返しがあるだろうとシュテルなどはなのはによく注意していたものだ。だがそれでも、生死の境をさまようような怪我を負うなど想像もしていなかった。

 隣に立つシュテルは、だからあれほど言ったのです、とつぶやきながら、拳を握りしめていた。小さく震えるシュテルの手を、シュウは黙って握っていた。

 シュウは。心配すると同時に、別のことを考えていた。

 いずれシュテルもこのような怪我を負うのではないか、と。

 シュテルたちは嘱託魔道士だ。その時の仕事によっては、当然ながら危険なものもある。シュテルたちはおくびにも出さないが、命のやりとりも何度かあったはずだ。いつ大怪我を負っても、いや、死んでしまってもおかしくはない。

 なのはを見守りながら、シュウはそんなことを考えている自分に嫌悪感を抱く。友人が苦しんでいるというのに、自分は何を考えているのか。

「早く良くなるといいね……」

「そうですね……」

 二人は言葉少なく、静かになのはを見守っていた。

 

「シュウ、落ち着きましたか?」

 シュテルの声に、シュウは顔を上げた。心配そうにしているシュテルへと、シュウは力なく微笑んだ。

「うん。大丈夫。ごめんね、シュテル」

 そう言って、シュウはシュテルから体を離す。さすがに少し恥ずかしい。そのまま距離を開けようとして、

「……っ」

 病院のなのはの姿を思い出した。思い出してしまった。シュテルを見て、いけないとは思いつつも泣きそうな表情を浮かべてしまう。

「シュテル、ごめん、もうちょっとだけ……」

「構いませんが……」

 もう一度シュテルの体を抱きしめる。シュテルの体温をしっかりと感じることができる。大丈夫だ、間違いなく生きている。それでも離れることができずにしばらくそうしていると、やがてシュテルが口を開いた。

「間違っていたらすみません。病院のことを思い出しているのですか?」

 図星をつかれたシュウが大きく体を震わし、対するシュテルは薄く苦笑を浮かべた。

 それきり静かになる。シュウは何も言わず、シュテルも口を開かない。ただ、何度も優しく背を撫でてくれる。大丈夫だというように。それがとても心地よく、いつまでもそうしてほしいと思ってしまう。

 どれほどそうしていただろうか。やがて、そろそろ寝ましょうか、とシュテルが言って、シュウは頷いた。そっとシュテルから離れる。名残惜しいと思っているのが伝わったのか、シュテルはしばらくシュウを見つめ、仕方ないですね、と嘆息した。

「一緒に寝ましょうか」

 え、とシュウが勢いよく顔を上げる。シュテルの顔をまじまじと見つめると、暗がりの中とはいえ、ほんのりと赤くなっているのが見て取れた。

「いえ、無理にとは言いません。むしろ忘れてください。では私は戻ります」

 慌てたようにシュテルがきびすを返そうとして、そのシュテルの手首を思わず掴んでいた。少し驚いたように振り返るシュテルへと、シュウが言う。

「いいの……?」

 シュテルがわずかに目を見開き、そして、淡く微笑んだ。

「はい。もちろんです」

 

 シュウのベッドへと二人で潜り込む。シュテルの手を握りながら、シュウは目を閉じて、

 今度は夢を思い出した。血に染まった夢を。

 勢いよく体を起こすシュウ。自然と荒くなる息。どうかしましたか、と気遣わしげに聞いてくるシュテルへと、シュウは逡巡しながらも、夢の内容を語った。

「ああ、なるほど。それで……」

 得心したように頷くシュテル。シュウはそんなシュテルの顔をまともに見ることができない。たかが夢ごときと幻滅されてはいないだろうか、と不安になってしまう。

「シュウ」

 呼ばれてシュウが振り返る。シュテルはいつもの無表情で、ベッドをぽんぽんと叩いていた。

「とりあえずは横になりましょう。でないといつまでも眠れませんよ」

 横になっても眠れないけど、と思いながらも、シュウは大人しく寝転んだ。布団をかぶり、目を閉じる。そしてまた夢の光景が眼前に広がろうとしたところで。

 シュテルがシュウを抱きしめた。

「シュテル……?」

 思わずシュウの声が震えてしまう。シュテルはそれに答えずに、シュウの頭を優しく撫でる。

「確かに私たちは、たまにとはいえ危険な場面に遭遇することもあります」

 シュウが息を呑み、ですが、とシュテルは続ける。

「私たちが貴方を一人にすることはありません。誰も、貴方の前からいなくなりません。だから安心してください」

 何の根拠もない言葉。先のことなど分からない上での、シュテルの言葉。それでも、シュウはシュテルの声を、言葉を聞いて、なぜかとても安心できた。シュウもシュテルの背に手を回し、小さく頷いた。

「ありがとう、シュテル……」

 シュテルはもう何も言わない。ただ静かに優しく、シュウを撫でてくれる。それがとても心地よくて、いつしかシュウは温かい夢の中へと眠りに落ちていた。

 

 

 翌日。朝食の席にて。

「ねえねえ、シュウ」

 レヴィが元気よくシュウを呼ぶ。呼ばれたシュウは口の中の白米を嚥下してレヴィへと顔を向ける。

「なに?」

「昨夜はお楽しみだったの?」

「ぶふっ!」

 口の中のものを少しはき出して大きくむせたのはディアーチェだ。シュテルから差し出されたコップを受け取り、中の水を一気に飲み干す。コップを渡したシュテルの表情は、無。眉一つ動かされていないことが、余計に怖い。

 シュウは口を半開きにして完全に硬直していた。残りの一人、ユーリは意味が分かっていないのかぽかんとしている。

 最初に動いたのはディアーチェだ。水を飲み干して一息ついたディアーチェはおもむろに立ち上がると、レヴィの真後ろに立った。そしてレヴィの頭を掴み、締め上げる。

「いた! 痛い痛い! 痛いよ王様!」

「黙れ阿呆! どこでそんなことを覚えてきた! 来い!」

「なんでー!」

 そのままずるずると引きずられていくレヴィ。ディアーチェはユーリに目配せすると、そのまま部屋を後にした。ディアーチェの視線の意図を察したユーリが、ちょっと心配なので見てきます、と続いて出て行った。

 後に残されたのは、無表情に食事を続けるシュテルと、未だに硬直したままのシュウ。シュテルはそんなシュウを一瞥すると、小さな声で言った。

「冷めてしまいますよ」

「あ、うん。そうだね」

 すぐに再起動。シュウも食事を再開する。数分ほど二人とも無言で食事を続けたところで、シュテルが口を開いた。

「まあ、確かに不注意が過ぎました」

「あ、うん……。そうだね」

「次は気をつけましょう」

「あ、あはは……」

 シュテルの淡々とした声に、シュウは乾いた笑みしか返せなかった。

 

 

 Side:Stern

 あまり認知されていないのか、立地条件が悪いのか、それとも両方か、あるいは別の理由か。ともかく、シュウたちの喫茶店を訪れる客は少ない。料理担当のシュテルかディアーチェ、接客担当のレヴィかユーリ、片方ずつ店にいれば十分に回せるほどだ。

 故に、長い休憩時間が与えられることもある。

「シュテル。夜まではとりあえず大丈夫であろう。見舞いにでも行ってくるといい」

 ディアーチェが言って、シュテルは礼を言って喫茶店を出た。シュウを誘うと、少し悩んでいたようだがやはり一緒に来てくれた。

 二人でなのはの見舞いに行く。少しだけ言葉を交わし、シュテルはそのままなのはのリハビリへとついて行く。もちろんシュウも同行。

 リハビリは専用の大きな部屋があり、そこでは何人もの患者がリハビリをしていた。

「やっぱり大変、だよね?」

 シュウが聞いて、なのはが苦笑する。

「うん。やっぱりすごく辛いよ」

「逃げたくない?」

「逃げたくないって言えば嘘になるだろうけど……。でも、諦めないから」

 行ってきます、となのはは笑顔で言うと、担当の看護師の元へと向かった。二人はそれを見送って、一度部屋を後にする。ここからしばらくの間はなのははリハビリに専念することになる。ここにいても邪魔にしかならないだろう。

「少し出かけましょうか」

 シュテルがそう提案すると、シュウは神妙な面持ちで、そうだねと頷いた。

 

 病院を後にした二人は近くの喫茶店へと向かった。自分の店があるのにとは思わなくもないが、他店を見ておくのも悪くはない。

 喫茶店へと向かう間、シュウはずっと何かを考え込んでいた。何を考えているのか少し気にはなるが、昨夜のような悲壮な表情はしていない。ならばわざわざ聞くことでもないだろう。そう判断して、シュテルは黙って歩いている。

 ――何を考えているのか察しはつきますが。

 ちらりと背後を振り返ると、こちらを見つめるシュウと目が合った。

「あのさ、シュテル……」

 おずおずといった様子でシュウが口を開く。そんなシュウへと、シュテルは首を振った。

「必要ありません」

「まだ何も言ってないよ?」

「聞かなくても分かります。ギフテッドの力を使ってナノハを治療できないか、では?」

 シュウは一瞬目を見開き、次いで図星だったのだろう、眉尻を下げた。

「ナノハならこの程度の試練は乗り越えられます。それに、この先同じようなことがないとも言い切れません。きりがありませんよ」

「うん……。でもやっぱり、友達が苦しんでいる姿は、あまり見たくないなって……」

「気にしすぎですよ。それに、きっとあの子も望みません」

 なのはもギフテッドのことは知っている。ギフテッドの存在を隠すために、その力を使わないようにしていることも。もしもシュウがその力を使えば、きっと余計に気に病むだろう。

 最も、それ以前にパストが眠ったままなので自由に使えるものではないのだが。

「じゃあ……。なのはが退院したら、お祝いに僕たちのお店に招待しよう。それなら、どう?」

「そうですね。そうしましょうか」

 それならなのはも喜ぶだろう。フェイトやはやてに協力してもらうのも悪くない。まだリハビリは始まったところなので時間はある。なのはが喜ぶような計画を練るとしよう。

 シュウとそんなこと会話しながら、シュテルたちは歩く。

 それまでは。時間さえあれば元気づけに来てあげよう。そう決めた。

 

 

 夜。昨日の今日で悪いかな、と思いつつもシュウはシュテルの部屋の前に立っていた。つい先ほど、就寝前にシュテルに言われている。

 今日も眠れなければ一緒に寝てあげます、と。

 その時は大丈夫だと言ったが、ベッドに入るとやはり昨夜の夢を思い出して眠れず、結局ここに訪れていた。だが本当に入ってもいいのかと不安になってしまい、入れずにいる。しばらくそこで行ったり来たりしていると、

「何をしているんですか……」

 シュテルの部屋の扉が開き、呆れたような表情をしているシュテルが出てきた。驚きながらシュウが照れ笑いを浮かべると、

「どうぞ」

 シュテルに促されて、シュウは彼女の部屋に入った。

 

 シュテルのベッドに、本人と一緒に横になる。すぐにシュテルの手がシュウの頬に触れた。

「ではお休みなさい、シュウ」

 シュテルの優しげな声音に、シュウもおやすみ、と返す。目を閉じても、あの夢の光景は映らなかった。

 今日はよく眠れそうだ。

 




まさか時系列で失敗するとは……。すごい自己嫌悪が……。

12月から研修で1週間ほど東京に行くため、感想返しはしばらくできません。
ホテルでネットができそうなら、こっそりログインするかもですよっ

書きたいことは前書きで書いちゃいましたので、あとはちょっとした報告。

1月1日の更新をもって、この駄文の更新を終わろうと思います。
そろそろオリジナルを書きたいなと思いまして。
気まぐれにまた更新するかもしれませんが、おそらく半年に1回あるかないかです。
一応、ご連絡だけしておきますよー。

そんなわけで? 12月は予定に余裕があるので、たくさん書いてまとめて投稿します。
もう少しだけお付き合いいただければ幸いです。
ではでは。
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