今回はシュテルメインです。……というよりは紫天一家集合みたいな感じですが。
今回も主人公の出自に関する部分があります。興味のない方はSide:Sternをとばしてくださいませ。
「おっじゃましまーす!」
シュウの部屋で、普段なら絶対にない大音声が響き渡る。元気なことはいいことだが、これでは近所迷惑だ。そう判断して、叫んだレヴィにディアーチェが注意する。
「やかましい。近所迷惑だ。すなわちシュウに迷惑がかかる」
「ああ! ごめんシュウ!」
言われて、レヴィが部屋の主へと頭を下げた。
シュウは部屋の中央で、ぽかんと間抜けな表情を晒していた。
日曜日の昼前。約束もないし書店にでも行こうかと思ってぼんやりしていると、唐突に自宅のドアが開いてレヴィが現れた。続いてディアーチェ、ユーリ、シュテルが入ってくる。
「突然すまぬな。何かをするところであったか? 我らのことは気にするな」
ディアーチェがそう言い、続いてユーリが、
「お邪魔します、シュウ。お元気ですか?」
にこやかにそう言う。最後にシュテルがいつもの無表情で言う。
「お騒がせしてすみません。ご迷惑でしたか?」
シュウは首を振る。迷惑なはずがない。来てくれて本当に嬉しい。だがしかし、せめて事前に連絡ぐらいは欲しいものだ。突然すぎて何も用意をしていない。
「……ちょっと待って」
シュウは客人四人をその場で待機させると、部屋の隅に積まれた座布団をちゃぶ台に並べる。続いてお茶でも入れようとしたところで、
「ジュースを買ってきました。いかがですか?」
シュテルが持っていたビニール袋を掲げてみせる。中に入っているのはオレンジジュースとリンゴジュースのようだ。シュウは思わず笑顔になると、じゃあもらうね、とビニール袋を受け取った。
流しに立ち、棚を見る。紙コップぐらいあるだろうと思ったが、一個もなかった。
「紙コップも買ってきました。同じ袋に入っていますよ」
「……ほんとだ。使わせてもらうね」
結局自分が用意したものは座布団だけになる。いつも通りなのだが、まさか自分の家でもこんなことになるとは。せめて何かお菓子でもあればいいが、そんなものがあればすでにシュウの朝食になっている。
せめて体を動かそう、そう決めて紙コップにジュースを注いでいった。
ちゃぶ台にジュースの入った紙コップが並ぶ。それぞれ中身を確認せずにコップを取り、のどを潤していく。
「やっぱりジュースは百パーセントだね!」
「ですね!」
レヴィとユーリが笑顔で言って、シュウも黙ってうなずく。一気に飲み干し、一息ついたところで全員をぐるっと見回した。
「……それで、急にどうしたの?」
シュウがそう聞くと、ディアーチェが、うむ、とうなずいて答えてくれる。
「レヴィとユーリがシュウの家に行ってみたいと言い出してな」
「だってシュテるんばっかりずるいし!」
「ずるいですし!」
「何がずるいかはよく分かりませんが、ならみんなで行きましょうということになりました」
最後にシュテルが締めくくる。四人の言葉を聞いたシュウはなるほどと一つうなずいた。
「動機がすごく単純すぎる気がするけど、一応納得。でもできれば、家を出る時でいいから連絡ぐらい欲しかったかな……」
「それについてはその通りです。すみません」
シュテルが静かに頭を下げる。責めているつもりもなかったシュウがまさか謝罪されるとは思わず、少し慌ててしまう。
「別に怒ってるとかじゃないから……! ジュースも買ってきてもらったし! そ、それにこっちも何も用意できないし! お昼ご飯とかもないよ!」
「それなら弁当を作ってきておいたぞ」
「用意周到すぎて何も言えない……。うん。まあせっかく来たんだし、何もないけどゆっくりしていってよ」
シュウは苦笑とともにため息をついて、おかわりを入れてくる、と全員のコップを回収して流しに向かった。
昼食は四人が持ってきた弁当をちゃぶ台に広げた。弁当と言っていたが、三段重に様々なおかずが詰められている。家で食べるには少しもったいない気もしてしまう。
「まさか家でこんなに豪勢なものを食べることになるなんて……」
そう言って、口に食べ物を入れる。それを見ていたディアーチェが苦笑した。
「豪勢と言いながら最初に口に入れるのはおにぎりか。せっかく作ったのだ、遠慮はするなよ」
「そうだよシュウ! ボクも手伝ったんだからいろいろ食べて! ほら、これとか!」
レヴィが紙皿に焼き魚を盛りつけ、シュウに差し出してくる。それを受け取る前に、その紙皿にさらにユーリが少し形の崩れたハンバーグを盛る。
「これは私が作ったんですよ! 食べてください!」
「では我はこれを勧めよう」
「私はこちらを」
ディアーチェは卵焼きを、シュテルは春巻きをさりげなく盛って。シュウの目の前に置かれた時には、おかずで山になっていた。
「うん、嬉しいんだけど……ゆっくり食べさせてほしい、かな……?」
「そう言わずに食べるんだー!」
「ちょ、やめ、レヴィ……!」
レヴィがシュウの口へと半ば強制的に食べ物を詰め込む。ユーリが楽しそうに笑い、シュテルが呆れ、ディアーチェが叱る。場所は変わってもいつもと同じ食事風景だ。
「むぐ、ぐ……。おいしい……」
「でしょ! さあ、もっと……」
「いい加減にしなさい、レヴィ」
シュテルが注意したところで、レヴィは残念そうに手を引っ込めた。できればもう少し早く止めてもらいたかったが。とりあえず口の中のものを租借して、のどの奥へと流し込んだ。
「ふう……。うん。本当においしい」
「そうですか。それを聞いて安心しました」
「少し早起きした甲斐があったというものだ」
シュテルとディアーチェが満足そうにうなずく。ただ、それを聞いたシュウは小さく首を傾げて、二人を笑顔で見た。
「つまりここに来たのは計画的だった?」
「…………」
二人がそろってそっぽを向く。図星らしい。シュウは苦笑するが、悪い気はしない。今まではここに訪ねて来る者などほとんどいなかったのだ。こうして来てくれただけで、驚きよりも嬉しさの方が勝っていた。
わいわいと楽しげに食事を進める四人を見て、シュウは幸福感に包まれていた。
――これを両親が見たらどう思うだろう。
そんなことを思いながら。
夕方。今度はシュテルたちの家で夕食を食べるために移動を開始する。昼食をご馳走になったからと断ろうとしたが、すでに準備は済ませていると押し切られてしまった。ありがたいのだが、どうにも申し訳なく感じてしまう。
――どうにかして恩返しをしないとなあ。
前を歩く四人を見ながら、シュウは考える。この四人に自分ができることなどあるかが分からないが。
やがて、前を歩いていた四人が唐突に足を止めた。
「どうしたの?」
シュウが怪訝そうに聞くと、シュテルが振り返った。しばらく何かを考えていたようだが、仕方ないというように首を振り、言う。
「シュウ。すみませんが、先に向かっておいてください。少し用事ができました」
「ん……。別にいいけど、用事って……」
内容を聞こうとしたところで、これもまた突然不思議な感覚がシュウを襲った。気がつくと、周囲の雰囲気が変わっている。自分たち以外の人がいなくなり、とても静かになった。
「ああ、魔法関係か……」
シュウがつぶやく。仕方ないね、と四人を見ると。
全員が目を丸くしていた。
「え? あの、シュテル……?」
シュテルは無言。静かに目を閉じ、ため息をついた。
Side:Stern
アースラのエイミィから念話での通信が入る。
『ごめんね、シュテルちゃん! とりあえず結界の展開は完了したから、ロストロギアの回収お願い!』
緊急の依頼として舞い込んできたものは、もうすぐこの近辺に出現するだろうロストロギアの回収だ。緊急の依頼は今に始まったことではないのでそれは構わない。最近少し多くなってきている気もするが、そんなこともあるだろう。しかしそれよりも。
『エイミィ・リミエッタ。また一般人が巻き込まれていますが』
『えっ! 嘘! 誰? 知ってる人?』
『シュウだ。貴様らは何をやっておるのだ』
念話に割り込んできたのはディアーチェだ。その声は少し不機嫌そうであり、実際表情もかなり険しいものになっている。
『ええっ! 確かに結界の設定も調整もしたはずなのに……。おかしいなあ……』
少し考える時間があり、そして唐突に通信の設定が切り替わった。念話から、実際に声が聞こえるものへと。
「こちらエイミィ。シュウ君。聞こえるかな?」
どこからともなく聞こえてくる声にシュウがわずかに驚くが、すぐに笑顔になる。
「聞こえますよ。オペレーターさん、でしたっけ」
「うん、そう! ごめんね、また巻き込んじゃって……。もう一度設定を見直して原因を究明するから……!」
エイミィの申し訳なさそうな声にシュウは苦笑する。どうやら前回のことである程度慣れてしまったようだ。
と、突然、分かった! というエイミィの明るい声。
「シュウ君は人間じゃないんだ! だから結界に巻き込まれるんだ!」
「…………」
重い沈黙が周囲を支配する。あ、あれ? とエイミィの困惑した声だけが響く。
「エイミィ……」
別の声。執務官、クロノの声だ。
「エイミィ・リミエッタ。あとでゆっくりお話をしましょうか」
シュテルの静かな声。エイミィが狼狽したような声で、
「ご、ごめん! ちょっと場を和ませようとした冗談のつもりで……!」
「管理局。あとで訓練室を貸せ」
そう言ったのはディアーチェだ。エイミィがさらに慌てる。
「待って何をするつもりかな!」
「エイミィ、言い残すことがあれば今のうちに考えておくんだ」
「見捨てられたっ?」
ぎゃあぎゃあと通信で騒ぐ。シュテルはそれを聞きながら、小さくため息をついた。ふと見ると、シュウは腹を抱えてうずくまっている。
「ぷ……くく、く……」
どうやら噴き出すのを必死に堪えているらしい。シュテルはそのシュウの様子を見ながら薄く微笑むと、
「さて、では冗談は置いておきまして……。始めましょうか」
出現した上空の光の奔流を鋭く見据えた。
出現したロストロギアの封印後、シュテルは一人アースラに来ていた。夕食の支度は王に任せている。待っているから早くしろ、とのことだった。
「失礼します」
ブリッジに入ると、すぐ側に艦長のリンディが待機していた。お疲れ様、と笑顔で出迎えてくれる。
「こちらが封印したロストロギアです」
そう言って、シュテルは小さな箱を差し出した。どういった効果を持ったロストロギアか分からない。リンディはそれを受け取ると、そのままクロノに渡した。
「ありがとう、シュテルさん。クロノ、あとはよろしくね」
「はい、分かりました」
クロノが一礼して去って行く。それを見送った後、リンディは改めてシュテルに向き直った。
「またあの子を巻き込んでしまったけど……。その後の様子はどう?」
すぐにシュウのことを言っているのだろうと察しがつく。そうですね、とシュテルは少し考え、意趣返しをすることにした。
「自分の正体について思い悩んでいましたよ」
「う……!」
奥の方からエイミィのうめき声。リンディがくすくすと忍び笑い。
「冗談です。特に何も。ただあまり気にしないでほしいとの伝言を預かっています」
「そう……。わざわざありがとう。でも何かしらの形で何かお詫びをします、とだけ伝えてもらえる?」
「はい。承りました」
うなずき、そしてきびすを返す。ブリッジを出ようとしたところで、
「立て続けにロストロギアが飛来するなんて……。何が原因なのかしら……」
そんなつぶやきが聞こえてきた。
Side:Hero
「あ、おかえり」
テーブルに夕食を並び終えたところで、シュテルが戻ってきた。ただいま戻りました、と律儀に返事をしてくれる。
「戻ったか。では夕食にするぞ」
「はい」
ディアーチェが言って、それぞれの席につく。皆で手を合わせ、いただきます、と同時に言う。今日もいつもの夕食が始まる。
「それにしても、今日は本当に驚いたなあ」
シュウの言葉に、シュテルが申し訳なさそうに眉尻を少し下げた。
「すみません、シュウ。次からは必ず連絡します」
「あはは。別に大丈夫だよ」
笑いながら返事をして、
「またいつでも来てね」
と付け足す。それを聞いたシュテルはしっかりとうなずく。
「はい。必ず」
シュテルの言葉を聞いて、シュウは嬉しそうに微笑んだ。
やっぱりシュテルメインが一番書きやすいです。
表情にあまり変化がでない子なので地の文に困るキャラでもありますが^^;
まあ下手っぴな文章なので特に問題はないですねっ!
「エイミィはこんなキャラじゃない!」という苦情は正座してお聞きします……。ごめんなさい……。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。