「明日は楽しいクリスマス! イエイ!」
「イエイ! です!」
リビングでレヴィとユーリの楽しそうな歌声が響く。ディアーチェがいるならやかましい、と怒ることだろう。ではそのディアーチェはいないのかというと、
「…………」
隣のキッチンで、難しい表情をしていた。その側にはシュテルがいて、こちらはいつもの無表情。だがその瞳はどこか自分たちの王を気遣うような色を帯びている。そして当然のようにシュウもいて、こちらはどうしたものかと苦笑い。
二人の歌声がさらに届く。
「クリスマスにはサンタクロース!」
「プレゼントですね! 何がもらえるんでしょう?」
それを聞いたディアーチェが頭を抱え、シュテルが小さくため息をつき、シュウの笑みは引きつったものになった。
事の起こりは一時間前。
彼女たちにとってクリスマスは、少し豪華なケーキを食べて、普段は食べないご馳走を食べる、というイメージだった。そんな彼女たちは、テレビの子供向け番組を見た。その番組に取り上げられた題材が、サンタクロース。
サンタクロースについては、ディアーチェとシュテルは当然ながら知っている。この世界の、この国の大人たちは不思議なことをしているという程度の認識だった。だがそうは言ってられなくなってしまった。
「王様! サンタクロースだって! ボクたちのところにも来るかな!」
「来ますか?」
瞳を輝かせるレヴィとユーリがいた。期待の籠もったきらきらとした瞳。それを見たディアーチェは思わず頷いていた。もちろんだ、と。それがいけなかった。
「ユーリ! サンタさん来るって! サンタさん!」
「何がもらえるんでしょう! 楽しみです!」
喜色満面。なるほど、とディアーチェは頷いた。この世界の大人たちの気持ちがよく分かった、と。そして思う。やってしまった、と。別段彼女たちの経済事情が悪いわけではもちろんない。理由は単純だ。
「明日が楽しみですね!」
ただただ時間がなかった。
現在夜八時。急げば何かしら買うことはできるだろう。だがしっかり選ぶことはできない。そんなものを渡したいとは思えず、しかし解決策が浮かぶわけでもなく、こうして意味の無い時間だけが流れていく。
「むう……」
頭を抱えて唸るディアーチェと、いつの間にかチラシをかき集めてきて遅くまで営業している店を探しているシュテル。シュウはそんな二人の様子をしばらく見つめていたが、やがて仕方ないかと諦めた。今回の計画は白紙にしよう、と。
「ディアーチェ」
シュウに呼ばれて、ディアーチェが顔を上げる。
「一時間ほど待ってもらえる? 僕がなんとかするよ」
「できるのか……?」
「まあ任せてよ」
にやりと不適に笑い、シュウはその場を後にした。
一時間後。サンタクロースは早く寝ないと来ない、とするテレビの影響か、レヴィとユーリはその時間にはベッドに入っていた。ディアーチェとシュテルはリビングに場所を移している。
「お待たせ」
シュウがリビングに入ってきた。勢いよく顔を上げるディアーチェが見たものは、普段とは違う格好をしたシュウだ。その姿は暖かそうな赤い服に帽子という、よくあるサンタクロースのものだった。そしてその手には、大きな白い袋。
「何だそれは?」
「サンタクロース。まずは二人に」
シュウが白い袋から綺麗に包装された紙箱を取り出し、それをディアーチェとシュテルに渡す。二人は驚いたような表情をしながらも、それを受け取った。
「本当なら二人も寝た後に行動したかったんだけどね」
シュウが笑いながらそう言ったのを聞いて、元々の計画を察することができた。どうやらシュウは全員が寝静まった後、それぞれの部屋へ忍び込んでプレゼントを置こうと思っていたらしい。
「というわけで、ディアーチェに預けるよ」
白い袋がディアーチェに渡される。それを受け取ったディアーチェは、少し困惑したような表情をしていた。シュウを見て、白い袋を見て、何度か視線を往復させて、やがてぽつりと言葉をこぼす。
「いいのか?」
「うん。問題ないよ」
そうか、とディアーチェは頷いて、頭を下げた。感謝の言葉を口にすると、シュウは笑って手を振っていた。
Side:Stern
プレゼントを持ったまま、シュテルはプレゼントに視線を落としていた。シュウへと視線を向けると、どこか楽しそうに笑う顔が映る。シュテルが口を開こうとして、
「中身はまだ見ないでね。明日、一芝居打ってほしいから」
すぐに閉じた。どうやらシュテルたちにもサンタクロースが来たということにしておきたいらしい。しかしシュテルはシュウへと怪訝そうな目を向ける。
「貴方だけが貰っていないとなると、レヴィとユーリが不審に思いませんか?」
「え? ああ、確かに……。まあ、適当にごまかすよ」
どうやら何も考えていなかったらしい。シュテルは小さくため息をつくと、その場を少し離れる。自室に隠しているあるものを取り出して、リビングに戻ってそれをシュウに渡した。
「どうぞ」
「え? あ、ありがとう……?」
困惑しつつも受け取るシュウへと、シュテルが続ける。
「今晩、貴方の部屋に置きに行こうと思っていたものです」
それを聞いてシュウも察したようだ。どうやら同じことを考えていたらしい。その事実に、二人そろって小さく笑う。
「ありがとう、シュテル」
「いえ」
二人は並んで座り、ディアーチェが戻ってくるまで静かな時間を過ごす。ただディアーチェはなかなか戻ってこずに、結局そのまま二人とも眠ってしまった。
ようやく戻ってきたディアーチェは二人を見て、呆れたようにため息をつきながらも仕方がない奴らだと笑っていた。
Side:Dearche
翌日。ディアーチェが目を覚ますと、枕元に小さな箱があった。不思議に思って、側のテーブルを見る。シュウからのプレゼントもそこに確かにある。怪訝そうに眉をひそめながらリビングに向かうと、リビングにいた二人が朝の挨拶をしてきた。その二人の目の前のテーブルには、見憶えのない小さな箱。
「ねえ、ディアーチェ。これ……」
「いや、我も知らん。同じものがあった」
三人そろって首を傾げる。まさか、とまだ来ていない二人の可能性を考えるが、
「プレゼントが二個も来た!」
「来ました!」
嬉しそうにリビングに飛び込んできた二人から、やはり違うらしいということが分かる。一体誰が、と三人で首を傾げたが、すぐにその日の準備に追われてそれは忘れてしまうことになった。
Side:Past
ゆらりゆらりと闇の中で揺れながら、パストは表の様子を見ながら満足そうに笑っていた。
この世界のクリスマスのことを知ったのは何年前だったか。当時は関係ないと思っていたが、今年はせっかくだからと我が子とその家族にプレゼントを贈ることにした。わざわざこのためだけに長い眠りから少しだけ起きて、シュテルからまじめに受け取っているのだろう魔力を影響のない程度拝借して、己の力を使った。
自分の魔力の痕跡は消した。我が子たちは自分が今も眠っていると思っている。きっと自分の仕業だとは気づかないだろう。ちょっとした完全犯罪をした気分になってにやにやと笑う。そうしていると、
『もしかしたらパストだったりして』
そんな我が子の声が聞こえ、笑みが凍り付いた。口調から冗談の類いだと分かるが、なぜか時折妙に鋭い時がある。怖い怖い、とパストは楽しそうに笑うと、一人で満足したパストは再び闇の中へと沈み、眠りに落ちた。
その後、シュテルとディアーチェ、シュウからその話を聞いたリンディが、彼女たちの身辺を知る者がいるかもしれないと仮定して捜索が行われ、ちょっとした騒ぎになったりもしたのだが、パストにとっては至極どうでもいい話である。
去年もクリスマスに投稿したことですし、今年もクリスマスぐらい投稿しようかなと。
そう思ったのが22日。超大急ぎで書きました……!
ちなみに私は当然のごとくクリスマスは仕事です。
次の更新は予定?通り1月1日です。何とか6話ほど書けそうですよー!
多分一度に投稿せずにある程度の間隔をあけて投稿すると思います。
その間に読み直しが間に合えばいいのですが……。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。