ギフテッド   作:龍翠

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明けましておめでとうございます。
年明け1発目、です。
時期は少年期。まだ小学生の頃。


体験入学(前編)

 ある日の朝。シュウは学校で、いつも通り机に突っ伏して眠っていた。シュウが登校してからホームルームまではまだそれなりの時間がある。最近は夜更かしも増えているのでこの時間は貴重だ。無論熟睡しているわけではないので、担任が来るといつもすぐに起きられるようにはしている。

 やがてチャイムが鳴り、担任が教室へと入ってくる。なぜかいつもより教室が静かなことに内心で首を傾げながら目を開け、あくびをしながら前を見る。そして、凍り付いた。

 担任の隣に並んで立つ三人の少女。シュウがよく知る三人で、顔立ちだけならクラスメイトたちもよく知っているだろう。その証拠に、クラスメイトたちは何度も目の前の三人となのはたちを見比べていた。

 担任はどこかおかしそうに笑いながら、静かに、と手を上げる。そして言った。

「今日から一週間、新しいお友達がこの教室で皆さんと勉強することになりました。それでは、自己紹介をどうぞ」

 担任のその言葉で三人の少女が一歩前に出る。

「ディアーチェだ。よろしく頼む」

 まずはディアーチェがそう言って、小さく頭を下げた。ディアーチェも頭を下げるんだなと少し場違いな感想をシュウが抱いている間に、次の少女へ。

「レヴィだよ! よっろしくー!」

 元気よく手を上げる。どこに行ってもレヴィは変わらないなと思っていると、

「頭ぐらい下げんか!」

 ディアーチェが一喝して、レヴィが慌てて頭を下げる。その様子を見て、クラスメイトたちは呆気にとられていた。関係性が分からなければ当然だろうか。そして最後の一人。

「シュテルです。よろしくお願いします」

 丁寧にしっかりと頭を下げるシュテル。そのシュテルと、目が合った。さすがにこの場で声を出して挨拶する、という選択肢は取れず、シュウは笑顔を見せることで挨拶とすると、シュテルもそれを察したのか微かに微笑んで見せた。

 それにしても、どうして三人がこの学校にいるのだろうか。経緯を知らないシュウは、ずっと首を傾げていた。

 

 

 数日前。シュテルたちはなのはたちとの模擬線を終え、アースラの食堂で軽食を取っていた。その場での雑談の一つで、学校の話題が上がった。

「帰ったら学校の宿題もしないと……」

「今週の宿題はちょっと量が多かったよね。私も帰ったらやらないと……」

 フェイトとなのはの言葉に反応したのはレヴィだ。フォークをくわえたまま、

「宿題ってなに?」

「学校で出される課題ですよ、レヴィ」

「ふうん……。学校ってどんなところ?」

 興味を引かれたらしいレヴィに、シュテルが学校の説明をする。もっともシュテルの説明は、この世界の文章などから得た知識によるもので、実際に体験したものではない。特になのはたちが通う学校は私立であり、公立とはまた少し違った所がある。シュテルの説明の合間に、なのはとフェイトがその辺りを補足した。

 全てを聞き終えたレヴィは瞳を輝かせていた。こうなると、次の言葉は予想できる。

「楽しそう! 行ってみたい!」

「だめだ」

 ディアーチェが即答。ええ、と不満そうな声を出すレヴィへ、ディアーチェがため息交じりに言う。

「この世界に我らの戸籍はない。当然ながら、学校に通うこともできない」

「学校に通うぐらいならどうにかなるわよ?」

 まだ言葉を続けようとしていたディアーチェがわずかに目を見開き、怪訝そうに眉をひそめた。声の主、リンディへと視線を向ける。

「学校に通いたいの?」

 リンディの問いかけに、レヴィが期待に満ちた眼差しで勢いよく頷いた。リンディが頷きを返し、ディアーチェとシュテルへと視線を向ける。その視線の意味を察して、二人が口を開いた。

「ナノハたちが学んでいる場所には少し興味があります」

「見聞を広めるという意味では、悪くはないな」

 二人のその言葉に、リンディは満足そうに微笑んだ。

「もちろんユーリさんも行くわね?」

「はい! 大丈夫ですか?」

「もちろん。それじゃあ、準備をしておくわね」

 リンディが笑顔で言って、席を立って部屋を出て行く。リンディが立ち去った後は、なのはたちの学校がどういったところなのかという話題になった。

「シュウ君にも教えてあげないといけないね」

 ふとなのはがそう言って、シュテルも頷く。それに異を唱えたのは、レヴィだ。

「ええ! せっかくだから内緒にしようよ! びっくりさせよう!」

「おお、ええなあそれ! あたしはレヴィに賛成や!」

 はやてが嬉々として言う。なのはたちがシュテルの顔色をうかがうと、特に反対することもなかったのでシュウには内緒、ということになった。

 

 

 そんな経緯を知らないシュウは、教室の前に立つ三人を見て、嬉しそうな、しかしどこか困惑しているような複雑な表情になっていた。それでも短い間とはいえ一緒に学校生活を送れるというのは魅力的である。シュウは三人の来訪を歓迎することにした。

 授業まではシュテルたちへの質問を、ということになった。すぐにクラスメイトたちが手を上げ、担任が無作為に一人を選ぶ。その一人が真っ先に聞いたことは、

「高町さんたちとうり二つだけど、双子? 家族?」

 全員が気になっていたことだろう、皆が聞き漏らすまいと静かになる。シュテルたちは顔を見合わせると、シュテルが一歩前に出た。どうやらシュテルが代表して答えるということになったらしい。

「友人ではありますが、血は繋がっていません」

「ええ! でも本当にすごく似てる……」

「似た顔の人が三人いるといいますし、ただの偶然ですよ」

 シュウの知らないことではあるが、これはあらかじめシュテルたちとなのはたちの間で決められたことでもある。少々苦しいかもしれないが、一週間だけだ。これで押し通すことにした。それに、まるきり嘘というわけでもない。

 質問した生徒は、そんなものなのかな、と無理矢理納得したらしい。それ以上は何も言わず、席に座った。

 その後も何度か質問をされて、シュテルが無難な答えを出していく。そして授業直前の時間になって、担任が手を叩いた。

「はい。ここまでにしておきましょう。他にも聞きたいことがある人は休み時間にね。それじゃあ、シュテルさんたちの席だけど……。三人とも、高町さんたちとはお友達なのよね?」

 高町たち、というのはなのは、フェイト、はやてのことを言っているのだろう。シュテルたちが頷くと、それじゃあ、と担任が続ける。

「親しい子が隣にいた方が安心よね」

 そして教室の後ろに置かれていた三組の机といすが移動させられる。シュテルはなのは、レヴィはフェイト、ディアーチェははやての隣の席となった。

 いつの間に机とか用意していたんだろう、と思うシュウだが、後から聞くと最初からあったらしい。そのため、転校生が来るのではないかと朝から期待されていたそうだ。

 シュテルたちを迎えたなのはたちがそれぞれ嬉しそうな表情を浮かべていたが、対する三人のうちの一人、ディアーチェだけはとても渋い表情をしていた。

 

 何事もなく授業が終わり、休憩時間。シュテルたちはクラスメイトたちに囲まれていた。先の時間では足りなかったようで、まだまだ質問責めにされている。シュウはそんな三人の様子を、自分の席からぼんやりと眺めていた。

 もうそろそろ、我がクラスのリーダーが鶴の一声を発するはずだ。

「いい加減にしなさい! 三人とも困っているでしょ!」

 声の方を見ると、アリサが腰に手を当て眉尻を上げていた。予想通りの展開に、シュウは思わず苦笑する。アリサの指示の元、クラスメイトたちは一列に並び、今度は順番に質問を重ねていく。

 ふとアリサと目が合った。シュウを見たアリサが真っ直ぐにこちらへと歩いてくる。シュウがきょとんと呆けていると。アリサが目の前で立ち止まった。

「シュウ」

「な、なにかな?」

 心なしか、アリサの声に怒気がはらんでいる気がする。

「ここはあんたが助ける場面でしょ。家族が助けなくてどうするのよ」

「ああ、うん……。アリサが言うかなって」

「あんたね……」

「それに、アリサならともかく、僕が急に言うとシュテルたちとの関係を聞かれるんじゃないかな? できれば一緒に暮らしていることは内緒にしたいし」

 一緒に暮らしていることを知られるとシュウはもちろん、シュテルたちにも迷惑がかかるだろう。血の繋がりのない赤の他人がほとんど一緒に暮らしている状態なのだ。妙な誤解を招く恐れがある。

 言葉にしなかったその意図を察したのだろう、気にしすぎだと思うけど、と言いながらも、一応は納得したのかアリサがその場を立ち去ろうとする。だが、続いて聞こえてきた言葉に足を止めた。

「住んでる場所? よくわかんない。シュウと一緒に住んでるから、シュウなら分かるよ!」

 レヴィの元気な声に、教室が静まりかえった。そして一斉に、クラスメイトたちがシュウへと振り返る。思わず頬が引きつってしまう。

「シュウ……」

「な、なにかな?」

「がんばりなさい」

 同情と憐憫を多分に含んだ視線を向けられ、シュウは力なく肩を落とした。

 

 その後はシュウに対しての質問責めが始まる、というところになって、次の授業のチャイムが鳴った。助かった、と思いながらも、次の休み時間に先延ばしにされているだけだとすぐに思い至り、頭を抱えてしまう。ちらりとレヴィの方を見ると、こちらを申し訳なさそうに見る視線と目が合った。一応反省はしているようなので、これ以上何かを言う必要はないだろう。

 シュウはチャイムが鳴る直前に、シュテルとディアーチェが眼光鋭くレヴィを睨んでいたことに気づいている。おそらくあの短い時間の間に、念話が交わされていただろう。

 後から聞いた話ではあるが、シュウの予想通りに念話は交わされており、シュテルとディアーチェからかなり怒られたらしい。さらにはなのはたちからも苦言を呈されたとか。

 

 授業が終わり、休み時間。案の定、シュウはクラスメイトたちに囲まれた。

「シュウ! どういうことだ! 一緒に住んでるって!」

「何か事情があるのよね! ねえ、どんな? 教えて!」

 男子からは罵倒に近い詰問、女子かはこの状況をどこか楽しんでいるような質問。シュウはそれらにどう答えようかと必死に考えていると、

「私が説明します」

 助け船を出したのは、シュテルだった。一斉にシュテルへと振り返るクラスメイトたち。

「こちらへと引っ越してきた際にシュウには近辺を案内してもらいました。その縁もありまして、私たちの親からシュウへと依頼されたのです」

「依頼?」

「はい。私たちの親は仕事上家にいないことが多いので、できれば様子を見にきてほしい、と頼んだそうです。私たちにとっては心外ですが」

 最後の部分をあえて強調するシュテル。クラスメイトたちはシュテルの説明で、一先ずは納得したらしい。数人は訝しげな視線をしていたが、過半数が納得した以上、これ以上何も言うつもりはないようだった。

 それでもレヴィは、という声はまだあったので、レヴィの言葉の綾です、と押し通していた。

 そこで休み時間は終わってしまった。

 

 次の休み時間もシュテルたちはクラスメイトたちに囲まれていた。今日一日は落ち着くことはないだろう。せっかくだから少し話をしておきたいと思っていたシュウだったが、帰ってからでいいかと自分を納得させた。

 そして次の休み時間。昼休み。

 一緒に食べようと誘われているシュテルたちを横目で確認して、シュウは弁当を取り出した。できれば一緒に、とは思ったが、どうやらそれも難しそうだ。だが、

「すみません、ナノハと約束をしているので」

 シュテルの発言に、クラスメイトたちが残念そうな声を上げる。その間にシュウの隣に立つ一人の少女。

「シュウ君。お手紙、だよ」

 見ると、すずかがそこに立っていた。渡されたのはノートの切れ端で、そこにはシュテルの字があった。書かれている文章は短いもので、視聴覚教室で待っています、というもの。シュテルたちの方を振り返ると、三人とそれぞれ視線が合い、三人ともに小さく頷いて教室を出て行った。

「私たちは屋上の方に行くから。もちろんなのはちゃんも」

 どうやら気を遣ってくれたらしい。シュウはそれじゃあ、と手を振るすずかたちに心の中で頭を下げて、シュウも教室を後にした。

 

 視聴覚教室に入ると、いつかの運動会の時と同様、結界の中に入っていた。そこで待っていたのはシュテルたちで、シュウの姿を認めた瞬間、レヴィが勢いよく頭を下げた。

「ごめんなさい!」

 休み時間の発言のことだろうとすぐに思い至り、苦笑しつつも、大丈夫だよと伝える。レヴィは安堵のため息をついた。

「でもびっくりしたよ。何も聞いてなかったから」

「うぬの驚く顔を見てやろうと思ってな」

「一応、今までの経緯を話しておきましょうか」

 お弁当を食べながら、ということになり、教室の机に弁当を広げてそれぞれ食べ始める。その間にシュテルたちからアースラでのことを聞いた。

「あれ? それじゃあ、ユーリは……?」

「ユーリならもうすぐ来るよ」

 え、とシュウが首を傾げていると、結界の中に一人入ってきた。三人の反応からそれに気づき、振り返ると、ユーリが側に立っていた。

「すみません、遅くなりました!」

 笑顔でそう言って、ディアーチェの隣に座る。弁当箱を広げながら、シュウを見て首を傾げた。

「どうかしました?」

「あ、いや……。どこにいたの?」

 シュウの質問の意図が分からずきょとんとしていたユーリだったが、すぐに理解して苦笑を浮かべた。

「私は別のクラスなんです。さすがに四人全員同じクラスとはいかなくて……」

「三人同じクラス、というだけでもかなり無理をしていただきました」

 それはそうだろう、とは思う。同じタイミングで同じクラスに三人、とは本来なら考えられない。他のクラスにも振り分けられて当然だったはずだ。リンディがどういった方法を取ったのか、少し気になるところだ。

 さらに聞けば、ユーリだけ別のクラスと聞いたディアーチェはユーリと同じクラスにしてもらえるように頼みに行ったらしい。すでに決められてしまっていたために変更はできなかったらしいが。

「ユーリのクラスはどこ?」

 興味本位で聞いたシュウへと告げられたクラスに、シュウは納得して頷いた。意図的か偶然かは分からないが、意図的ならリンディあたりの配慮だろう。ユーリが入ったクラスは、シュウの友人、コウと音奈がいるクラスだ。あの二人ならユーリのフォローをしてくれるだろう。

「期間は一週間だけ?」

「はい。今の仕事を辞めるわけにはいきませんので」

 シュテルの言う仕事は嘱託魔導師のことだろう。これからの目的を考えると、確かに辞めるわけにはいかない。シュウのとっては頼ってばかりで申し訳ないところではある。

 だがとりあえずは一週間は学校に通うらしい。弁当を食べ終わったシュウは、四人に微笑み、

「それじゃあ一週間、よろしくお願いします」

 シュウの言葉に、四人がそれぞれ頷いてくれる。

 ――これから一週間、楽しくなりそうだ。

 そう思い、これからの学校生活に思いを馳せた。

 




年明け投稿1発目。
約5時間刻みで予約につっこんでいます。
それまでに読み直しを完了せねば……!
一応6話ほど投稿予定です。
ちなみにこの体験入学は3話構成ですよー。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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