時期は小学生の頃。かなり短めです。
マンションのリビング。夕食を食べながら、シュウはある映像を眺めていた。シュウが見る映像は、昼頃行われたという模擬戦だ。なのはとシュテルが何か大砲のようなものを撃ち合っている。
「魔法って何だっけ」
「…………」
この世界の書物に触れ、この世界で考えられている一般的な魔法というものを朧気ながら理解しているシュテルとディアーチェは、そっと目を逸らした。確かに、この世界での物語にある魔法とシュテルたちの魔法は全くの別物と思えてしまう。
レヴィとユーリは意味が分かっていないようで、不思議そうに首を傾げていた。
シュウはその後は何も言わず、そして映像を見終える。少しだけ遠い目をしているシュウに何を言えばいいのか分からず、シュテルは静かにその様子を見守る。やがてシュウはシュテルへと顔を向けると、ぽつりと言葉を漏らした。
「バリアジャケットが見たい」
シュウはパストから与えられた知識で、シュテルたちの魔法については実際のところはかなりの知識がある。デバイスに関しては管理局の誰であろうと到達していないほどのものだ。それでもそれは知識だけであり、実際に見たことはほとんどないだろう。
バリアジャケットもそのうちの一つだ。むしろデバイスに関しては自分で作ればいいのだが、そうはいかないバリアジャケットはじっくりと見る機会はなかったはずだ。
「見たいのですか?」
シュテルが聞いて、シュウが頷く。
「うん。見たい。……だめ?」
少し考え、まあそれぐらいなら、とシュテルは了承した。
「ふむ……。シュテルのものが見られれば、十分か?」
ディアーチェが聞いて、シュウが少し考える素振りを見せた。しかしすぐに頷いて、ディアーチェへと言う。
「うん。でも今度、お願いするかも」
「まあ、いつでも言うといい。減るものでもないからな。いつでも見せてやろう」
ディアーチェも快諾して、食器を片付け始める。大した目的があるわけでもないのに引き受けるあたり、ディアーチェもずいぶんとシュウには甘いものだ。気を許している証拠とも言えるのかもしれない。
「今やるなら別室でな」
洗い物を始めるディアーチェの言葉に従い、シュテルはシュウと共に場所を変えることにした。
そして移動した先は、当然のことながらシュウの部屋だ。誰の迷惑にもならないので都合がいい。物が少ないので、万一何かあったとしても被害が少なくてすむ。
「それでは、いきますよ」
「うん」
期待が籠もった眼差しで見つめられ、シュテルは少し気恥ずかしさを覚えて目を逸らした。そのままルシフェリオンを起動させ、バリアジャケットを展開する。いつもの、なのはと色違いの黒いバリアジャケットに身を包み、シュテルはシュウへと視線を移した。
「いかがですか?」
じっとこちらを見つめるシュウ。シュテルが怪訝そうに眉をひそめていると、
「うん。かわいい」
「は……?」
「すごくかわいい」
真正面から言われ、シュテルは一瞬何を言われたのか分からずに固まってしまう。やがてシュウの言葉を理解して、頬が赤くなるのを感じて慌ててそっぽを向いた。
「そうですか。ありがとうございます」
とにかくそれだけ言って、そしてすぐにバリアジャケットを戻そうとして、
「触っていい?」
再び固まるシュテル。頬を引きつらせながらも、構いませんよ、と頷く。それを確認したシュウがおそるおそると手を伸ばして、シュテルのバリアジャケットに触れる。へえ、とシュウが驚きの声を漏らした。
「普通の服とあまり変わらないんだね」
「まあ……。そうですね」
着ている身としては色々と違うところもあるのだが、魔法を使えないシュウにとっては変わらないものだろう。シュウはしばらくシュテルの服に関心を示していたが、やがてふとシュテルへと顔を向けた。
「…………」
無言で自分を見つめてくるシュウ。
「シュウ? どうかしましたか?」
シュテルがそう聞くのと、
「てい」
シュウの小さなかけ声が放たれたのは同時で。
シュウに抱きしめられていた。
「……っ!」
声を漏らしそうになるのを堪えて、シュテルはシュウへと意識を向ける。拒絶の意思を示さないのは、シュウの体がわずかに震えていたからだ。
「シュウ……?」
少し不安を感じながらシュウを呼ぶ。シュウがわずかに身じろぎをして、そしてぽつりと言葉を漏らした。
「あまり、危ないことはしないでね……?」
シュウの言葉に、シュテルは目を見開いた。シュウが続ける。
「非殺傷設定とかは知ってるよ。でもそれは模擬戦の話だよね。実際は……そんなもの、相手は使ってくれないよね」
シュテルは少し迷いながらも、しっかりと頷いた。ここで嘘やごまかしは逆効果にしかならないことはすぐに分かる。シュウはその返事を受けて、さらに言葉を続ける。
「僕は、シュテルを守ることができない。デバイスのメンテナンスとかカートリッジとか、それしか力になることはできない。それが、やっぱり悔しい」
シュテルを抱きしめる腕に力が込められる。シュテルはそのシュウの背を撫でながら、気づかなかった自分を恥じていた。
今までも何度か模擬戦の映像を見せている。もしかすると、シュウはそのたびに自分の身を案じてくれていたのかもしれない。心配して、不安になっていたのかもしれない。そのことに全く気づかなかった、気づけなかったことに、軽い自己嫌悪すら覚える。
「大丈夫ですよ」
シュウの背を撫でながら、シュテルはシュウを安心させるために言葉を紡ぐ。
「私も自分一人で何でもできるとは思っていません。無理だと判断した時は迷わず撤退します。ですから、そんなに心配しないでください」
シュテルがそう言うと、シュウは小さく頷いた。小さく安堵の吐息を漏らし、しかしシュウが自分を離さないことに首を傾げる。
「その……。シュウ。そろそろ離していただけませんか?」
「やだ」
シュウが顔を上げる。その顔にあるのは、いたずらっぽいシュウの笑顔。
「なんだか新鮮だから。それに、かわいいって言ったのは本当だよ」
そう言って、また自分を抱きしめてくる。シュテルは少し困惑していた。シュウの行動に、ではない。
それほど嫌とは思っていないどころか、むしろ少し嬉しいとすら思っている自分に、だ。
「もう少しだけですよ……」
ようやっとその言葉を絞り出したシュテルと、
「うん。ありがと」
嬉しそうに礼を言ってくるシュウ。
シュテルは今日何度目か分からないため息をつきながらも、微苦笑を浮かべていた。
――たまにはこんな日も悪くはないですね。
そんなことを思っていた。
シュテルをぎゅっとしたかった。
ただそれだけのために書きました。
次の2話は、かなり毛色の違うお話です。
のんびりほのぼの、とはちょっとしていないかもしれません。
ご注意くださいませー。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。