ギフテッド   作:龍翠

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今回はディアーチェメインです。
メインというほど出張ってもいませんが……。


第九話 読書

 

 ある日の放課後。シュウは行きつけの書店に立ち寄っていた。店主に会釈して、おもしろそうな本がないか探し始める。

「……あれ?」

 見つけたのは本ではなく人だった。推理小説のコーナーで見知った人が立ち読みをしている。確かに家でもよく本を読んでいるところを見かけるが、こんなところで会うとはさすがに思わなかった。

「ディアーチェ?」

 呼びかけてみると、ディアーチェが振り向いた。シュウの姿を認め、少し驚いたように眉を持ち上げる。

「なんだ、シュウか」

 そう言ったディアーチェはすぐに視線を本へと落とした。熱心に読みふけっている本が気になり、そっと下からのぞいてみる。推理小説だった。

「気になるなら言えばいい。タイトルぐらい言うぞ」

 ディアーチェの呆れたような目。自然と視界に入るだろうから当然と言えば当然か。シュウは照れたように頬をかき、姿勢を戻す。

「推理小説が好きなの?」

「推理小説が、というわけではない。目についたものを読んでいるだけだ」

 そう言うと、ディアーチェは本を閉じて棚に戻す。次の取ったのは、その右側の棚からだ。こちらは今はファンタジー小説のコーナーとなっているらしい。ディアーチェはタイトルと表紙を確認すると、すぐに読み始めた。

 シュウは、このままここにいてもいいのだろうかと少し悩む。読書中の人間に声をかけ続けるほど無神経な人間ではない。素直に自分も本を探すのが得策だろうと判断してその場を離れようとしたが、ディアーチェ本人から呼び止められた。

「探している本でもあるのか? 我でよければ手伝うが」

「あ、いや……。僕もおもしろそうな本がないかなって探してるだけだから。……よく読みながら話せるね」

「それぞれに意識を向けているだけだ。魔導師ならこれぐらいはできて当然のことだぞ」

 それはすごい、と素直に感心する。同時に便利そうだな、とも。

「僕でもできるようになるかな」

「我が知るか」

 素っ気ない返事だ。シュウは苦笑すると、先ほどまでディアーチェが持っていた本を手に取った。聞いたこともない推理小説だ。

「これ、おもしろかった?」

「いや」

 え、とシュウはわずかに驚く。あれだけ熱心に読んでいたのならおもしろいのだろうと思ったのだが。

「展開稚拙、伏線回収不足、犯人の動機が逆恨みな上に犯行方法はご都合主義。三流もいいところだ」

「言いたい放題だ……! なんで読んでたの?」

「読みかけたからだ。それ以上の理由はない」

 それよりもこちらを勧める、とディアーチェは本を読みながら起用に棚の本を引き抜いた。その本を受け取りタイトルを見てみるが、これも聞いたことのないものだ。

「まあ……。ディアーチェが言うならきっとおもしろいんだろうね。どれどれ……」

 シュウも本を読み始める。こちらはディアーチェのように器用ではないので会話と並行することはできない。ディアーチェもそれを分かっているのか、シュウが読み始めてからは話しかけなくなった。

 

 どれぐらいの時間が経っただろうか。ディアーチェに肩を叩かれて振り返ると、あきれ果てたような表情がそこにあった。首を傾げながらも時計を確認して、すぐに理由に思い至る。もう午後七時だ。外はかなり暗くなっている。

「ずいぶんと集中していたな。気に入ったのなら、勧めた我としても満足だ」

 シュウは本を閉じて、照れくさそうに笑った。

「うん。おもしろいね、これ。気に入ったよ」

「そうか」

「もうちょっとで読み終わるから、あと三十分待って」

「そう……。待て! シュテルに何と言えば……!」

 ディアーチェが慌て始めた時には、シュウはすでに読書を再開していた。そこからは、もう声をかけても反応しなくなった。

 

 シュウは三十分と言ったが、実際は十分ほどで読み終えていた。ふう、とどこか満足したようなため息をつき、本棚へと本を戻す。それを確認して、ディアーチェは長々とため息をついた。

「まったく……。早く帰るぞ。今頃レヴィが騒いでいるだろう」

 ディアーチェが本を抱えてそう言って、カウンターへと消える。一瞬しか見えなかったが、先ほどまでディアーチェが読んでいた本がまざっていたと思う。読み終わらなかったのだろうか。自分だけが読み終わるまで待たせてしまったことに後悔する。

 ディアーチェを追ってカウンターへ向かうと、店主と目が合った。

「なんだ、知り合いか?」

 店主が気さくに笑いながら言う。シュウがうなずくと、ふむ、と店主は手をあごに当てる。少し考え、にやりと意地悪そうな笑みを浮かべた。

「シュテルちゃんがいるのにこんな子ともお近づきになっているとは……。やるな!」

「いや違うから! 思っている関係と絶対に違うから!」

 分かってる皆まで言うな、と店主が手を上げる。今度はディアーチェに向き直ると、少し驚いている様子のディアーチェに笑顔を向けた。

「その本は持っていってくれていいよ。二股かけてる彼氏さんに出してもらうから」

「いや色々とおかしいよ!」

 その後、関係を説明するのにさらに十分の時間を要した。シュテルとの関係から始まり、最近は夕食をご馳走になっていることまで。もちろん魔法のことは伏せておいたが。

 全て聞き終えた店主は、自分のことのように嬉しそうだった。

「そうか。最近明るくなったのはそのためか」

 え、とシュウが間抜けな声を上げる。店主はその間にディアーチェへ、今度は真剣な表情を向けた。

「この子と仲良くしてやってくれ。強がってばかりいるが、寂しがり屋なんだ」

 シュウが驚いて目を瞠った。予想以上に店主に観察されていたらしい。気恥ずかしくなって何も言えなくなる。ディアーチェはそんなシュウを一瞥して、店主にうなずいた。

「言われるまでもない」

 

 すっかり暗くなった夜道を二人は歩く。向かうはマンションだ。隣を歩くディアーチェは黙ったまま何も言わない。シュテルと念話をする、と言っていたのでシュウも邪魔しないようにただ黙々と歩く。

 シュウの右手には紙袋が握られている。中に入っているのはディアーチェの本だ。結局店主から譲られる形になってしまった。その代わり、シュテルと同じくディアーチェにも時折顔を出すように言っていたが。

 やがてディアーチェが小さくため息をついた。どうやら念話は終わったらしい。

「終わったぞ。寄り道せずに帰ってくるように、とのことだ」

「あはは。怒ってるかな?」

「誰のせいだと思っておる」

 まったく、とディアーチェは呆れるが、その表情は柔らかい。

「ところで、この本……読んでなかった?」

 疑問に思っていたことを聞いてみると、ディアーチェは、そうだが、と当然そうにうなずいた。どうやら何を聞かれたのか理解していないらしい。シュウは少し考えて、なるほどとうなずいた。

「そっか、これはシュテルにか」

「ああ。あやつもよく本を読むのでな。お互いにおもしろいと思う本があれば、こうして相手にも勧めている」

 なるほどね、とシュウはうなずいた。続いてもう一つ聞いてみる。

「あの書店は、もしかしてシュテルから聞いたの?」

「そうだ。そう言えばシュテルはシュウから聞いたと言っていたな」

 ディアーチェは足を止め、シュウを見る。シュウもすぐに立ち止まって振り返った。

「良い店主、良い書店だ。あの男性もなかなかおもしろいやつだ。これからも通わせてもらおう」

 ディアーチェがうなずきながら言うのを見て、シュウは少し嬉しくなった。自分にとっても、あの書店は常日頃からお世話になっている。こうしてあの書店の常連が増えるというのは喜ばしいことだ。

 再びディアーチェが歩き出し、シュウもその隣を歩く。しばらくお互いに無言で歩いていたが、やがてディアーチェが口を開いた。ただ、珍しいことにその声は少し聞き取りにくいぐらいには小さかったが。

「よければ、その、なんだ……。我一人では少々行きづらいというのもある。あそこに行く時は声をかける。だから……」

「うん。一緒に行くよ」

 ディアーチェは少し目を丸くし、すぐにわずかに笑みを浮かべた。

 

 夕食後。シュウとディアーチェはテーブルに向かい合って座っていた。お互いに難しい表情をして、押し黙っている。シュウの隣にはシュテルがいて、こちらはとある本を読んでいるところだ。

「なるほど、そういう捉え方もあるか……」

 そうつぶやいたのはディアーチェだ。視線をシュテルの持つ本に向け、ふむ、と腕を組む。

「ディアーチェの言う方が多分正しいんだろうけど、僕はそう感じたかな」

 二人が話しているのは、ただの本の感想だ。お互いに自分はこう思ったというのを話している。その本は、現在シュテルが読書中だ。

「しかし、その考え方なら、あの犯人の動機に矛盾が発生するぞ?」

「うん。でもその動機に関してもさ……」

 楽しげに二人で話を進める。その部屋の隅では、レヴィとユーリがテレビを見ている。二人も最初こそ話を興味深そうに聞いていたが、すぐに飽きてテレビへと行ってしまった。そしてシュテルは、いつもの定位置で本を読んでいるだけなのだが、どこか不機嫌そうだ。

「そうなると犯人はずいぶんと阿呆だな。恋人を殺してそれだと報われん」

「まあそうなるよね」

 ぴくり、とシュテルの眉が動いた。だが何事もなかったかのように時間は進む。

「これは是非ともシュテルの意見を聞かねばならんな」

「うん。今どのあたりかな? 妹が犯人だって名乗り出たところかな?」

「…………」

 シュテルが小さくため息をつく。本を閉じてそっとテーブルに。そしてシュウとディアーチェを順番に見る。

 すぐに悟った。これは怒らせてしまったらしい。

「シュウ」

「……はい」

「ディアーチェ」

「……うむ」

 呼ばれて、二人は静かに返事をする。

「一言だけ言わせてください。うるさい、と」

「……ごめんなさい……」

「……すまぬ……」

 神妙な面持ちで謝罪を口にする二人。シュテルはそんな二人に満足したのか、再び本を手にとって読み始める。シュウとディアーチェはしばらく押し黙っていたが、目が合うと苦笑を交わした。

 その二人の様子にもシュテルはしっかりと気づいていたが、今回は何も言わない。ただ少し嬉しくは思う。本の議論など今までやっていなかったことだ。二人で帰ってきた時は何かなかっただろうかと少し心配したものだが、どうやら少しは仲良くなったらしい。

 喜ばしいことだと納得しているが、同時に少し苛立ちも感じる。そんな自分の感情に自分が一番戸惑ってもいる。

 そのシュテルの感情の揺れ動きなど知らない二人は、

「シュウ。推理小説ではこの本が一番おもしろい。読んでみるがいい」

「お、ありがと。じゃあ僕はこの本を勧めておくよ。ファンタジーでは一番おもしろかった」

 お互いに本を差し出して読書を始めていた。

 




王様メインなのに王様のデレがない……。
推理小説を議論する小学生ってやだよ……。
小学生に二股とかいう書店のおっちゃんやばいよ……。

と相変わらず反省点が……。精進します。


以前予定としてシュテルと他のマテリアルズを交互に書くと書きましたが、撤回させてください。他のマテリアルズは気まぐれで……。できるだけまぜていこうとは思いますが。以上です。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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