フクイデ先生   作:フクイデスト

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一日ぶりくらいの更新
最後のシーンはJJと一緒に夜明けのコーヒーを飲みながら読みましょう。



君を想う力

 『先の件について、早田進防衛大臣は記者会見でこう答弁されました』

 

 『近年、世界各国が…』

 

 「何か、最近物騒ですね…」

 

 「ここ最近は不穏な気配があった。だから、人々が過剰に反応していたんだろう」

 

 朝の伏井出邸、伏井出と優がリビングで一緒に食事を取っている。テレビでは、記者の問いに防衛大臣がそつなく答えている。

 

 「先生も程々にしておいてください。ボロボロになって帰って来た時は心臓が止まりかけましたよ」

 

 「私もこのような役目は誰かに請け負って貰いたいと思っている。だが、私が行くことで一番被害が少なくて済むのだよ」

 

 「むぅ…」

 

 優は伏井出の返答に納得はしないものの、理解はしていた。それ故に、これから先も危険な目に会うという返答に頬を膨らませたのだ。

 

 「先生はもっとご自身の体を大切にすべきです。貴方が居なくなって悲しむのは貴方だけではありません。私、社長さん、編集者さん、他にも多くの人がです」

 

 「悲しむのは私だけではない…か。ありがとう、優」

 

 「…どういたしまして」

 

 伏井出が優に微笑むと、優も恥ずかしそうに微笑み返す。その後の朝食は楽し気な会話が続いた。

 

 優が皿洗いをし、伏井出が紅茶を飲みながらニュースを観ている。すると、二人のスマホに数秒違いで同じような内容のメールが届いた。

 

 優の方はエロマンガ先生から、伏井出は正宗からだった。

 

 「先生、紗霧ちゃんから何か打ち上げに参加しませんかって来ました」

 

 「私の方もだ。こっちは正宗君からだがね。そもそも、ラノベ天下一武闘会だったか?それに私たちは参加していないのだが、いいのだろうか」

 

 「何でもお世話になったから、是非来て欲しいらしいですよ」

 

 「ふむ、そこまで言われたら断る理由はないな。当日の予定は……ないな。優の方はどうだ?」

 

 「私もありませんね。じゃあ、二人でお邪魔しに行きましょうか」

 

 「ああ、そうするとしよう。正宗君が料理を用意してくれるそうだ。彼の料理の腕は相当だ」

 

 「それは楽しみです」

 

 二人の穏やかな朝は過ぎていく。

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 打ち上げ当日。二人は予定の時間よりも、二時間早く和泉家に着いていた。その理由はエロマンガ先生にあった。

 

 エロマンガ先生は打ち上げ会でもう一人の男性ライトノベル作家の獅同国光がいるために、自分の部屋でPC越しに打ち上げ会をするつもりだったらしい。

 

 しかし、それに優が待ったをかける。

 

 『同じイラストレーター同士だし、私が紗霧ちゃんの部屋で打ち上げ。先生は下の階で作家同士で打ち上げをすればいいですよね?』

 

 伏井出は特に断る理由もないので了承、紗霧の方もやっぱり一人でいるのは少し寂しかったのか優の提案を受け入れた。

 

 そんな訳で優と伏井出は他の作家が来る前に和泉家を訪れたのだった。

 

 伏井出が作家たちにまで正体を隠す意味があるのかと訊くと

 

 『別に姿を隠しているのはノリなんですけど、ここまで来たら後どれくらいまでバレないか挑戦したくなりません?容姿、性別、経歴不詳のイラストレーターって、ミステリアスでいいですよね』

 

 結局は大した理由はないようだった。気分の問題だろう。

 

 「へぇー、普通のお宅ですね」

 

 「私たちの家が必要以上に大きいだけだ。いくら、ライトノベル作家で売れているからと言って、豪華な屋敷を買い取る人間なんてそうそういない」

 

 残念ながら、和泉家の横の山田エルフはそれをやってしまった人間だった。

 

 チャイムを鳴らすと、家の扉が開いた。

 

 「お久しぶりです、伏井出先生」

 

 「久しぶりだね。マサムネ先生」

 

 「えっと、そちらの方が…」

 

 「君が紗霧ちゃんのお兄さん?私は伏井出先生専属イラストレーターの吉良沢優です。よろしくお願いしますね」

 

 「よろしくお願いします。先生から伺ってましたけど、本当に女性だったんですね」

 

 優の姿を見た正宗は伏井出から女性だと聞いていたので、そこまで驚きはしなかった。だが、美少女と言える容姿にはかなり驚いている。

 

 「意外かな?」

 

 「意外というより、世間の予想と違い過ぎて困惑している感じですかね」

 

 「本名で活動してるのに全くバレないんだよね。それだけ、世間は吉良沢優を男性だと思ってるみたい」

 

 「今日一日は妹をよろしくお願いします。妹が自分から誰かを部屋に入れたいなんて言うのはほぼないんです。これからも仲良くしてやってください」

 

 「ええ、任せてください。紗霧ちゃんとは初対面は衝撃的だったけど、これからも仲良くしていくよ」

 

 正宗の脳裏に嫌な予感がよぎる。それはエロマンガ先生と美少女の組み合わせは、既にめぐみと言う犠牲者を出している事例だからだ。

 

 「えーっと、すみません。ウチの妹が迷惑を…」

 

 「あはは、大丈夫だよ。パンツ見せてって言われただけだから」

 

 「(紗霧ィィ!!!!!)」

 

 大声で叫ぶ訳にもいかず、心の中で叫び、拳をギュッと握る。

 

 「本当にすみません!」

 

 「大丈夫だって、流石にそれは拒否したけどね」

 

 優はパンツを見せることはなかったが、見えないギリギリの構図は許可した。そのためエロマンガ先生は、見えそうで見えない構図と絶対領域に目覚めることとなった。

 

 「ずっと、玄関口で話すのも何ですので伏井出先生はリビングへどうぞ。吉良沢先生は紗霧が部屋で待っているそうです」

 

 「それじゃあ、先生も楽しんでくださいね」

 

 「優も楽しんで来なさい」

 

 伏井出先生はリビングへ通され、優は二階へ上がっていったのだった。ここで、正宗は違和感を覚えた。

 

 「あの…僕、先生たちにエロマンガ先生は妹だって言いましたっけ?」

 

 「…妹さんから聞いていなかったのかい?私は優から君の妹だと、聞いだのだが?」

 

 「(そんな話、聞いてないなぁ…)まぁ、先生たちならバレても問題はないかな?…」

 

 正宗は妹に重要な事を教えて貰っていなかったことに、若干傷つきながらもリビングへ向かった。

 

 「すまない、マサムネ先生。私は少し仕事があるので、ここで執筆させてもらうことになる」

 

 「大丈夫ですよ、何かお入れしましょうか?」

 

 「コーヒーか紅茶を頼めるかい?」

 

 「はい、わかりました」

 

 伏井出はノートPCを取り出すと、早速執筆活動へ取り掛かった。正宗は伏井出の邪魔にならないように、飲み物をそっと置くと打ち上げの料理を作り始めた。

 

 伏井出が執筆しているのは、先日出版を発表した『君に会うために』の短編だ。彼の中では既に収録する小説は決まっており、執筆も後半に差し掛かっている所だった。

 

 リビングではパソコンのタイピング音と料理を作る音のみが聞こえる。二人共、それぞれの世界に入り込んでいるので、両者とも音は耳に入っていないのだろう。

 

 ピピピピと電子時計がアラームを鳴らす。時刻は12時前、どうやらそろそろ打ち上げの時間のようだ。

 

 「そろそろ、他のメンバーも来るでしょう」

 

 伏井出はそう言うとノートPCを仕舞い、三杯目となる紅茶に口を付ける。

 

 「そうですね、誰か来てもおかしくは…」

 

 そんな話しているとチャイムの音が聞こえた。

 

 「はーい!今行きます!」

 

 玄関へ客を迎えに行った正宗が帰ってくると、その横には見知らぬ青年がいた。恐らく彼が今回の打ち上げ会を企画した獅堂国光なのだろう。

 

 「初めまして、獅堂国光先生。私は伏井出ケイ、ライトノベル作家としては同じ若輩。よろしく頼む」

 

 「は、は、初めまして!今回、伏井出先生が参加すると聞いて、心臓が止まるほど驚きました。怖い『アンバランス・ゾーン』は苦手ですが、次の作品は感動系と聞きました。次は絶対に買います!」

 

 獅堂は伏井出を前にして、ガチガチに緊張していたが何とか自己紹介できた。そんな青年を好ましそうな目で伏井出は見ている。

 

 三人はリビングのソファーへ座り、何故今回獅堂が打ち上げ会を企画したのかという話になる。

 

 和泉マサムネや千寿ムラマサという、ライトノベル作家が参加しているが、そもそも『ラノベ天下一武闘会』は新人がやるコンペだった。

 

 今回を機会に、同業者の知り合いを増やしたかったという事らしい。

 

 「そういえば、もう二人の参加者はどうしましたか?確か、サイレンさんと長船真弓さんでしたっけ?」

 

 「ええ、誘ったんですが断られてしまいました。お二人共、もう作家を止めて田舎に帰ってしまうそうです…」

 

 「ああ…、それじゃあ仕方ないですね」

 

 「ええ、仕方ないです。この調子で同業者や同年代の知り合いを増やしていきたいと思っています」

 

 参加しなかった二人のその後を聞いた後、雰囲気が重くなった。

 

 「それで、和泉君は今日参加する他の人の事って知ってるのかな?僕は全員と面識がないんだけど…」

 

 「エロマンガ先生と吉良沢先生はネットのチャットで参加するそうです。エルフとムラマサ先輩は…」

 

 また話の途中でチャイムがなった。恐らく、女子二人が到着したのだろう。正宗は二人に断りを入れて、玄関に向かっていった。

 

 玄関からはエルフの元気のよい声と、ムラマサの少し恥ずかしそうな声が聞こえてくる。

 

 玄関で話している三人とは別にリビングの二人も談話している。

 

 「そういえば、伏井出先生は和泉君とどのような関係なんですか?」

 

 「ああ、彼は私がライトノベル業界へ手を伸ばす、きっかけになった人物だ。出会いは偶々だよ、突発的なサイン会をした書店で知り合ったんだ」

 

 「へぇー、それで『GEED』をライトノベルとして出版したんですね。…それにしても和泉君は女性に人気なんですね…さっきから全然こっちに来ない…」

 

 「ええ、彼の取り巻く環境には女性が沢山いるようですから。ただ、彼自身は心に決めている人物がいるみたいですね」

 

 「へぇー…じゃあ、和泉君からしたらあまり好ましくない状況…」

 

 『いい加減に……しろぉーーー!!!!』

 

 正宗にイチャつく二人に到頭紗霧が激怒したようだ。大声と共に二階からドンッドンッと音がする。

 

 「………あのー……今のは……」

 

 「妖怪ではないでしょうかね?」

 

 「えっ?」

 

 

______________________________________________

 

 

 

 現在、リビングには五人の人間とタブレットが二機置いてある。

 

 正宗がソファーの端に座り、その隣にはエロマンガ先生からの要望で獅堂が座っている。伏井出は場所が足りなかった為、少し豪華な感じのリクライニングチェアに座っている。

 

 ムラマサは何か思いついたのか執筆を始め、エルフはスマホを弄っている。伏井出は我関せずというような感じで優雅に四杯目の紅茶を飲んでいる。

 

 正宗と獅堂はガッチガチに固まっている。正宗は画面向こうの妹が明らかに不機嫌だからで、獅堂は明らかに場の雰囲気が悪いからだ。

 

 『これでよし』

 

 『いやいや、獅堂先生が凄い気まずそうだけど』

 

 「いえ、お構いなく。キャラクター物のお面がエロマンガ先生で、ピエロのようなお面が吉良沢先生で合ってますか?」

 

 『そんな名前の人は知らない!』

 

 『ああ、これはこの子の癖で挨拶みたいなものだから気にしなくていい。ボクは吉良沢優で合ってるよ。獅堂先生、よろしく』

 

 「ああ、そうなんですか…」

 

 会話が途切れ、また沈黙が部屋を包み込む。そんな状況を打破しようと、獅堂が話を切り出す。

 

 「それにしても、和泉君はモテモテなんだね」

 

 『は?』

 

 『あちゃー…』

 

 獅堂、ここに来て地雷を踏みぬく。エロマンガ先生からはドスの利いた声が、優からは「やってしまいましたね」というニュアンスの声が漏れた。

 

 『和泉先生は好きな人がいるんだもんな?女の子に囲まれたからって、デレデレしないよな?』

 

 「はぃ…しません…」

 

 『声が小さい!』

 

 「はい!デレデレしません!」

 

 「(エロマンガ先生…怖い…)エルフさん、彼らの関係って…」

 

 「……色々とあるのよ」

 

 エルフもエロマンガ先生が女性で、彼の妹であるとは言えないので誤魔化して発言した。

 

 だが、獅堂からすれば正宗が女の子にデレデレして、それを男のエロマンガ先生が怒っているという異様な光景だった。

 

 この勘違いは獅堂に正宗がホモなのではないかという、疑問を植え付けることになった。

 

 「(なんか、シドー君に凄い勘違いされているような気がする…)お、俺、料理運ぶわ!」

 

 「私も手伝うわ」

 

 「おう、サンキュ」

 

 「私も手伝うとしよう、紅茶のお礼だよ」

 

 「ありがとうございます!」

 

 正宗、エルフ、伏井出の三人で全ての料理を並べ始める。並べ終わった机は選り取り見取りの料理で溢れかえる。

 

 「これ全部、マサムネ君が作ったのか?」

 

 「ええ、少し張り切り過ぎてしまったかもしれないです…」

 

 「なるほど、縁日の屋台料理か」

 

 『(……もう、兄さん。余計な気を回して…)』

 

 料理のラインナップはお好み焼き、たこ焼き、チョコバナナにリンゴ飴など縁日の屋台でよく見かけるものだった。

 

 これは外へ出ることの出来ない、紗霧に喜んで欲しいというものだろう。

 

 『噂に聞いていたけど、噂通りのシス…うわ!ごめん!ごめんって!』

 

 『も、もう!』

 

 恐らく、シスコン発言をしようとした優に対して紗霧が何かしたみたいだ。

 

 「あはは…そろそろ、お腹も減ってきただろうから乾杯しましょうか。誰が音頭を?」

 

 「優勝者のアンタがするべきよ」

 

 「私もそう思うな」

 

 「僕もそれいいと思います」

 

 「私はそもそも部外者だからな」

 

 「えー、では音頭を取らせていただきます。乾杯!」

 

 「『乾杯!』」

 

 美味しい料理に会話はどんどん弾んでいく。その会話の中で獅堂が自身の夢を語ったことで、自分の夢を話す流れになった。

 

 獅堂は食品メーカーとコラボして自身のラノベのキャラクターが載ったお菓子が店に置かれること。

 

 エルフは究極のラノベを作り、世界征服をすること。今は打倒電〇文庫だそうだ。

 

 ムラマサは世界で一番面白い小説を書き、自分で読むことだった。

 

 「伏井出先生は夢ってありますか?」

 

 今度は伏井出の番らしい。伏井出は少し考える素振りをし、答えた。

 

 「そうですね。私は強欲なので二つもあるのですよ」

 

 「意外です、先生って結構淡泊なイメージだったので…」

 

 そんな獅堂の言葉に他の面子も頷く。

 

 「一つは生きている限り、私の頭の中にある作品を小説にすることですね」

 

 「実際、先生の頭の中にある作品ってどれくらいあるんですか?」

 

 「そうですね、50年間作家をしていてもネタが無くなりはしないでしょう」

 

 「ごじゅ…」

 

 伏井出の発言に驚愕する一同。作家としては書くネタがないというのは悩みの一つだ。それに50年は悩む必要がないというのは、作家としては嬉しい限りだろう。

 

 「じゃ、じゃあ、二つ目は?」

 

 「二つ目はこれからも、優と共に生活することでしょうか」

 

 『ッ!?ゴホッゴホッ!せ、先生何言ってんのさ!!うぅー…』

 

 伏井出の発言に優は驚き、咽たみたいだ。恐らく、画面の向こうでは顔を赤くして唸っているだろう。

 

 「じゃ、じゃあ、吉良沢先生の夢は何ですか?」

 

 『ボク?ボクの夢は先生が小説を書く限り、ずっとボクが担当すること。この役目だけは誰にも渡さない』

 

 優の言葉は強い信念を感じさせるものだった。それ程までに、彼女は伏井出の専属イラストレーターであることを誇りに思っている。

 

 「そういえば、吉良沢先生って何歳くらいから伏井出先生の担当をしてるんですか?」

 

 『え?9歳の頃からだけど?』

 

 「え?9歳?小学生の頃からですか?!伏井出先生が5年程前に最初の小説を出したから…吉良沢先生って、もしかしなくても凄く若いですよね?」

 

 『まあね、9歳の頃に先生に拾って貰ってからずっとだよ』

 

 「ネットの予想と全然違いますね…20後半とか言われてましたよ」

 

 『ネットの推測なんて当てにならないものさ!ボクは性別不詳、年齢不詳、経歴不詳だから』

 

 「でも、年齢と性別は何となく分かりましたよ。年齢は和泉先生と同じくらいじゃないですか?性別は恐らく女性だと思います」

 

 『うん、合ってるよ』

 

 「そんなあっさりと…隠してる割には適当ですね」

 

 『別にバレても問題ないし、ボクは世間の評価は気にしない。先生の絵を描ければいいのさ。じゃあ、次は和泉先生だよ』

 

 「つまり伏井出ケイは女子高生と同棲「はーい!次!俺の夢ですね!」

 

 エルフが字面だけ述べるとまずい事を本人を前に言い始めたので、遮るためにも正宗は大声を出した。

 

 「ええっと、俺の夢は…」

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 「打ち上げ、楽しかったですね」

 

 「ああ、私よりも若い世代の集まりだから場違いな感じだったがな」

 

 打ち上げの帰り、二人は人通りの少ない道を歩いている。少し離れた場所では縁日が行われており、沢山の人々で賑わっている。

 

 「そんなことありませんよ。正宗君以外に当りのきついムラマサ先生も、サイン貰って嬉しそうにしてましたから」

 

 そう、ムラマサも伏井出の作品はお気に入りだった。それは『コズモクロニクル』の鏡の騎士篇が好きらしい。

 

 「ああ、意外だった。正宗君に聞いた話では気難しい女の子だと言っていたからね」

 

 「実際、エルフ先生や獅堂先生に対する扱いはぞんざいでしたね」

 

 優の頭の中では、何度も二人の名前を間違えるムラマサの姿があった。最終的には覚えて貰うことに成功した様だった。

 

 「そういえば、先生」

 

 「なんだ?」

 

 「打ち上げの時言っていた夢、あれって本当ですか?」

 

 「二つ目の方か?」

 

 「はい、私とこれからも一緒に居たいっていう…」

 

 「ああ、本当だ。私はこれからも優と共に居たい」

 

 「――――ッ!!」

 

 伏井出の告白めいた発言に優の顔から火が出そうになる。だが、彼女はその言葉が嬉しくて堪らないようで、口元は嬉しさを隠しきれてない。

 

 今は暗い中を歩いているため表情はバレないだろうが、街中だったらきっとバレていた。

 

 「先生がそんなことを言うと、私が我慢できませんよ?」

 

 「我慢が出来なくなると、どうなるのだろうね?」

 

 伏井出の挑発的な発言を聞いて、優は彼の前に立つ。伏井出は急に前へ出てきた彼女を見て、怒らせてしまったと思った。

 

 「優、すまな…」

 

 言葉の続きは発せられなかった。何故なら、優が予想外の行動に出たからだ。

 

 今、伏井出の頬には柔らかな感触がある。それは唇、優は少し背伸びして彼の頬へキスをした。

 

 恐らく、唇が頬に触れていたのは一秒にも満たない時間。だが、二人にはそれ以上の時間に感じられただろう。

 

 二人の背後では、縁日の最後を飾る花火が上がる。それはまるで二人を祝福するようだった。

 

 頬から唇が離れる。花火で照らされる彼女の顔は羞恥からかほんのりと赤い。

 

 「…今回はここで許してあげます。でも、次は覚悟してくださいね?」

 

 「……ああ、これは参ったな。君にここまで行動力があったとは」

 

 「先生は乙女の行動力を舐めすぎです」

 

 「君はそうだったな。6年前、家に上がり込んできた時も」

 

 「今はまだこの関係が心地いいんです。でも、いつか私の本当の気持ちを伝えます。だから、待っててくださいね?先生!」

 

 花火に照らされた彼女の笑顔は、二度目の生を得た伏井出にとって初めてできた『守るべきもの』。

 

 そして、彼だけの光の象徴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ラストシーンの後:優の心境-

 

『ああああああ!!!やっちゃった!!!!しかも、いろいろ言ったけど、結局は日和って唇にはキス出来てないし!私のバカ―!ここでちゃんと伝えれば一気に関係を進められたのに!』











エクスプローラ様、誤字報告ありがとうございます。

次回は優、紗霧回を書くかもです
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