フクイデ先生 作:フクイデスト
最初の方、日記形式あります。
苦手な方はごめんなさい。
今回の旅の日記を付けることにした。
取材旅行 1日目
奥日高村という場所へ到着した。ここには、今でも子供は山で遊ぶと山童に出会うという伝承が残っている。
今回、私に情報提供してきた旅館の若女将も子供の頃に山童に会ったとのこと。彼女の旅館に泊まり、町の情報を集めることにする。
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取材旅行 2日目
予想外の事に目的のヤマワラワに出会うことが出来た。かなり友好的な妖怪で、人間に危害は加えないだろうと判断して封印するのは止めることにした。
問題は私が山から帰ってくると、町長とその息子が言い争っていた。何でも、道路拡張の為に悪鬼の封印されている祠を取り壊したそうだ。
私はまさかと思い、現場に向かうと既に取り壊された祠から悪鬼マハゲノムは解き放たれていた。
私は宿に戻らず、マハゲノムの後を追うことにした。
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取材旅行 3日目
幸いなことに、マハゲノムはまだ力を取り戻していない。逃げた方向も町ではなく、森の中だった。
しかし、そんな状態でも奴は強く、私も手痛い反撃を喰らった。腕からは血が止まらず、まともに動けない。
そんな私を助けてくれたのはヤマワラワだった。ヤマワラワはマハゲノムを自身の霊力で再度封印すると、私を担いで例の若女将の旅館近くまで運んでくれた。
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取材旅行 4日目
自己回復が済み、この地域の不安が消えたので次の場所へ行くことにした。
帰りに山へ立ち寄り、ヤマワラワへお礼の果物を渡した。ヤマワラワからも掌サイズのドングリのようなものを貰った。
最後の別れの時、ヤマワラワは寂しそうな顔をしていたが、またいつか会いに来ると約束した。
私もいつかここへ旅行で優と来てみたいと思っている。
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取材旅行 5日目
戦によって引き裂かれた姫と武将の怨霊が眠るという二人山伝説の残る地域へ向かった。
この怨霊を鎮めたのも錦田小十郎景竜らしい。あの人間の封印処置は少し甘いところがあるが、今回はしっかりと封印を施している。
これなら、明日から取材に取り掛かる事が出来るだろう。
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取材旅行 6日目
現在、この村にはダム建設の話が持ち上がっている。その範囲に怨霊を封印している要石である、刀石が含まれていることが判明した。
村の住人は刀石をダム底に沈めるのを反対しているが、それぐらいでは封印は解けないだろう。
私としては誰も触れない水底に沈めるのなら反対はしないのだが、先程から嫌な予感がする当たらなければいいのだが…
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取材旅行 7日目
恐らく、これ以上工事が遅れることを恐れた建設業者が、昨晩の間に遅れの原因である刀石を爆破した。大きな音が聞こえて、現場に向かうと封印が解かれていた。
早期に私が封印を施したからいいものの。一体何故、人間は的確に封印を崩していくのか…
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取材旅行 8日目
怨霊の力の一部は解き放たれており、建設業者から数人被害が出ている。村では怨霊の祟りだと騒いでいる。
間違ってはいないのだが、マイナスエネルギーの塊である怨霊を強くするような言動は謹んで欲しいものだ。
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取材旅行 9日目
二日遅れで、錦田小十郎景竜の霊が現れた。遅れたことを笑って誤魔化そうするが、こいつのおかげで私の苦労が増えていると思うと笑えない。
とりあえず、償う意味でも刀石を爆破した人物に憑依させ、怨霊の封印に向かうことにする。
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取材旅行 10日目
景竜の相手は疲れる。一体何処に、ただの刀で怨霊を圧倒する人間がいるというのだ。肉体を失ってなお、この強さだということに戦慄する。
結局、怨霊は新たに建設される御社に封印されることとなった。丁重に扱えば、怨霊も暴れ出さないだろう。
今回は彼のおかげで、怪我をすることなく解決したことには感謝しよう。
既に1週間と2日の日数が経っている。今回の取材旅行は終了だろう。早く家へ帰り、優と共に食事を取りたい。
この日本にまだまだ厄介事が眠っていると思うとゾッとするが、今は考えないことにしよう。
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取材旅行 11日目 帰宅
休日はあと一日残っているが帰って来た。優の出迎えに心が暖かなる。あれ以降、スキンシップが多いが気にはしない。
夕食時に私が怪我をしたことがバレてしまい、優が少し不機嫌になった。怪我を隠していたお詫びとして、明日一日は優と家でずっと一緒にいる事が決定した。
出版社のからのメールでは『GEED』の方で新たな企画が始まるらしく、これからも忙しくなるだろう。
今後、個人的にはずっと優と共に生活しながら、執筆活動に勤しみたいものだ。
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取材旅行から、二日経ったある日。
ライトノベル出版社の会議室。そこでは伏井出、『GEED』担当編集者が話している。
「まず、伏井出先生。二巻発売おめでとうございます。初週の売り上げも好調です」
「そうですか…それはよかったです。私としてはもう折り返しなのかと感慨深いです」
「ですので、我々としても『GEED』の更なる人気を促すために、新たなる企画が提案します」
編集者が取り出したのは企画書。そこにはこう書かれている。
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『GEED』 コミカライズ企画書
『GEED』 (著/伏井出ケイ先生 イラスト/吉良沢優先生)のコミカライズ企画案を、下記の通り提案いたします。
企画概要
『月刊コミックマジカル』での連載(月平均30ページ前後を想定)を提案いたします。コミック連載と並行して、作品情報の宣伝・告知を継続的に行っていきます。
連載開始時期は、今年10月を想定。
作家候補
作画担当候補については、添付資料をご覧ください。
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等々、他にも多くの事が書かれているが要するに漫画化の企画書だった。
「なるほど、新たな企画とはコミカライズのことでしたか」
「はい、先生はどうお思いでしょうか?私たちとしては、このコミカライズを機会に色々な事を計画しているのですが…」
「私としては監修をしっかりとさせて頂ければ、特にいう事はありません」
編集者はホッと安堵の溜め息を付いた。いくら自分達が企画を立てたところで、原作者にNGを出されてしまえばそれまでだ。
「ただ、絵に関しては私もそれ程詳しい訳ではありません。それらはイラストレーターの優が判断することになるでしょう」
「分かりました。伏井出先生の方から、吉良沢先生へお伝えして頂いてもよろしいですか?」
「ええ、ただ優の希望に添えるような漫画家がいるかどうか…」
「吉良沢先生って、結構気難しい方ですか?」
編集者が不安そうに伏井出へ問う。
「いいえ、むしろ誰にでも分け隔てなく優しいですよ。ただ、怪獣絵や私の関わった創作物への評価は人一倍、いえ私よりも厳しいかもしれませんね」
「そ、そんなにですか…」
原作者よりも評価基準が厳しいと聞いて、編集者の表情がこわばる。
「ええ、私自身も怪獣絵に関してはいままで一切の訂正を行ったことがありません。優は私の頭の中の怪獣を数ミリ違わずに、絵として表現できる天才です」
「………それじゃあ、この中の漫画家たちでは…」
「漫画家としてはとても素晴らしい方たちなのでしょうが、優がこの人たちの絵を認めるかどうかは別問題ですね」
「………どうしましょうか…」
編集者の表情が一気に曇る。怪獣の絵が描けて、尚且つ優に認められるような人物が存在するのだろうか。そんな考えで頭の中は一杯だろう。
「とりあえず、今日の所はこれでお邪魔します」
「よろしくお願いします…私の方でももう一度、条件に当てはまる方がいないか探してみます」
編集者は伏井出に深く礼をすると、会議室を険しい顔をしながら去っていった。
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「ただいま」
「お帰りなさい、先生。新しい企画って何でした?」
出迎えてくれたのはエプロン姿の優。春頃では短かった髪も長くなっていて、現在は料理がしやすいようにと髪型がポニーテールになっている。
リビングの方から微かにいい匂いがする。夕食を作って伏井出の帰りを待っていたのだろう。
「『GEED』のコミカライズという話だった。この封筒に漫画家達が描いたサンプルシーンが入っている。優の意見も訊かせてくれないか?」
「わかりました。私は夕食を食べ終わっているので、先生が食事している間に確認します。温め直しますから、座って待っていてくださいね」
リビングで座って待っていると、運ばれてきたのはミートスパゲッティ、コーンポタージュ、サラダ、パン、そしてワインだった。
「今日は先生の作品で初の漫画化という事をお祝いして、少し高いワインを引っ張り出してきました」
「気遣いありがとう。だが、それを言うなら『私たち』の作品だ。優も立派な原作者だ。君が居なければ、私もここまで有名になることは出来なかっただろう。改めて、礼を言わせて貰うよ。優、本当にありがとう」
「――――ッ!!……先生は本当にズルいですね。素面でそういうこと言うの止めません?私の心臓がもたないです。今もバクバクです…」
「これは単なる感謝の気持ちに過ぎない。それだけ、優は私を支えてくれているのだからな。優は昔から私に遠慮し過ぎな所がある、私に言いたいことがあるのなら言ってくれればいい。少なくとも作品に関しては私と優は対等な関係なのだから」
「………では、言わせて貰ってもいいですか?」
「ああ、優の本当の気持ちを教えてくれ」
優は真剣な目つきで伏井出を見詰めると、先程渡されたサンプルシーンを取り出した。
「コミカライズは賛成です。私たちの作品が有名になって、多くの人の手に取って貰えるのは嬉しいです。ですが、この人たちは駄目です。この人たちが漫画を描くくらいなら、コミカライズを止めて欲しいです」
「やはりそうか…」
「上手い下手の問題ではなく、彼らは怪獣というものを理解できていません。そんな人たちに私たちの魂の篭った作品を描いて欲しいとは思えません。本当なら、私が漫画も手掛けたいところですけど、学業と両立するのが先生との約束ですから」
優から語られたのは彼女の偽りない言葉だった。
「……どうするか、優ほど怪獣に対して理解のある人物で漫画の描ける人間なんて…」
「いますよ、一人だけ」
「……誰だ?」
「ペンネームは久里虫太郎、私の所属している美術部の部長です」
伏井出がその名前に眉をひそめる。正直、何故そんなペンネームに使っているのか理解できないからだ。
「男子生徒か?」
「女の子ですよ?というか、先生も一度会っています。このペンネームも先生の趣味で書いた小説から頂いたものだって言ってましたから」
「………私が原因か」
「覚えていませんか?中学の頃、連れてきた矢部瑠雨ちゃんです」
「ああ、パン屋北斗で下宿していた赤髪で緑眼の少女か」
伏井出は思い出した。2年前に何度か優が伏井出の元へ連れてきた少女。伏井出のファンだということで、優と気が合ったとのことだった。
日の光に優以上に弱いらしく、夏だというのに黒い帽子に黒い服ととても印象に残る少女だった。
「そうです、その子です。今では有名な怪奇漫画家で、現代風の絵柄なのに怖いと評判なんです」
「何故、その子なんだ?」
「瑠雨ちゃんは先生が書いた小説を読んで、完璧な怪獣…いえ超獣の絵を書いたんです」
「ほう…超獣を…」
超獣とはざっくり言うと異次元人によって作られた怪獣兵器である。その姿は通常の怪獣と比べて奇抜なものも多い。
「瑠雨ちゃんなら私、任せてもいいです」
「では、今度訊いてみなければいけないな」
「明日にでも訊いてみます。連載していた漫画が終わったそうなので、断る事はないと思いますけど」
「そうだといいな、恐らく優が漫画化を任せられる漫画家はその子だけだろう」
「取り合えず、今日は漫画化を祝いましょう!さあ、先生。ワインをどうぞ」
「そうだな。その子が仕事を受けてくれるかは分からないが、今日の事は喜ぼう。乾杯」
「かんぱーい」
伏井出はワイン、優はジュースを手に持ち乾杯をした。
後日、瑠雨に仕事の依頼をしにいった優は二つ返事で了承を貰ったのだった。
次回、矢部瑠雨ちゃんのお話かな?
駆け足だったけど、アニメ化された部分までは進んじゃった。
原作と絡めるためにも、色々と考え中。