フクイデ先生 作:フクイデスト
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「おい、小娘。もう一度言ってみろ」
「こ、小娘?」
「(何故、こんな展開に)」
現在、たかさご書店は一触即発の事態にあった。それは紗霧のクラスメイトである神野 めぐみが智恵を前にしてある発言をしたからである。その発言とは…
「ふふふ…ライトノベルコーナーの主を前にして『キモオタ小説』と申したか…」
めぐみが智恵の前でライトノベルの事をキモオタ小説と言ったからだ。ライトノベルが好きな彼女からしてみれば許せない発言だろう。
「いい度胸じゃあ!おらぁ!戦闘民族足立区民をなめるなよォ!!」
「どうどう!!智恵」
「ムネ君、止めるな!!邪魔するなァ!!」
「こいつには悪気はないんだ!」
「尚更、性質悪いわ!!」
「他のお客さんもいるしな!落ち着こう!いつもの穏やかな智恵さんが俺は好きだなぁ!」
「………わかった」
智恵の怒りも正宗の言葉で一旦収まった。話はめぐみがどうしてライトノベルを読もうとしているのかに変わる。
「私も紗霧ちゃんと同じものを好きになりたいんです!きっと、同じ趣味が出来たらお友達になれると思うから」
「ああ、そういう理由なのかなら俺の…」
「ムネ君、ムネ君。ちょっと、こっちにきて」
突如、智恵が正宗の腕に胸を押し付けながら猫なで声で彼を店の奥へ引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと待て!腕に当たってる!」
「そんなことはどうでもよくて!あの子におススメのラノベを紹介するんだよね?」
「ああ、だからさっき」
「その役目、ボクに任せてくれないかい?」
「何をするつもりだ?」
正宗の問いに智恵は不敵な笑みを浮かべる。
「ヤツをラノベ沼に引きずり込むのさ!」
「…はぁ!?」
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「お客さまー?お話は聞かせていただきました!ライトノベル入門という事でしたら、彼よりも私の方が適任です。必ずやお客様に最適なライトノベルをご紹介させていただきます」
「は、はぁ…じゃあ、お願いします…」
智恵はめぐみにいくつものライトノベルを紹介していく。正宗は幻想妖刀伝を勧めたところで智恵の思惑に気付いた。
「更におススメなのはライトノベルを普段読まない人でも知っている、作家伏井出ケイ先生の『GEED』です」
「あっ、知ってる!クラスの中にSFが好きな子がいて面白いって言ってた」
「では、ライトノベルではありませんが、伏井出先生の最新刊の一つである。『アンバラン・ゾーン』もどうでしょうか?夜遅くに読むと臨場感も増しますよ?」
「じゃあ、その二つもください!」
「(鬼だ!鬼がおる!中学生にあのきつい内容の本を深夜に読むように言うとか!)」
しかし、智恵が無言で『余計な事を言うな』と視線を送っているので何も言えない正宗。
結局、おススメのライトノベル一巻を買って帰るめぐみが沼に嵌まる光景を眺めてるしか出来なかった。
数日後の夜、めぐみから正宗へ電話がかかってきた。
『ちょっとぉ!!どういうことですか!ともちゃんがおススメしてくれた、幻想妖刀伝とGEEDが超いいとこで終わってるんですけど!』
「ああ…そうだろうな…」
『次はいつ出るんですか?』
「GEEDの方はもう原稿は完成しているらしいからそのうち出るだろ。幻想妖刀伝は俺もずっと続き待ってる」
『ええええ!!両方、続きが読み過ぎて一日も待てないんですけど!』
こうして、めぐみは智恵の策略に見事嵌り、ライトノベルの沼へどっぷりと浸かっていた。
「そういえばさ」
「なんですか?」
めぐみにはもう一つの本がおススメされていたはずだ。
「『アンバラン・ゾーン』はどうだった」
「……あああ!何で今それを言うんですか!思い出さないようにしてたのに!読んだ日の夜、怖くてトイレいけなかったんですよ!何ですか、あのハダカデバネズミみたいな怪獣!」
「お、おう…すまんな…」
こうして、紗霧と同じ趣味を作ることが出来ためぐみだったのだが…
「紗霧?めぐみが今日家へ来るってさ」
「………うぇっ」
「(めぐみ、相変わらず嫌われているな…)」
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富士の見える樹海の中を二人の男女が歩いている。それは伏井出と編集者だった。何故、二人がこんな場所を歩いているかというと、次の本の題材探しに来ているのだ。
「先生、待ってください」
「取材に付き合うって言ったのは貴女でしょう?頑張ってください」
「だって、今までの取材とかって本当に聞き込みとかだけで、現地に取材とか行った事ないんです」
「私は見て聞いたものを大切にしたいので」
伏井出は足早に樹海を進んでいく、まるで行き先が分かっているかのような動きでどんどん奥へ進んでいく。
「先生、何処まで行くつもりなんですか?帰れなくなりますよ?」
「もう、付いていますよ。目の前にあるじゃないですか」
「え?」
二人の目の前には小さな祠が建っている。それは風が吹いたら今にも崩れてしまいそうなほどボロボロだった。
「こんなのが先生の目的なんですか?ここに何が祀ってあるんです?」
「ここにはある剣豪が鬼を退治した時に使った刀が収められているそうです。もう、誰も覚えていないのでしょうが…」
「でも、どうして先生がそれを?」
「古い知り合いに教えて貰いました。私の目的はこの鬼退治をした武士です。名前を錦田小十郎景竜といって、全国各地に妖怪退治の伝説を残しています。彼を題材にした作品を一つ作りたいんです」
錦田小十郎景竜。全国各地にいろいろな妖怪を退治したり、封印したという伝説の残る武士。しかし、あくまでも御伽噺として名前が残っているのみで、実在の人物ではないというのが通説である。
「なるほど、次のテーマはオカルトよりと言ってましたね。ですけど、鬼退治は何処にでも良くある話ですよね。そんな人物がテーマで一本書けますか?」
「ええ、彼がやっていたのは妖怪退治というより、怪獣退治ですから。先程の鬼も体長40mは超えているそうですよ?体をバラバラにして山の中に埋めても、手がはみ出てしまっているとか」
「ははは…まさか…」
「リョウメンスクナって知りませんか?」
「ああ、ネットの怖い話のまとめとかで見たことがあります」
「ここに封印されているのは二面鬼 宿那鬼、鬼神らしいですね」
「へぇー、本当にお詳しいんですね」
「既に彼の伝説の残る場所を二ヶ所も巡っていますからね。一説によると教科書に載っている呪術師・魔頭鬼十朗が権力を得て、この日本を統一する寸でのことろで死んだのは彼が原因だとか」
「でも、それって御伽噺ですよね?魔頭鬼十朗は戦国武将たちに追い詰められて自決したっていうのが本当の話です」
「さあ?本当のところは私にもわかりません。もう、資料もほとんど残っていませんから」
景竜の話をしながら、祠の中身を見て回るとお目当てのものを発見した。それは宿那鬼を封印したとされる日本刀。
「先生…まさか、これを持って帰ろうなんて言いませんよね?」
「私もそこまで馬鹿な行動はしませんよ。まるで日本のホラー映画で序盤から、罰当たりな行動で死ぬモブキャラじゃないんですから」
「で、ですよね。御伽噺と言っても、そんな罰当たりな事…」
怯えている編集者の耳にある声が聞こえる。それは地獄から響くような声だった。
『この封印から解き放てぇ…今こそ復讐をォォ!!』
「せ、先生…何かいいました?」
「…いいえ、何も言ってませんよ。もし、ここで何かを聞いたとしてもそれに反応してはいけません。意識をあっち側へ持ってかれますよ?」
「ひぃぃ!?」
女性編集者は怯えた声を上げると、その場に座り込んでしまう。
「大丈夫ですか?」
「す、すみません…腰が抜けちゃいました…」
「私がおんぶして、車まで運びます」
「本当にすみません…」
「その前に少し待っててください」
『ああ…やめろ…それを……』
伏井出は祠の扉を閉めると、剥がれかけていた封印符の上に新たな符を張り付けた。
「先生、あれは?」
「死にぞこないの哀れな鬼がまた現世に現れないための処置です」
「……冗談ですよね?」
「……冗談ならいいですね」
「ふぇぇ……」
こうして、二人は富士の樹海の取材から帰って来たのだった。
伏井出が家に帰りパソコンを付けると、あるニュースサイトでパワースポットである想い石が破壊されたという情報が目に入った。
「封印するならもう少し考えてやって欲しいものですね…」
伏井出は誰もいない部屋の中で一人呟く。彼の傍らには一枚の封印符、これからの予定は決まったようなものだった。
「これらは私の役目ではないのですがね…優に被害が及んでも迷惑です。早々に成仏して頂きましょう」
現在、午前2時。丑三つ時にもなるころ、伏井出は封印符を持って出かけた。