フクイデ先生 作:フクイデスト
お気に入り登録が急増したのもきっとベリアル様の加護ですね。
時刻は3時頃、ある高校の教室で一人の少女が考え事をしていた。彼女が見ているのはSNS、差出人は彼女の敬愛する先生の伏井出ケイからだった。
『今夜、富士の取材から帰って来る。体調は崩してないか?』
『大丈夫です、風邪も引いてません。今夜の夕食は準備した方がいいですか?』
『いいや、帰るのはかなり遅い。私のために待っていなくて十分だ』
『わかりました。朝食は何がいいですか?』
『いつも通りで頼む』
『わかりました。気を付けて帰ってきてくださいね』
『ああ』
そんなやり取りを少女が微笑みながらしていると、背後から活発な声がかかる。
「ゆうちゃん、何してるの?」
「ん?先生とお話してたの」
「うわー、相変わらずの先生ラヴだね!熱々だよ!」
「ミクさん…学校でそれを大声で言うと変な噂がたちますよ?」
「でも、優が以前から伏井出先生にメロメロなのは本当」
「アギさんまで…確かに前々からそうでしたけれど」
話しかけてきたのは、牛丸ミク。小麦色の肌にポニーテールと健康的な肉付きの活発な少女だ。所属クラブは多数で運動系のクラブをいくつも掛け持ちしている。趣味はプロレス観戦。
次に眠たそうな目をしている少女は宮下アギ。目立つ事が苦手で基本的に余り喋らない。クラブ活動はしておらず、放課後はミク達と遊ばない場合。街をぶらぶらと散歩、老舗の和菓子店を回ったりと歳のわりには年寄りじみた趣味を持っている。
最後はそんな二人を窘めるようにする少女。彼女は白銀レイカ、眼鏡をかけておりその雰囲気から一部では委員長というあだ名を付けられている。所属クラブは文芸部と漫画研究部。文芸部では知的な文系少女として通っているが漫画研究部ではあまり人には公に出来ない趣味を趣味仲間と共に楽しんでいる。
以上が、高校で優がよく関わる友人だ。基本的に暇な放課後は彼女たちと遊んで過ごしている。三人とも中学校からの友人であり、優がこちらに引っ越してきてからずっと一緒である。
「ねえねえ、ゆうちゃん!今日の放課後空いてる?」
「ごめんね、今日は美術部の作品を仕上げちゃいたいから」
「優の作品は相変わらず独創的だよね…私は大好きだけど」
「一部では呪いの絵なんて言われていますけどね…私も風景画は好きです」
「ええー、でも私はすごいと思うよ?私、体動かすのは得意だけど絵は全く描けないよ!そんな私でもゆうちゃんの絵がすごいのは良く分かる!」
「ありがとう、皆。貴女たちは素直に意見をくれるから好き」
「えへへ…」
「あっ、そうだ…」
優が優しい眼差しでミクの頭を撫でていると、アギが何かを思い出したように自身のリュックを降ろし、中を探し始める。
「どうしたの?」
「これ…優の新刊」
「私というより先生のだけどね」
リュックから取り出したのは『アンバラン・ゾーン』。ここで『GEED』ではないのが、アギという少女の趣味嗜好が世間一般的な女子高生のとずれていることを表している。
「これに優のサインが欲しいんだけど…いい?」
「それくらいはお安い御用だよ」
優はアギから手渡された本にスラスラとサインを書いていく。手馴れているがそれは毎度伏井出が本を出すたびにアギがサインを求めるからだ。
現在、伏井出ケイと吉良沢優の両方のサインがされている本を持っているのは、友人関係であり優が伏井出の専属イラストレーターだということを知っている三人くらいだろう。
「おお…ありがとう。大切にする」
「そういって貰えると嬉しいよ、先生今頑張ってるから新作もよろしく」
「うん、楽しみに待ってる」
「では、優さん。また月曜日に会いましょう」
「じゃあね!ゆうちゃん」
「またね、優」
「三人ともまたね」
三人は優に別れを告げると放課後何をするのか楽しげに話しながら教室を出て行った。
「あっ、鳥小屋に餌あげを忘れてた」
「今日の餌当番はアギさんでしたっけ?じゃあ、今から行きましょう。三人でやれば早く終わります」
「何だっけ?アギちゃん、インコに名前を付けてたよね?」
「うん、ガッツ、ボルスト、ドッペルの三羽」
「私、苦手なんですよね…何故か私の頭を執拗に攻撃するんですよ?あの子達」
「あははは、逆に好かれているのかもよ?」
三人さ去ってから十数分後、3時30分となり、部活に行く時間となった。
「そろそろ、時間だ。今日は人いるのかな?」
優が教室を出て、美術室へ行くとそこには一人の女性がいた。その人物は動物の絵を描いている。
「今日は誰もいないんですか?リコ先生?」
彼女は孤門リコ。美術部顧問で、風景画や動物の絵を得意としている。その優しい人柄で生徒たちからは人気の先生だ。趣味はストラップ作りで、仲のいい人にはガンバルクイナ君というキャラクターのストラップをあげている。
「ええ、皆さん。今日は来てないみたいですね。元々、それほど熱心な部活でもありませんでしたから。優さんはこの前の作品の続き?」
「ええ、イメージを掴むためにあの絵を完成させたいんです」
「凄い出来米ね、そのバベルの塔」
二人の視線の先にあるのは大きなキャンバスへ描かれたバベルの塔であった。
「これも次の作品の題材なのかしら?」
「ええ、バロック怪獣…詳しくは言えませんが先生の書いている小説に出てくるものを描くのにイメージが必要だったんです。と言っても、先生自体も珍しく表現するのに悩んでいました」
「伏井出さんが悩むなんて珍しいですね。いつも、豊かな表現力で描写していっているのに…」
「私も原案を読ませて貰ったんですが、メタフィクションのようなお話でした。それを文章で表現するのは一苦労だそうで、その話の執筆は中断されています」
「じゃあ、なんでその話の為に絵を描いているの?」
「なんだか私が気になったからです。先生のイメージの中にいる怪獣は一体どんな姿でどんな能力を持ち、どのような結末を迎えるのか。何だか、私には先生の頭の中のイメージが分かる気がするんです」
優は伏井出と共に住むようになってから、彼の小説を読むと彼の中のイメージである怪獣の姿や情景が思い浮かぶようになった。
それを絵に描き起こすようになったのは5年前、まだ伏井出がネット小説家だった頃。彼女は伏井出の小説を見ると、頭の中で怪獣たちの姿がはっきりと思い浮かび、それを描き起こすことが出来た。
それ以来、伏井出専属イラストレーターとして、働きながら高校へ通っている。伏井出と出会った頃から頭は非常に良く、イラストレーターとしての時間が日常の大半でも高校での成績はトップだ。
「心で通じ合っている…とは違う感じだけど、まるで夫婦みたいよね?商店街の人達も夕食の食材を買いに来る姿は主婦みたいだって言ってたわよ?」
「先生と夫婦みたいって言われるのは嬉しいですけど…。そんなことを話しているのは魚屋のおじさんですね?また、閉店時間ギリギリの半額を狙ってやる…」
「あはは…」
リコは最近優が閉店ギリギリに魚を買いに来ると愚痴も聞いていたので、心の中で鮮魚店の店主に合掌した。
「そういうリコ先生は旦那さんとはどうなんですか。確か、出会ったのは動物園でしたっけ?」
「もう…私にそういうことを訊く?」
優は反撃とばかりに新婚であるリコに生活はどうかと尋ねる。彼女の表情は照れているのか恥ずかしそうではあったが、同時に幸せそうな表情でもある。
「一輝くんはレスキュー隊員だからね、家に帰るのも遅いのよね…。帰ってきても直ぐに寝ちゃうし」
「リコ先生は旦那さんに不満?」
「ううん、休日には一緒にお出掛けしてくれるし、彼は人を助けている時が幸せなんだと思う。不満じゃないわ、私も彼のそんなところが好きなんだもの」
リコはそういうと優に向かって、女性でも惚れ惚れするような笑みを浮かべる。
「そうですか…いいなぁ……夫婦かぁ…」
「優さんももう16歳でしょう?結婚は出来るわよね?」
「そんな事したら先生に迷惑掛かっちゃいますよ。某ネット掲示板とかで『伏井出ケイ 女子高生に手を出す』とか書かれちゃいます」
「(同居してる時点でほとんど同じような…)」
「出来ましたー」
「えっ、もう?」
雑談をしている内に、絵が完成したようだ。このように会話をしながらも納得のいく絵を描けるのも彼女の才能だろう。
出来上がったバベルの塔は、神の怒りによって崩壊したものではなく。雲を突き抜け、天高くそびえたつバベルの塔だった。
「なにか掴めたかしら?」
「そうですね……先生は怪獣とは何だと思いますか?」
「怪獣ですか?私は伏井出先生の作品に出てくる、巨大な怪物だとしか答えられないのですが…」
「先生の小説の中である男が怪獣について語るシーンがあるんです。怪獣とは人間にとって欠落したもの、理解を超越したもの、邪悪、異端、悪魔の遣い。私は怪獣とは人の恐怖心だと思うんです。だから、人は怪獣と聞くと恐ろしいものと想像する。先生の頭の中には優しい宇宙人や怪獣も存在しまけどね」
「難しいテーマね。恐怖心か……なら伏井出先生は人の恐怖心を熟知しているのね。あれ程多くの怪獣を生み出せるのは、それだけ恐怖を知っているということでしょ?」
「そうですね、先生が人の感情に機敏なのは確かです。でも、それだけじゃなく…」
『キーンコーンカーンコーン』
話の途中で下校の時間を知らせるチャイムがなった。
「あー、今日はこれまでね。私はこれから職員会議があるから、残っているわ。優さんも早く帰った方がいいですよ」
「…そうですね、冷蔵庫の中身が減っていると思うので買い足しに行きたいです。まだ、魚屋も開いているでしょう…ふふふ…。リコ先生、さようなら」
「ええ、さようなら。また月曜日ね」
優はその後は商店街に寄って日用品などの必要なものを買い、魚屋で半額の金目を2尾買いホクホクで帰宅した。
「ただいま帰りました。って先生はまだ帰ってないんだった…」
伏井出は深夜遅くに帰って来る予定で、まだ家にはいない。
「だったら、今日は早く寝よう…明日は休日。アギちゃん達と遊ぶか紗霧ちゃんとネット配信するか、それとも先生とお出掛けしようかな?」
翌日の朝、伏井出がボロボロの恰好で朝帰りした姿を見て、優が大慌てするのは別のお話。
オリジナル回の方が筆が進むのは仕方ない。
だって、考えるのが楽なのだもの。ふくいですと。