バトラーと私   作:プロッター

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注意!
時間が大分飛んでます。
さらに、今回の話でアッサムと水上の仲は特に進展しません。
完全に筆者の趣味です。
最終章に出てきたあのキャラクターたちが登場します。
お気に召さないようでしたら申し訳ございません。


スパイとして

 戦車喫茶ルクレール。

 戦車道を嗜んでいる者たちの間では有名なお店である。お店の中には軍事用品が並べられており、店員は全員軍服姿、呼び出しブザーは戦車の砲撃音、ケーキは戦車の形と、徹底して戦車スタイルだった。

 水上はこのような店に入った事は当然ながら無い。少し前までは戦車道とは無縁の生活を送ってきたのだから。

 しかし今、水上はその戦車喫茶ルクレールでダージリン、オレンジペコ、アッサムと共に席に座っている。

 理由は、この近くの大型アリーナで、第63回戦車道全国高校生大会の抽選会が行われていたからだ。ダージリンたち聖グロリアーナ戦車隊のトップクラスの人物が行くのは当然として、それに水上が付いていった理由は至ってシンプル。

 『ダージリンたちの』給仕だからだ。

 元々、水上は『戦車道の』給仕として聖グロリアーナに来たのだが、一カ月が過ぎ、気づけば周りからの認識は『ダージリンたちノーブルシスターズの御付きの人』みたいな認識をされてしまっていた。そのことに若干の不満を抱いているのは水上だけだが。

 だが、今日は聖グロリアーナでは戦車道の授業は無い。聖グロリアーナで手持無沙汰に過ごしているのも給仕としてどうかと思ったし、そもそもダージリンから『水上も来るように、ね』と強制力を伴う口調で言われてしまったため、こうして同伴しているわけだ。

 しかし、抽選会場で2時間以上待つというのは予想外だった。抽選会場に入ることができるのは、参加する学校の女生徒のみだからである。よって、水上は会場の外で2時間暇を持て余す事となってしまった。

 やっと終わったかと思えば、ダージリンが嬉しそうに『戦車喫茶へ行きましょう』と言い出して、水上を含む聖グロリアーナの4人は今こうしてルクレールの席に着いている。

 オレンジペコは、この戦車喫茶に来るのが初めてなようで、キラキラした目であたりをキョロキョロ見回している。水上も同じく初めてなので、そこら中に置かれている軍事用品に目を向けている。

 ちなみに、席の並び順はダージリンとオレンジペコが隣同士。ダージリンの前には水上、その隣にアッサムと言った具合だ。

 4人はメニューを見て、どれにするか決めるとダージリンが戦車の形の呼び出しブザー(あとでオレンジペコに教えてもらったが、IS‐2という戦車らしい)を押す。すると『ドーン』という音が発せられ、軍服姿の店員がやってきた。

「ご注文はお決まりでしょうか」

 水上が代表して注文を述べると、店員は『承りました!』と敬礼をして店の奥へと消えていった。

「驚いた?」

 ダージリンが得意げに笑う。オレンジペコは首を縦に振る。水上も『うーん』と唸る。

「まさか、ここまで戦車チックとは思いませんでした」

 オレンジペコが感想を述べる。水上も同意見だった。

「私も来たのは3回目だけど、まだ慣れないわね」

 アッサムが店の中を見回しながら呟く。おそらくアッサムも、ダージリンも、最初に来たときは戸惑ったのだろう。だが、僅か数回来ただけでダージリンはもう慣れた、といった具合だ。

 もしや何度かお忍びで来ているのではなかろうか。

 なんて事を考えていると、テーブルの脇にある通路?のようなところから、荷台に戦車を模したケーキを乗せた、こげ茶色に塗られたドラゴンワゴンのラジコンがやってきた。

 テーブルの上でドラゴンワゴンが停止すると、水上が手際よくダージリンたちに配膳する。

 ダージリンはブルーベリーの載ったミルフィーユ、オレンジペコはイチゴのケーキ、アッサムはチーズケーキ、そして水上はザッハトルテだ。

 当初、水上は何も頼もうとはしなかったのだが、オレンジペコから『遠慮しないでください』と言われ、アッサムからも『遠慮しなくていい』と視線で訴えられたので、渋々注文することにしたのだ。

 だが、水上がチョコレートのケーキを頼んだというのは相当意外だったようで、ダージリンたちからは意外なものを見る目で見られる事になった。

 もう1台のドラゴンワゴンがやってくる。その荷台の上には、4つのティーカップが置かれていた。

 どうやら、ティーカップの柄で中身が違うらしい。赤い花の模様が入っているカップには、ダージリンティー。青い花の模様が入っているカップには、アッサムティー。オレンジペコは、紅茶の中身をわずかな色の違いで感じ取り、ダージリンティーを自分とダージリンの前に、そしてアッサムティーを水上とアッサムの前に置く。

 しかし、今度はダージリンからニヤニヤと意地の悪い笑みを向けられる。

「アッサムティーを、ねぇ」

 アッサムがびくりと肩を震わせる。しかし、水上は心の中では動揺しつつも気丈に振る舞う事にする。

「私、『アッサムティー』が好きですので」

 その言葉を聞いて、アッサムは顔を赤くしてちびちびと紅茶―――アッサムティーを呑む。水上は、アッサムの様子に全く気が付かずに戦車型のザッハトルテを小さく切り取って食べる。凄い美味しい。

 一方、オレンジペコはいちごタンクケーキを食べながら不安そうな表情を浮かべている。

「西住さん、お姉さんと何かあったのでしょうか・・・」

 この戦車喫茶ルクレールに入店した時。

 すでに入店していた大洗女子学園の、西住みほを含む5人の生徒が、ダークグレーの制服を着た2人の少女と何か言い争いをしていたのだ。

 そのダークグレーの制服を着ていたのは、戦車道の強豪校・黒森峰女学園の戦車隊隊長の西住まほと、逸見エリカ。西住まほは、苗字からも分かる通りみほとは姉妹関係にある。エリカは、みほが黒森峰から去った後副隊長になった実力者といってもいい人物だ。

 その2人が、大洗女子学園の5人と何やら険悪な雰囲気を醸し出していたのだ。正確には、エリカが何かを言って大洗女子学園の沙織と華が抗議していた。

 結果、お互いに喧嘩別れをして、黒森峰の2人は店を出る。それとすれ違う形で、水上たち聖グロリアーナのメンバーが入店したのだ。

 この時、まほはダージリンに対して目だけで挨拶をした。だが、その瞳は、普通の女子高生のそれではなく、大の大人でもビビりそうな力強さがあった。

 それに対してダージリンは優雅に会釈をして、店へと入っていった。

「・・・思えば、西住の家系に生まれたみほさんが、故郷・熊本の黒森峰ではなく、大洗にいる事自体がおかしい事よね」

 戦車道履修者の間では、西住の名は割と知られている。西住流の教えも、その師範の事も、そして自らの事を西住流と名乗る国際強化選手・西住まほの事も、当然知られていた。

 そのことを思い出して、ダージリンは紅茶を飲みながら呟く。

「アッサム、その辺の事は調べられるかしら?」

「・・・可能です。ですが・・・」

 しかし、アッサムはダージリンからの指示をなぜか快諾しない。その理由は、水上には分かっていた。

「お言葉ですが、ダージリン様」

「何かしら?」

 突如話しかけてきた水上に、ダージリンが視線を向ける。

「西住みほさんとまほさんとの関係は、我々は知るべきではないかと」

「どうしてそう思うのかしら?」

 ダージリンが真剣な表情で水上に尋ねる。水上は、その視線に耐えながらも自分の意志を述べる。

「おそらく、お2人の因縁は家族間、あるいは黒森峰で生まれたものかと思われます。我々は、西住の人間でもなければ、黒森峰の人間でもありません。ですので、この件に関して私たちは、触れるべきではないかと」

 ダージリン、オレンジペコ、アッサムの全員が黙り込む。しかし、アッサムだけは水上の言葉にうなずく。

「・・・・・・それもそうね」

 ダージリンは納得したのか、ミルフィーユを満足そうに食べる。オレンジペコもホッとして、ショートケーキを食べる。

 アッサムは、水上に小さく『ありがとう』とだけ告げる。そして、紅茶を一口飲んだ。

 アッサムも、水上と同じようにみほとまほの因縁は家族間によるもの、西住流の中でのことと思っていたので、あまり踏み込むのは気が進まなかったのだ。

 だが、ダージリンからの指示を断るというのには勇気がいる。3年間ダージリンの傍にいて、ダージリンの考えがある程度わかるようになってきたアッサムでも、それは難しいものだった。

 そこで、水上からの助け舟があり、何とかダージリンからの指示を断ることができたのだ。

 アッサムは安心して、ケーキを食べる。

 オレンジペコは内心、ハラハラしていた。心臓がバクバク高鳴るくらい緊張した。ダージリンに向かって意見した者など見た事がない。ダージリンの傍に3年間いたアッサムでさえダージリンに意見する事などほとんどない。にもかかわらず、水上はダージリンに面と向かって意見をした。

(よかった・・・・・・)

 オレンジペコは、胃に穴が開きそうなくらいに緊張していた。その緊張から解放されて、心底ほっとしている。口の中の水分が蒸発しきっていて、今飲んだ紅茶が普段水上が淹れてくれる紅茶以上に美味しいと感じる。ケーキがこの世のものとは思えないくらい味わい深い。

「ところで、1回戦はどこと当たるのですか?」

 水上が、場の空気を換えるために話題を変えることにした。選んだ話題は、全国大会の事だ。

「BC自由学園よ」

 アッサムがパソコンを取り出して、戦車道ニュースのサイトを開く。その画面には、第63回戦車道全国高校生大会のトーナメント表が表示されていた。発表されたのはわずか1時間ほど前だというのに、情報が早い。

 戦車道ニュースのサイトは、その名の通り戦車道にまつわるありとあらゆるニュースが表示される。大学戦車道、高校戦車道、プロリーグ、果ては海外の戦車道のニュースも載っている。そして、このサイトには世間でも名が知られている評論家もコメントを残す。それが、このサイトが戦車道履修者たちから愛されている所以だ。

「BC自由学園・・・どういう学校なんですか?」

 オレンジペコがダージリンに尋ねる。だが、ダージリンは苦笑するだけで答えようとはしない。なので、アッサムに目を向けると、アッサムはくいっと人差し指で店の一角を指差す。水上とオレンジペコは、その指差す方向を見る。

 そこにあるのは。

 

 回転寿司よろしくケーキの載っていた皿が山のように積み重なったテーブルだった。

 

「「・・・・・・え?」」

 水上とオレンジペコが声を揃えて疑問の声を上げる。

 そのテーブルには、薄い金色の縦ロールの少女が座っていて、その少女はモンブランを満面の笑みを浮かべて美味しそうに食べていた。

 その少女の隣には、肩まで伸ばした金髪の、青い瞳の少女が座っていて、不安そうにケーキを食べる少女に話しかける。

「マリー様、そろそろよろしいんじゃないかと・・・」

 マリー、と言われた縦ロールの少女はニッコリ笑顔でこういった。

「こんな言葉を知ってる?『スイーツは別腹』」

 金髪碧眼の少女は、マリーのお腹の事を心配したのではなく、財布の心配をしているのだ。マリーがお嬢様だというのは分かっているし、ケーキが大好きだというのも承知している。だからといって、これほどまでに食べるとは予想していなかった。現に、さっきケーキを運んできたお姉さんは顔を引きつらせている。

 すると、マリーの向かい側に座っている、浅黒い肌のジトっとした灰色の瞳の少女がふん、と鼻息をつきながら言った。

「聖グロの隊長の真似か?ちっとも似てないな」

 だが、その言い方が気に食わなかったのだろう、金髪碧眼の少女がガタっと音を立てて席を立ちあがり、浅黒い肌の少女に向かって指を突きつける。

「安藤貴様、マリー様を侮辱するつもりか!」

「侮辱してるわけじゃないぞ押田。単純に似てないと思っただけだ。というかマリー、そんなに食って大丈夫なのか?主に腹回りが」

 押田、と言われた金髪碧眼の少女がはっ、と悪者のように息を吐く。

「外部生の分際でマリー様の心配など10年早い。どうせ貴様など、太るのが怖くて一個しかケーキを食べられなかったんだろうに。あと、マリー様のお腹は柔らかい方が可愛らしいぞ」

 それが琴線に触れたのか、安藤と言われたジト目の少女が同じく音を立てて席を立ちあがる。

「今は外部生がどうとか関係ないだろ!大体そうだ、外部生だなんだといちゃもんを付けてくるのはお前たちエスカレーター組の方が先だ!後別に太るのが怖いんじゃない、食欲がなかっただけだ!そんで最後に気持ち悪いことを言うな!」

「やかましい!外部生はエスカレーター組には分からないような努力の末にBCに入学しただのなんだのと自慢しているが、要は中学から通えるほど金が無かっただけだろう、この貧乏人め!ケーキを一個しか注文しないのも金が惜しいからだな!」

「貴様言ってはならんことをこの成金が~!!」

 その場で取っ組み合いを始める押田と安藤。その中でモンブランを食べ終えて、次のケーキを注文するために戦車型のブザーを押すマリー。

 なんというか、学校名にもある通り、自由だった。オレンジペコと水上は、静かにBC自由学園組から目を逸らす。

「・・・BC自由学園は中高一貫校で、変わったお嬢様学校として戦車道界では知られているの」

「変わったお嬢様学校?」

 水上が聞くと、アッサムは頷く。

「中学から内部進学してきた“エスカレーター組”と、高校から受験して入学してきた“受験組”との間で、軋轢があるらしいの。学校でも校舎が分かれてるくらい。戦車道でもエスカレーター組と受験組が混ざっていて、たまにチーム内で喧嘩を起こす事もあるのよ」

「そんな学校があるんですか・・・」

 にわかには信じがたいが、今も押田と安藤の取っ組み合いは続いている。おそらくアッサムの話は本当なのだろう。

「で、アッサム。今回もお願いしていいかしら?」

「・・・・・・分かりました。少々疲れるものですが」

 ダージリンがやっと口を開いてアッサムに話す。アッサムは、辟易とした様子で溜息をついた。

 水上には、ダージリンとアッサムが何の話をしているのか分からない。

「ええと・・・?」

 困惑する水上を見て、アッサムが顔を水上に近づけてこう言った。それだけでちょっとドキドキするのだが、水上はその気持ちはそっと胸にしまっておくことにする。

「・・・実は、戦車道のルールにおいては、他校への偵察、潜入調査、諜報活動は認められているの」

「・・・・・・はい?」

 偵察、潜入調査、諜報活動。

 聞きなれない物騒な単語が水上の耳に矢継ぎ早に入ってきて、ちょっと脳の処理が追い付かない。

「・・・私は、これまで何度も対戦校に潜入調査をしたことがあった」

「・・・・・・まさか」

「そのまさかよ」

 アッサムが意を決したかのようにこう言った。

 

「私、BC自由学園に偵察に行ってくるから」

 

 




書いてる本人ですら、これでいいのかと思う始末のこの話。

BC自由学園の内部の仲の良し悪しは今のところ不明ですが、
当作品では『仲が悪いけど、共通の敵と戦う時は仕方なく協力する』という認識です。
といっても、BC自由学園組はあんまり出て来ませんが。

感想・ご指摘等があればお気軽にどうぞ。

遂にお気に入りが200を超え、閲覧数が1万を突破しました。
書き始めた当初は、ここまでのものとなるとは思ってもいませんでした。
本当に、ありがとうございます。
心から、感謝いたします。




余談
押田と安藤、どちらかといえば安藤派の筆者
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