書き始めた当初は、この作品がこんなにも多くの方に認めてもらえるとは思いもしませんでした。
嬉しい気持ちでいっぱいです。
今後とも、よろしくお願いいたします。
カシャッ。
近くで聞こえた、何の変哲もないカメラのシャッター音を聞いて、水上の意識は覚醒した。
「ん・・・・・・?」
目を開き、辺りを見回すが周りに人影は無い。では、さっきのシャッター音はどこから聞こえたのだろうか?
そこで水上は、もう連絡船は聖グロリアーナ学園艦に横付けされていたのに気づく。
「アッサム、起きて」
まだなお水上の肩に身体を預けて眠っているアッサムの肩を優しく揺らし、アッサムを起こす。アッサムは、『うぅん・・・』と呻いてからゆっくりと目を覚ました。
「水上・・・?」
「着いたよ」
水上が外を指差す。指差した先には、連絡船の降り口となるタラップがあった。
「もうこんな時間?」
「ああ。俺も眠ってて気づかなかったよ」
水上が席を立ち、床に置いてあった荷物を『よっこいせ』の一言で持ち上げる。大半はアッサムが買ったものなので、アッサムがそれを持とうとしたが、水上は大丈夫と手でアピールしてタラップへと向かう。
アッサムは、自分のトートバッグだけ肩に提げて船を降りた。
時刻は7時半前。陽は完全に落ちてしまったので、辺りは街灯の光を除いて真っ暗だ。そんな中で水上は、アッサムを一人で帰らせるわけにはいかないので、当然のようにアッサムを寮へと送り届ける。
その間に、水上はアッサムに尋ねた。
「今日は、どうだった?」
「とても楽しかったわ。水上は?」
アッサムが即答するのに、水上は安心する。これで『つまらなかった』などのネガティブな感想を伝えられたら数日はショックで寝込んでしまうだろうから。
「俺も楽しかった。でも・・・」
「?」
水上は、今回のデートが完璧なものだったかと問われると、そうとは答えられない。
映画も、買い物も、食事も、本を買ってあげたのも、全てがアッサムに気に入ってもらえたかは疑わしかった。アッサムの口から先ほど『楽しかった』と告げられたのも、お世辞という可能性がある。
水上は、考え込んでしまう自分の疑り深さを恨んだ。
「・・・・・・初めてのデートだったから、何が正しくて、何が間違っているのかなんて、分からなかった」
「・・・・・・」
アッサムは歩きながら、水上の方を見て、水上の言葉を静かに待つ。
水上は、自分の本音を、アッサムに告げる。
「だから・・・もしもアッサムが、何か気に入らないって事があったのなら、それは謝るよ」
「・・・・・・」
アッサムは小さく笑い、水上の手を握る。具体的には、荷物を持っていない左手を。
「・・・アッサム?」
「ありがとう、水上。そこまで考えてくれて」
アッサムは、身体を水上に寄せる。水上は少し驚いたが、何とかして平静を保つ。
「でも、大丈夫。今日は本当に楽しかったわ。一緒に映画を見たのも、服を褒めてくれたのも、一緒に食事を食べたのも、本を買ってくれたのだって。気に入らないわけないでしょう」
「・・・・・・」
「だって・・・・・・私は・・・・・・」
アッサムが、何かを言おうとする。水上は、その言葉を静かに待つことにする。
これからアッサムが言おうとしている事は、なぜか、遮る事も許されないような気がしたから。
だが。
「あれ?アッサム様に水上さん?」
自分たちの名前を呼ばれて、水上とアッサムはビクッと飛び上がりかける。繋いでいた手を急いで離す。そして、声がした方向に視線を向けると、そこにいたのは。
「あ、やっぱり。お2人とも私服だから気付きませんでした」
聖グロリアーナの制服を着たルクリリだった。手にはコンビニ袋を提げている。どうやら、コンビニからの帰りのようだ。
そして、気づけば水上とアッサムは寮の前に着いていた。2人とも、話に集中していてどこを歩いているかを把握していなかったのだ。
「・・・ルクリリ、ごきげんよう」
アッサムがさりげない風を装ってあいさつをする。水上もお辞儀をした。だが、ルクリリはにんまりと笑って口元を抑えている。
「・・・・・・もしかして、お2人はあれですか?そう言う関係だったりするんですか?」
ルクリリが興味津々に聞いてくる。アッサムが恥ずかしそうに目を逸らしたのを見て、水上はなんとかフォローしなくてはと思った。
「いえ、ルクリリ様の考えているような関係ではございません。今日は、アッサム様が本土で買い物をなさるという事でしたので、私は給仕として付き添っていただけです」
「給仕なのにスーツじゃなくて私服?」
水上のフォローがルクリリの一言で水泡に帰す。もう潔く全部言うしかないのか、と諦めたところでルクリリが『まあいいや』と水上との会話を切ってアッサムと話をする。
「アッサム様、夕食は?」
「え?あ、まだよ」
「でしたら、急いだほうがいいですよ。寮の食堂、あと少しで閉まってしまいますから」
「・・・そうね、じゃあそうするわ」
ルクリリはそれまでの会話の流れを断ち切って、別の会話をアッサムと交わす。寮の食堂が閉まるのは8時だから、あと30分も無い。
夕食も食べてくるべきだったか、弁当を買って船で食べればよかったか、と水上は考えていたが、過ぎた時の事を考えるのは無駄だ。
「ではアッサム様、また明日」
「え、ええ。水上も、今日はありがとうね。それじゃ」
「はい」
持っていた荷物をアッサムに渡し、別れのあいさつを交わして、アッサムは寮へと戻って行く。それを見送った水上も、ホテルの方向へと足を向けて歩き出そうとするが、
「水上さん」
ルクリリに呼び止められた。
「何でしょう」
ルクリリは水上に近づいて、ただこう言ってきた。
「・・・頑張ってくださいね。応援してますから」
それだけ言って、ルクリリは寮へと戻って行った。どうやら、ルクリリにはバレてしまったらしい。水上は小さくため息をついた。
「・・・頑張れ、か」
夕食を食べ終えて私は、改めて机の上を見る。そこにあるのは今日手に入れた品々だ。映画のチケット、洋服店で買った2着の服に、水上がプレゼントしてくれた本。
これらは全て、水上との思い出の品は全て、私にとっての宝といっても過言ではない。
「・・・・・・言えなかった、か」
先ほど、寮の前で私は、胸の内にある想いを水上に告げようとした。
あなたの事が好き、と。
おそらく、あと数秒、ルクリリに声を掛けられるのが遅れていたら、私は想いを告げることができたのかもしれない。
だが、今考えてみると、これでよかったのかもしれない、と思える。
なぜなら、私の告白に対する水上の返事を聞くのが、怖かったから。
もし、振られたりしたら私はショックでしばらく寝込んでしまうだろう。好きな人に拒絶されてしまうのは、それだけで寿命が縮んだような気がする、という意見を誰かから聞いた事がある。
それに、もし振られたら戦車道に影響が大なり小なり出るに決まっている。
戦車道は、個人の心身状態に左右される武芸だ。気分がハイになっていると、戦車の操縦や攻撃にそれが反映される。逆もまたしかり。
振られでもしたら、恐らく私の腕は初心者レベルにまで落ちてしまうだろう。そうなれば、全国大会で勝利することができる確率も格段に落ちる。
私のせいで全国大会での優勝を逃す事など、断じて許されるものではない。
だから、まだ全国大会も終わっていないのに告白するというのは悪手だった。それを阻止することができて、私は少しホッとしている。
(・・・・・・告白は、全国大会が終わってから)
私は決意する。
聖グロリアーナは強豪校として全国に名が知れているのは分かっている。だが、全国大会で優勝したことは一度も無い。準優勝の経験はあるものの、私はその時在校していなかった。
今年は、優勝して見せる。そして、水上に想いを告げる。
返事は『YES』でも『NO』でもいい。想いを告げなければ、私は水上に対する想いを抱えたまま一生を終えてしまうだろうから。それに比べれば、返事が『NO』というのもわずかに軽いものだ。
けれど、この想いは今伝えるべきではない。
全てが終わってから、だ。
迎えた聖グロリアーナとBC自由学園との試合の日。
観客席には大勢の観客が集まっていた。その中で水上は、例のスーツにノートパソコンという、大洗女子学園との練習試合の時と同じ格好で観客席にいた。
やはりというか、水上はダージリンから戦闘の詳細を記録するように指示を受けている。モニターからしか戦闘の様子を見る事はできないが、その映像は空を飛んでいる観測機や戦闘区域内を飛行しているドローンが撮影しているものだ。だから、至る所から戦闘の様子を見ることができる。それを頼りに、水上は戦闘詳報を書いていくのだ。
水上がパソコンを立ち上げて、レポートソフトを開く。すると、水上の隣に、グレーのタンクジャケットを着た、明るい茶髪のミディアムヘアの女性が座った。肩には、戦車の砲弾を模した水色のエンブレムがプリントされている。
どこかの高校の生徒だろうか?あるいは、どちらかの学校のOGなのかもしれない。だが、水上はそれ以上深く考えるのを止めてパソコンとモニターに意識を向ける事にする。
試合開始まであとわずかだ。
水上が心の中で考えている事は、もちろんアッサムの事だ。
偵察と作戦立案で疲れていたアッサムと、気分転換と称してデートに行った。その翌日からまた戦車道の訓練が行われたが、アッサムの様子は普段と何ら変わりがなかった。
本当に、気分転換できたのだろうか。そう不安になって水上がアッサムにメールを送ると、アッサムはこう返してきた。
『心配してくれてありがとう。でも大丈夫。今の私はとても清々しい気持ちです。疲れなんて感じません』
そして終わりの方には。
『あなたのような方と、デートすることができたのだから』
そのメールを見た時の水上の顔と来たら、十中八九他の人が見れば“変”というほど緩んでいた。
とにかく、アッサムは気分転換をすることができて、いつも通りかいつも以上のコンディションで試合に臨んでいる。
改めてモニターの方へと意識を向けると、モニターの前で聖グロリアーナとBC自由学園の隊長・副隊長が並んで挨拶をしている。
だが、BC自由学園側の生徒―――戦車喫茶ルクレールで見たマリーという少女だけは、他の選手が頭を下げているというのに頭を下げない。その横では押田と安藤が何やら言い争いをしている。ルクレールの時とほぼ一緒の状況だ。
審判の女性が押田と安藤の間に入って喧嘩を止めさせる。なあなあな感じで挨拶が終わり、両校の生徒たちは自分たちの戦車へと戻って行った。
ちょっとしたアクシデントが起きたが、試合は予定通り行われる。
『あと5分で、試合開始です』
スピーカーからアナウンスの声が聞こえてくる。そこで、先ほどまでおしゃべりをしていた観客たちも黙り込み、これから始まるであろう試合を前に沈黙する。
水上も、パソコンのキーボードに手を置いて詳細を書く準備に入る。
ダージリンが挨拶から戻ってチャーチルの中に滑り込む。
私は、スコープに顔をくっつけて、スコープの中から外を覗き込む。当然だが、まだBC自由学園側の戦車は見えない。スコープの中に広がるのはのどかな田園地帯だ。
砲塔を回すグリップを握る手に自然と力が入る。
ついこの間、ここには水上が座っていた。ここで、私と同じようにチャーチルの砲手を務めたという話だ。
水上は、観客席で試合の様子を見ているのだろう。しかし、今私は、水上の気配が近く感じられる。水上が、傍にいてくれているような感じがする。
それは、ここに水上がいたからだろう。
(・・・・・・・・・・・・)
水上の事を想うと、自然と力が湧いてくるような気がする。
そう感じて、やはり恋とは本当に恐ろしいものだと改めて痛感する。
だって、どんなことも不可能とは思えなくなるのだから。
たとえその願いが、悲願の全国優勝と言うものであっても、だ。
(・・・・・・優勝する。そして、告白しよう)
全国大会が終わったら、水上に告白する。
私はそう誓って、これから始まる試合に向けて意識を集中させた。
シュパッ!
BC自由学園のフラッグ車、ルノーFTの砲塔上部から白旗が上がり、風に揺られてパタパタと揺らめく。
『聖グロリアーナ女学院の勝利!』
アナウンスが告げると、観客席が『おおおお!』と歓声であふれかえる。観客たちが立ち上がって、拍手を送る。
水上も、キーボードを打つ手を止めて小さく拍手を送る。だが、隣に座るグレーのタンクジャケットを着た女性は『はぁ・・・』とため息をついていた。どうやらこの人は、BC自由学園の関係者だったらしい。水上は心の中で『可哀想に』とだけ呟いた。
やがて選手たちがモニターの前に集まって、試合終了の挨拶をすると、再び観客席から選手に向かって拍手が送られる。拍手を受けた聖グロリアーナとBC自由学園の生徒たちは、観客席に向かってお辞儀をした。
水上は、パソコンを閉じて席を立ち、聖グロリアーナ学園艦で待機している整備班に連絡をする。
「試合が終わったので、損傷した戦車の回収をお願いします」
『了解しました!すぐに行きます!』
整備班から威勢のいい返事をもらうと、水上は携帯を切る。
そして、水上は聖グロリアーナ学園艦へと戻って、ティータイムの準備に取り掛かることにした。
やがて、ティータイムが行われる甲板へ、ダージリンを先頭に聖グロリアーナの戦車道履修者たちが戻ってきた。ダージリンは相変わらず澄ましたような表情を浮かべている。まるで、勝ったのが当然だと言わんばかりに。
オレンジペコは、勝利したことが嬉しかったのか、少し涙目になっていた。大洗との練習試合とは違い、BC自由学園との試合は全国大会という大きな枠組みの中で行われる試合だからか。
そして、アッサムはやり遂げたと言わんばかりの表情で静かに笑っている。
「皆さま、お疲れ様でした」
水上が、精いっぱいの誠意を込めてお辞儀をする。そして、色とりどりのお菓子が並べられたテーブルへと戦車道履修者たちを誘う。
全員がテーブルの近くに立ったのを見て水上は、すぐに紅茶を淹れる。その間、水上は他の選手たちの様子を窺っていた。BC自由学園の戦車を1輌撃破したルクリリはドヤ顔だし、初めての公式戦参加となったクルセイダーに乗っていた赤毛の少女は、嬉しさの余り辺りを走り回っている。
試合中でもそうだったが、あの少女が乗った戦車が止まっているのは見た事がない。いつもウロウロしているような気がするが、気のせいだろうか?
そしてルフナは、なぜかチラチラとこちらの様子をうかがっている。何か水上に用でもあるのかもしれない。後で聞いてみる事にする、
そうこうしている間に紅茶が出来上がり、水上はカップを持って待っていた履修者たちのカップに静かに紅茶を注いでいく。そして、履修者たちは口々に『美味しい』と言ってくれた。
水上は男なので、給仕ではあるものの戦車道の世界と関わりが深いわけではない。この前はチャーチルに乗ったが、あれは例外だ。
ともかく、戦車に乗っていた履修者たちがどれほどの苦労を背負っているのか、どれだけ緊張していたのかは少し想像がつかない。
でも、だからこそ、せめて自分の淹れた紅茶で皆を癒したかった。その苦労と緊張から解放してあげたかった。
だから、自分の淹れた紅茶を『美味しい』と言ってくれたことが嬉しくて、それで緊張が解されたことが何より喜ばしい。
ルクリリのカップに紅茶を淹れて、ルクリリがそれを飲む。
そしてルクリリは。
「勝利の後の一杯は美味しいね~」
お酒を飲んだオヤジみたいなことを言ってきた。
ルクリリは、普段からお嬢様言葉を話しているが、時折『バカ』だの『この野郎』だの『ちくしょう』だのと少し乱暴な言葉が口から出てくることがある。
だが水上は、むしろそれがお嬢様しかいない聖グロリアーナでは新鮮に思えたし、何より親近感を持つことができた。自分の素の口調と似ているからだろう。今度、素の口調で話してみようか。
なんて事を考えながらルフナのカップに紅茶を注ぐ。ルフナが飲んだのを見ると、頭を下げてその場を離れようとするが、そこで待ったがかかる。
「あの、水上さん」
「はい?」
「この後・・・・・・ちょっとお時間よろしいですか?」
「?」
そしてルフナと少し話をして、水上はルフナの下を離れる。そして向かうのは、ダージリンたち“ノーブルシスターズ”のいる場所だ。
まずはダージリンのカップに紅茶を注ぐ。ダージリンはゆっくりと紅茶を飲んで、水上の方を見て笑う。
「うん、美味しい」
「・・・ありがとうございます」
あのダージリンから、遂に『美味しい』と言われた。最初に紅茶を淹れた時の自分に聞かせてやりたい。これまでの努力が、全て報われた気分だった。
これまで紅茶を淹れてきて、最終目標は『ダージリンに美味しいと言ってもらう事』だった。それが達成できたことに、水上は嬉しくなる。試合に勝つことができた履修やたちと同じくらい、飛び跳ねるくらい嬉しかった。
続いて、オレンジペコのカップに紅茶を注ぐ。オレンジペコはまだ涙目だったが、それでも紅茶を飲んで、笑顔でこう言ってきた。
「美味しいです・・・すごく・・・」
オレンジペコは涙を流す。どうやら、勝利したことで気が緩んでしまっているのだろう。水上はオレンジペコの頭を優しく撫でてあげた。
「先ほど、ダージリン様から美味しいと言われました。オレンジペコ様が教えてくださったおかげです」
「・・・私のおかげじゃないですよ、それは」
オレンジペコが涙をぬぐって水上を見上げる。
「全ては、水上さんが頑張ったから、努力したからですよ」
「・・・そうでしょうか」
「絶対そうです」
オレンジペコに力強く言われたので、水上は反論するのを諦める。そして、もう一度オレンジペコにお辞儀をして感謝の言葉を述べた。
最後に、アッサムの下へと近寄って紅茶をカップに注ぐ。その紅茶を飲んでアッサムは一言だけ。
「美味しいわよ」
「ありがとうございます」
たったそれだけだが、水上はそれでも十分だった。
「それにしても、まさか向こうが連携攻撃を仕掛けてくるとはね」
BC自由学園はチーム内での軋轢があるゆえに、連携攻撃はしてこないと思っていた。ところが、相手は意外にも木造橋の地点で連携攻撃を仕掛けてきたのだ。安藤率いる“受験組”はS35で橋脚を砕き、押田率いる“エスカレーター組”はARL44で橋の上で立ち往生している聖グロリアーナの戦車を攻撃してきたのだ。そして、橋ごと聖グロリアーナの戦車を川に落とそうとした。
だが、戦闘領域内に木造橋があり、敵フラッグ車がその橋の先にいる時点で、橋を攻撃してくることは読めていた。連携攻撃をしてこようとしまいと、やるべき作戦はアッサムが決めていた。
アッサムは、フラッグ車であるチャーチルと2輌のマチルダⅡ、クルセイダーを、川下の浅瀬から回り込ませ、残るマチルダⅡ2輌とクルセイダー3輌を囮として橋に行かせることにしたのだ。
BC自由学園は、マチルダⅡとクルセイダーが橋を通ったところで攻撃を仕掛けてきた。フラッグ車がいない事に気付いたのは攻撃を始めた直後だが、これで橋を落とせば一気に5輌戦力を削ぐことができるとBC自由学園は判断し、攻撃を続ける。
その間に残りのチャーチル、マチルダⅡ、クルセイダーはその戦闘が行われている箇所を大きく迂回して、敵フラッグ車がいる丘を目指したのだ。
相手もそれぐらいは読んでいたのだろうか、フラッグ車であるルノーFTの周りにはARL44が1輌にS35が2輌護衛としてついていた。
だが、その程度の戦力は練度の高い聖グロリアーナの前では大したことは無い。聖グロリアーナの得意とする浸透強襲戦術を持って、敵の車両を次々に撃破する。
赤毛の少女が乗っているクルセイダーも、敵を撃破することは無かったものの、ウロチョロ動き回った事で戦線をかき乱してくれた。
そして、接近したチャーチルの砲撃によってルノーFTは撃破され、聖グロリアーナの勝利となった。
「しかし、今回はアッサム様の作戦のおかげで勝てたと言ってもいいでしょう」
「私は作戦を立てただけ。実際に戦車に指示をしたのはダージリンよ。他の皆は、ダージリンの指示に従ったのだから」
「ですが、その指示の基となる作戦はアッサム様が立てたものですよ」
水上の言葉を聞いて、アッサムはハッとしたように顔を水上に向ける。水上は、優しい笑みを浮かべてアッサムを見つめていた。
「お疲れ様です」
改めてお辞儀をする。
アッサムは、これ以上言っても水上は聞かないだろう、と考えてまた紅茶を飲む。
そして。
「・・・うん」
とだけ頷いた。
陽が沈むとティータイムが終わり、履修者たちは着替えて帰路に就く。
私もロッカールームでタンクジャケットから制服に着替える。タンクジャケットは洗濯するために寮へと持って帰ろう。そう考えながら鞄にジャケットを詰める。そして、校門へと向かった。
校門の前でダージリン、オレンジペコと合流して帰路に就く。が、私は作戦立案にも使っているタブレット端末を教室に忘れてしまった事を思い出した。私は2人に断りを入れて、急いで学校に戻る。
人気も無い、明かりも全て消され、非常灯しか灯っていない学校というのは、それだけで不気味だった。今はもうすぐ夏だというのに校舎はひんやりと冷えている。昔見たホラー映画を思い出し、背筋がブルリと震えた。
早く忘れ物を取って早く帰ろう。
そう思っていたのだが、そこで私は話声を聞いた。
「・・・・・・ごめんなさい、呼び出してしまって」
その声は、ルフナだ。3年間同じ戦車に乗っているのだからもう分かる。
「大丈夫です。それで、用とは何でしょうか?」
そして、そのルフナと話しているのは水上だ。
水上がいると言うだけで、私は心臓が飛び上がりそうになる。私はその2人が何の話をしているのかが気になって、思わず2人が話をしている教室の前の壁に背中を付けて、中の会話に意識を集中させる。
「・・・・・・水上さん」
「はい」
ルフナが、恥ずかしそうに、だが強い意志が感じられるような声量で言葉を紡ぐ。
ここで私の頭の中に、“嫌な予感”がよぎった。同時に私は、これからルフナが何を言おうとしているのか推測し、一つの解を導き出す。
そして、ルフナは。
「私・・・水上さんの事が好きです!私と・・・付き合っていただけませんか・・・?」
作中の戦闘シーンですが、
筆者は戦闘シーンを書くのが苦手なうえ、戦車のスペック等はあまり分かっていません。
変なところがあったら申し訳ございません。
感想・ご指摘等があればお気軽にどうぞ。
ようやくこの作品も、折り返し地点もしくはその少し手前にまでやってきました。