バトラーと私   作:プロッター

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導入編です。
クオリティが低くてすみません・・・


給仕係として

 (セント)グロリアーナ女学院。

 イギリス風の校風を持つそのお嬢様学校の名は、全国に知れ渡っているが、その理由は大きく分けて2つある。

 1つは、本場イギリスと提携をしており、イギリスの影響を強く受けている事だ。

 食堂のメニューは全て英国風、紅茶に対して並々ならぬこだわりがあり、毎日決まった時間にティータイムを開き、さらには生徒全員が定期的にお茶会を開く義務を有しているなど、徹底してイギリス風である。

 もう1つは、聖グロリアーナは戦車道でも強豪校と言っても差し支えない実力を持っている事だ。

 全国大会でも準優勝した実績があり、対外練習試合でも負けた事はほとんどない。“ほとんど”という表現をしているからには負けた事もあるというわけだが、それを差し引いても聖グロリアーナは強豪校として名を馳せている。

 そしてその戦車道は、乙女の嗜みとして古くから存在していた武道だ。

 そこに男の入る余地はなく、ましてや聖グロリアーナと言う正真正銘のお嬢様学校に男が立ち入る事などあるはずが無い。

 無いのだが。

(どうしてこうなった・・・)

 季節は5月。桜も散り、夏を感じさせるように暖かくなってきたこの日。

 聖グロリアーナ学院の校門前で、紺のブレザーを着る1人の青年―――水上は心の中で呟いた。

 足元には、これからおよそ3カ月生活していくための物資が入った肩掛け鞄が置かれている。

(男の俺が、あの聖グロで給仕係って、どういう事なんだ・・・?)

 

 事の発端は4月。

 何の変哲もない、平凡な高校で水上は無事に2年生から3年生に進級した。進級して少し経った後、進路相談の時間に担任の先生から『将来どうなりたいのか』と言う質問をされた。水上ももう高校3年生なので、そろそろ進路を明確にするべき時期だったのだ。

 水上はその質問に対し、『将来人に尽くす仕事がしたい』と答えた。

 『人に尽くす』と言う仕事は、世の中にごまんとある。どのようにして人に尽くすのか、という詳しいことまで考えなければ、将来は明瞭とは言えない。

 それは当然水上も分かっていたので、まずは大学に進学してその将来を明確なものにしようと考えていた。

 それを先生に伝えると、先生はどこからか封筒を持ってきて、1枚の紙を水上に見せる。

 その紙に書かれた内容を統括すると、以下のような感じだ。

 

 聖グロリアーナ女学院では戦車道での給仕係を1人募集している。

 ただし、同年代の学生であることを必須条件とする。

 男女は問わず、期間は3カ月。

 本校が優秀と認めた場合には、特別な措置を施す。

 

 今までの話からどうしてこの話題になったのか。特別な措置とは何か。

 水上が先生に尋ねると、先生は笑いながらこう答えた。

「給仕係も人に尽くす立派な仕事の1つだ。職業体験だと思って、やってこい。特別な措置については、3カ月後に告げられる」

 先生にそう言われてしまっては、素行も悪くない一介の平凡な高校生・水上も反論するすべがない。渋々と、その募集に応募してみることにした。

 このとき水上は、こう考えていた。

(あの有名な聖グロが給仕を募集しているなんて知ったら、他の学校からも応募が殺到するに違いない。生徒は無駄に多いけど、大して実績も無いウチみたいな平凡な高校から採用するはずもないだろ)

 水上の言う通り、彼の通う高校は他の高校の例にもれず学園艦という巨大な船の上に存在するが、特筆すべき箇所は何もない。スポーツで優秀な成績を修めたというわけでもないし、有名人が卒業生と言った特徴も無い。

 だから、こんな平凡な高校に通う自分が、聖グロリアーナと言う正真正銘のお嬢様学校に行く事なんてないだろう。

 そう思っていた。

 

 そんな事を10分ほどで思い出して、短い黒の短髪を掻きながら今自分が置かれている状況を確かめる。

 今自分はこうして聖グロリアーナ女学院の校門の前に立っている。そして、手の中には『採用通知書』と書かれた紙が握られている。

 結局水上は、給仕係として聖グロリアーナ女学院に採用されたのだ。

 それが決まった際、先生にどうしてなのかと聞いたが、先生はこう話した。

 

『全国屈指のお嬢様学校って事で、他の学校は委縮しちゃったらしい。自分の学校の生徒がへまをやらかしたらどうしようって尻込みした感じだ』

 結果、応募したのは水上ただ一人と言う事で、問答無用で採用されてしまった。

 まさか自分が選ばれる事になるとは思わなかった。

 その選ばれた日以来、学校の先生から、粗相のないようにと放課後は徹底的にマナーや礼儀作法、敬語についての知識を叩きこまれた。さらに、紅茶の淹れ方について、舌の肥えていることで評判の家庭科の先生から指導を繰り返し受けて、何とかその家庭科の先生をうならせるような紅茶を淹れる事には成功した。

 

 そんな調子で1カ月が経過し、今自分は聖グロの前に立っている。

 かれこれ15分は校門の前で立ち尽くしていた。

 何せ、この校門の先はあの聖グロリアーナ女学院だ。野郎の自分が入るような余地は決してない、未知なるお嬢様たちの世界だ。

 そんな世界に足を踏み入れることを躊躇うのを、誰が責められるだろうか。

 しかし、門の脇の守衛所の中にいる女性警備員が怪訝な顔をしているのに気づき、水上は縮こまりながらその警備員に声を掛ける。

「あ、あのぉすみません。ワタクシ、このたび給仕係としてこの学校に入る事になった者なんですけれどもぉ」

 緊張のあまり声が上ずり変な口調になってしまった。その話し方で余計に怪しさを増してしまったのか、警備員の眉間にしわが寄る。

 ここで門前払いなどされたらどうしよう。あるかもしれない未来を想像する。

 だが、警備員の女性は水上の心配をよそに、どこかに電話をかける。一言二言言葉を交わすと電話を切り、棚の引き出しから首に提げるタイプの名札を差し出してきた。名札には、『GUEST』の文字が。

「これを首から提げて、校長室へ行ってください。校長室は、すぐそこにある校舎の2階、階段のすぐ前にあります」

「あ、ありがとうございます」

 水上は頭を下げて、首に入校許可証を掛けると、聖グロリアーナ女学院の世界へ足を踏み入れる。

 この時点で、水上は男どもから勇者扱いをされるに違いない。

 校舎に向かう中で、水上は『聖グロへ短期入学する事になった』と友人へ告げた時の事を思い出す。

 

 その友人は小学校以来の付き合いで、お互いに気の置けない仲だった。

 今回の事を最初に伝えた時は腹を抱えて爆笑されたが、やがて水上の真剣な表情を見て真顔で『マジで・・・?』と聞き返してきた。それに頷くと、今度はにんまりといやらしい顔で顔を近づけてこう言った。

『いろんな意味で頑張ってこい』

 余計なお世話だ、と水上は言い返した。

 

(ホント、どうなる事やら)

 校舎の中に入る。今はちょうど授業中だったので、聖グロの生徒たちの目に触れることは無く校長室の前にたどり着いた。しかし、どこから目を付けられているかわかったものではないので、ポケットに手を入れて歩くなどと言う行為は決してしなかった。

 ノックを3回行うと、中から『どうぞ』と言葉が返される。

 『失礼します』と言いながら入室すると、そこは赤い絨毯が敷かれた中世ヨーロッパをモチーフとした部屋だった。

 部屋の奥の木製の執務机には、灰色の髪をした初老の女性が座っている。ここは校長室なのだから、彼女がこの学校の校長だろう。

「貴方が、給仕係としてウチに来た子ね?」

 水上の全身をくまなく眺めながら校長が尋ねる。水上は姿勢を正して挨拶をした。

「はい、潮騒高校から参りました水上進(みなかみすすむ)と申します。よろしくお願いいたします」

 自己紹介をして頭を下げる。頭を上げると、校長は机から書類を取り出して、応接スペースにあるソファにかけるように手で指示をする。

 水上はそれに従い校長と対面する形でソファに座る。

 そして、それからしばらくの間は学校について、生活について、そして給仕係の仕事の内容についての説明を受けた。

 給仕の仕事は、具体的には戦車道の運営についてのサポートと言う事らしい。

 そのサポートとは多岐にわたり、弾薬や燃料など物資の確認と注文、戦車道のスケジュール全般の管理、果ては上位メンバーの身の回りの世話なんてものまであった。

 そうして校長から指導を受けて、昼食(自前の弁当)を挟み、その後は学校の案内をされる。その時、奇跡的と言ってもいいほどに聖グロリアーナの生徒とは会わなかった。

 そして、ついに戦車道の授業の時間が始まる。

 その直前で水上は、高校の制服のブレザーから、白のシャツに灰色のベスト、そして黒いスーツに着替えさせられた。これは聖グロから支給されたものだが、曰く『給仕係であるならばまず服装から』と言う事で用意されたものだ。

 制服のブレザーとは勝手が違うので窮屈に感じたが、仕方がない。

 校長の後に続き戦車道を行う訓練場へと向かう。

 その時点で、既に戦車道履修者たちが戦車の格納庫前でワインレッドのタンクジャケットを着て整列をしていた。

 水上は脇で一度立ち止まる。校長は、生徒たちの前に歩み出て説明をした。

「えー、先日話したように、今日から給仕係として、外部から転入生が来ました」

 既に並んでいる生徒の何人かは水上の方を好奇のまなざしで見ている。正直、いたたまれない。

「今日より3カ月の間、彼には戦車道関連のサポートをしてもらいます」

 そして、校長が水上を手招きする。水上は頷き、生徒たちの前に歩み出た。

「本日より、給仕係として皆様のお世話をさせていただく、水上進と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 お辞儀をすると、並んでいた戦車道履修者たちも『よろしくお願いします』と礼を返す。

 戦車道履修者たちは礼儀正しい、と言う噂はどうやら本当のようで、男である自分に対しても不審がらずにしっかりとあいさつをしてくれる。そのことに水上は若干の感動を抱いた。

 そして、顔を上げた次の瞬間、彼は、それを見た。

 並んでいる戦車道履修者の人数は結構多い。

 そんな中で、水上は見た。

 1カ月ほど前、バス停で声を掛け、同じくジョークが好きと言う事で会話に華が咲き、横浜の公園で分かれたあの女性を。

 長い金髪に黒いリボンの、あの女性を。

 

 列の中央辺りに並んでいたアッサムも、気づいた。

 今、目の前であいさつをしている青年は、あの時の青年だと。

 辺鄙なバス停で声を掛け、ジョークについて語り合い、自分の事を初めて可愛いと言ってくれたあの青年だと。

 青年が自己紹介をしてお辞儀をする。周りにいた生徒たちも、同じように挨拶をしてお辞儀をする。

 しかし、アッサムだけはその男性から目を離すことができなかった。故に、お辞儀をし忘れた。

 それを不審に思い、隣に立つオレンジペコが不安そうに聞いてきた。

「アッサム様?どうなさったのですか?」

「え?あ、いいえ、何でもないわ」

 アッサムは、普段は偶然や運命などと言った、因果関係のはっきりしないものはあまり信じないタイプだったのだが、なるほど、偶然とは起こり得るものらしい。

 この時、アッサムの隣に立つオレンジペコは、アッサムの表情がいつもと違う事に気付いていた。

(アッサム様、どうして・・・)

 オレンジペコの瞳には、アッサムの凛々しくも、

(そんなに嬉しそうな表情をしているのでしょうか・・・)

 わずかに頬を赤く染め、小さく微笑んでいる表情が映っていた。




聖グロ勢、まさかの最後、ほんのちょっとしか登場せず。

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