バトラーと私   作:プロッター

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もてなす側として

 第63回戦車道全国高校生大会の結末は、誰もが予想し得ないものとなった。

 なんと、優勝したのは、最有力優勝候補とされていた黒森峰女学園でも、昨年優勝したプラウダ高校でもない。

 大洗女子学園だったのだ。

 大洗女子学園は、20年ぶりに戦車道を復活させ、いきなり全国大会に参加してきた。

 当初、大洗女子学園は他の学校からは特に警戒されることは無かった。ほぼ素人のメンバーに、寄せ集めとも言える戦車。そんな戦力で全国大会に出るなど、無謀とも言える。

 現に、1回戦で大洗女子学園と当たる事となったサンダース大付属高校は、抽選会で対戦が決まった際、試合は勝ったも同然と万歳三唱していた。

 しかし、その1回戦、サンダース大付属高校は大洗女子学園に敗北した。

 その試合の結果は、全国大会に参加していた他の学校を驚かせるには十分すぎるものだった。

 サンダース大付属高校は、戦車の保有数が全国一で、使用する戦車も走攻守バランスの良いシャーマンが中心。さらに長射程のファイアフライに乗る砲手の腕は全国でもトップクラス。これらの情報から、誰がどう見ても大洗女子学園に勝ち目は無いと思われていた。

 にも拘らず、大洗女子学園はその戦力差をひっくり返して、サンダース大付属高校のフラッグ車を撃破し、勝利した。

 その試合内容も、プロ・アマチュア・一般人を問わず、誰もが注目するほど白熱した内容だった。

 続く2回戦、対戦したアンツィオ高校の戦車を全て撃破してこれを下し、大洗女子学園はベスト4に進出。1回戦に勝ったのはまぐれと言っていた人もいたが、この2回戦の結果を見てその認識を改めさせられることとなる。

ネットの戦車道ニュースサイトでも、戦車道連盟が発行している新聞でも、大洗女子学園の戦績は『奇跡の快進撃!』と取り上げられ、専門家も大洗女子学園の動向には目を光らせるようになった。

準決勝ではプラウダ高校と対戦。敵の包囲戦術に嵌って一時はもうダメかと思われたが、敵の与えた3時間の猶予で戦車の整備を終えて改めて作戦を考案。敵包囲網を突破して、さらに隠れていたプラウダのフラッグ車を撃破し、勝利した。

この準決勝は、プラウダ高校にとって有利な雪原での試合、加えて大洗女子学園とプラウダ高校の戦力差は倍以上という、大洗女子学園にとって圧倒的に不利な状況下で、しかも昨年の優勝校から勝利をもぎ取った事により、全国から本格的に注目を集める事となる。

 迎えた決勝戦。相手は最有力優勝候補とも言われていた黒森峰女学園。大洗女子学園との戦車の数の差は20対8。加えて、黒森峰女学園は昨年までは前人未到の9連覇を果たしていた、誰が見ても強豪校と称される学校である。

 流石の大洗女子学園もここまでか、と誰もが思っていたが、その予想は覆される。

 様々な奇策をもってして黒森峰女学園を翻弄し、さらに史上最強と謳われる超重戦車マウスを撃破し、フラッグ車同士での一騎打ち。加えて、川で動けなくなったM3リーを救うために大洗女子学園の戦車隊隊長が戦車の上を跳んで救出に向かうなど、誰もが引き込まれる試合内容となった。

 フラッグ車同士での一騎打ちで、大洗女子学園は僅差で黒森峰女学園のフラッグ車を撃破し、勝利。

 大洗女子学園は、見事優勝を果たしたのだ。

 20年ぶりに戦車道を復活させた無名校が、いきなり全国大会に参加して、強豪校を次々と打ち破り、最終的には優勝する。

 奇跡とも、伝説とも言うべき大洗女子学園の戦績は、全国に知れ渡る事となった。

 

 と、ここまでが水上の知っている大洗女子学園の概要だった。

 水上も、大洗女子学園が全国大会で優勝したと聞いた時は、開いた口が塞がらない、という表情をした。

 何せ、練習試合では僅差ではあるが聖グロリアーナに敗北し、戦い方もそこまでとは言えなかった、あの大洗女子学園がまさか優勝するなんて思いもよらなかったからだ。

 無名校が、並み居る強豪校を次々と打ち破って優勝するなんて、夢にも思わなかった。

 水上は、そんな奇跡を起こすことができ、その上ド素人とも言えるメンバーを僅か1カ月程度で戦力化するとは、大洗女子学園には化け物と評するべき人物がいるに違いない、と思っていた。

 そして今。

「こちらへどうぞ」

 水上は、大洗女子学園からやってきた5人の生徒を『紅茶の園』へと案内していた。

 なぜここに大洗女子学園の生徒がいるのかと言うと、それはダージリンが招待したからである。

 ダージリンが、大洗女子学園が全国大会で優勝したのを祝うためだ。と言っても、流石に大洗女子学園の30人以上いる戦車道履修者全員を招待するわけにもいかなかったので、代表として5人の生徒を招いたのだ。

 その5人の生徒は、水上も見覚えがあった。大洗町で行われた、聖グロリアーナ女学園と大洗女子学園の練習試合の後で、顔合わせをしたあの5人だ。

 事前にダージリンから聞いた話によれば、この5人の少女たちが、“あんこうチーム”と言われている、大洗女子学園を奇跡の全国大会優勝へと導いた立役者らしい。

 臨機応変に対応できる冷静さ、素人の高校生集団を1カ月で戦力化した育成手腕を兼ね添えている敏腕隊長。

 敵味方の戦況を俯瞰して、味方に的確な指示を下すことができる通信手。

 敵戦車の弱点を的確に判断して撃ち抜き、撃破する砲手。

 どのような局面においても素早く砲弾を装填し、また偵察行為も難なくこなす装填手。

 あらゆる地形でも抜群の操縦能力を発揮し戦車の利点を最大限に生かす操縦手。

 そのあんこうチームのメンバーが、大洗での練習試合で最後まで生き残ったⅣ号戦車の乗員だという事は、本当にわずかではあるが見当はついていた。

 何せ、あのダージリンが好敵手と認めた相手なのだから。

 大洗では顔合わせとして最低限の自己紹介とあいさつをしただけだったので、そのあんこうチームの面々がどういう性格なのかは、水上には分からない。

 おそらくだが、皆冷徹で礼儀正しく、声もはきはきとしている、言ってしまえば『ザ・軍人』とも言うべき人だらけなのだろうか、と思っていた。

 だが。

「わっ、とと・・・」

 まず、その敏腕隊長とされている西住みほだが、おどおどしてて何というか放っておけない。現に、何度も何もない場所で躓いたりしている。

「・・・・・・」

 続けて、通信手の武部沙織。なんだか熱っぽい視線を水上に向けており、正直すごくいたたまれない。

「どんなお茶菓子が出されるのか、楽しみです」

 砲手の五十鈴華。これから開かれるお茶会で出されるであろうお茶菓子を想像して、うっとりとした表情をしている。

「聖グロリアーナの戦車、この目でじっくり見てみたいです!」

 装填手の秋山優花里。聖グロリアーナの中をキラキラした目できょろきょろと見まわしている。どうやら、聖グロリアーナの戦車に興味があるようだが、残念ながら戦車道の訓練場や格納庫まで案内する予定はないので、心の中で謝っておく。

「・・・・・・」

 操縦手の冷泉麻子。ふらふらとおぼつかない、覇気がない感じの足取りで水上たちの後に続いている。放っておくと倒れてしまいかねないほど危なっかしい。

(これが、あの伝説のあんこうチーム、かぁ・・・)

 なんだか、想像していた人物像と540度ほど違っていた。

「あ、あの」

 そこで、水上のすぐ後ろを歩いていたみほが水上に話しかける。

「はい、何でしょうか」

 水上が足を止めて振り返る。

「きょ、今日はお招きいただき、ありがとうございます」

 頭を下げるみほ。別に、招いたのは水上ではないし、というか先ほど校門で出迎えた際にも言われたことなので、気にしなくても大丈夫なのだが、その考えは胸の中にしまっておき、素直にお礼を言う。

「いえいえ。皆さんとは是非ゆっくりお話をしたいと、ダージリン様が仰っていましたので」

 柔和な笑みを浮かべてお辞儀をする水上。だが、そこでみほの後ろにいた沙織が『ほぅ』と息を漏らす。

 そのことについては触れずに『紅茶の園』へとあんこうチームを案内する水上。

 数分ほど歩いたところで、『紅茶の園』の前に到着した。

「『紅茶の園』は、聖グロリアーナでもあこがれの場所で、ここを目指して入学する生徒も多いんだとか!」

 優花里が嬉しそうに説明する。事前情報のリークは偵察が得意だからか、と水上が心の中で評価し、扉を開く。

 全員が入ったところで自分も入り、先導してお茶会が開かれる部屋へと案内する。

 その部屋の前で水上が扉をノックする。

「大洗女子学園の皆様をお連れしました」

『どうぞ』

 中からダージリンの声がする。それを聞いて水上が、扉を開き中へ入るように促す。中へ入ったみほや沙織は、『わぁ・・・』と声を漏らした。

 赤い絨毯に年代物の調度品、ここまでは水上も見慣れていた。だが、今日だけは違うものがある。

それは、テーブルだ。普段はダージリン、オレンジペコ、アッサムの3人だけでお茶会を楽しむので、テーブルもさほど大きくはない。だが、今日はその3人に加えてあんこうチームの5人も加わるため、テーブルもそれに比例して大きくなっている。さらに言えば、そのテーブルの上に乗っているお茶菓子の種類も量も、普段のお茶会よりも多い。

 後で、準備をしてくれたであろうルフナやルクリリにお礼を言おう、と水上は心の中で決めた。

「さあ、どうぞ」

 水上が椅子を引いて、みほたちに座るように促す。お礼を言って椅子に座るあんこうチームの面々。

 全員が席に着いたのを確認したところで、水上は紅茶を淹れるために部屋を出た。

「水上の淹れる紅茶は、とても美味しいのよ」

「ダージリン様がここまで言うのも、珍しい事なんです」

「そうなんですか・・・」

 部屋を出る途中でそんな会話が聞こえてきて、水上は恥ずかしくなる。特に、ダージリンが『とても美味しい』と言ってくれたのは、素直に嬉しかった。

 きっと、あんこうチームのメンバーも期待してくれているのだろう。その期待に応えるために美味しい紅茶を淹れなければ。

 人数が多いため、沸かすお湯の量も多く、それに比例してお湯を沸かす時間も長くなってしまう。だが、水上は急ぐことはせず慎重に、そして繊細な動きで紅茶を淹れる。

 やがて、紅茶が出来上がると、温めておいた人数分のカップとポットをトレーに載せてお茶会の開かれている部屋へと運ぶ。

「お待たせいたしました。ダージリンティーでございます」

 水上が、席に座る8人の少女たちの下に、1つずつカップを置き、紅茶をゆっくりと注ぐ。

 全員の下に紅茶が行き届くと、水上は一礼してダージリンの後ろに控える。

「美味しそうな香りがする」

 麻子が手元にあるカップを覗き込み、紅茶の匂いを楽しむ。隣に座っている華は既にお茶菓子に手を伸ばしており、1つ皿を空にしてしまっていた。

「いただきます・・・」

 みほが控えめに紅茶を一口飲む。だが、その紅茶を口に含んだ瞬間、顔を明るくした。

「すごく・・・美味しいです」

 笑みをみほから向けられて、水上は小さく礼をする。

 みほの言葉を聞いて、沙織や優花里も紅茶を飲む。

「すごい・・・こんな美味しい紅茶、初めて飲んだかも・・・」

「私はどちらかと言えばコーヒー派ですけど、それでもこの紅茶、美味しいって分かります!」

 麻子も紅茶を一口飲むと、うんと頷く。あまり感情を表には出さないタイプなのだろう。

 隣に座る華も紅茶を飲み、またお茶菓子を一口。華の周りだけお茶菓子の減りが早い気がするのだが気のせいだろうか。一応、お茶菓子のストックは厨房にまだあるため、言えば持ってくることは可能ではある。

「また、腕を上げたわね」

 ダージリンが紅茶を一口飲んで、水上の方を振り返る。水上は小さく礼をする。水上もダージリンも、隣に座っているオレンジペコが少しムスッとした表情をしているのには気づいていない。

「いただいたティーセットで紅茶を淹れても、中々上手く淹れられなくて・・・」

 みほがしょんぼりと告げる。いただいたティーセットと言うのは、大洗での練習試合の後で渡した、聖グロリアーナの好敵手である証の寄贈用のティーセットの事だ。

「水上、教えてあげたら?」

 ダージリンが言うと、水上は首を横に振るう。

「いえ。私の紅茶の腕は、オレンジペコ様のおかげで上がったようなものです。オレンジペコ様に教わった方がよろしいかと」

「えっ!?」

 急に話を振られてオレンジペコが困惑する。

「いえ、私なんて・・・もう水上さんには及びませんよ」

「そんな事はございません」

 オレンジペコが手をブンブン振って否定するが、水上はいえいえと手を振る。

 それを見て、沙織がうっとりとした表情を水上に向けていた。

「気遣い上手で紅茶も美味しくて、優良物件じゃない!」

「沙織さん、またですか?」

 華が呆れた様子でスコーンを食べる。そろそろ、本格的にお茶菓子の補充が必要になってきそうだ。

 麻子がショートブレッドをもそもそと食べている。目つきもそうだが、もしかして眠いのだろうか?

 みほは沙織の言葉を聞いて苦笑しており、優花里もまた渇いた笑いを漏らしている。

「水上はね、いつか人に尽くしたい仕事に就きたいと思っているの。将来性も抜群よ」

 ダージリンが余計な情報を暴露してくる。水上は顔をひくひくと震わせてダージリンの方を見るが、ダージリンは気付かないふりをしている。

 そして、ダージリンからもたらされた情報を聞いて、沙織は目を輝かせた。

「へぇ・・・将来のことまで見据えてるなんて・・・すごい!」

「でも、そうですね。私たちより一つ年上で、もう将来の事を考えているなんて」

 華がキュウリの挟まれたサンドイッチを食べて呟く。

「いいな~こういう人彼氏に欲しい~」

 直球な言葉を投げてくる沙織。それを聞いて、水上は苦笑するしかない。

「本人を目の前にしてそれはどうかと思うぞ」

 紅茶を飲んで口を湿らせて、忠告をする麻子。

 沙織の隣に座る優花里も『そうですよ』と同調して、こう言ってきた。

「というか、もう彼女がいるかもしれないじゃないですか」

 ぴしり、と空気にひびが入る音がした、ような気がする。全てを知っているダージリンは、口元を抑えて笑いをこらえている。

「・・・確かにそうかも。水上さんって、優しくて、気遣いができて、人に尽くしたいっていうすごい夢を持っていて・・・いい人だとは思います。私も、素直に付き合いたいって思います」

 みほが屈託の無い笑みを浮かべて水上の事を見つめる。

 みほは、戦車に乗っていないときは引っ込み思案で頼りないという印象を抱かれる事が多々あり、それ故に友達があまりいなかった。

 そして何より、みほは天然だ。だから、自分の意見を結構ズバッと言ってくる。先ほどのように水上を称賛したのも、みほ自身からすれば普通の事だったのだが、水上はそれがなんだか照れくさくてしょうがない。

 その上、みほは水上から見ても可愛いと言える。そんな子から面と向かって付き合いたいと言われたら、誰だって勘違いしてしまいそうだ。

 だが、この時水上は、みほの方を見ていたため、これまで沈黙を貫いていたアッサムの手がプルプルと震えていて、カップの中の紅茶が波を立てていることを知らない。

「西住殿が、『付き合いたい』ですと・・・!?」

 みほの隣に座る優花里が、この世の終わりのような表情で頭を抱えている。

 麻子はこの話題に関心がないのか、もそもそとスコーンを食べていた。

 沙織の目は点になってしまっている。先ほどの優花里の『もう彼女がいるかもしれない』という言葉がショックだったのだろう。逆に言えば、彼女がいなければ本気で告白してきたのかもしれない。

 華は既に自分の周りにある皿に載っていたお菓子を全て食べ尽くし、隣に座る麻子の皿に乗っているお菓子を見つめていた。

「水上は、そこにいるアッサムと付き合っているのよ」

 ダージリンが更なる爆弾を落とす。

 紅茶を飲んで気を紛らわせていたアッサムが、盛大に紅茶を絨毯に向けて噴き出す。水上は、ダージリンの爆弾発言に動揺するのは後にして、素早く懐からハンカチを出してアッサムの口元を拭く。絨毯に飛び散った紅茶はどうするべきか。タオルを持って来て拭かなければ。

 そう思い至り、厨房にタオルを取りに行こうとする水上。ついでにお茶菓子も補充せねば。

「この前は、実に仲良さげにデートをしていましたものね」

 オレンジペコの追い打ちを受けて、水上がこける。だが、何とかして体勢を立て直して部屋を出て、早足で厨房へと向かう。

「あれ、水上さん。どうしたんですか?」

 厨房の扉を少し乱暴に開くと、ルクリリが聞いてくる。水上は早口で用件を告げた。

「タオルを用意してください!それとお茶菓子の補充も!今すぐに!」

「あっ、はい」

 ルクリリと、その場で待機していたルフナたちは、いつもと違う取り乱した様子の水上を見てただ事ではないと判断し、急いで準備に取り掛かった。

 一方、お茶会が開かれている部屋では、沙織が色を失ってしまった。

 隣に座る優花里が『武部殿~?』と、沙織の前で手を振るが沙織は反応を示さない。

 話題の中心にいるアッサムは、顔がゆでだこのように赤くなっており、この場にいる他の人物と目を合わせようとはしない。

 ダージリンとオレンジペコを横目に睨むが、2人は素知らぬ顔で紅茶を飲むだけ。この2人、いつから共同戦線を張るようになったのか。

 続いて、アッサムはチラッとあんこうチームの5人の様子を見る。沙織を除く全員が、キラキラと期待を孕ませた眼差しでアッサムの事を見つめていた。

 どうやら、馴れ初めを聞きたいらしい。そして、それを話すまで彼女たちは目を逸らそうとはしない。こういう話題に興味があるのは、年相応と言うべきか。

 アッサムは観念して、全てを話すことにし、水上は、顔の火照りが収まるまで厨房にいることに決めた。

 

 水上が戻ると、あんこうチームの面々は思い思いの顔をして水上を出迎えてきた。

 みほは、優しそうな笑みを浮かべて。沙織は、死んだ魚のような目をして。優花里は、ニヤニヤと意味ありげな笑みを浮かべて。華は、お茶菓子が補充されて満足したのか嬉しそうな笑みを浮かべて。麻子は、その眠たげな瞳にわずかな光を灯して。

 水上のいない間に何があったのかは、項垂れているアッサムを見れば想像に難くない。

 とにかく話題を変えようと、水上は思い至った。

「・・・遅ればせながら、全国大会での優勝、おめでとうございます」

 水上が頭を下げると、みほも頭を下げる。

「ありがとうございます・・・。でも、優勝できてよかった・・・」

「負ければ私たちの学校が、無くなっちゃうところだったんですからねぇ」

 優花里の言葉を聞いて、水上は思い出す。

 アッサムが調べたところによると、大洗女子学園は、全国大会で優勝しなければ廃校になってしまうとのことだった。

 その理由は、大洗女子学園は近年生徒数も減少しており、特に目立った実績も無い。莫大な維持費のかかる学園艦の体制を見直し、学校の統廃合を決定した文部科学省が、実績の無い学校から順番に統廃合を進めることにしたのだ。そして、真っ先に槍玉に挙げられたのが大洗女子学園だったのだ。

 大洗女子学園は元々戦車道が盛んであったため、もしも戦車道の全国大会で優勝すれば、廃校を免れる可能性がある、と文部科学省から言われて、大洗女子学園は戦車道を復活させ、全国大会に参加した。

 それで、全て合点が付く。20年ぶりに急に戦車道を復活させたのも、いきなり強豪校に練習試合を挑んだのも、そして無謀にも全国大会に参加したのも、全ては廃校を撤回しようと全国大会で優勝するためだった。

「・・・聞きました。優勝しなければ大洗女子学園は廃校になってしまう、と」

「はい・・・・・・」

 みほが俯く。ダージリンは、そんなみほを見てこう言った。

「こんな格言を知ってる?」

「?」

 みほを含め、あんこうチームの全員がダージリンの方を見つめる。オレンジペコはチラッとダージリンの方を見て、アッサムはようやく顔を上げてふぅ、と息を吐く。

「『人間は真面目に生きている限り、必ず不幸や苦しみが降りかかってくるものである。しかし、それを自分の運命として受け止め、辛抱強く我慢し、さらに積極的に力強くその運命と戦えば、いつかは必ず勝利するものである』」

「ベートーヴェンですね」

 オレンジペコが補足する。対して、あんこうチームのメンバーはキョトンとした表情を浮かべていた。

「あなた達は、廃校と言う運命と戦い、勝利を勝ち取り、そしてその運命を変えた。常人にはとてもではないけれど、できない事よ」

「はぁ・・・・・・」

 みほはまだ、理解が追い付かないようだ。

 そこで水上は、先ほどの仕返しとしてこんなことを言う。

「要するにダージリン様は、『皆頑張って廃校を撤回させたのがすごい、私にはできない』と言っているんですよ」

 ダージリンがじろりと水上の方を見るが、水上は素知らぬ顔で笑みを浮かべるだけ。そして、陰でアッサムがぐっと親指を立てているのに気づいているのは水上だけである。

「ダージリンさん・・・ありがとうございます。さっきの言葉、しっかりと覚えておきます」

 みほが勢い良く頭を下げて、思わず頭をテーブルにぶつけてしまう。その様子を見て、一同は笑みを浮かべる。

 それから、他愛も無い話をして楽しいひと時を過ごす、ごく一般的なお茶会が始まった。

 

 お茶会が始まったのは1時過ぎ。そして、気づけば5時過ぎと、日没も近くなっていた。

 そのタイミングで、あんこうチームのメンバーはお暇する事となった。

 今いる場所は、連絡船の搭乗口。ダージリン、オレンジペコ、アッサム、水上の4人が、あんこうチームのメンバーを見送っている。

「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」

「私も、楽しかったわ。またいつか、一緒にお茶会を楽しみましょう?」

 みほとダージリンが握手をする。

 やがて、手を放してみほたちは連絡船へと乗り込んでいった。

 姿が見えなくなったところで、ダージリンたちは踵を返し、学校へと戻ることにする。その道中で、ダージリンが水上の方をちらっと見てから話し出す。

「水上」

「はい」

「あなた、随分と言うようになったじゃない」

「・・・何のことでしょうか」

 水上はすっとぼけるが、本当にわからないわけではない。ダージリンの格言を要約して、ダージリンの気持ちを代弁した時の事を言っているのだろう。

「とぼけないで頂戴」

 ダージリンは当然それに気付いているので、少し強めに指摘する。あの時、自分の本音が第三者によって明かされたのは、ダージリンにとっては相当恥ずかしいものだったからだ。

 だが、水上は、微笑を浮かべてごまかそうとする。

「先ほどは、あんこうチームの皆さまがダージリン様の仰りたいことがよくわかっていないような感じがしましたので、私が分かりやすく説明させていただいたまでです」

 それに、と続ける。

「私とアッサム様が恋仲であることを暴露したことに対する報復、と受け取っていただければ」

「給仕として報復とはどうなのかしら?」

「一種のジョークですよ。ジョーク」

 ダージリンが問い詰めるが、水上はのらりくらりとその問いを躱していく。

2人の険悪とも取れるやり取りを聞いて、オレンジペコは気が気じゃない。対して、アッサムはじつに微笑ましそうに2人のやり取りを眺めている。

「・・・・・・」

 ダージリンがぷうっと頬を膨らませる。ふくれっ面もダージリンがやると絵になるのが何とも言えない。

「あなた、中々面白い性格をしていたのね」

「お褒めの言葉と、捉えさせていただきます」

 水上が笑い、ダージリンもまた笑う。

 微妙にギスギスした雰囲気を醸し出しながら、4人は聖グロリアーナ女学院へと戻って行った。




アニメ1話を見ていて思ったのですが、
みほは結構天然なところがあると同時に、自分の意見は結構ズバッと言っちゃうタイプなんだと思います。

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