バトラーと私   作:プロッター

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最終回なのにダイジェストっぽいとは・・・



添い遂げたい

 パタリと、俺は読んでいた本を閉じる。

 その本のタイトルは、『面白いジョーク集』。随分と久々に読んでみたが、やはり面白かった。

 ジョークは、いつだって俺の事を笑わせてくれる。気が沈んでいる時も、読んでみたり、ふと思い出してみれば、自然と笑みがこぼれる。笑顔になれば、気持ちも上向きになっていく。そんなジョークの性質が、俺は好きだ。

 そして何より、この本には思い出がたくさん詰まっている。

 この本を持っていたからこそ、あの時、あのバス停でアッサムと出会った時、会話のきっかけが生まれて、話が盛り上がった。

 俺がこの本を持っていなかったら、あそこでアッサムと話をすることは無かっただろうし、それから仲が進展して今に至る事など、あり得なかった。

 この本は、俺とアッサムを結んでくれたと言っても過言ではない。

 俺は椅子から立ち上がって、その本を本棚に戻す。本棚には小説や哲学書、雑誌などが並べられているが、一角にはさっきまで読んでいたようなジョークが書かれている本が並んでいる。

 俺はふと部屋を見渡す。

 アパートとマンションの中間くらいの広さがある部屋。暖色系のカーテンと壁紙、そしてありふれたような家具。ここが、俺の住む家だ。

 窓の外には、勤めている聖グロリアーナ女学院の校舎がわずかに見える。学校からは近いので、割と朝は余裕をもって出勤することができている。

 本棚の隣にある机に目を向ける。

 そこには、いくつもの写真が飾ってあった。

 結婚式の写真、イギリスでの新婚旅行の写真、そして高校生の時に聖グロリアーナを去る前にみんなで撮った写真。

 その中にある、結婚式の写真を手に取って、式に至るまでの日々に思いを馳せる。

 

 聖グロリアーナから潮騒高校に戻った水上は、聖グロリアーナでの出来事の余韻に浸る事無く、受験勉強に没頭することとなった。

 スクールカウンセラー及び顧問教師に必要な資格、免許を取得することができる大学を探し、担任にも相談して、その大学に受かるために必死で勉強をした。

 そして、学校からの推薦も貰い、どうにか希望する大学に進学することができた。

 勉強が人並みに苦手だった水上がそこまで頑張れたのは、将来を約束されていたというのもあるし、なにより、将来結ばれる人に、結ばれるに相応しい人になりたいと、水上が願っていたからだ。

 アッサムもまた、推薦を貰って、戦車道が強い大学へと無事進学することができた。まあ、戦車道で綿密な作戦を幾度となく立ててきた、頭脳明晰なアッサムが大学受験程度で落ちるはずはないか、と水上は思っていたが。

 アッサムは、その夢であるプロを目指すために、大学でも戦車道を嗜んだ。

 聖グロリアーナで名砲手を務めていたという事もあり、評価は上々。戦績も悪くは無く、大学選抜チームに選ばれたのは大学2年生だった。

 水上はと言えば、時間が合えば、アッサムが参加する戦車道の試合は全て見に行った。そこで水上は当然、アッサムを、そしてアッサムの所属するチームを応援した。

 水上の想いが届いたのかどうかは分からないが、水上が見に行った試合では、アッサムは必ず敵戦車を撃破し、勝っていた。

 そんなアッサムが、大学4年生の時、プロリーグ入りが決定したと告げた時は、水上は比喩表現抜きで飛び跳ねて喜んだ。そして、アッサムの手を掴んでブンブン上下に振った。

 はしゃぎすぎ、とアッサムが注意してきたが、強くは止めてこなかった。

 それから間もなく、水上はスクールカウンセラーになるために必要な資格と免許を取得することができ、その時は今度はアッサムが、水上に抱き付いて喜びを表現してくれた。

 そこで、水上とアッサムは、お互いに、相手の両親、家族に挨拶をしに行くことに決める。

 将来結ばれることを誓い合ったとしても、親と話すというのは避けては通れない道である。それは、水上が聖グロリアーナでプロポーズをした時から、アッサムがプロポーズを受け入れた時から、覚悟していた事だ。

 水上がアッサムの家族に挨拶に行った際は、警戒された。

 アッサムが聖グロリアーナに通っていた時点で分かっていたのだが、アッサムの家は率直に言ってお金持ちだった。そんな家の娘を、庶民の男が嫁に欲しいなんて言ってきたら、誰だって警戒するに決まってる。

 しかしアッサムが、水上を取り巻く環境、将来の仕事を語り、その上で『私はこの人と結婚する以外、考えられない』と力説し、アッサムの家族は水上の覚悟を聞いたうえで、了承してくれた。

 その時の水上の顔は、泣きそうになるくらい歪んでいたと、アッサムの兄は言っていた。

 水上の家族は、アッサムと結婚したいと水上が言った瞬間、腰を抜かしていた。

 一応、聖グロリアーナで彼女ができたと伝えてはいたのだが、実際に会ってアッサムの美貌に仰天してしまったらしい。

 水上の両親は、水上の結婚に対する覚悟と、将来のビジョンを改めて問うてきた。水上は、大学を受験する際にも将来の事を話したのだが、それを改めて告白し、その上で水上も、『アッサムと結婚する以外、考えられない』と告げた。水上の両親は、大きく頷いて認めてくれた。

 そしてアッサムに、『こんな息子ですが、よろしくお願いします』と深々とお辞儀をした。

 そして、アッサムが大学を卒業してプロリーグに入り、水上が聖グロリアーナに正式に勤めることが決まった後で、水上とアッサムは入籍。結婚式を挙げた。

 結婚式は地元の横浜で、イギリス風のガーデンウェディングだった。結婚式には、水上とアッサムの家族、友達、そしてさらには、聖グロリアーナの皆が祝福してくれた。

 ダージリンも、オレンジペコも、ルクリリも、ローズヒップも、ルフナも。皆が、水上とアッサムの結婚を、祝ってくれた。

 ブーケトスで、アッサムの投げたブーケを素早くキャッチしたのはローズヒップ。オレンジペコから『がっつきすぎです』と注意され、ローズヒップが『なぜか動いているものを見るとつい衝動的に・・・』と言い訳じみた言葉を聞いて、一同は笑った。

 

 俺が聖グロリアーナに勤め始めてから随分と年月が経つ。

 分かってはいたが、スクールカウンセラーと言うのはそんなに甘くはなかった。

 相談に来る生徒の相談に1つ1つ向き合って、共に解決しようとするのは、想像以上に骨が折れる。時には、『家族の期待が重くて・・・』や『彼氏が欲しい』など、俺の手に余る問題じゃないか、という悩みさえ持ち込まれる事が多々ある。そして、俺は自分で言うのもなんだが、人の感情に感化されやすい。時に一緒に泣いたり、一緒に怒ったりすることもあって、余計に気疲れをすることもまた多くあった。

 だが、それでも、俺の心が折れる事は、挫折することは無かった。

 自分の夢だった『人に尽くす仕事』に就いているのだから。

 そして何より、今の自分には、支えてくれる人がいるから。

 気が付けば、アッサムが訪ねてくる時刻が迫っていた。計算が得意なアッサムが言うのだから、事前に伝えた時間通りに来るだろう。

 今一度部屋を見渡して、目に見えるゴミが落ちていないのを確認すると、一先ずホッとする。

 聖グロリアーナに勤めている以上、俺は聖グロリアーナ学園艦から離れるわけにはいかない。

 逆に、アッサムはプロ選手であり、各地で試合を行っているため、常に移動を続けている学園艦で生活するというわけにもいかない。

 結果的に、俺とアッサムは離れ離れで生活をしていた。

 だが、毎日電話は欠かさないし、2週間に1、2日は俺かアッサムがそれぞれの家を訪れている。全くというのは嘘だが、寂しくはなかった。

 今日は、アッサムが俺の家に来る日だ。

 俺はキッチンに向かい、食器棚から、ダージリンから貰ったティーセットを取り出す。

 カップの数は、1つ増えていた。

 続いてケトルを取り出して、水を汲み、コンロに火をかけてお湯を沸かす。

 ほぼ毎日、俺は自分で紅茶を淹れて飲んでいる。聖グロリアーナの戦車道顧問で、紅茶の淹れ方を指導している手前、自分の紅茶の味を落とすわけにはいかなかったからだ。それに、紅茶を飲むと気持ちが穏やかになる感じがする。

 研鑽と、安らぎのために、俺はいつも紅茶を嗜んでいた。

 さて、茶葉はどうしよう。

 お湯が沸いたところで、玄関のチャイムが来客を告げる。

 やっぱり、時間通りだ。

 俺は玄関に小走りで向かい、玄関のドアを開けた直後、足元に小さな衝撃が伝わる。

 アッサム譲りの長い金髪に、青いリボン。だが、子供ながらに常に優しく他人と接するこの少女は、俺とアッサムの子に間違いはなかった。

「お父さん、ただいま!」

「ああ、おかえり」

 俺は足元に抱き付いてきた自分の娘の頭を優しく撫でる。

 そして、その後ろに立っている人物を見て笑みを浮かべる。

「お帰り、アッサム」

 結婚する際に、俺はアッサムの本当の名前を教えてもらった。

 だが、俺は今も妻の事を“アッサム”と呼んでいる。

 だって、この“アッサム”という名前には、たくさんの思い出が詰まっているのだから。

「ただいま、進」

 逆に、俺は婿入りしているため、姓はもう水上ではない。だから、アッサムが俺の事を名前で呼ぶのは当たり前と言えば当たり前だ。

 親以外に自分の名前を呼ばれるというのは最初は慣れなかったが、アッサムはもう立派に家族で、自分の妻だ。名前で呼ばれる事に何の遠慮がある。

 俺は、アッサムと娘を家に迎え入れる。

「ちょうど、お湯が沸いたところなんだ。紅茶でも飲む?」

 俺が振り返りながらアッサムに尋ねると、それが当然であるかのようにアッサムは。

「もちろんよ」

 そして、娘は。

「お父さんの紅茶、美味しいから大好き!」

 嬉しいことを言ってくれる。

 そんな大事な娘のために、そして日頃プロとして何かと気苦労の多い妻を癒すために、美味しい紅茶を淹れてあげよう。

 

 

 熱い、アッサムティーを。

 

 




これにて、アッサムと水上の物語は終わりです。
長い間、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

1話のあとがきにも書きましたが、自分は他の方が書いたガールズ&パンツァーの恋愛小説を見て感銘を受けて、自分も書きたいと思うようになり、こうしてアッサムの物語を書くに至りました。

初めての恋愛小説ということで、紆余曲折、試行錯誤、ああでもないこうでもないと悩みながらの出来栄えになりましたが、いかがでしたでしょうか。
中には『これ必要?』なんて話や表現、描写もありましたし、
読者の皆様の期待応えられたかどうかは、今でも不安でなりません。

こんな作品に、評価をしてくださった方、感想を書いてくださった方、
本当にありがとうございます。とても嬉しかったです。

次回作は、また近いうちに出すかもしれないです。
大洗や黒森峰にも主役として書きたい子はいるのですが、女子高なので今回のように期間限定の付き合いとなってしまい、似たような感じになってしまうかもしれません。
まだ、誰の話を書くかは未定ですが、その時はよろしくお願いします。

最後になりますが、読者の皆様、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
それでは最後に、この言葉を。
ガルパンはいいぞ。
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