そういえばホワイトデーのお返しのマカロンには「特別な人」って意味があるらしいですね
カチ、カチ、カチ、と時計の音だけが部屋に響く。私は苛立ちながらそれを聞いていた。
来ない。
彼が訪れてくるのをこうして待ち続けて、どれくらい経ったか。私が珍しく自分の部屋にずっと居ると言うのに、アイツと来たら。
まぁ、別に? 今日が3月14日だからって何かあるわけじゃないし? 自分の部屋にずっといるのも、アイツが私を見つけやすいようにとかじゃなく偶々そういう気分だからだし?
……ただ、まぁ、一応、バレンタインにわざわざチョコレートをあげたワケですから?
「……期待しちゃったじゃない、馬鹿」
分かってはいた。
アイツは、いつも周りに誰かが居て。それは彼の人間性が成せることで。だからそれに惹かれるのは私だけじゃなくて。私にとってはアイツしか居ないのに、アイツにとって私は沢山の中の一人で。
バレンタインだって、きっと私が渡したものは、他の沢山に埋もれてしまったんだろう。
所詮は、贋作に過ぎないのだ。
そこで不意に、ノックの音が飛び込んで来た。
「ジャンヌ、居る?」
そして、待っていたその声が聞こえてきた。
私は速くなった鼓動に気づいて、できる限り平静を装ってドアを開けた。
「何か御用ですか?」
「えっと、ジャンヌに渡したいものがあって……入ってもいい?」
「……まぁ、どうぞ」
彼を招き入れて、私はベッドに腰掛けた。彼もそれを見て隣に座った。
「それで、渡したいものとは?」
「あ、うん、今日ってホワイトデーでしょ。だから、これ」
そう言って彼は、ラッピングされた小さな箱を取り出した。
「ホントはもっと早く来るつもりだったんだけど、みんなにお返ししてたら遅くなっちやって」
「……ほんとに遅いですよ、まったく」
私は溜め息を吐きながら、それを受け取った。……顔が赤いの、バレてないわよね?
「……えっと、もしかして、待っててくれた?」
「ハァ?! そんなワケないでしょ! 誰がアンタなんか……!」
「……そっか……そっか。ごめんね」
彼はちょっと嬉しそうに微笑んだ。
「あーもう! 他に用は無いんでしょ?! それならもういいでしょ!」
何か見透かされたようで悔しくて、彼を部屋の外へと押しやった。
「わかったわかった、もう出てくよ」
「ホントにもう!」
そうやって彼を追い出す。
「……ありがと」
それだけ言って、彼に顔を見られないようにドアを閉めた。
「まったくもう……」
「……中身、何かしら」
「これは……マカロン?」
「……ふーん、こんなのわざわざ作ったんだ」
「……アイツが意味とか知ってるとは思わないけど、一応調べてみましょうか」
「……ッッッ!落ち着きなさい私、偶々だから、えぇわかっていますとも、偶然これを選んだだけのことに決まっていますから」
「……今日は寝られそうにないわね……」