マキアちゃん逆行   作:テトテトテト
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第1話

 

 

 

 

 

 

 塔の窓から暖かな日差しが差し込んでいる。

 光はヒビオルの布に当たって反射し、部屋の中でキラキラと虹色の輝きを放ち、とても幻想的だ。

 きらめく日差しと、部屋の中心にある大きな機織り機。昨日と変わらない、そして明日からも変わらないだろうその光景は、このイオルフの里ではずっと昔から見られてきた。

 

 イオルフ自体が変化の少ない種族であり、さらに閉鎖的であるため、ここでは様々なものの変化が少ない。イオルフ達は15を過ぎた頃から身体的変化がなくなり、そこから何百年と生きる。そして毎日ヒビオルを織り、悪く言えば単調な、よく言えば平穏な日々を過ごしていく。これも、変わりばえのない風景だ。

 

 そうやってはるか昔から今まで連綿と、それこそ伝説に語り継がれるほどのいにしえから続いてきたイオルフの生活だが、その中で一度だけ、大きな変化があった。人間達がイオルフの長命の血を求めて里に襲撃してきたのだ。

 

 イオルフの住むこの地は、普通に探していては見つからない場所にあり、そのおかげでそれまで辿り着いた人間などの他種族はごく僅かだった。

 しかしその人間達は、イオルフ達と同じ太古から存在する古代生物であるレナトを従えていた。

 レナトは翼を持った巨大な竜のような姿をしていて、人間達はレナトに乗って空からイオルフの里を探すことで、里を発見することに成功したのだ。

 

 イオルフ達は長命というだけで、戦う力は強くないし、そもそも争いごとを好まなかった。そのため、里は人間達によってあっさりと蹂躙され、里の長老であるラシーヌを含む多くのイオルフが拐われたり、また殺されたりした。

 

 それからしばらく経ち、イオルフ達を襲撃した国、メザーテは滅びた。

 理由は様々だが、大きなものは2つ。1つは、メザーテを強国足らしめていた古代生物レナトが、原因不明の病である赤目病によってただ一体を残して死んでしまったこと。もう1つは、とある1人のイオルフが暗躍したことにより、メザーテに対して複数の国が結託して戦争を仕掛けたことだ。

 その戦争でメザーテは敗北し、他国に占領された。同時に、捕らえられ王妃とされていたイオルフも残ったレナトと共に逃げ出し、イオルフの里に帰っていった。

 

 伝説の存在達は、再び伝説の中に姿を消したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリアルに別れを告げて里に戻ったマキアとレイリアは、バロウにも力を借りて、方々に散ったイオルフ達を見つけては里に帰していった。

 里の再建にマキア達が尽力し、そして里に元の賑わいが帰ってきた頃には、もう40年もの月日が経っていた。

 その頃、マキアは風の噂でエリアルがもう長くないということを知った。マキアは最期に一目エリアルの姿を見たいと、エリアルが子供の頃ミドやラング達と過ごしていた場所を訪ね、そしてエリアルが空の向こうへ旅立つのを見送った。

 

 マキアは里を再建させた功績で里の長に任命されていた。そのときのマキアはまだイオルフの中でも若いほうだったので辞退しようとしたが、ほぼ強制的に任されてしまった。

 ただ、マキアは長老であるラシーヌが戻ってくるかもしれないと思っていたので、それまでの代役程度に考えていた。

 

 その考えが違うことに気付かされたのは、マキアが100歳の誕生日を迎えたときだ。

 ラシーヌはマキアがまだ15のときには既に400歳を超える高齢だった。いくらイオルフが長命な種族であるとはいえ、里への襲撃から既に80年以上経っている。襲撃から逃げ延びていたとしても、寿命が持つとはとても思えなかった。

 マキアは大きな責任感を自覚したが、閉鎖的なイオルフの里では大した問題が発生することはなく、外の世界で過ごした短い時間のほうがよほど大変だった。

 マキアが長となったことで、立場が1番上になり、対等に話す者がほとんどいなくなった。それによりマキアはまたひとりぼっちになってしまうのではないかと恐れたが、その心配は杞憂であり、マキアは孤独に苛まれることはなかった。レイリアがいたからである。

 

 マキアの幼馴染の1人であるレイリアは、メザーテで起きたことを全て吹っ切り、以前のように明るく振る舞うようになっていた。

 しかし全く同じというわけではなく、以前とは少し変わったこともある。レイリアはマキアに普段からべったりとくっついて離れないようになったのだ。

 ヒビオルを織るのに邪魔になるので初めはどけようとしたマキアだったが、その度にレイリアが寂しそうな表情を見せるので、どうしても邪険に扱うことは出来なかった。

 レイリアがメザーテでのことを吹っ切ったとはいえ、すぐに忘れられる訳がない。そうするには、レイリアは多くのものを失いすぎた。恋人だったクリム、レイリアを助け出そうとした仲間達、そして、レイリアのたった1つの希望だった娘のメドメル。

 マキアも義理とはいえ息子を1人持った身だ。エリアルがマキアの元を離れるときには、エリアルとの約束を破って泣いてしまったほどだ。

 レイリアはメドメルの近くにいたのに、合わせてすらもらえなかったのだ。その悲しみは計り知れない。結局、最後までまともに会話することも出来なかった。

 

 レイリアはマキアが嫌がるのを辞めたことで、さらに引っ付くことになった。マキアとしてもレイリアが嫌いなわけではないので、されるがままになっていた。

 そのことがマキアの孤独を癒していたのは、思わぬ副産物ではあったが。

 

 そんなこともあり、マキアは孤独になることなく日々を過ごせていた。里が襲撃される前と同じ、停滞しているが、平穏な日々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永い月日が流れた。

 マキアはかつてのラシーヌと同じくらいの年齢になっていた。

 里には、マキアよりも年上のものはいなくなった。みんな、寿命で穏やかに旅立っていった。

 10年程前に、レイリアも他界した。相変わらず里で1番の美女であり続けたレイリアには多くの求婚話があった。しかしメザーテでのことを内心では引きずっていたのか、今となってはその理由は誰にもわからないが、亡くなるまで誰かと寄り添うことはなかった。

 なおレイリアが心中で、

 

(男なんてもう懲り懲り。クリムが死んだとき、私はもう誰とも添い遂げないと決めたわ。それに結婚なんてしたら、せっかく無防備に体を晒してくれているマキアにくっつけなくなるでしょ⁈)

 

 と考えていたことは当然マキアを含め誰も知らない。

 レイリアは亡くなる前の日まで元気にマキアに付いて回っていた。亡くなったときも、マキアの腕を抱きしめたままだった。その穏やかな表情といつも通りの格好に、身体が冷たくなければマキアでもレイリアが亡くなったことが信じられなかったほどだ。

 レイリアの葬儀は盛大に執り行われた。里を再建した2人のうちの1人であったレイリアはイオルフの民からの信頼も厚く、葬儀の手配は簡単だった。

 多くのイオルフ達が泣いている中、マキアは一滴たりとも涙を流さなかった。お転婆で底抜けに明るい、男勝りで快活だったレイリアを、涙で送るのは相応しくないとマキアは考えたからだ。

 ただ、マキアはその日久しぶりに、自分達が何と呼ばれているのかを思い出したのだった。

 

 

 

 

 

「長老様ー。」

「………」

「長老様?」

「っ、なぁに?」

 

 ボーッとしていた意識が浮上する。声がした方向を見ると、1人の少女がマキアに話しかけてきていた。

 その少女は訳あって両親がいない。偶然にも幼い頃のマキアと同じ環境で育っていた。

 マキアは少女に運命じみたものを感じ、自分がラシーヌにされたように、愛情を持って親代わりになるように接してきた。

 

「わたしたちはどうして、”別れの一族”と呼ばれているの?」

「それは…」

 

 マキアはかつてラシーヌにそれについて教わった。ほかの種族よりも長く生き、そのため多くの別れを経験するから”別れの一族”。親がおらずひとりぼっちだったマキアは、ラシーヌにここにいれば本当の意味でひとりぼっちになることはないと言われた。

 そして、外の世界で誰も愛してはいけないとも。誰かを愛せば、本当の意味でひとりぼっちになってしまうと。

 

 マキアもそれを疑っていたわけではなかった。現にエリアルが軍に行ってしまったときは本当の孤独を感じたし、エリアルが空の彼方に逝ったときも、心が悲しみで溢れた。

 しかしそれを経験しても、マキアは誰かを愛することがいけないことだとは思わなかった。愛した人と別れることになっても、自分がその人を覚えている限り、ヒビオルは続いていく。

 マキアはラシーヌの受け売りだけではなく、それを少女に教えることにした。

 

「愛することは、悪いことなんかじゃない。愛したことを覚えている限り、その人のヒビオルも続くの。私達は長い時を生きる。当然、その時の流れの中で記憶も磨耗してしまうけれど…それでも、完全に忘れることはない。なぜなら私達はイオルフの民。今まであったことは、全てヒビオルに書いてあるもの。」

「…難しくて、分かんないよ…。」

「今は、それでいいよ。私もそうだった。それでもいつか、いつか分かるときが必ずくるよ。」

 

 うまく言えたかなぁ、と内心苦笑しつつ少女に教える。

 案の定少女はあまり分かっていない様子で、首を傾げていた。

 

「ふふ、ほら、もうお仕事に戻りなさい。向こうでお友達が待ってるよ?」

「ほんとだ!いけない、わたし行ってきます!」

「いってらっしゃい。」

 

 外へ駆け出していく少女を見送ったのち、マキアは自らも外に出る。

 少女は今年で13になった。まだまだ子供だが、あと2年もすると肉体の成長は止まる。あの事件があったときのマキアよりも幼いが、少女はマキアよりもはるかに優秀であり、教えることはもうほとんどなかった。そして、今伝えたことを以って完全になくなった。

 

 

 

 マキアはレナトのところへたどり着く。この世界にもうこの一体しか存在しないレナトは、赤目病にかかることはなく今日この日まで生きていた。レナトはマキアよりも早くに生まれたことは間違いないので、マキアよりも年上だった。

 マキアはレナトのそばに近寄って座り込むと、レナトにもたれかかった。

 

「ねぇ、覚えてる?レイリアと一緒にメザーテを出た日のこと。私は覚えてるよ、うん、忘れるわけない。」

 

 レナトは僅かに身じろぎしただけで、マキアの問いには答えない。もっとも、言葉は通じないのだが。

 

「色々あったよね。エリアルが亡くなったり、バロウがイオルフを辺境で見つけてきたり、レイリアが私にくっつくようになったり…」

 

 マキアは、自分の命が残り少ないということがぼんやりと分かっていた。

 最近、意識がはっきりしないことが多かった。ちゃんとした原因は不明だったが、マキアは寿命が近いのだろうということを感覚的に悟っていた。

 

「私は、幸せだったよ。もう、言い残したことは何もない。あなたは、どうだった?メザーテを出られて良かった?それとも、迷惑だった?」

 

 マキアの声がだんだん小さくなっていく。

 

「あなたも、幸せだったなら良かったと思うんだ…」

「グオォォ…」

 

 レナトはマキアの問いを理解したのか、静かに声を上げる。

 マキアはそれを聞いて、表情を緩めた。

 

「そっか、なら良いんだ。」

 

 マキアは体から力を完全に抜いた。自分の知識や技術は少女に全て伝えた。細かい諸々のことは既に自室の机の中の遺書に書いてある。もう言い残すことはなかった。

 

 

 

 

 

「あぁ、でも…」

 

 

 思い残したことは、あった。

 

 

 

 

「約束、2回も破っちゃった。」

 

 

 

 

 母親は、泣かない。

 

 それは、エリアルとした、かけがえのない約束。

 

 

 

 

 

 

「エリアルに、面と向かって、謝りたかったかなぁ…」

 

 

 

 

 そして、マキアの意識は穏やかな闇の中に落ちていく。

 

 最期に、レナトの目が美しく不思議な色に光ったように見えた気がした。

 




見切り発車なのでこれからの展開も終着点も決めてません。





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