すいません、感想嬉しすぎて急ピッチで書き上げたのでクオリティ下がってるかも…
ガタンゴトン シャー
機織り機が稼働する音だけが部屋に響いている。それを操るのはもちろんマキアだ。
かつてミドと一緒に行って仕事を紹介してもらった場所に、今度は1人で行って事情を話した。
マキアがイオルフであるということは、一目見ただけで店主のダレルにはバレていた。だが、イオルフのおる布は高く売れるとのことで、マキアの正体を明かさないことを約束してくれた。
「ふぅ…」
布の作成が一息ついたマキアは、静かに眠るエリアルのほうを見た。エリアルはマキア自作の揺りかごに揺られている。
エリアルと再会した日、マキアはバロウにテントから1番近い村を聞き、ここに辿り着いた。
記憶にある日々でも、適当に歩いていたら着いたくらいには近かったので、ミドのいるヘルム農場の周辺になるのは当たり前だった。
前に来たときは、本当にエリアルとその身一つでやって来たので、ミドに保護してもらわなかったら間違いなくエリアルもマキアもあっさり死んでいただろう。
しかし、マキアは今回テントにあった使えそうなものを根こそぎ持ってきた。バロウにもお金を借りた。
そうして何とか生活費を捻出し、村の外れの家を借りて生活し始めた。
それが、5日ほど前のこと。
少しずつ慣れてきたマキアには余裕ができ、現状について再び考えることができるようになった。
前と、今回。
マキアは記憶の中の日々が夢だなんてやはり思えなかった。だから、実際にあったこととして考えることにした。
しかし、今生きているここも現実としか思えない。だから、”今”も現実だと考えることにした。
矛盾しているが、マキアはこう考えていた。
「時間が、巻き戻っている?」
そう考えると、ストンと腑に落ちた気がした。今生きているこの世界とは別の、400年分の記憶がある。そして今、その記憶のとおりに物事が進んでいる。
これならば今も記憶の日々も、どちらもが現実感を伴っていることに説明がつく。
若干こじつけかもしれないが、頭がよくないことを自覚しているマキアではそれ以上考えても良い答えは出ないと思ったので、ひとまず自分が記憶を保持したまま時間が巻き戻った説を信じることにした。
現状は時間が巻き戻ったからであるとして、なぜマキアだけが前回(便宜上400年生きた日々の記憶を前回とマキアは呼ぶことにした)の記憶を持っているのか。
何の根拠もない推測だったが、マキアには一つの確信に近い予想があった。
「私が、エリアルに謝りたいって願ったから…?」
前回の、最後。
目を閉じる寸前。
確かにそう言ったことを覚えている。
そして目の前にいたレナトの瞳が、見たこともない色に染まったことも。
「あなたが叶えてくれたの?」
マキアはレナトの瞳と同じ色の青い空を見上げて、最後の一体になってしまったレナトに想いを馳せた。
「ど、どうですか?」
「うーむ……」
マキアは自分で織った布を売りにきていた。店主であるダレルがその淡いオレンジ色の布をじっくりと見ている。
「ふむ、なかなか良いな。」
「本当ですか?ありがとうございます!」
「ほら、今回の分だ。」
ダレルが腰につけた袋から金を取り出して手渡す。前回ではミドの世話になっていたため、エリアルのことも手伝って貰えたが、今は一人だ。エリアルはまだ生まれてそれほど経っていない赤子なので、色々と手間がかかる。
なので、仕事も定期ではできない状況だった。前回は一定数の布を納めて、それに対する報酬を月毎に貰うという形式を取っていたが、今回は布を納める度に手渡しして貰うようにしていた。
「生活は、大丈夫か?髪を変えてイオルフであることは分からないとはいえ、お前はまだその歳だ。色々と奇異の目で見られることも多いだろう。」
「心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫です。私はまだ、1人でもやっていけます。」
マキアに仕事を紹介してくれたダレルは、幼いマキアが1人で、それも血の繋がりのない赤子の面倒を見ていると聞いてから、何かと心配してくれる。
それは単に金を生み出してくれる鶏に対しての心配だったのかもしれないが、子育てで精神的に疲弊していたマキアには気遣いだけでもありがたかった。
「お前の面倒を見てもいいという奴もいる。ミドというんだが、やはり紹介したほうが…」
「いえ、大丈夫です!!」
「そ、そうか。まぁ、辛くなったらいつでも紹介するから、遠慮なく言いな。」
ダレルが出した名前に、思わず強く反応してしまったマキア。急に大きな声を出したマキアに驚いたのか、ダレルがそれ以上追求してくることはなかった。
今回、ミドには会っていない。
こうして1人でエリアルの面倒を見て、前回ミドの助けがどれだけありがたかったかをマキアは実感した。
エリアル用の離乳食を自分のものと別に作るのも大変だし、何よりエリアルは夜泣きする。その対処も、前回はミドと交代で行なっていた。他にも、エリアルの下着を替えたり、エリアルが突然熱を出したりと、様々なことに1人で対応しなければならなかった。
村に来てからそろそろ2ヶ月ほどになるが、そんなことが何度もあり、いっそミドを頼ってしまおうかと考えたことが何度もあった。ダレルが何度も紹介してくるあたり、村での姿をミドにも見られていたのだろうとすぐに分かった。
だが、ミドに頼ることはしなかった。
マキアには分かっていた。頼れば、ミドは必ず応じてくれるということが。それほどまでに、優しい人だった。今回、頼ってもいないのに気にかけてダレルに申し出てくれたことからも察せる。
だからこそ、ミド達にこれ以上迷惑をかけたくなかった。前回では、自分の子と同じようにエリアルやマキアに接してくれたことを覚えている。マキアに母親の手本を見せてくれたことも覚えている。苦しかったときに、黙って話を聞いてくれたことを覚えている。マキアが一緒に暮らしていたせいで、一部の心無い村人から良くない目で見られていたことも知っている。
全て前回の話で、今回はミド達に会っていない以上何も迷惑はかけていない。それで良かった。マキアがミドを頼らなければ、ミド達が奇異の目で見られることもない。
ただ、エリアルがある程度成長したらどうにかしてラング達とは会わせるつもりでいた。あの兄弟との出会いがエリアルに与えたものは大きいとマキアは考えたからだ。
そこにマキアがいる必要はない。それを考えると少し悲しかったが、寂しくはなかった。彼らと過ごした日々は、記憶の中に刻まれている。
「大丈夫ですから、本当に…これ以上、迷惑かけられない。」
「誰が迷惑かけてるって?迷惑も何も、まだ話したこともないだろう。」
「そうだけど…っ⁈」
突然聞こえてきたダレル以外の声に思わず反応してしまったが、驚いたのは誰が声をかけてきたか分かったからだ。
「あんたみたいな子供が、遠慮するもんじゃないよ。それとも、あたしじゃ頼りないってか?」
「おいミド、いつ入ってきた。」
「今さ。それより、なんだい迷惑かけたくないって。もともと子供なんてのは、大人に迷惑かけてなんぼってものさ。遠慮なんてしなくていいんだよ。」
(ああ、ミドだ。何も変わってない…。貴女のその優しさに何度救われたかわからない…)
「な、何で泣いてるんだ。ほら、母親が泣くんじゃないよ。」
ミドがマキアの目から溢れてくる涙を拭っていく。それでも一向に止まる気配がなかった。
(貴女に会ってしまえば、頼りたくなる。その優しさに、溺れてしまいそうになる。だから、会いたくなかったの…)
泣きじゃくるマキアをミドは抱きしめる。優しく背中を撫でさする手が、マキアの涙腺をさらに緩ませる。
「あっ、貴女が優しいからぁ、わた、私はまた頼ってしまうって、また迷惑かけちゃうって、うぁぁ…」
「また、ってのは何のことか分からないけど、いいんだよ、迷惑かけて。ダレルから話は聞いてるよ、その子、自分の子じゃないんだろ?それなのに1人で育てて、偉いよ、あんたは。子供が子供を育てるなんて無理って思ってたけど、立派に母親やれてるじゃないか。」
「わたしが、母親…?」
「そうだよ。たった1人で子供を守って、仕事して子供の世話をして。それで泣き言を言わない。これで母親って言わないなら、なんていうんだい?」
ミドのような母親になりたい。
ずっとそう思ってきた。目標にしていた。真似をしてきた。
そんなミドから、立派に母親をやれていると言われた。
嬉しくないわけがない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「おー、よしよし。大変だったねぇ。」
ミドはマキアが泣き止むまで、しばらく抱きしめた態勢のまま過ごすこととなった。
(前回に比べて、さらに涙もろくなっている気がする。)
亡くなってしまった人と再会する度に泣いているので、そう思ってしまうマキアだった。しかし、前回泣かなくなったのはラングやエリアルと約束した後なので、元々は泣き虫だった。そのため涙もろくなったというより、精神が退行していると言ったほうが正しい。
マキア本人はもともと泣き虫だったということを都合よく忘れているが。
あの後、結局ミドの世話になることに決定させられたマキアは、またミドの農場に間借りすることになった。
ミドやラング達には、自らがイオルフの民であることを明かした。隠しきれる自信がないというのもあったが、それ以前に、大恩のある彼らに正体を隠すということ自体が耐えられなかった。
「本当に良かったんですか?私みたいな訳ありを匿うなんて、ミドも変な目で見られることに…」
「一度言ったことを覆すなんて、女が廃るだろ?大体、今更1人や2人増えたところで、そんなに変わんないよ!」
それからは前回のような暮らしになった。ただ、ダレルやミドがうまく立ち回ってくれたのか、奇異の目で見られることは減った。
マキアはミド達のおかげと考えているが、マキア自身の努力もある。前のように人の視線に一々びくびくすることなく明るく挨拶を返したりしたので、次第に周囲からも認められたのだ。
奇異の目で見られることは減ったが、視線に晒されることは増えた。例えば、ミドの作ったチーズを届けに行ったときは、
「あんた、頑張ってるねぇ。あの子は元気かい?」
「はい、おかげさまですくすく育ってます。」
「あんたの所のチーズは他とは一味、いや二味違うからねえ。」
「ありがとうございます!来週も、よろしくお願いします!」
(おい、あの子、ミドの所に居候してるって子だろ?)
(ああ、知ってる知ってる。あの歳で子持ちなんだってさ。)
(頑張ってるよなぁ。それに…)
(それに…なんだ?)
(儚げで…なんか可愛いよなぁ…)
(あぁ、分かる…助けてあげたくなるっていうか…)
「?」
「ほら、あんた達はさっさと仕事に戻らんかい!」
「げっ、バァさん⁈」
「やべ、戻るぞ!」
「全く…」
というように、主に男からの視線が増えていた。
マキアは視線を向けられていることには気づいていたが、その意味には気づかなかった。前のように蔑むような視線ではなかったので、あまり気にすることはなかった。
その無防備さも相まって、村の男達の間で密かに人気になっているマキアだった。
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