活動報告にも書きましたが、話をすると進めます。
ほのぼのを期待していた方には申し訳ないのですが、めちゃめちゃシリアスです。
あと、一部表現がくどいかも知れないです。ボキャ貧の筆者でほんと申し訳ないです…
それではどうぞ。
早朝、ヘルム農場に向かって馬車が駆けてくる音がした。
農場で生活する人々の朝は早く、夜明けとほぼ同時に仕事が始まる。ここに来て3年ほどになるマキアも例外ではなく、鶏の鳴き声が聞こえる前に起きることにもすっかり慣れてしまった。
「こんな時間に馬車?」
「珍しいな。何だろ?」
しかしそんな農場の住人であるマキア達をして、この時間に馬車を見かけることはそうそうない。
なにせこの村の先には森しかなく、隣の村はかなり離れていて馬車を使ってもそんなにすぐ来れるわけではない。日が昇ってまだ間もない今の時間に馬車がくるということは夜通し走って来たということであり、言い方は悪いがこんな何もない村になぜか急いで来たということでもある。
よって、正体不明の馬車にマキアと居合わせたラングは必然警戒することとなる。
しばらくして馬車がミドの家の前に止まり、馬車から1人の人物が出てくる。
少し浅黒い肌に、マキアの髪と同じ鏡月の色をした短いひげを生やしている。頭に巻いたバンダナは、本来の髪の色を隠すためのもの。朝日が逆光になって見えづらいが、近くまで来るとその瞳が金色で縁取られていることが分かった。
マキア達の前にやってきたのは、イオルフと人間の血を半分ずつ引いた、ラシーヌの異母兄弟であるバロウだった。
「よう、マキア。あんときの赤ん坊は元気か?生きてりゃ3つになるはずだよな?」
「バロウ!久しぶり!」
「マキア、知り合いか?」
「うん、エリアルと出会った日、その場に居合わせた人なの。イオルフとも交流があって、それで色々と融通してもらったの、お金とか。」
3年ぶりに再開したマキアとバロウだったが、双方ほとんど姿は変わっていなかった。マキアは純粋なイオルフなので当然のことだし、バロウも半分とはいえイオルフの血を引くことに成功しているのだ。そのため純粋なイオルフよりも成長した外見だが、もうこの見た目のままかなり長い時を過ごしている。
再開するまでに変わったことなど、マキアの髪の色くらいのものである。
「へぇー…あんたもイオルフなのか?」
「ま、半分だけどな。一応隠してるから、内緒にしといてくれよ。」
「ああ。でも、ここの村の人達は大体マキアがイオルフだってこと知ってるぜ?知った上で、外から来る人達には隠してる。マキアは、村の人からも好かれてるから。」
「へぇ?…いい人達なんだな。」
「うん。私には、勿体無いくらい。」
前回とは違って村人に愛想よく対応し、元気にミド達の手伝いをしたり、たまにヒビオルで出来たテーブルかけをおすそ分けしたりしていたマキア。
村での評判が良くなった頃に絶妙なタイミングでミドやダレルが村人達にマキアの正体をそれとなくバラし、その結果、マキアがイオルフであるということは周知の事実になった。
しかしこれは村の中だけの話で、村人達は決して外に口外しない。口外すれば、余計な厄介ごとを村に運ぶ原因になるし、そして何より楽しそうに働き、一生懸命エリアルの世話をするマキアを悲しませたくなかった。
マキアもミドから正体をバラされたことを告白されたときは驚いたが、今では感謝している。そのおかげでマキアは窮屈さを感じることなく生活できているのだから。
楽しそうに談笑していたマキアとバロウだったが、バロウが真剣な表情に変わったことでマキアも態度を改めた。
「それでマキア。俺がここに来たってことは、分かるよな?」
「うん。頼んでたことが分かったかひと段落したってことでしょ?」
「その通りだ。ゆっくり話したいんだが、いいか?」
「あっちの部屋で待ってて。私は仕事終わらせて来ちゃうから。」
そう言うとマキアはさっさと歩いて行ってしまう。バロウはマキアの部屋で寝ているエリアルを観察し始めた。
ラングは1人会話に置いてきぼりにされてやきもきしつつ、仕事を再開することにした。
「はい、どうぞ。」
「お、ありがとよ。」
マキアが仕事を一区切りさせ、バロウにお茶を出した。マキアはバロウとテーブルを挟むようにして対面に座り、自分の分のお茶も淹れた。湯気の立つお茶を冷ましながら一口飲んだバロウは、早速本題に入ることにした。
「さて、そんなに時間があるわけでもない。早速だが、報告からさせてもらおうか。」
「よろしくお願いします。」
マキアはバロウと出会ったあの日、バロウに頼みごとをしていた。
それはイオルフの里の調査。メザーテに襲われたイオルフ達がどうなったのか、その動向をバロウに調べてもらった。
マキア自身が調べたかったが、赤ん坊のエリアルを抱えての調べ物は無謀だったし、マキアよりも商人であるバロウのほうがそういった諜報に近いことをするのに向いていた。
前回はエリアルを抱えて行くのに精一杯だったが、よく考えなくてもあの場でバロウに色々と援助をお願いできたはずだった。今回はそれを活かしてバロウに半分無茶振りに近い頼みごとをしたのだった。
バロウ自身は同じイオルフのよしみ、ということで特に悩むことなく聞いてくれたが。
「まずは里について。現在里にはイオルフの民は1人もいない。全員逃げたか捕まったかした。だが幸い、死んだという話は聞いてないな。」
「本当⁈よかった…」
「逃げた何人かに会ったが、お前のお陰だって言ってたぞ?マキアがいち早く逃げるように言ったから、それに反応して逃げられたイオルフも多いらしい。」
「そっか…無駄じゃなかったんだ…」
襲撃があった日、マキアは前回よりも少し早いタイミングで接近するレナトに気づくことができた。そしてクリム達に里の人達への指示出しを任せた後、マキア自身も逃げるように言って回ったのだ。
無駄かもしれないとは思っていても、少しでも里の民が生き残る可能性を増やしたかった。前回は、あのときの襲撃で多くのイオルフが命を失った。
未だに、真っ赤に燃え盛るイオルフの里を夢に見る。マキアが塔に閉じ込められたときに感じた無力感は計り知れなかった。また自分は何も出来ないのか。絶望で目の前が真っ暗になりそうだった。そのときはエリアルを守ることに気持ちを切り替えたため絶望しきることはなかったが、それでも今日まで里の人々を見捨てたことはマキアの心を苛んでいた。
しかしマキアが限られた時間の中で出来た最大限の努力は無駄ではなく、こうして今結果となって返ってきた。その事実に、マキアは目から落ちそうになる雫を堪えた。
「喜んでいるところ悪いが、まだ話は終わってない。捕まったイオルフ達はメザーテに運ばれていった。その中にはお前さんの幼馴染の…」
「レイリアとクリムも入っている…でしょ?そして、レイリアは王子の妃にされようとしている…」
「お、おう。その通りだ。けど、なんで知ってんだ?」
「レイリアは、里で1番の美人だったから…そうなっても不思議じゃないかなって。」
本当は前回の経験から知っていただけだが、そんなことを言っても頭の残念な子扱いされるだけだ。
いくらマキアが頭が良くなくても、そのくらいは分かっていた。なのでマキアはその辺りは推測としてぼかすことにした。
「…レイリアは本当は逃げることもできたらしいんだが、自分が捕まる代わりに他のイオルフ達を逃がすことを条件にしたらしい。」
「…レイリアらしいね。それで、他のイオルフは?」
やんちゃで男勝りで、それでいて自由だったレイリア。そんな面ばかり見られがちだったが、レイリアは優しい女の子だった。
里にいた頃も、引っ込み思案で控えめだったマキアを仲間外れにすることはなかったし、マキアが長老になってからも、亡くなるその瞬間までマキアをひとりぼっちにすることはなかった。
「大多数はレイリアのおかげで逃げることができた。しかしイオルフ達は帰る場所を失った。今は長老の元で固まっているのが何人かと、あとはバラバラだ。みんなひっそりと過ごしているよ。」
「でも、長老様も、無事だったのね…」
「ああ。俺も手伝ったし、どうにか困窮することなく暮らせているからそこは安心しろ。だが、本題はここからだ。」
バロウはそこで一拍置き、マキアのほうに身を乗り出して耳打ちするように言った。
「クリム以下数名のイオルフが捕らえられている。」
「!!」
「心当たりがあるみたいだな。理由は多分お前さんの考えたとおりだ。クリムは逃げ出した後、仲間を連れてレイリアを奪還しようとした。それが大体ひと月ほど前のことだ。しかし作戦は失敗したらしい。参加したクリムを含む6人のイオルフ達は、メザーテの地下牢に閉じ込められている。」
それは、前回では起きていなかったことだった。前回もクリムはレイリア奪還を試みたが、1回目ですらエリアルが6歳にのとき、つまりは3年後の話だ。明らかに計画が前倒しになっている。
「どうして…」
「さあな。ただ、気持ちは分からんでもない。クリムはレイリアの恋人だったらしいからな。すぐに取り返したくなるのも、当然っちゃあ当然だろう。」
マキアは、これはイオルフ達が襲撃によって命を落とさなかったことで起きたのだと直感的に分かった。
イオルフの数が減らなかったことで、クリムの元に賛同するイオルフがすぐに集まったのだろう。クリムは元来面倒見のいい性格で、人望も厚い。人がいる状況で人を募れば、計画に必要な人数など簡単に集まったはずだ。それによりレイリア救出が早まり、そして失敗した。
「その計画の、詳しいことは知らない?」
「そこまではな。だが聞いた話だと、レイリアは既に王子の子を身ごもっているらしいぞ?」
「そんな…!」
早すぎる。マキアは顔から血の気が引いていくのを感じた。前回では、1回目の奪還作戦のときにまだお腹が大きくなっていない程度だったはずだ。つまり、レイリアの妊娠も3年は早いことになる。
「まずい知らせはまだある。」
「え…?」
「クリム達が処刑されることになった。どうやら2回目は許してくれないらしい。レイリアが助命を頼んでもすげなく断られたそうだ。」
処刑。
その言葉がマキアの頭の中でぐるぐると回る。
処刑って、何?磔にされて石を投げられたり、火で炙られたり、首を大きな斧で切り飛ばされたりする、アレのこと?
あまりに現実味のない話だった。
「おいマキア、しっかりしろ!混乱してるのは分かるが、そんな場合じゃねえだろ。」
「っ!そうだね。冷静にならないと、冷静に…」
バロウに一喝され、混乱から脱することに成功したマキア。事態を受け入れられた訳ではないが、無意識のうちに事実から一旦目を逸らし、思考の安定を図っていた。
「助けなきゃ。クリムを、レイリアを、みんなを…」
「処刑の日は、今日から数えてちょうど1ヶ月後のことだ。考えてる時間はない。行くならすぐにでも行かねえと、間に合わなくなる。」
「見捨てるなんて、できるわけない。」
塔に閉じ込められて何もできなかったあの日とは違い、今マキアは自由に動ける。さらに、クリムやレイリアを助け出すための手段も、マキアにはない訳ではなかった。
前回の、クリムに幽閉されていた日々。マキアはエリアルと離れ離れになり、エリアルが織ってくれたヒビオル1つしか持ち出せず、何をすることも禁止され、死んだように毎日を過ごしていた。
そのときにクリムが、聞いてもいないのに話したのだ。マキアと別れた後、自分達だけでレイリアを助け出そうとしたこと。それに失敗したこと。仲間も皆殺されたこと。
そのとき王宮に侵入するために使ったルートも全てマキアに喋っていた。数ヶ月もかけて警備のルート、使われる人員、警戒の薄くなる時間帯を割り出したこと。それを踏まえた上でどうやって侵入したら王宮の一室に閉じ込められたレイリアを救出できるのか、作戦を練りに練ったこと。
あのときは狂ってしまったクリムに、相槌も打たずただ悲しそうな瞳を向けるだけだったマキアだが今となってはその情報を聞いておいて良かったと思っていた。
苦しくて、忘れたくても忘れられない日々だったが、その記憶はこの時のためにあったのだとマキアは確信した。
レイリア達を助ける手段も、自由に動ける体もマキアは持っている。だが、1つ。マキアにはないがしろにできないものがあった。
「エリアル…」
エリアルはまだ3歳だ。母親であるマキアに甘えたい年頃である。前回でも旅を始めたのはエリアルが6歳になってからであり、それですら危険なことはあった。3歳のエリアルを連れてメザーテに行くことはできない。
しかし、レイリア達の救出はかなり危険だ。色々と知っているマキアだが、当然道半ばで死ぬ可能性も十分にある。
前回はクリム達が1番危険な役割を担ったことでマキアに対する負担はそれほどでもなかったが、今回は違う。バロウやイオルフの民もいくらか手伝ってくれるかもしれないが、どんな作戦になろうが確実に要になるのは前回クリムから直接話を聞かされたマキアだ。
不確定要素もある。
マキアは当然死ぬつもりはなかったが、自分のそばにいることでエリアルが危険に晒されることだけは死んでも御免だった。
「エリアル、って名前なのか、その子。」
「うん。エリアルは、連れていけない。危なすぎるもの。本当は母親の私が守らなきゃいけないのに、今回だけは、私と一緒にいることが1番危険だから…」
「そうか…預かってもらうのか?」
「うん…ミドなら、預かってくれると思う。ここにいる限りは、私との関わりが分からなければ安全だから…」
エリアルと離れ離れになる。それはマキアに身を裂くような痛みを与えるものだった。だが、レイリア達を見捨てることもできない。前回、エリアルを失ってからは家族も同然だった女の子。そして、結局助けることができず、絶望のまま生涯を終えた男の子。その2人の幼馴染を助けられるかもしれないのに見殺しにするなど、出来るはずがなかった。
子を守ることが母親の役目だが、今回ばかりは近くにいることが子の危険になる。だから、離れるしかない。
それが、マキアが精一杯考えたなりの答えだった。
いつも評価、感想ありがとうございます!
ただ、無言低評価は流石に傷つくのでやめていただきたいです。その際はアドバイスとか書いてもらえればと思います。
これからもマキアちゃん逆行をよろしくお願いします。