艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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今回は戦力分析要素強めでちょっと複雑な内容です。
めんどかったら流し読みしてね。

演習があった話 77話
https://syosetu.org/novel/151202/77.html


第159話 突撃!隣の鎮守府4

 吹雪率いる吹雪型3人娘からの鯉住大佐についての報告を受け、頭を抱えてしまった鈴木大佐であったが……よく分からない状態をそのままにしておくわけにもいかない。

 別に海域解放などの作戦行動というわけでもないが、まるで情報がまとまっていない状態で事にあたるわけにもいかないとの考えからだ。

 そういうことで鈴木大佐は、執務が終わった夜に提督にしかできない調査方法で鯉住大佐について洗ってみることにした。

 

 何をしたかと言えば、日本海軍データベースの再調査である。

 

 それくらい先にしておけば、という気もしないでもないが、そもそも吹雪に聞き込みを頼んだ時点ですぐに噂が本当かどうかわかると思っていたのだ。

 まさかこんなによく分からない状況になるとは思ってもみなかった。

 

 

「ふむ。任務の履歴についてはおかしなところは見当たらないな……異例の海域解放スピードと、欧州派遣の件を除いてだが」

 

 

 基本的には、日本海軍データベース上で誰でもいつでも閲覧できる部分には最低限の情報しか載せられていない。これは防諜上当然と言えば当然である。

 

 なので、提督の間ではあまり閲覧する者は多くなかったりする。

 もちろんざっくりとした鎮守府情報は手に入るので、気になったところは押さえておこうという意識は全鎮守府で共通だが。

 

 しかしながら、それだけだとデータベースを公開しておく意味が薄い。

 あくまでこれはだれでも閲覧できる情報というだけで、ちゃんと申請を出せばFAXで大本営から子細な情報が載った資料が送られてくるようになっている。

 いわば『もくじ』のようなものだ。

 

 とはいえ手続きが大変に煩雑なので、よっぽどのことがないとそこまでする者がいないというのも事実。提督は日々の業務でなかなか大変なのだ。

 特に鯉住君のところみたいな中小規模鎮守府相手ならなおさら。

 

 鯉住君のところの鎮守府情報には目を見張る部分が多いものの、全海域解放している鎮守府は他にもある。

 わざわざ面倒くさくて日頃の執務以外の時間を割かなくてはいけない申請書類をこしらえるなら、各第1鎮守府などの有名で大規模な鎮守府にしてしまおうとなるのは仕方ないことである。

 

 

 ……そういうことで、わざわざ新興の鎮守府である鯉住君のところの資料を取り寄せようとする提督はほぼいなかった。ゼロに近い。

 

 鈴木大佐は今回必要に迫られて、大本営に申請資料をFAXし、その返信を受け取った。

 内容は鯉住君のところの艦隊が大本営の第1艦隊と戦った時の演習詳報だ。

 

 

「……そもそも対外鎮守府の演習記録が1つしかないという時点で、だいぶ異常だな。普通に運営していれば半年に一度くらいは演習の機会があるんだが」

 

 

 鯉住君の鎮守府の演習記録はただひとつしかない。

 同じラバウル基地でなく大本営相手というのもかなりおかしいが、その少なさはかなり異質である。

 とはいえ公開されている情報としては、『対 横須賀第1鎮守府(大本営) D敗北』のみであるので、たいして珍しい結果ではないが。

 

 しかし、だからこそ鈴木大佐は、わざわざ取り寄せた詳報に面食らった。

 

 

「これは……何から何までおかしい。……皆の意見を聞いた方がいいか」

 

 

 演習の詳報は、そのありきたりな結果とは裏腹に、中堅である鈴木提督でも驚かされるようなものだった。

 これはひとりで押さえておく情報ではない。そう判断した鈴木大佐は、急遽第1艦隊のメンバーを招集することとした。

 

 

 

・・・

 

 

 

 鈴木大佐の招集に応じて、第1艦隊メンバーは会議室に集合した。

 みんな非番の日に緊急の呼び出しを食らったのだが、そういったケースもままあるので不満そうにしている顔は見当たらない。

 

 ちなみに第1艦隊メンバーは、比叡改、那智改、衣笠改、五十鈴改二、蒼龍改、祥鳳改である。

 

 

「皆、非番だというのに招集してしまってすまない。よく集まってくれた」

 

「まぁ、そのこと自体は構わないが……いったい何の用事だ?

この那智含め、第1艦隊の面々を集めるなど。なにか緊急の任務か?」

 

「そだよ提督。せっかく祥鳳と一緒に比叡さんにおよばれしてたのにさー」

 

「非番の日でも緊急出撃はあるものなので、私は気にしていませんが……」

 

「比叡としても問題ありません! 任務最優先ですから!」

 

「楽しんでいたところすまないな。それに緊急出撃というわけでもない」

 

「それだったらもっと切羽詰まってるもんね。

むしろ衣笠さんは、切羽詰まってないのに呼ばれた理由が気になるなー」

 

「五十鈴も気になるわ。なんとなく察してるけど、話してちょうだい」

 

 

 

「うむ。実は鯉住大佐の件でな」

 

 

「「「 ああ、やっぱり 」」」

 

 

「なんだ、息があっているじゃないか。皆の予想の通りだよ」

 

 

 どうやらみんな鯉住君のことについてだろうと察していたようだ。

 ちょっと前まで吹雪型3人娘が色々聞き込みしていたので、それに関係していると考えるのは当然と言えば当然である。

 

 

「それで、わざわざこの那智たちを呼んだからには相応の情報があるのだろう?」

 

「うむ。皆、これを見てくれ」

 

 

 鈴木大佐はA4が5枚ほどになっているレジュメを全員に配る。

 それは鯉住君の鎮守府が大本営第1艦隊と演習した時の戦闘詳報だった。

 

 ちなみに大本営のメンバーは

 大和改、扶桑改二、木曾改二、加賀改、瑞鶴改二甲、伊58改。

 

 鯉住君の鎮守府メンバーは

 叢雲改二、天龍改二、龍田改二、初春改二、大井改二、北上改二。

 

 

 ……その資料を読み込んでいく第1艦隊メンバーは、次第に眉間にしわを寄せていく。

 

 

「……なぁ、貴様。これはなんというか……信じられないのだが」

 

「だろう?」

 

「ひえぇー……大本営第1艦隊の本気メンバーですよ、多分これ……

あの戦艦大和がいますし、加賀と瑞鶴の正規空母コンビもいますよ」

 

「加賀さんと瑞鶴がすごいのもそうだけどさ、艤装がヤバくない?

どれもこれも最高品質のやつなんだけど!?」

 

「ですね……ネームド航空隊が何部隊かいますし、戦闘機のバランスも良い。

生半可な航空隊編成では、制空権を獲られた上で決定打を加えられてしまいます」

 

「祥鳳が今話に出したけど、問題は制空権なのよ。

水雷戦隊にとって最大の敵は制空権。空からの攻撃に対抗できる手段は対空射撃くらいだもの。

対空に自信のある五十鈴でも、制空権喪失状態での艦載機相手は絶対したくないわ。

そんな鬼門の艦載機を、片端から撃墜することで対処するなんて……とんでもない実力差がないとできない、ごり押し中のごり押しだわ」

 

「そうそう。なんでそんなごり押しができるの、って話なのよね。衣笠さん信じられないんだけど……」

 

 

 各々が戦闘詳報に対しての意見を述べる。

 概ね『これ意味わかんないんだけど』という結論に落ち着いているが、それは当然である。

 そう感じる理由を、自身の考え含めて鈴木大佐がまとめる。

 

 

「私が何か見落としていないかとは思ったが、そういうことでもなさそうだな。

……そう、この演習結果はおかしなところばかりだ。

そもそも、艦隊の編成からしておかしい。駆逐艦の改二が2隻もいるなど……この規模の鎮守府では普通ありえないことだ」

 

 

 艦娘の練度は戦闘経験を通して向上するのが普通である。決して戦闘のない遠征任務では戦闘のセンスは磨かれない。

 駆逐艦というのは基本的には非戦闘員扱いされる場合が多い。なので任務の多くは、危険度が少なく頻度は多い近海哨戒に絞られる。

 

 そういうことで駆逐艦の戦闘の練度は、かなーり上がりにくいのだ。

 駆逐艦の改二がいる鎮守府など、一部の大規模鎮守府のみ、しかもいても2,3隻だけである。

 

 中小規模鎮守府に何隻も居ていいものではない。

 

 

「そして装備。雷巡の2隻が、必須装備ともいえる甲標的を積んでいない。

1鎮守府に雷巡が2隻もいる時点で相当おかしいのだが、その貴重な雷巡に入手が難しくもない甲標的を用意していないはずがない。これはどういうことだろうか?」

 

「うーむ……貴様の言う通り、この戦力で甲標的を手に入れていないということはあるまい。とすると……意図的に積んでいない?」

 

「甲標的積まないメリットなんて、五十鈴にはまるで思いつかないけど」

 

「んー……そもそも雷巡というか、球磨型の面々というか、大井と北上はねぇ……かなーーーーり気難しいって聞くから……

衣笠さんも前の鎮守府で軽巡北上と仲間だったことあるけど、つかみどころがわかんない性格でさ。

だから、その辺りがもしかして関係してるのかも?」

 

「性格の問題で有効な艤装を避けているということですか?」

 

「祥鳳の言う通りになっちゃうなぁ。そんなことないと思うけど、それ以外で考え付かないから」

 

「うーん……わかんない。雷撃の威力を少しでも上げるため? にしてはデメリット大きすぎるよね。提督はどう考えてます?」

 

「それが見当つかないから皆を呼んだのだが……やはりわからないか」

 

「戦艦の視点からすると、たしかに甲標的を捨てての魚雷3か所装填の破壊力は、一発大破の危険が高まりますね。

大戦艦である大和の装甲なら一発大破まではないかもしれませんが、それでも中破は免れないはずです」

 

「しかし比叡、甲標的の超長距離雷撃のメリットを越えられるものか?」

 

「この演習でラバウル第10の目的は、一撃にかけての旗艦大破だったようですから、あり得ない話ではないかと。

……制空権喪失の状態で、潜水艦と雷巡木曾の雷撃、艦載機の先制攻撃、大和の超長距離砲撃を避けながら前進することを考えると、少しでも長距離での戦闘手段は欲しいと思いますが」

 

「いやいや、甲標的どうこう以前にそれ全部回避して前進とか普通に無理でしょ?

ていうか甲標的以上にさ、正規空母の私的には、制空権完全に獲れてるのに瑞鶴の艦載機がほとんど壊滅させられてるの信じられないんだけど」

 

「そこもまた不思議なところだな。この艤装の性能差でその結果とは……

そもそも天龍しか対空装備を積んでいないというのに」

 

「提督もそう思うわよね。対空が得意な五十鈴としても、とてもじゃないけどこの結果は出せないわ。流石の欧州派遣艦というところかしら。

……実際に会ってみるのが楽しみになってきたわね」

 

 

 今回ラバウル第10艦隊がとった戦略は、おせじにもスマートとは言えないものだった。

 火力全特化のゴリ押し。一発でもいいのを貰えばそこで戦闘敗北という、ギャンブル性の高いもの。

 

 もっとうまくやれば勝利も十分狙えただろう。

 具体的には、昼戦を無難にこなし夜戦に持ち込む、潜水艦の対策を分厚くしてさっさと大破させて条件勝利する、など。

 

 それを選択しなかったのは、決して短慮からということではないはず。

 これだけの練度の艦娘を多く従える提督であればその程度はわかるはずだ。

 

 

「甲標的を積まなかった理由は分からんが、水雷戦隊が真正面から空母機動部隊に立ち向かうというというのは愚行でしかない。わざわざそんな作戦を採用した理由はいったい何なのか……

……とにかくも、異様な艦隊の実力にちぐはぐな杜撰な作戦。どう判断したものか……」

 

「そうだな……こうやって部外者だけで考えていても分からん。

どうだ貴様、我ら第1艦隊と鯉住大佐の部隊で演習をしてみては?」

 

「……なんだと? ふむ……」

 

「今回の訪問は挨拶程度のものだと言うではないか。

ならば時間に余裕はあろう。演習をすることもできるのではないか?」

 

「不可能ではない、とは思うな。那智からの提案、皆はどう考える?」

 

 

「五十鈴も那智に賛成よ。この詳報を読んでラバウル第10に興味が湧いたわ」

 

「衣笠さんも賛成かな。単純に実力ある部隊との戦闘経験は積んでおきたいし」

 

「比叡は鯉住大佐の悪行をハッキリさせたいですね! 実際に戦闘して所属艦娘のことを理解するのは有効かと! ハイ!」

 

「いやー、比叡さんはそう言ってるけど、私は鯉住大佐ってそんな悪者じゃないと思うなぁ……あ、私蒼龍はどっちでもいいです。みんながその気なら付き合うよ」

 

「全員その気ですね。祥鳳もその案に賛成です。

大本営第1艦隊の艦載機を機銃だけで壊滅させた腕前に、今の私がどこまで通じるか見ておきたいです」

 

 

「そうか。それでは鯉住大佐にもその旨打診しておこう。あちらの予定もあるだろうから、実現させられるかはわからんが。

本当に演習を行った際に醜態を晒すことがないよう、今から各自調整をしておくように。

なにせ相手は大本営第1艦隊相手に肉薄した艦隊だ。新人の鎮守府だと侮ることなく、こちらが胸を借りるつもりで臨むこと。わかったか?」

 

「「「 了解! 」」」

 

「うむ。それでは私は鯉住大佐と調整をしておく。以上、解散」

 

 

 ぞろぞろと会議室を退室する艦娘たちを見送りながら、鈴木大佐は思考を巡らせる。

 

 鯉住大佐の噂は良いものから悪いものまでピンキリ。鎮守府運営は実に良好だが、艤装パーツの調達方法が不明という大きな謎がある。

 艦隊の実力は異常なほど高く、一方、演習で採られた作戦は杜撰の一言。その作戦が悪手だと知りながら高練度の艦娘が意見具申せずに従ったのは何故か?

 甲標的という有効な艤装があるにも関わらず使用しなかった理由、夜戦装備を積んでおきながら昼戦にこだわった理由、標準的な性能の機銃しか積んでいないのに艦載機を壊滅させることができた理由……まるで理解できない。

 

 ……これ以上は考えても仕方ないだろう。

 せっかく本人が出向いてくれるというのだ。自分をもっと高めるチャンスでもあると捉え、理解できないところは遠慮なく確認することにしよう。

 

 

 そんなことを考えながら、自身も会議室を退室していく鈴木大佐なのであった。

 

 




今日はもう一本、年末スペシャルを投稿する予定です(年始スペシャルになるかも……)

Twitterでヒロイン候補アンケート取ったんだけど、キレイに票が割れてるんだよなぁ……どうしよっかな

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