転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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大学が始まったことでテンションがダダ下がりだった作者。
「ああ、今日も投稿しないと…」
前回の話を投稿。
夕飯を食べてまたのぞく。
尊敬している作者様から感想が届く。
「ひゃっはー!尊敬してる作者様から感想来てる!テンション下げてる場合じゃねえぜ!ん?フランちゃん回を待っていた?よろしい、ならば私のフランちゃんへの愛を見せてやらねば!」
そんなテンションで書き上げた今回の話。どうぞ。




温かな存在(フラン視点)

 

 

…我に返る。

正気に戻るたびに私を襲う鈍い頭痛。

いらいらする。この痛みにも、襲ってくる狂気に耐え切れず、狂って暴れてしまう自分自身にも。

 

部屋を見渡すと、いつも通りボロボロだった。

壁や天井には大きな傷が走り、本棚は崩れ、人形は原形をとどめていない物の方が多い。

 

こんなだから、私はお姉さまと、美鈴と、パチュリーと、小悪魔と、そして、咲夜と一緒にいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お姉さまは昔、自分の部屋の隣に私の部屋を作ってくれたけれど、私はそれを断った。

だって、私の能力と狂気は、この館で一番強いお姉さまさえも危険にさらす。

本当は一緒にいたかった。たった二人の姉妹だから。

でも、私はこの暗い地下室に閉じこもることを選んだ。

ここは館で一番頑丈なところで、私が暴れても大丈夫だから。

パチュリーに頼んで私の力を抑える魔法を地下室全体にかけてもらった。

パチュリーはその頼みを聞くと、苦虫を噛み潰したような顔になって、「本当にいいの?」と聞いてきた。それでも頼みこんだらさらに苦い表情になったけど魔法をかけてくれた。

 

後は私が自分の狂気と戦うだけ。狂気を自力で抑え込むことができればきっとみんなと一緒に暮らすことができる。

そう思って様々な方法を試した。

 

――時には部屋の隅でただただ狂気に耐え続けた。

――時にはパチュリーに魔法を教えてもらって理性を保とうとした。

――時には自分を縛りつけて体を動かせないようにした。

 

でも、駄目だった。

狂気はいつでも私を侵食して、理性を溶かして私を凶行へと走らせる。

 

最初は希望があった。

次の方法なら、きっといつか、そうやって自分を慰めることができた。

でも、いつしか気づいてしまった。どうしようもないって。きっと、死ぬまで私はこのままなんだって。

そのことに気が付いたらもうダメだった。

暴れる頻度は多くなり、そのたびに大好きな家族が傷ついていく。

きっと私はやけっぱちになっていたんだと思う。

 

そんな時だった。

彼女が美鈴に連れられてここに来たのは。

 

 

『きょうからここでおせわになります、いざよいさくやです。よろしくお願いします』

 

 

最初は無駄に多いメイドがまた一人増えただけだと思っていた。

でも、彼女は他のメイドとは違って、私の部屋にしょっちゅう来た。

妖精メイドは私を怖がって全然近づかないのに。

 

彼女が来るのは朝と夜の一日二回。

いつも私の食事を持って現れた。(そのころから飲む血がおいしくなった。後で聞いたら彼女から血を抜いていたそうだ)

私は彼女を邪険に扱った。狂った姿を見られたくないから。彼女も傷つけたくはなかったから。

 

彼女が来て10年後、とうとう私は彼女の前で狂ってしまった。

他の家族と違って彼女は人間だ。きっとたやすく壊れてしまうに決まっている。

そう諦めて私は理性を手放した。

 

しかし、驚いたことにその後、彼女は暴れた私を一人で抑え、気絶した私を看病していたのだ。

いくら力が抑えられている地下室内であるとはいえ、吸血鬼である私を止めるなんて信じられなかった。

だから、思わず彼女に問いかけていた。

 

 

「私を一人で止めるなんて…。いったいどうやったの?」

 

 

彼女は突然態度が変わった私に驚いたようだったが、微笑むと、懐から銀のナイフを取り出した。

 

 

「この銀のナイフでフラン様を壁に磔にしたのですよ。能力を使われると厄介なので両手を特に刺してしまいました。申し訳ありません(というかあれでよく止まったなあ…。原作知識がなければ即死だった…)」

 

 

彼女が無事だったことで安堵した私は、そのまま涙を流してしまう。

すると、彼女は私を柔らかく抱きしめた。

 

 

「大丈夫ですよ、フラン様。私はここにいます。(泣き始めちゃった!えっと、こういう場合は抱きしめたりするのがいいってなんかで聞いたことがある。それとも、私が攻撃したところが痛かったとか?どどど、どうしよう…)」

 

 

彼女の温もりにさらに涙腺が緩んでしまった私は彼女の胸の中で声を上げて泣いた。

 

この日以来、私が狂う回数が減ってきた。もしかしたら、彼女――咲夜が私を止めてくれると信じているからかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔を懐かしんでいると、ボロボロのくまのぬいぐるみを見つけた。

これは私の誕生日に咲夜が作ってくれたもので、私の宝物だ。

狂っているとそんなことも忘れてしまうと思うと、情けなくなる。

 

私が自己嫌悪に陥っていると、聞きなれたノックの音を拾い上げる。

彼女を少し驚かせてやろうと、私はノックに返事をしなかった。

彼女がゆっくりと扉を開け、入ってきた瞬間、私は彼女の胸に飛び込む。

揺らぐことなく私を受け止めた彼女は手に持っていた料理を置くと、私を叱った。

少し落ち込んでしまったが、彼女が笑顔で料理を薦めてくれたのですぐに立ち直れた。

 

彼女の料理を食べていると、彼女の気遣いがよく分かる。

ここの住人はみんな好みが分かれているのだが、彼女はそれぞれの好みに合った料理を出してくる。だから私たちは楽しく料理を味わえるのだ。

料理を食べ終わると、彼女が口の周りの食べかすを拭いてくれる。

…実は彼女にこれをやってもらいたくてわざとやっているのは私だけの秘密だ。

 

その後、私はいつものように彼女に読み聞かせをねだる。

子供のようで少し恥ずかしいが、この時間は私の至福の時間だ。

お話が中盤辺りになると、私は寝たふりをして彼女の膝を堪能する。

彼女は読み聞かせが終わると、いつも何か作業をしている。

今日は裁縫らしく、何かを縫う音が聞こえてくる。

この時間がたまらなく幸福で、思わず彼女に抱きついてしまう。

 

裁縫が終わると、彼女は私をベッドまで運び、たぶん無事だった人形を握らせたのだろう、柔らかい感触が手の中にある。

 

彼女は一回私を撫でると、食器を片づけ始め、足音が遠ざかる。

出ていくのだと分かると、思わず咲夜の名を呼んでしまった。

彼女は私がうなされているのだと思ったらしく、私の手を握り、呼びかけてくれた。

それに安心して、今度こそ私は睡魔に身をゆだねる。

 

その日見た夢はとても幸せな夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、起きた私が宝物のぬいぐるみが直っていたことに喜ぶのは別の話。

 

 


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