今回は橙視点。
ところで、この作品、pixivにもあげたほうがいいでしょうか?
答えてくださる方は感想の方へお願いします。
「ほら、おいで~。ご飯の時間だよ~」
私はマヨヒガの猫たちにご飯をあげている。
この子たちはただ単に飼っているわけではなく、藍様に課せられた課題の一つなのだ。
この子たちを自分の思い通りに動かせるようになること。
それが課題の内容だ。
でもこの子たちは私に懐いてはいるものの、私の言うことを聞くわけではない。
私が課題を達成できるのはまだまだ先のようだ。
このマヨヒガは特殊な場所で、基本的に迷ったものしか入れない。
私は紫様が作ってくれた術のおかげで自由に出入りできるけど、他の人は滅多に入ってこないので、この子たちを住まわせるにはうってつけの場所なのだ。
「にゃ~、これからどうしよう…」
いつもならこの後藍様と妖術の訓練なのだが、今は紫様が冬眠してしまっているため、藍様が結界の管理をしている。
だから今の藍様は私に構っている暇がないのだ。
「外に出て誰か驚かしてこようかな…。にゃ?」
暇つぶしに人間でもおどかそうかと考えていると、マヨヒガに人間が迷い込んだのが見えた。
飛んでいるということはそれなりに力を持った人間だろうけど、こんなところに迷い込むなんて珍しい。
その人間は目に見えて困っているようなので、声をかけることにした。
「あれ?ここに人間が迷い込むなんて珍しい。どうしたの?迷ったの?」
声をかけると、その人間はこちらに顔を向ける。
その顔には見覚えがあった。
「ん?良く見たらあなた、吸血鬼のところの従者よね?あなたのことは藍様から聞いてるよ。すごく強くて完璧な従者って名乗ってるんだよね?」
少し前に紫様のスキマ越しに藍様と一緒に彼女を見たことがある。
彼女の洗練された動きは、完璧な従者と呼ばれているのを納得できるほどだった。
「橙、よく見ておきなさい。彼女は従者と呼ばれる者の一種の完成形だからね」
藍様がそう言って私の頭を撫でたのを覚えている。
藍様が彼女をほめていたのを思い出して、なんだかムカムカしてくる。
むう、私だって従者だもん!こんな奴に負けないんだから!
「同じ従者として勝負を申し込むよ!あなたを倒せばきっと藍様が褒めてくれるだろうし!いざ勝負!」
私だってやればできるもん!
彼女に勝って藍様に褒めてもらうんだ!
私がスぺカを取り出して勝負を仕掛けると、彼女は冷静な表情でそれを承諾した。
「分かったわ。勝負を受けましょう。ただし、貴方が負けたらここから出る方法を教えてもらうわよ」
交換条件として出口を教えることになったけど、別にいい。
最初から出口は教えるつもりだったしね!
「やった!そう来なくっちゃね、じゃあ行くよ!」
私は弾幕を撃つけど、藍様にまだまだ修行が必要と言われた弾幕は私にもわかるほど隙間が多い。
これじゃ簡単に避けられてしまうだろう。
予想通り彼女は簡単に私の弾幕を避け、星の印が付いた球と共に弾幕を放ってきた。
って、早!なんでそんな正確に狙えるの!?
しかも逃げ道を塞ぐように撃ってくるからすごく避けにくい!
でも、こんな弾幕、藍様のものと比べれば…!
私は彼女の弾幕をなんとか避けて、スぺカを発動した。
――仙符「鳳凰展翅」
周囲を飛び回りながら弾幕を放つことで、相手の弾幕も避けられ、普通に撃つよりも密度の高い弾幕を張ることができるスペル。
これなら、と思ったけど、彼女は私以上の機動で避けきってみせた。
逆さまになりながら宙返りなんて私にもできないよ…。
――幻符「殺人ドール」
彼女は避けた直後にスぺカを発動した。
今まで彼女が投げてきたナイフの数をはるかに上回るナイフが殺到するけど、この程度なら避けきれる!
私は彼女のスぺカを完璧に避けきってみせた。
「そんな遅い弾幕当たらないよ!そしてこれで終わり!」
――翔符「飛翔韋駄天」
私の最高速度とそれに合わせた弾幕の壁!
このスぺカは私の自信作なんだ、そう簡単には避けられないよ!
勝った!と勝利を確信したその時、彼女のスぺカが発動した。
――時符「プライベートスクウェア」
突然、私の放った全ての弾幕が停止する。
その光景に驚いた私は、思わず動きを止めてしまった。
「うにゃっ!?私の弾幕が止まった…!?あ、しまっ…!」
それが致命的な隙だった。
彼女はそんな私の隙を見逃さず、私に弾幕を叩き込んだ。
弾幕ごっこ用に設定されてるんだろう、当たった弾幕は衝撃はあっても痛みはなかった。
「うー、負けちゃったー!悔しいー!」
うー、悔しい。何が悔しいかって、私はほとんど全力でやっていたにも関わらず、涼しい顔でこちらを見てくる彼女の本気を引き出せなかったのが悔しい。
「いいえ、なかなかいいスぺカだったわよ。少し焦ったし、あのスぺカを使わされるとは思わなかったわ」
私が何に悔しがっているのか察したのだろう、彼女が私のことをフォローしてくる。
「…本当?」
「ええ、本当よ、あなたも従者としてなかなかみたいね。あなたの主人も誇らしいでしょう」
我ながら単純だが、彼女ほどの従者にここまで褒められると悪い気はしない。
「えへへ、もちろんだよ!私はできる子だもん!」
「ええ、そうね、偉い偉い」
胸を張ると、彼女は頭を撫でてくる。
なんだか子ども扱いされてる様な気がするけど、気持ちいいからいっか!
「じゃあ、ここから出る方法を教えてくれる?そろそろ私の主人が心配するわ」
「うん、いいよ!あそこに大きな廃墟があるでしょ?あそこの近くに大きな樫の木があるんだけど、その側に獣道があるから、そこに行けば出られるよ!」
彼女が私を撫でるのをやめ、出る方法を尋ねてきた。
もう少し撫でてほしかったけど、約束なのでちゃんと教える。
「そう、分かったわ。ありがとう」
そう言って片手をひらひらと振りながら去ろうとする彼女を見て、少し寂しくなってしまう。
だから、思わず彼女を呼び止めてしまった。
「あ…、ねえ!また会えるかな?」
不安になりながら問いかけると、彼女はふっ、と笑って答えた。
「大丈夫よ。私たちの主人は知り合い同士なんだから、また会う機会はあるわ」
「本当!?じゃあ次会ったらまた弾幕ごっこしよ!」
「ええ、分かったわ。じゃあ、また」
「うん、またねー!」
また会える、そう聞いて不安は一気に無くなった。
次会った時に勝負する約束もできたし、また会うのが楽しみだなあ。
私は彼女の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
そして、彼女の姿が見えなくなると、手を下し、気合を入れる。
「よーし!今度こそ勝てるように特訓だよね、特訓!」
そして私は早く彼女に追いつくために猫たちが見ている中、特訓を始めるのだった。