転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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大分投稿が遅れた作者です。
立て続けに用事が入って全然書く時間がなかったorz

今回はリリーホワイト視点。




名前を知らないあの人(リリーホワイト視点)

 

 

その日は、冬のように寒く、雪が降っていた日でした。

 

私は毎年春を告げるために外に出ます。

いつもはその頃には温かく、草木も芽や蕾を覗かせ、まさしく春到来といった景色が広がっているのですが…、今年は違いました。

しかしたとえ外が冬のようでも私には今が春だと分かっています。

ならば私は自分の役目を全うするために春を告げに行くべきでしょう。

 

私はそんな使命感に突き動かされて、春を告げるために外に出ました。

 

私が初めに向かったのは人里です。

人間にとって春とは始まりの季節らしく、私が行くと笑顔で迎え入れてくれます。

 

しかし、今年はどの家も扉を締め切り、通りを歩いている人も少ないように感じます。

 

 

「春ですよー!」

 

 

私は大声で春を告げても、人々は少しこちらに目を向けるだけですぐに足早に立ち去ってしまいます。

それを見るだけでくじけそうになりますが、私がもう一度春を告げようとすると、後ろから話しかけられました。

 

 

「やあ、春告精だね?悪いんだが、今はこのとおり長い冬のせいで君を歓迎する準備ができていない。雪がやんだらまた来てはくれないだろうか?」

 

 

私に話しかけてきたのは頭に奇妙な帽子をかぶった蒼みがかった銀髪の胸の大きい女性でした。

名前は忘れてしまいましたが、人里の人たちからは「先生」と呼ばれていたことを覚えています。

 

 

「そうですかー、分かりました…」

 

 

残念ですが、彼女の心の底から申し訳ないと思っているような顔を見ては、わがままを言うわけにもいきません。

私は女性に見送られながら人里を後にしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里から離れ、妖精や毛玉に春を告げていきますが、毛玉は基本的にそういうことには無頓着ですし、妖精はこの天気にはしゃいで聞いてなんかいません。

私はだんだん自分の役割を果たせない状況に苛立ってきました。

だからでしょう。ふと目についた人間にやけくそ気味に春を告げてしまったのは。

 

 

「春ですよー!」

 

 

しかしその人間は私の声が聞こえなかったのか、止まりもせずにどこかへ飛んで行ってしまいます。

悔しくなって少し大きく声を上げる。

 

 

「春ですよー!」

 

 

そこでようやく聞こえたのか、止まって周囲を見渡し始めた。

それでもこちらの方は向きません。

その姿が私の声を聞かない人里の住人や、妖精たちと重なってしまい、思わず力を込めて叫んだ。

 

 

「春ですよー!」

 

 

その時力が漏れ出て、思わず弾幕を放ってしまった。

一瞬まずいと思いましたが、その人間は弾幕をちらりと見ると、軽々と避け、私に冷めた目を向けてきました。

その眼を見て、またあの人間たちの目を思い出してしまった私は八つ当たりでまた叫んでしまう。

 

 

「春ですよー!」

 

 

今度の弾幕は攻撃するために撃ったものだからか、先程よりも厚く、激しかった。

それでも簡単に避け、つまらなそうな視線を向けてくる。

その視線に耐え切れなくなった私は思わず泣いてしまいました。

 

 

「私はずっと春だって言ってるのに、何で誰も聞いてくれないんですかー!」

 

 

泣きながら弾幕を撃ち続けていると、彼女(この時点でやっと相手が女性だと気付きました)はため息を一つ吐き、両手を交差させ、頭を守りながらこちらに突っ込んできました。

確かに私は弾幕ごっこを仕掛けるつもりで攻撃したわけではないので、弾幕をいくらくらっても問題はないのですが、攻撃用に放った弾幕のため、相応の威力は込められています。

実際、彼女の服が破けていくし、弾幕が一番当たっている腕には出血はないものの、傷がついていきます。

 

とうとう、彼女は弾幕を抜け、そのままの速度でこちらに接近してくる。

攻撃されると思った私は思わず、腕で顔を守りました。

衝撃が来ると覚悟したのに、次に感じたのは温かいものに包まれたような感覚でした。

 

 

「え…?」

 

 

「大丈夫よ、もうすぐこの長い冬は終わるから。そうしたらまた、あなたは人々に春を告げて頂戴」

 

 

彼女の顔を見上げると、彼女は先ほどのような冷徹な顔ではなく、優しい表情でこちらを見ていました。

 

それを見て、私は彼女が一度もこちらに攻撃していないことに気が付きました。

つまり、彼女は攻撃するために弾幕を突き抜けたのではなく、私を止めるためにここまで傷ついたのです。

 

 

「ごめんなさい、私…」

 

 

理解した直後、私は凄まじい罪悪感を覚え、彼女に謝罪する。

 

 

「いいのよ、この位は慣れてるしね。それじゃ、ちょっと待っててくれる?今夜中には冬が終わると思うから」

 

 

彼女は本当に気にしていないかのように返すと、私の頭を撫でました。

 

彼女は踵を返すと、どこかへ向かおうとします。

私は慌てて彼女に言葉をかけました。

 

 

「あの、ありがとうございましたー!」

 

 

彼女は返事の代わりに後ろ手を振って去っていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女がいなくなった後、私は彼女に名前を聞いていなかったことに気が付きました。

改めてお礼を言いたかったのですが、これではどこに行けばまた会えるのか分かりません。

知り合いの大妖精に聞けば彼女が誰かわかるでしょうか…?

彼女はチルノちゃんに色々な所に引っ張りまわされているので、知り合いが多いのです。

 

私は後で大妖精に会うことに決めると、再び春を告げるために今度は妖怪の山へと向かうことにしました。

不思議なことに、私の中にあった苛立ちはいつの間にか消えていました。

もしかすると、彼女が私のそれを消してくれたのかもしれません。

あの綺麗な顔とかっこいい背中を思い出しながら、私は妖怪の山へと向かうのでした。

 


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