転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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どうも、大学のレポートで悲鳴を上げている作者です。

今回は藍しゃま視点。

だんだんネタが尽きてきました…。


気になる人間(藍視点)

 

 

「さて、これで結界の基点の修復は完了。次は結界の機能を復旧させなくては……」

 

私は紫様の命で現界と冥界を分けるための結界――――「幽明結界」の修復をしていた。

この結界がなければ死んでもいない人間が冥界に入り込んでしまう可能性もあるので早急に結界の穴を塞ぐ必要があったのだ。(といっても入り込めるのは空を飛べる者に限定されるため、力を持っている者しか入れないのだが)

私が結界の機能を復旧させようとすると、私の補助をしていた橙が突然顔を上げ、耳をピコピコと動かし始めた。

 

「どうした、橙?何かあったのか?」

 

「この霊力……、間違いない、あの人だ。あの、藍様!会いたい人がいるんです、会ってきてもいいでしょうか?」

 

「ああ、結界の修復はもう終わるし、それは構わないけど、ここに近づいてくる者たちに用があるの?」

 

「はい、異変の時に戦って、負けちゃったんです。でも、再戦の約束をしました。今度は勝ちたいんです!」

 

「ふむ、なら少し待ちなさい。今式を貼りなおしてあげよう」

 

現在橙に貼られている式は私の補助のために張ってある式だ。私はそれを剥がし、弾幕ごっこ用の式に貼りなおす。これで心置きなく全力で戦うことができるはずだ。

 

「私から妖力の供給もしてあげるから思い切りやってきなさい、橙」

 

「ありがとうございます、藍様!」

 

ぺこり、と一つ頭を下げると橙は飛び去って行った。

 

ああいう風に何事にも全力で取り組めるのは未熟な時の特権だ。

それに、橙には様々な経験をして立派な式になってもらわないとな。

 

私も昔はあんな風だったのかなあ、なんて感慨にふけっていると、少し離れた場所で勝負が始まったようで弾幕がぶつかり合うのが見えた。

目を凝らすとどうやら紅魔館のメイドと戦っているようだった。

彼女もあの吸血鬼の従者だから橙としては思うところがあったのだろう。

 

競い合う相手がいるのはいいことだ、と勝負をながめていると、白黒の魔法使いが私の脇を通り抜けようとしたので弾幕を撃って道をふさぐ。

 

「うわっ、とと……。何するんだ、危ないじゃないか」

 

「今紫様は結界の修復をしておられる。邪魔をするのは許さん」

 

「その紫が今回の異変の黒幕なんだろ?だったら一発ぶっ飛ばすぜ」

 

「紫様にも考えがあって幽々子様の手伝いをされたのだ。それに、貴様が紫様を倒すだと?笑わせるな。紫様のもとに貴様が行く前に私がお前を落としてやる」

 

「はっ、やってみろよ!」

 

――恋符「マスタースパーク」

 

魔法使いの持つ八卦炉から魔力の砲撃が放たれる。

私はそれを避けると、撃ち落とすために弾幕を撃ちながらスぺカを宣言する。

 

――式神「前鬼後鬼の守護」

 

私が放った大弾が小さな弾幕をばらまきつつ魔法使いに迫る。

魔法使いは小刻みに動くことでそれらを回避すると、大弾を回り込んで私の背後に来る。

 

――魔符「スターダストレヴァリエ」

 

星形の弾幕が私に襲い掛かるが、私は通常の弾幕を放つことでそれらを相殺した。

魔法使いがその光景を驚愕の表情で見て、私から距離をとった。

 

「これで力の差が分かっただろう、紫様のもとへ行くのは諦めろ」

 

「いーや、まだだぜ、あと一つだけ策はある!」

 

魔法使いはスぺカを構え、私と対峙する。

私も攻撃に備え、身構える。すると――――

 

「それはなあ……逃げるんだよおおおおおおおおーーーーーーーーー!!!!」

 

――魔符「ミルキーウェイ」

 

魔法使いは私に背中を見せるとスぺカを発動し、弾幕をばらまきつつ逃走した。

そして、私が弾幕を対処している間に、魔法使いは姿を消していた。

 

「やれやれ、逃げられてしまったか。まさか勝負を捨てるとは思わなかった。私もまだまだだな」

 

これを試合に勝って勝負に負けたというのだろうか。

ぼやきながら魔法使いが去った方向を見る。

未だにスぺカの効果時間なのか、弾幕が遠くの方で光っているのが見えた。

まあ、紫様はスキマの中で作業をしているから紫様が外に出なければ会うことはできないがな。

 

後で捕まえるか、と考えながら私はメイドを待つ。

戦いの途中で橙が負けた気配を式ごしに感じ取ったからだ。

メイドが魔法使いと一緒に来たところから彼女の狙いも紫様なのだろう。

 

結界を弄りながら待っていると、メイドが現れた。

 

「そろそろ来るころだと思っていたよ、十六夜咲夜」

 

待っていた、と告げると訝しげな表情をしたので式について説明する。

得心が言ったような顔をした彼女は今度は魔法使いのことを聞いてきた。

逃げられた、と答えると、淡々と追わなくていいのかと聞いてきた。

そこで少し違和感を感じた。

彼女も紫様を狙っているのなら普通足止めのために私に戦いを仕掛けるか、私を突破しようとすると思っていたのだが、それをする素振りもない。

彼女はもしかしたら魔法使いに強引に連れてこられただけなのかもしれない。

ならばそれはそれで好都合だ。

私も彼女に興味があったのだから。

 

「私としてはお前の方に興味がある。同じ従者としてもそうだが、紫様がお前を気にかけているからな」

 

興味があるというと、むしろ自分の主に向いていたのではないかと返してくる。

たしかにあのレミリア・スカーレットは警戒すべき対象だ。しかし興味があるわけではない。

だが目の前にいる彼女は、その警戒対象を大人しくさせてしまったのだ。興味を持たないわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて、吸血鬼異変と呼ばれる異変が起こった。

レミリア・スカーレットが率いる紅魔館の面子の中には今現在生き残っている者たちのほかにも人狼や、悪魔と呼ばれる者たちもいた。

幻想郷を支配しようと侵攻してきた彼女たちを迎えうったのは紫様、私、当時の博麗の巫女、風見幽香、天魔とその部下の天狗たち、伊吹萃香様、アリス・マーガトロイド、レティ・ホワイトロック、当時まだ力を封印されていなかったルーミア、その他紅魔館が気に食わないと参加してきた無名の妖怪たち。

それは幻想郷のパワーバランスを担う者たちだった。

満月の晩に起こった戦いは一晩続き、結果としてこちらの無名な妖怪たちはほとんど消滅、あちらの人狼が全滅、悪魔は力の弱いものを残して消滅した。

レミリア・スカーレットは紫様、私、博麗の巫女の三人がかりで打倒した。

(後から紫様に聞いた話だが、どうやら彼女は満月の力と自身の能力で勝利の運命を手繰り寄せていたらしい)

その後、戦後処理をして結界の中に閉じ込めたことで彼女たちは幻想郷に受け入れられた。

しかし、あれほど大暴れをした彼女たちを放置しておくわけもなく、私たちは紅魔館を監視した。

表面上は大人しかった彼女たちだが、いつもどこかピリピリとした緊張感が漂っていた。

 

そんな時だ。十六夜咲夜が紅魔館に入ってきたのは。

紅魔館に入ってきた彼女を私たちは警戒したが、彼女は私たちの監視に気が付くこともなく、紅魔館に溶け込んでいった。

彼女が紅魔館に雇われていた妖精メイドの指揮を執り始めた時は馬鹿なのかと思ったが、彼女は妖精たちを統率し、仕事を振り分けていく姿を見て人間にも有能なものはいるものだと思ったのを覚えている。

彼女が紅魔館に溶け込むにつれて、紅魔館のメンバーにも変化が表れ始めた。

常に仏頂面だった門番は笑顔が増え、

本を読むだけでそれ以外に何もしなかった魔法使いは生き残りの悪魔を使役して図書館の整理を始め、食事もとるようになり、

狂気に憑りつかれて暴れていた吸血鬼の妹は物を壊す頻度が減り、

傲慢だった当主は妹と十六夜咲夜が遊んでいる光景を眺めて笑みをこぼすようになった。

そう言う風に変わった紅魔館だからこそ、あの紫様の異変を起こし、スペルカードルールを定着させるという提案を呑んだのだろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想から戻ると、十六夜咲夜は魔法使いを追ってもいいかと聞いてきた。

もちろんそれは許可できない。

紫様の邪魔になりそうなことは増やさない方がいい。ただでさえあの白黒の魔法使いがいるのだから。

それに、彼女と戦ってみたい。

紅魔館を変えた彼女と。……ついでに橙を倒した彼女と。

橙は私にとって娘のような存在だ。

橙が仕掛けたとはいえ橙を倒した彼女を見逃すことはできない。

そんな私の心境を察したのか、彼女は私を親馬鹿と称した。

それに軽口を返し、弾幕を配置する。彼女もそれに応じてナイフを構えた。

そして、勝負が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いはずっと私の優勢で進んだ。

白黒の魔法使いより飛ぶ速さが遅い彼女には能力で避けることしかできないようだった。

能力を使いすぎたのか、勝負が始まって少し経つ頃には彼女は肩で息をしていた。

それでも弾幕を避け続ける彼女に私は少し感心した。

すぐに音を上げるかと思ったのだが、なかなか根性がある。

疲れで少し白くなっている彼女の顔を見て少し嗜虐心がくすぐられた私はスぺカを宣言した。

 

――式神「十二神将の宴」

 

弾幕が彼女を取り囲み、攻撃していく。

その間に、彼女の注意が弾幕からそれた。どうやら私を見ているようだが、何を見ているのだろう。

注意がそれたころから彼女の動きは目に見えて悪くなり、危ない場面が増えてきた。

疲れてきたのか、と少し挑発してみると、悔しそうにこちらを見た。

だんだんと隙が大きくなってきた彼女に牽制代わりにスぺカを発動する。

 

――式輝「プリンセス天狐-Illusion-」

 

避けるだろうと思ったそのスぺカは予想に反して彼女に直撃した。

当たったはずみで気を失ったのか、落下していく彼女を受け止める。

 

「さて、これからどうしようか」

 

まずは彼女を紅魔館まで送って魔法使いを追いかけるのがいいだろうか。

だがそうすると大幅に結界の修復が遅れるのだが……。

悩んでいると、紫様から念話が届いた。

 

(藍?一旦結界の修復作業を中断して博麗神社に向かってちょうだい。あなたが抱えている彼女も一緒にね)

 

(かしこまりました。しかし、十六夜咲夜に何の用件が?)

 

(少し話がしたいのよ。じゃあ頼んだわよ?)

 

念話が途切れ、私は彼女を背中に移し、おんぶの恰好で彼女を背負う。

この方が弾幕を撃ちやすくて移動に便利なのだ。

 

私が博麗神社に向かっていると、どうやら背中の彼女が目覚めたようで、もぞもぞと動いている。

寝ぼけているのかお母さん、などと呼んできたので否定しておく。

私の声で完全に目が覚めたのか、あたふたした雰囲気が伝わってきた。

常にクールな表情だった彼女もこういう面もあるのだな、と少し微笑ましくなる。

先程のことは口外しないと約束すると、やっと落ち着いた。

 

「……何となくだが、紅魔館の連中が大人しくなった理由が分かった気がしたよ」

 

こんな生き物を見ていればそれはそれは和むことだろう。

私が橙に抱いている感情と同じものを紅魔館の者たちも味わっているのかと思うと、微笑ましい顔で彼女を見てしまう。

照れ隠しなのか、顔をそらした彼女がどこに向かっているのかと尋ねてきた。

紫様と話をさせるために博麗神社に向かっていることを話すと、彼女は緊張した表情になった。

 

私の視界には博麗神社が見え、もうすぐ着くことだろう。

背中の彼女と紫様はどんな話をするのだろうか、と私はふと思ったのだった。

 




ちなみに天魔の部下の天狗たちには文やはたて、椛も含まれています。

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