今回は紫編。
弾幕ごっこは藍しゃまに負けたので無しです。
少し独自設定があるのでご注意を。
これから就活が始まるため、更新が本当に不定期になります。
書けたら上げていくつもりですが、いつあげられるかは作者にもわかりません。
藍は私を背負ったまま博麗神社の境内に降り立ち、私を降ろした。
私は背中にいる間ずっと味わっていた心地よい尻尾の感触を惜しみながらも境内に敷かれている石畳の上に立つ。
何気に博麗神社に来るのは初めてだ。
博麗神社の外観は普通の神社とさほど変わらない。
大きな拝殿に、赤い鳥居。傍らにはぽつんと社務所があるが、覗いてみたところ、埃をかぶっていて使われた形跡はない。本殿はここから見えないが、奥にあるのだろう。
他にも宝物殿らしき建物も見受けられる。
「こっちだ」
藍が拝殿の裏の方へ歩いていく。
どうやら紫は本殿にいるらしい。
藍についていくと、本殿の部屋の一部が居住区域になっているらしく、小さな裏庭に面した縁側が見えた。
その縁側でお茶をすすっている女性がいた。
陰陽模様をあしらったゴスロリに似た服、ZUN帽などと称される奇妙な帽子。
普通なら珍妙な格好をしたイタい人にしか見えないが、その女性にはとてもマッチしており、そのあまりの美しさに思わず数秒呼吸を止めてしまった。
彼女はこちらに気が付くと、ふわりと笑って手招きした。
それだけで内心では赤面しそうなほどに緊張しているのだが、私の外面は全くと言っていいほど動じず、無表情を貫いている。
とりあえず、手招きに従って彼女に近づく。
「藍、悪いけど少し席を外してくれるかしら?」
「御意」
藍は彼女の言葉で拝殿の方へと歩いていってしまった。
残されたのは縁側に座る彼女とその前に立つ私。
彼女はポンポンと自分の隣を叩くことで座るように促してくる。
それに従い恐る恐る彼女の隣に座る。
これ程の美人の隣に座るというのは本当に緊張するもので、内心ガチガチな私に、いつの間にか出していたお茶の入った湯呑を進めてきた。
それを受け取って一口飲むと、心地よい渋みが口の中に広がり、少し落ち着いた。
湯呑を置くと、やはりいつの間にか取り出していた煎餅を渡された。
パリッ、と食べると、しょっぱさが舌を刺激し、口の中に残っていたお茶の味を合わさっておいしさが深まる。
そんなことをやっていると、懐かしい気持ちになってきた。
そうだ、この気持ちはまるで祖母の家に遊びに行った時のような気持ちではないだろうか。
あ、いや、ゆかりんがBBAってわけではないですよ?
「落ち着いたかしら?」
「ええ、ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
柔らかく笑う彼女を見て胡散臭いなどという気持ちにはならない。
むしろ人里などに普通に住んでいそうな優しいお姉さん、といったところだ。
「初めまして、になるのかしらね。私の名前は八雲紫。この幻想郷を管理する妖怪よ」
「そうね、お嬢様に話は聞いていたけど、直接会うのは初めてになるわね。十六夜咲夜、紅魔館でメイドをしているわ……何か話があると聞いたのだけれど?」
自己紹介もそこそこに本題を切り出す。
彼女ほど頭がいい妖怪ならば私の正体に気が付いてもおかしくない。
そして、幻想郷を愛してやまない彼女ならば、不安要素を取り除くために実力行使もいとわないだろう。事実、天子が異変を起こした時はぶち切れてたし。
私が問いかけると、紫は穏やかな笑みを潜めて、真剣な顔で私を見る。
「あなた、西行妖についてどこで知ったのかしら?」
げ、ここでそれが来ますか。
あの時霊夢に言った嘘をつくことでごまかすことにする。
まさか原作知識があるなんて言えるわけないしね。
「ヴワル図書館で調べたのよ。あそこには大体の資料はあるしね」
どれほどの資料があるのかは把握してはいないが、あの図書館の蔵書率は某国立図書館すら超えるのではないのだろうか。暇な時に見て回ったら漫画まであったのは驚いたが。
とにかく、あの異常な蔵書率を誇る図書館なら西行妖の資料もあるだろうと誤魔化す。
しかし、紫の険しい表情が解かれることはなかった。
「それはありえないわ。私がかつて西行妖を封印した時、この世にある西行妖に関する資料を能力を使って隠蔽したの。だから西行妖に関する資料をあなたが見れるはずがないわ。たとえ魔法使いが管理している図書館でもね」
え、そんなことしてたのゆかりん。
……いや、考えれば当然か。元々はただの桜とはいえ、最終的には妖怪になったわけだし。そして妖怪は人間がその存在を知れば知るほど力を増していく。ならこれ以上力をつけないように人間に知られないようにするのは当たり前だよね。力が増して封印が解かれましたー、なんて笑えないし。
とすると、どうしようか。言い訳が無くなっちゃった……。やばくね?
ゆかりんは未だに疑わしげに私を見てるし。
ど、どうにかして言い訳を考えなければ最悪消されるやもしれん……。
えーっと、えーっと、そうだ!
「……はあ、あまりこのことは言いたくなかったのだけどね。八雲紫、貴方は私の能力を知っているかしら?」
「ええ。「時間を操る程度の能力」でしょう?」
「そうよ。その能力の副作用でね、時折私は夢で過去や未来を見るのよ。私が見たいと思って見るわけではないからどんなものかはランダムだけどね」
「……その時に西行妖について知ったと?」
「3年前くらいかしらね。貴方と西行寺幽々子、もう一人名前は知らないけど老人がいたわ。その時あなたたちが話していたのが西行妖の由来だったの。まさかこんな形で関わることになるとは夢にも思っていなかったけど」
随分強引な理由だけど、これ以上のことは思いつかなかったんだよね。
お願い、これで納得してください!
「……ふう、分かったわ。とりあえずそういうことにしておきましょう。貴方には借りもあるし、ね」
しばらく私を探るように見ていた紫が溜息をついて険しい雰囲気を解いた。
まだ疑わしくはあるけどとりあえず許されたっぽい?というか、借りってなんのこと?
「ところで、あなたはこの幻想郷をどう思うかしら?」
追及が無くなったことで安堵しているとそんなことを紫が聞いてくる。
そりゃもちろん楽園といったところだろうか。原作を知っており、キャラの魅力を知っている私としては「まったく、幻想郷は最高だぜ!」と言いたいくらいだ。
……もちろんそれはトラブルがなければ、という注釈がつくのだが。
「作られた楽園、かしらね。私みたいな人間は居心地がいいけど、他の人間はどうかしら?良く言えば共存、悪く言えば彼ら人間の恐怖を妖怪の餌にしているわけだし。まあ、お嬢様たちがいれば私はそれでいいわ」
原作知識から当たり障りの無い返答を返す。
原作キャラに会えばテンションが上がるミーハーな私だが、今の私に本当に大切なのは紅魔館の皆なのだ。
私を家族として受け入れてくれた彼女たちがいれば、どんな場所だろうと構わない。
そこが目の前の彼女に管理されている箱庭だったとしてもそこに紅魔館があるのならば私に文句などない。
「そう、ありがとう。……あら、霊夢と魔理沙が着いたみたいね」
紫の言葉に耳を澄ませると、確かに境内の方から霊夢と魔理沙の声がした。
その声は徐々にこちらに近づき、やがて藍を含めた三人が顔を出した。
「紫、勝手に人の家に入るのをやめなさい。退治するわよ?しかも勝手に茶菓子まで食べてるし……」
「お、咲夜じゃないか。さっきは悪いな、置いていって。そこのスキマ妖怪に何かされなかったか?」
「紫様、お話は終わりましたか?」
紫は三人を見て微笑むと、お茶にしましょうか、と三人に言った。
霊夢は慣れているのか、文句を言いつつもお茶を入れに中に入っていき、魔理沙は私の隣に座って私と別れた後について話し始めた。
藍は霊夢を手伝ってきます、と霊夢を追って中に入っていった。
そのあと、五人で他愛のない話をし、夕方までその心地よい雰囲気は続いたのだった。
紅魔館に帰って心配した美鈴に抱きしめられ、フラン様に泣きつかれ、私がおおいに慌てるのは別のお話。