転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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大分間を開けてすいませんでしたあっ!!(土下座)
就職活動って本当に大変ですね(遠い目)

今回はゆかりん視点。

頭の悪い自分が天才の彼女の考えを書くのは本当に難しかった…。
結局別のキャラっぽくなっちゃいましたし。


借りがある彼女(紫視点)

 

 

 

――紫視点

 

十六夜咲夜の存在は彼女が幻想郷に来た時から感じ取っていた。

彼女は突然現れた。しかし、それは別に問題ではない。

幻想郷に突然人が現れるのはさほど珍しいことではないからだ。(そうはいっても年に1~2度程度だが)

元から能力を持っていた人間に結界が反応して入ってきたこともあれば、たまたま生じていた結界のほころびから迷い込んできた者もいる。

彼女もそのどちらかだろうと最初は気にも留めていなかった。

運が良ければ人里に辿り着き、そこから博麗神社に行けば外に出られるし、運が悪ければそこらの野良妖怪の餌になるだろう。

彼女を見るために開いていたスキマを閉じようとすると、紅魔館の門番が彼女に近づいていた。

私はスキマを閉じるのをやめ、その光景を見る。

紅魔館の住人達には幻想郷の人間に危害を加ええないことと、館の近くまでという条件で外出を許可している。

だから門番が紅魔館近くのこの森に入ってくることも不思議なことではない。

だが門番が見つけた少女をどうするのか興味があった。

戯れに殺すのか、それとも吸血鬼の餌にするために持ち帰るのか。

結果として門番は少女を紅魔館へと連れ帰った。

そのまま殺されるのかと思われた少女は予測に反して吸血鬼に気に入られ、紅魔館で暮らし始めた。

そこから、私は少女――「十六夜咲夜」を観察するようになった。

彼女は不可思議だった。

普通、人外と共に住んでいる人間は、人外に対して大なり小なり畏怖や恐怖を抱くものだ。

しかし、彼女はそんなものは抱いていないように、吸血鬼にも、妖怪にも、悪魔にも、魔法使いにも普通に接した。

時には吸血鬼の妹を子供のように扱い、門番をしている妖怪にする必要のない心配などをしていた。

彼女が紅魔館で暮らし始めてから紅魔館の雰囲気が徐々に変化していった。

今までは他人が同じところに住んでいるような雰囲気がいつの間にか十六夜咲夜を中心として本当の家族のようなものになっていた。

幼い十六夜咲夜を育てるために毎日慌ただしくしている門番に、それに呆れながらも手伝う魔法使い。そんなやり取りを面白そうに眺めている吸血鬼に、見たことのない人間に興味津々なその妹。

彼女たちはかつて幻想郷に侵攻してきた者たちとは思えないほどに和気あいあいとしていた。

だからこそ、私は吸血鬼にある条件を提案した。

それは、スペルカードルール普及のための異変――解決されることがすでに決定している八百長異変――を起こすこと。

見返りは幻想郷に完全に受け入れられる――すなわち、閉じ込めるために張っていた結界の解除と、人里などの拠点との交流の許可だ。

かつての傲慢な吸血鬼ならばくだらないと鼻で笑って一蹴しただろう。

だが、吸血鬼は受け入れた。おそらくそれは自分のためではなく、あの人間のため。

閉鎖された環境というのは人間という種族にはあまりいい環境ではない。

妖怪ならばそこに適合することも可能だが、人間の場合は心を病んでしまう恐れがある。

彼女はそれを懸念して受け入れたのだろう。

私もそんな吸血鬼の考えを察してこのタイミングでこの条件を突き付けたのだから理解できる。

 

彼女たちが侵攻してきた際、迎え撃ったこちら側は無視できないほどの損害を負った。

とくに妖怪の山の被害は甚大で、今妖怪の山で何か起きれば長年存在し続けていた天狗組織が瓦解してしまうだろう。

今妖怪の山が瓦解してしまえば、抑えられていた木端妖怪が勢いづき、先代巫女のおかげで安定してきていた人間の勢力が弱まってしまう。

それは困る。ようやく幻想郷の微妙なバランスが安定してきたというのに、それを崩されてしまえば、また安定させるにはどれほどの労力が必要となるか。

だからこそ紅魔館には幻想郷の抑止力になってもらわねばならなかった。

しかしそれにはあの強情な吸血鬼をどうにかして説得しなければならない。

さてどうするかと考えをめぐらしていた時に現れたのが十六夜咲夜だった。

彼女が紅魔館に受け入れられたことで吸血鬼が丸くなったのは嬉しい誤算だった。

大した労力もなく彼女たちを引き込め、そして新しい博麗の巫女である霊夢の相手も見つけられた。さらにスペルカードルールを浸透させるきっかけともなる。

十六夜咲夜には感謝しなければならない。彼女の登場から私の計画がうまく運ぶようになったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽々子が異変を起こした数日後、私はスキマの中で幽明結界の修復を行っていた。

幽明結界は冥界と現界を区切る結界で、それ故に重要性が博麗大結界に次いで高い。

何より早く修復しなくては地獄の最高裁判長のありがたい説教が待っている。

彼女の能力は私の能力の天敵ともいえる物なので、捕まったら最後、一日中説教を聞かされるのは間違いない。

それは御免こうむりたいのでこうして真面目に結界の修復に精を出しているということなのだ。

結界の破損個所を治していると、紅白の巫女――霊夢がこちらに近づいてきていた。

私はスキマから出て、霊夢と対面する。

 

「あら霊夢、どうしたの?もしかして私に会いに来てくれたのかしら?」

 

「結界の状況を見に来ただけよ。早く治らないと色々面倒だし。……さぼっているようなら夢想封印でもぶつけてやろうかと思ってたけど、その必要はなさそうね」

 

私がからかい半分に話しかけると、なんともそっけない返事が返ってくる。

……昔は私の後ろをちょこちょこついてきて可愛かったのに、あの可愛い霊夢はどこに行ったのかしら。

時間の流れって嫌なものね、なんて考えていると、こちらに高速で接近する影が見えた。

その影は私たちの前で急停止すると、私にスペルカードを突き付けた。

 

「勝負だぜ、紫!」

 

その影は霊夢とよく行動を共にしている魔法使い――霧雨魔理沙だった。

いきなり私に勝負をしかけた彼女に、霊夢が呆れた顔で話しかける。

 

「魔理沙、あなた何やってるの……?」

 

「何って、弾幕ごっこだよ。今回の黒幕は紫だろ?」

 

「あー、説明が面倒くさいわね。とりあえず魔理沙、今はやめなさい。後でやる分には構わないから」

 

「あら霊夢、かばってくれるの?嬉しいわ」

 

「誰があんたなんかかばうか。結界の修復が遅れれば面倒だってさっき言ったでしょ。結界の修復が最優先。その後で私と魔理沙があんたをとっちめれば万事解決よ」

 

「あ、あら?霊夢も攻撃するの?」

 

「当たり前じゃない。今回の異変で私がどれだけ寒い思いしたか分かってる?西行寺幽々子は結局ぶっ飛ばせなかったし、黒幕のあんたが代わりにぶっ飛ばされなさい」

 

理不尽な言い分に私が内心涙を流していると、霧雨魔理沙が複雑な顔で唸る。

 

「あー、今勝負できないんだったら無理して藍から逃げる必要なかったな。咲夜も置いてきちまったし……。後で拾ってやらないとな」

 

「あら、咲夜も来てたの?意外ね、異変が解決すれば興味を持たないと思ったけど」

 

「ああ、暇そうだから連れてきたんだ。こういう面白そうなの好きそうだと思って」

 

「……(たぶん、無理矢理連れてこられたのね、咲夜も可哀想に)」

 

霊夢の表情からして十六夜咲夜に同情しているのだろう。

だが私としては彼女と話すいい機会だ。霧雨魔理沙の話からして彼女はおそらく藍と共にいるだろう。

そう判断してスキマを開き、藍の様子を覗いてみる。

すると、藍は気絶した十六夜咲夜を抱えて何か考えているようだった。

そこで藍と念話を繋ぐ。

 

(藍?一旦結界の修復作業を中断して博麗神社に向かってちょうだい。あなたが抱えている彼女も一緒にね)

 

(かしこまりました。しかし、十六夜咲夜に何の用件が?)

 

(少し話がしたいのよ。じゃあ頼んだわよ?)

 

念話を切ると、私は博麗神社へとつなぐスキマを開き、その中に滑り込む。

それを見た霊夢が表情を険しくさせて問いかけてきた。

 

「どこへ行くつもり?」

 

「少し人に会いに、ね。安心なさい、結界の修復も並行してやっておくから」

 

「……ならいいわ」

 

もう興味はない、とばかりに顔を背けた霊夢に手を振り、スキマを通って博麗神社の裏側へ出て、縁側に腰掛けた。

スキマを弄って霊夢の茶菓子と中身の入った急須と湯呑を二つ取り出す。

湯呑の一つにお茶を入れてのんびりすすっていると、二つの気配が境内へと降り立ったのを感じ取った。

しばらくすると、藍と十六夜咲夜が姿を現した。

 

私を見た人妖は様々な反応を示す。

霊夢ならば、また面倒事かと不機嫌になり、

霧雨魔理沙ならば、胡散臭いと警戒する。

レミリア・スカーレットは未だに敵意を隠そうとせず、

四季映姫・ヤマザナドゥは眉をひそめて私の今までの行いについて説教しようとする。

正の感情を向けてくるのは友人である幽々子と萃香、式神の藍とその式の橙くらいだ。

さて十六夜咲夜はどのような顔をするのかと見てみれば意外にも特に反応を示すこともなく無表情を貫いている。

しかし手招きすれば素直に近づき、座るように示せば言われた通りに縁側に腰掛ける。

私と出会って無反応というのは初めての経験なので少し新鮮な気持ちになる。

お茶を入れて差し出せば疑うこともなく飲み、スキマから煎餅を取り出して渡してみればやはり素直に食べ始める。

ほとんどの者は私が渡したというだけで警戒して口にすることはないので少し驚いた。

少しずつ煎餅をかじっていく彼女を見てなんだか野生の動物に餌付けをしている気分になってきた。

彼女はせんべいを食べ終わるとふう、と一息ついた。

それを見て私が気が付かなかっただけで彼女も緊張していたことが分かった。

落ち着いたかと聞けば普通に感謝の言葉が返ってくる。

素直なのはいいことなのだけど、私に対してここまで裏がない態度をとられると彼女がいつか騙されるのではないかと心配になる。

軽く自己紹介した後、本題を切り出す。

私が彼女に会いたかった理由、即ち、西行妖のことについてだ。

西行妖に関する情報は西行妖を封印した時に私が能力を使って一切をスキマへと隠蔽した。

故に彼女が知ることは不可能のはず。だが彼女は西行妖を知っており、それを踏まえて異変解決に乗り出していた。

それを問いただせば魔法使いの図書館で調べたととぼける。

ありえないと否定すれば彼女は眉をひそめて考え込んだ。

やがて諦めたように溜息を吐くと、自身の能力について語り始めた。

それは彼女の能力――「時間を操る程度の能力」の副作用である過去視と未来視についてだった。

それにより彼女は私と幽々子と妖忌が西行妖について話しているのを見たという。

妖忌が見えたということは西行妖が封印される前、つまり幽々子がまだ生きていたころだということになる。

その話にはおかしなところはない。だが疑わしいことは確かだ。

嘘をついていないか能力を使おうかと思ったが、やめた。

彼女には紅魔館を私にとって都合のいい方向へと動かしてくれた(彼女がそれを知らないとはいえ)借りがある。

とりあえず今回は彼女の言を信じることにしよう。

 

「……ふう、分かったわ。とりあえずそういうことにしておきましょう」

 

私がそう言うと彼女は緊張した雰囲気を解いて固まっていた体を和らげる。

それを見計らって彼女に幻想郷について問うてみる。

 

「作られた楽園、かしらね。私みたいな人間は居心地がいいけど、他の人間はどうかしら?良く言えば共存、悪く言えば彼ら人間の恐怖を妖怪の餌にしているわけだし。まあ、お嬢様たちがいれば私はそれでいいわ」

 

返ってきたのは作られた楽園という言葉と紅魔館の人間さえいればどうでもいいと受け取れるもの。まあ予想できた言葉だ。

それよりも私が気になったのは「私みたいな人間」という言葉。

この幻想郷というのは外の人間にとってはあまり居心地がいい場所ではない。

外の世界には科学が存在し、それに依存した彼らには科学が存在しないここは住みにくい場所だ。

だからこそほとんどの外来人は外に戻ることを望む。

能力が発現してしまった者や幻想郷に住むことを希望した者は人里に住まわせているものの、そういう者は極少数だ。

もしかすると、彼女は外の世界では孤児かそれに準じた環境下におかれていたのかもしれない。

もしくは……殺人の経験があるかもしれない。

幻想郷では人間が殺されるのはよくあることだ。しかしそれは妖怪と人間の関係であり、人間同士でのそれはあまり見られない。

人間というのは人の形をしたものを傷つけることに抵抗を覚える生物だ。そしてそれは外来人に特に顕著に見られる。

しかし、幻想郷には原則として不殺のルールであるスペルカードルールがあるとしても彼女はナイフという相手を殺しかねない武器を躊躇いなく相手に向けている。

私のような、という言葉が、自分が人の道を外れていることについて言っているとしたら……?

……これは根拠のない憶測だ。あまり深く考えない方がいいのかもしれない。

しかし、その危険性は頭にとどめておくべきだろう。

彼女が吸血鬼への忠誠のために人間を殺す可能性もあるのだから。

 

私が思考から戻ると、霊夢や魔理沙がこちらに近づいてくるのを感じた。

やがて藍を含めた三人が顔を出し、そのまま雑談に移行してしまう。

私は表情をあまり変えないながらも楽しそうに話をする十六夜咲夜を見つめながら彼女への警戒心を上げるのだった。

 




ゆかりんが危惧しているのは咲夜さんが殺人を行うことで人間の数が減ることです。
そんなことをすれば幻想郷のバランスが崩れてしまいますからね。
殺人については特に思うことはないです。妖怪ですしね。
ちなみに咲夜さんは「私みたいな人間」という言葉を「私みたいなミーハーな人間」という意味合いで言ってます。
でも周りはそんなこと知らないから確実に別の意味合いで受け取ってしまうという。

こういう説明的なことはあまりしないのですが、今回の話では分かりにくいと持ったので書きました。
もっと分かりやすい文章が書けるよう精進します。

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