転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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前話の続きで宴会編です。
日をおいてちまちま書いていたせいか内容がどうも薄い気がする。

次回は他者視点で宴会編を書く予定です。


宴会です…2

 

 

最初こそまともに始まった宴会だったが、しばらくすれば場も盛り上がり、混沌と化す。

――私の隣にいる魔法使いもその混沌の要因の一つだ。

 

「でさー、パチュリーが酷いんだぜー?なー、聞いてるか、さくやあ」

 

「ええ、そうね。だから魔理沙、ひっつかないでちょうだい。暑いわ」

 

「だろー?咲夜もそう思うよなー?」

 

話が、通じない……!!

魔理沙、物珍しさで私が持ってきたワインぐびぐび飲んでたからなあ。

 

酒で体温が上がっている魔理沙に引っ付かれ、身動きが取れない。

幸いなのは、料理はもうほとんど食べつくされているから、レミリア様達によそう必要がないことだろうか。

 

周りを見渡すと、酒で出来上がっているのは魔理沙位で、他の面子はぴんぴんしている。

……私が持ってきたワイン以外にも紫とか幽々子が持ってきた酒も空になってるんだけどなあ。やはりこの幻想郷、酒豪な人物が多い。

酒を飲まなかったのはフラン様と橙、リリー位なんだけど。

妖夢が意外にも日本酒を涼しい顔で飲んでたのは驚いたな。結構飲んでたのに今でも少し顔が赤い程度だし。

私?私は酒を勧められつつもペースを守れる人間だから。実はちびちびとしか飲んでないから大丈夫。

……美鈴と一緒に飲むと、美鈴の勧めがうまくてつい酔いつぶれちゃうんだけどね。

 

ふと気が付くと、魔理沙はいつの間にか私の肩を枕に寝ていた。

この体勢では寝苦しいだろうから魔理沙の頭を私の膝に移す。

膝枕しつつ頭を撫でると、予想以上にサラサラな髪に思わずニヤついてしまいそうになる。

 

「あらあら、微笑ましいわねえ」

 

声がかけられた方へ顔を向けると、西行寺幽々子が寝ている魔理沙を見て微笑んでいた。

 

「初めまして、になるのかしらね。紅魔館のメイドさん?」

 

「ええ、そうなるわね。異変の時は挨拶しないまま帰ってしまったし。十六夜咲夜よ。よろしく」

 

「西行寺幽々子よ。よろしくね。あの時のお礼を言いたかったのよ。博麗の巫女にはもう言ったのだけど、そこの子とあなたにはまだだったから。改めてあの時はありがとう」

 

「どういたしまして。まあ、霊夢と魔理沙、どちらかが抜けても勝つことはできなかったでしょうけどね。魔理沙には……どうする?しばらくは起きなさそうだけど」

 

「後でまた言うわ。それにしても、ずいぶんあなたに懐いてるわねえ、この子」

 

つんつん、と魔理沙の頬をつつきながら生暖かい目で私を見る幽々子。

 

「そうかしら?友人って、こういうものではないの?」

 

魔理沙の場合、気を許してる相手ならだれでもこういうことはしそうな気がするから私限定じゃない気がする。

 

「ふうん、なるほど、気付いてないのね。まあこういうことは過程も一種の醍醐味だしね、頑張りなさい♪」

 

ぽん、と私の肩を叩いて妖夢のもとに向かう幽々子。

なんだか関係を勘違いされてるような……。まあいいか。幽々子はそういうこと言いふらすようなタイプじゃないだろうし。

 

幽々子が妖夢に、小腹がすいたから何か作って~、と言っている声と、まだ食べるんですか!?と困っている妖夢の声をBGMに私は魔理沙の頭を撫で続けるのだった。

 

 

 

 

その後、寝てしまった魔理沙を見つけたアリスが溜息をつきながら魔理沙を別室に運んでしまったため、手持ち無沙汰になってしまった私は、縁側で静かにお酒を飲んでいる霊夢に近づこうとして、服の裾を引っ張られる感覚に気づく。

後ろを振り返ると、少し赤い顔をしたリリーが立っていた。

 

「どうしたの?」

 

私はしゃがんでリリーと顔の高さを合わせる。

リリーはしばらくもじもじしていたが、意を決したように顔を上げる。

 

「あ、あの、この前はごめんなさい。いきなり攻撃してしまって……」

 

「大丈夫よ、気にしてないから。それに、あの状況じゃあなたの不満が溜まるのも無理ないしね」

 

実際、あの状況って春告精のリリーにとっては物凄くフラストレーションが溜まるよね。

時期的には春なのに、状況的には冬なんだから。

 

「それで、ですね。私、あなたに会ったら言いたいことがあったんです」

 

「何かしら?」

 

「その、えっと、春ですよー。……えへへ、異変が終わったら一番最初にあなたに言いたかったんです」

 

はにかみながら春を告げてくるリリーマジ天使。

なんて嬉しいこと言ってくれるんだろう。いい子過ぎておねーさん涙が出ちゃうよ。

あまりにも可愛かったので思わず抱きしめて頭を撫でてしまう。

 

「わぷっ、は、恥ずかしいですよう……」

 

顔を赤くしながら見上げてくるとか、もうね。なんていうの、そう、萌えるわ~。

私がリリーの可愛さにきゅんきゅんしていると、背中に重さを感じた。

 

「いざよい、さくやあ。わたしとしょうぶだー」

 

呂律が回って無い声で私に乗っかってきたのは橙だった。

なんでお酒飲んでないのに酔っぱらってるの!?

 

「妖猫でもマタタビで酔うのね。新しい発見だわ」

 

「日本の妖怪については西洋の妖怪辞典にはあまり詳しく乗ってないし、こうやって実際に確かめるのが一番ね」

 

アリスにパチュリー様ああああ!?何やってるの二人とも!

二人は常識人だと信じていたのに!

待て待て、橙なら藍に任せればいい。藍ならきっとどうにかしてくれる…っ!!

 

「ほーら、ら~ん?あなたの大好きな油揚げよ~?」

 

「紫様、侮らないで頂きたい。この八雲藍、食べ物で釣られるほど甘くはありません」

 

「藍ちゃん、油揚げを凝視してる状況でその台詞は説得力がないわよ?」

 

視線を向けた先には自分の主に油揚げで弄ばれている九尾の狐の姿がありました。

らんしゃま、あなたもですかあああああ!!!!

食べ物で釣られるとかどこぞの腹ペコ騎士王じゃないんですから……。

 

段々身動きが取れなくなってきた……。

リリー、拗ねた顔して強く抱きつかないで。可愛すぎてお姉さん萌え死ぬから。

橙、尻尾を私の足に絡ませないで。くすぐったい。

 

「あ、楽しそうなことしてる~。私も混ぜて~!」

 

ああ、今度はルーミアが左から……。

 

「あー!みんなずるい!私も咲夜に抱っこして欲しい!」

 

フラン様まで来たー!前後左右が完全にふさがれた!?

こんな素晴らしい体験ができるなんて、私明日死ぬんじゃないかな。

ならばこの素晴らしい状況を思う存分楽しんでくれる!

 

私が四人を愛でていると、酒瓶を持った霊夢が座った。

どうやら縁側から私を見つけてこちらに来たらしい。

 

「あんたも大変ね。こんなに好かれちゃって」

 

霊夢は四人にもみくちゃにされている私を見て呆れた視線を向ける。

やがてため息をつくと、四人に話しかけた。

 

「ルーミア、リリー、あっちでプリズムリバー三姉妹が楽しそうな曲を始めたわよ、見に行ってみなさい。フラン、あっちであなたの姉が呼んでるわ。橙は…、あそこで馬鹿やってる藍に任せましょう」

 

霊夢の言葉を聞いた四人は各々言われた場所へと向かっていく。

レミリア様の方を見ると、仕方ないという風に苦笑してフラン様と話し始めた。

プリズムリバー三姉妹は霊夢の合図を受けて新しい曲を弾き始め、橙は紫に酔い潰された藍に代わって幽々子が引き取ってくれた。

 

「騒がしいのもいなくなったし、飲みましょうか」

 

霊夢は私に杯を渡すと、そこに酒を注いでくれる。

私もお返しに同じように注いであげた。

 

「それじゃ、乾杯」

 

「乾杯」

 

一気に飲み干した霊夢を見ながら私も一口飲む。しかし、予想以上の度数に思わずむせてしまった。

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「ええ、ごめんなさい。あまりお酒に強くないのよ、私」

 

背中をさすってくれる霊夢が私の言葉を聞いてニヤリと笑った。

 

「へえ、意外ね。なんでもそつなくこなすと思ってたけど、弱点もあるのね」

 

「私だって人間よ、完璧超人とはいかないわ。大体のことはこなせる自信はあるけどね」

 

まあそれもこの咲夜ボディのおかげだがな!

微塵も自慢できないことを内心で叫びながらまた一口飲む。

今度は度数を知っていたためむせずに済んだ。

それでも今まで飲んできた酒も合わさって顔が熱くなり、意識も少し朦朧としてきた。

うーん、これ以上飲むのはまずいかな。

 

「顔が赤いわよ、大丈夫?」

 

「少し暑いわ。縁側に出て涼んでくるわね」

 

霊夢にそう断ってから縁側へと歩こうとするが、ふらついてしゃがんでしまった。

 

「私が付いていくから掴まってなさい、いいわね?」

 

「ありがとう、霊夢。悪いわね」

 

霊夢に支えられながら縁側へと到着し、腰を下ろす。

夜になって冷えてきた風が火照った体を冷やしていくのを感じ、気持ちよさに思わず目を細めた。

 

「……あんたのこと今まで犬っぽいと思ってたけど、そういう仕草は猫っぽいわね」

 

え?私が橙っぽいってどういうこと?

だめだ、酔いが回った頭じゃ上手く思考できない。

霊夢が何か喋ってることは分かるんだけど、内容がうまく理解できない。

 

「はあ、あんた大分酔ってるわね。あそこで寝てなさい」

 

霊夢が私をお姫様抱っこすると、何かフサフサな物に降ろされた。その肌触りはまるで布団のようで、酔いが回った意識は段々と睡魔に侵食されていく。

 

わーい、れーむにおひめさまだっこしてもらったー。…だめだな、思考が幼児退行を起こし始めた。これは一旦眠ったほうがいい。

 

私の意識が闇に沈んだとき、誰かがお休みと頭を撫でてくれた気がした。

 

 

 

起きた時、藍しゃまの尻尾に包まれていて、テンションが激しく上昇したのはまた別の話。

 


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