転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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2話目を投稿してふと情報を見たら評価ポイントが3ケタから4ケタになっていてジュースを噴出した作者です。
息抜きに書いていこうと思っていたこの小説がこんなにも多くの人に読まれているとは信じられませんでした。
これからもよろしくお願いします。


苛立ちの理由(霊夢視点)

 

 

私は苛立っていた。

理由は様々だ。

紅い霧のせいで洗濯物が乾かないだとか、霧に含まれる妖力のせいで人里で体調を崩す人が増え、村に行ったときにすごい勢いで解決を依頼されただとか、この紅い館に来る道中や館の中で行った戦闘で服がボロボロだとか、勝手についてきた自称親友がいつの間にかいなくなっていただとか。

 

でも、この苛立ちの一番の原因は、先程打ち負かしたメイドだ。

 

 

 

彼女に会ったときは少し驚いた。

人間が妖怪の住む館にいるなんて思わなかったからだ。

でも、ここにいる以上、異変の元凶に関係しているのは明白だ。だから戦いを吹っかけた。最近になって紫が作り上げたスペルカードルールに則って。

彼女も他の妖怪と同じでこのルールを知っていたらしく、軽く了承して戦闘態勢に入った。

 

彼女の弾幕の印象は、華麗で無駄がない。そんな感じだった。

ナイフと弾幕を織り交ぜて放つ様はまるで踊るようで、そして能力なのだろう、瞬間移動のようなものを使って私の弾幕を避ける姿は美しかった。

時にはどうやったのかは分からないが、私の死角に弾幕を配置することで確実に当てようとするのは、暗殺者の手際を思わせる。(この攻撃は私の勘でなんとか避けられたのだが)

弾幕は絶妙にいやらしい配置で、避けるためのルートが細く、時には逃げ道だと思ったところに罠を張るように弾幕を新たに置いていったりもした。

 

避け方も上手く、なかなか当たらずに本当に腹が立った。

しかも余裕の笑みを浮かべながら避ける姿が私の怒りをさらに大きくさせた。

挑発して動きを鈍らせようとすれば、逆にこちらを挑発する始末。

だから怒りにまかせてスペルカードを宣言した。

 

夢想封印は私が作ったスぺカの中でも自信作だ。

彼女と戦うまでに会ったやつらとの戦闘ではこのスぺカで確実に仕留め、倒してきた。

 

さすがの彼女もこれには余裕の笑みを消し、真剣な顔で避けていく。

驚いたことに40秒ほど弾幕を避け続けたが、とうとう当たると思った瞬間、彼女はスぺカを宣言した。

突如現れたナイフの波が私に襲い掛かってくるが、一部が夢想封印に当たり、弾き飛ばされる。

そのせいで弾幕にできた隙間を通ることで彼女は私のスぺカを避けきって見せた。

 

その姿を見た瞬間、私は本当に一瞬だけ、彼女に見惚れてしまった。美しかったのだ。

その姿が。弾幕をグレイズし続けたせいでボロボロになったメイド服を着ているのに、私のスぺカを避けた喜びをその顔に浮かべ、宙に浮いている姿は一つの絵画のようだった。

 

そのすぐ後に我に返った私は、直感に従ってスぺカを連続で宣言したことで不意を突かれたらしい彼女に今度こそ弾幕を叩き込んだ。

心が揺れていたせいか、いつもより強く力を込められていたそれは彼女をたやすく吹き飛ばし、撃墜した。

 

彼女を見下ろすと、彼女は戦闘中も浮かべていた笑みで、私を見ていた。

まるで自分が負けることも、私が勝つことも全て知っていたかのように。

――そして、自分の主が自分を倒した敵に勝つと確信しているように。

 

 

「あんた、最後まで余裕の笑みなんか浮かべて。気に入らないわ、私に負けたくせに」

 

 

彼女――十六夜咲夜は私の言葉を聞き届けると気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は彼女を放置して、先に進む。

直感が示すままに複雑な廊下を途中で襲ってくる妖精メイドを撃ち落としつつ進み、最上階の一番奥にあった扉を開ける。

 

 

そこには、幼い姿をした吸血鬼がいた。

漏れ出る妖力が彼女が強大な存在だということを私に示してくる。

 

 

「ここまで来るなんてね。咲夜は何をしているのかしら?」

 

 

「あのメイドのこと?彼女なら下の階で寝てるわ」

 

 

「あら、咲夜を倒すなんて、なかなかやるのね、あなた」

 

 

吸血鬼が感心したように言う。

 

 

「あなたこそ、ずいぶん彼女をかってるのね?吸血鬼は人間を餌だと思ってるんじゃないの?」

 

 

「咲夜からは面白い運命が見えたのよ。だから育てた。私を一時でも楽しませるためにね。それに、あの子は優秀だし、何より美しいわ。外見だけでなく、その在り方さえも、ね。」

 

 

「…よくわからないけど、まあいいわ。とにかく紅い霧を消してくれる?そうすれば私はすぐに帰れるのだけれど」

 

 

「それは無理ね。霧のおかげであの憎たらしい太陽が姿を隠しているのだもの」

 

 

溜息を吐きつつ言った言葉は一蹴されてしまう。

だから、私はお祓い棒を吸血鬼へと向けた。

 

 

「そう。なら、力づくで言うことを聞かせるまでね」

 

 

「…あなた、本当に人間かしら?妖怪が化けてるとかじゃないわよね?」

 

 

「失礼ね、私は生まれも育ちも人間よ」

 

 

吸血鬼は呆れたように肩をすくめた。失礼なやつね。

 

 

「あなたと話していると調子が狂うわ。まあ、気を取り直して…、こんなにも月が紅いから――」

 

 

「こんなにも月が紅いのに――」

 

 

「「楽しい夜になりそうね(永い夜になりそうね)」」

 

 

窓から入ってきた紅い月の光を背景に吸血鬼は傲慢に笑った。

 

 

 

 

 


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