いや本当、ここまで遅れて申し訳ありません。
言い訳をするならば一月は本当に多忙でパソを開く時間もなかなか取れなかったのです……。
今回は宴会編を別視点、というか、美鈴と霊夢視点です。
長期にわたってちまちま書いてたせいかところどころグダっているかもしれませんが…。
次は萃夢想編、ではなく、何回か触れている吸血鬼異変です。もちろん咲夜さんは出ませんが、萃夢想編をやるにあたって必要かなと思ったので。
――美鈴視点
長すぎた冬が終わりをつげ、春らしく生命の息吹がそこかしこで感じられる。
生命を気で感じ取れる私にとってはこの季節が一番気持ちがいい。
そんな穏やかな外に比べ、紅魔館は珍しく慌ただしい雰囲気だ。
それも本日博麗神社で開かれる宴会に参加するためだろう。
私はすでに準備を終え、他の面々を待つだけなのだが、私以外に玄関に来ている人はいない。
レミリア様やフラン様は準備に時間がかかるのは仕方ないとしても、抜け目がないパチュリー様や基本きっちりしている咲夜さんが遅いのはどういうことだろう。
このまま待ち続けるのも暇なのでパチュリー様がいる図書館に向かうことにした。
図書館に着くと、咲夜さんとパチュリー様の話が聞こえてきた。
どうやらパチュリー様が行きたくないと駄々をこねはじめたらしい。
咲夜さんの表情はいつもと変わらないように見えるが、パチュリー様が行かないと言ったことで落ち込んでいるように感じる。
咲夜さんはなんだかんだで私達と一緒に行動したがるからなあ。本当、昔から甘えたがりなのは変わらないんだから。
でも家族の意思は尊重したいから諦めるって所かな?
パチュリー様は単に外に出るのが面倒なだけだと思うけどね。
仕方ない、ここは一肌脱ぎますか。
私は椅子に座って本を読んでいたパチュリー様を抱き上げる。
驚いたパチュリー様が暴れるが、痛くもかゆくもない。
「ちょっ、美鈴!何するの、離しなさい!」
「まあまあ、こういう催しに参加するのも面白いですよ?館の警備は妖精メイドに任せればいいですし、図書館の管理はこぁちゃんがやってくれます。それに――」
にっこりと笑みを浮かべ、パチュリー様に耳打ちする。
(最近、無駄な肉が付き始めたんじゃないですか?パチュリー様。外に出ればそれなりにいい運動になるでしょう?)
その言葉を聞いた途端、パチュリー様が硬直し、顔が真っ赤に染まる。
「なっ、美鈴、あなた、なんでそれを知って……!!」
「私の能力を忘れましたか、パチュリー様?身体に関することはこの館で一番だと思っていますよ」
慌てた様子でこちらを問い詰めるパチュリー様に笑顔のまま返答する。
私の能力である「気を使う程度の能力」は生物が無意識に外に発している気を感知することができる。
基本的に、気の量はその生物の実力に比例するために、この能力を使い、相手との実力を測ることできる。
そして、それ以外にも生物の中の気を探ることで、相手の体調なども分かってしまう。
例えば、足を怪我したのならば、その怪我を治そうと足に気が集中するし、風邪をひいて喉が痛くなれば喉に気が集中する。
健康体であったとしても、不摂生を続ければ気の流れが淀み、病の要因になりえる。
そして、気の淀むところ、そこが即ち「無駄な肉が付いたところ」なのである。
パチュリー様は咲夜さんが来るまでは捨虫・捨食の魔法のために食事を一切取らなかったために、たとえ図書館に引きこもり続けたとしても無駄な肉など付くはずもなかったのだが、咲夜さんがおやつを作り始めてからは、そのおやつだけを食べ続けていたのだから、脂肪が付くのも致し方ないだろう。
パチュリー様はしばらく唸っていたが、観念したのか準備をするから降ろせと言ってきた。
このままパチュリー様を弄るのも楽しそうだが、近くで咲夜さんが見ているので言われた通りに降ろす。
パチュリー様を見送った咲夜さんがパチュリー様に何を言ったのか聞いてきたが、秘密だと言ってごまかした。
咲夜さんは納得のいっていない顔をしながらも無理に聞き出す必要はないと判断したのか、そのまま図書館を出ていった。
もうそろそろレミリア様達の準備も整う頃だろう、と私は玄関に戻って待つことにした。
やがて全員の準備も終わり、出発する。
出発するとき、フラン様が「美鈴、おんぶしてー!」と言ってきたが、傘を持つために手を開けておかなければならないので、肩車で許してもらった。
フラン様は肩車でも十分満足したようで、初めての外の風景に歓声を上げていた。
♢
やがて神社に到着し、中に入ろうと全員が入口へ向かおうとしたら、咲夜さんに小さな影が突っ込んできた。
それは西洋人形で、咲夜さん以外の全員、特に私にとっては見覚えのあるものだった。
それに気が付いた私は反射的に戦闘態勢をとる。
人形が現れた後、すぐに神社から出てきたのはやはり見覚えのある人形遣いだった。
アリス・マーガトロイド。かつて、紅魔館が幻想郷に侵攻した時、私と闘い、勝利を収めた魔法使い。
彼女は咲夜さんと軽い挨拶を済ませ、私達の雰囲気に気付いて警戒を露わにする。
あの異変は咲夜さんが来る前の出来事なので、彼女が私達と人形遣いとの確執を知るはずがないのだが、何かを察したのか、咲夜さんは私達と人形遣いとの間に立つことでお互いに手を出せない状況を作り上げていた。
私達がしばらく睨み合っていると、不意に神社の方から霊力弾が一つ飛んできた。
それは咲夜さんのそばをかすめ、着弾した。
全員が弾が飛んできた方へと視線を向けると、博麗の巫女が不機嫌そうに立っていた。
彼女は戦うなら敷地外でやること、言うことを聞かないならどちらも退治する旨を告げ、さっさと中に入っていってしまう。
そのやり取りで毒気が抜けたのか、剣呑な雰囲気はどこかへ消え、レミリア様と人形遣いが謝罪し合った。
私も戦闘態勢をとくと、ふと咲夜さんの頭の上に乗っている人形と目があった。
人形はしばらく私を見つめていたが、やがて手を振ってきた。
私はそれを見て力が抜け、苦笑しつつ手を振り返すのだった。
♢
神社の中に入ると、咲夜さんはすぐに巫女の手伝いに厨房へと行き、他の面々も好きな所へと落ち着く。
レミリア様は座布団の一つに座り、出されていた茶菓子を食べ、パチュリー様は日陰で本を読み始めた。フラン様は神社に興味があるようで、探検へと出かけて行った。
私は壁に寄りかかりその様子を眺めていたのだが、やがて人形遣いがパチュリー様の本に興味を持ったらしく、話しかけていた。魔理沙が来るようになってから魔法談義が多くなってきたパチュリー様だが、初めての相手に若干戸惑っている様子だ。
その様子を見ていたレミリア様が面白そうに笑い、その騒ぎを聞きつけてフラン様が戻ってくる。
そんなことをしているうちに、他の参加者も続々と神社へとやってくる。
式神をひきつれた八雲、異変関係者兼盛り上げ役として呼ばれたプリズムリバー三姉妹、食べ物の匂いにつられてきたらしい宵闇の妖怪、ふわふわと入ってきて誰かを探しているようにあたりをきょろきょろしている春告精、そして今回の異変の首謀者である西行寺幽々子とその従者の魂魄妖夢。(魂魄妖夢は来てすぐに食材が入っているらしい袋を持って厨房へと向かったのだが、それからしばらく厨房が騒がしかった。何があったのだろう)
咲夜さんたちが準備をしている間、他の面々は思い思いの時間を過ごしていた。
フラン様は神社探検を終え、宵闇の妖怪と共に人形遣いの人形劇に夢中になっており、八雲紫は式を脇に従え、西行寺幽々子と談笑している。パチュリー様は魔理沙と共に持ってきた魔道書について話していて、プリズムリバー三姉妹は楽器の整備中。レミリア様はいつの間にか捕まえた春告精をいじって暇をつぶしている。そして私は好奇心に駆られたのか近づいてきた八雲藍の式を膝の上に乗せ、喉を撫でていた。
猫の式神らしい彼女は捕まえられた当初は抵抗していたものの、今ではゴロゴロと喉を鳴らしてもっと撫でろとばかりにじゃれついてくる。……それを見ていた八雲藍の視線が段々と剣呑になっていき、変な汗が出てくる。
レミリア様が春告精を弄ることに飽きて解放し、私が視線に押されて猫の式神を離そうか迷い始めたころ、咲夜さんが鍋を持って現れた。
彼女が鍋を机の上に置き、声をかけたことで各々座っていく。
その後すぐに魂魄妖夢と博麗の巫女がそれぞれ料理を持って現れ、席に座り、博麗霊夢が乾杯の音頭をとったことで宴会が開催された。
♢
――霊夢視点
宴会が始まり、魔理沙たちが騒いでいるのを私は少し離れた場所から見ていた。
最初はどこも内輪だけで食べていたのだが、魔理沙が紅魔館の魔女に話しかけたのをきっかけに飲めや歌えの騒ぎに発展した。
私としては騒ぎに混ざって馬鹿をやるというのは苦手なのでこうして酒を飲みながら騒ぎを傍観しているのだ。
「隣、良いかしら?」
「あなたは……」
咲夜が持ってきていた「わいん」とやらを片手に隣に座ってきたのはレミリア・スカーレット。スペルカードルール制定後、そして私が初めて解決した異変の黒幕だった吸血鬼だ。
「どうにもああいう騒がしいのは苦手なのよ。だから抜け出してきちゃった。あなたもそうなのかしら?」
「まあね。それより、あんたのそのわいんだっけ?少し寄こしなさい」
「……まあ最初から一緒に飲もうとは思っていたけど、ここまではっきり寄こせと言われるとは思わなかったわ」
「それにしても変な光景よね。人間と妖怪が入り混じって宴会なんて」
私が呟くとレミリアは意外そうな顔をしてこちらを見る。
「あなたがこの宴会の主催者だと思ってたけれど?」
「主催は私だけどほとんど紫が面白がって話を広めたのが原因ね。宴会話を持ってきたのは魔理沙で、それを面白がって準備したのが紫よ。というか、知ってるものだと思ってたわ」
「なんで私が知ってるのよ?」
「一番最初に言い出したのが咲夜だからよ。魔理沙はそれを私のところまで来て話しただけ」
「咲夜が?」
「ええ、なんでも、『宴会はいつやるの、魔理沙?』って聞いてきたらしいわよ。魔理沙が最初人里で開かれるやつかと思って問い返したら、異変の関係者全員での宴会だって言うじゃない。魔理沙からその話を聞いたとき思わず一緒に笑っちゃったわ」
「あの子がそんなことをねえ……」
「咲夜って変なやつよね。何の疑いもなく人間と妖怪が一緒になって騒ぐ、なんてことを考えるんだから。普通はそんなこと思いつきもしないんだけどね」
「ふふ、咲夜は人間がいない環境で育ってきたから、普通の人間とは思考回路そのものが違うのかもしれないわね」
レミリアは笑いながら私の杯に赤い液体をそそぐ。
それを一気に煽ると湯呑をレミリアに突き出して催促する。
「良い飲みっぷりね。酒に強い人間は好きよ。咲夜ももう少し酒に強ければ晩酌に誘うのにね」
二杯目は味わって飲もうとちびちび飲んでいると、面白いものを見るような目で見てくる。
「へえ、咲夜はお酒に強そうに見えるけどね」
「普通の人間から見れば強い方ね。ただやっぱり妖怪と比べると弱いわ。酔いつぶれたところを美鈴に部屋まで送られているのをよく見かけるし。お酒を造るのは得意なのにね」
「……もしかしてこのお酒、咲夜が造ったの?」
「そうよ?最初は能力の実験のために造っていたみたいだけれど。いつの間にかビンテージワインを量産できるくらい得意になっていたの。地下室の一室をワインセラーに改造するくらいには気に入ったみたいよ?ワイン造り」
「意外な特技ねえ。今度あんたの屋敷まで飲みに行こうかしら」
「紅魔館は酒場じゃないのだけれど。まあ欲しければ10本くらいあげるわ。造りすぎてワインセラーからあふれそうだって咲夜が言っていたしね」
「保管しきれないほど造るなんて、やっぱりどこか抜けてるわね、あの娘。それにしても甘い味に誤魔化されそうになるけど意外に強いお酒ね、これ。おかげで体が火照ってきちゃったわ。私は涼みついでに縁側に行くけど一緒に来る?」
「遠慮しておくわ。ここで他の奴らの痴態を見るのもなかなか愉快だしね」
「悪趣味ね、あんた」
悪魔らしく笑うレミリアに溜息をついて縁側へと出る。
すでに外は闇に包まれており、空には三日月が浮かんでいる。
出る途中で取った日本酒を杯に注ぎ、月見酒を楽しむ。
しばらくそれを堪能していると後ろがなにやら騒がしくなった。
魔理沙が何か騒いでいるのかと振り向くとそこには予想に反してちびっこたちにもみくちゃにされている咲夜がいた。おかげでいつもはきちっと着ているメイド服が皺くちゃになっている。
身動きが取れなくなっているであろうその状況を見ていられなくなり、ちびっこたちを散らして救出する。
ちびっこたちの注意を他のものに向け、咲夜に杯を渡し、一緒に飲み始める。
だが、予想以上に度数が高かったのか、一口飲んだだけでむせこんでいた。
背中をさすりながら大丈夫か聞くと、酒には強くないという返答が返ってきた。どうやら本人も自覚していることらしい。
しばらく背中をさすっていたが、彼女の顔がだんだん赤くなってきて、目の焦点が合わなくなってきた。今の酒で酔いが回り始めたようだ。
咲夜は涼んでくると言って縁側に向かおうとするが、ふらついてしゃがみこんでしまう。
いつものしっかりしている彼女と比べるとどうにも危なっかしく感じてしまい、縁側まで肩を貸して移動する。
縁側に出ると涼しい風が吹いており、酒が入って熱くなっていた体を冷ましていく。
その風が心地よかったのか、目を細めて気持ち良さ気にしている咲夜を見て、いつもの番犬のような感じではなく、縁側で日向ぼっこをしている猫のような印象を受けた。
それを咲夜に言ってみるが、本人はこっくりこっくりと体を揺らしており、ぼんやりとした視線が私に向けられるだけだった。返事もしないところを見ると相当に酔い始めたのだろう。そうしているうちに、咲夜の体がこちらに倒れてきて、膝枕のような体制になってしまった。
ここで寝れば風邪をひくことは確実だが、神社の布団は酔いつぶれてしまった面子で埋まっている。
さてどうしたものか、とあたりを見渡すと、紫に酔い潰されて机に突っ伏している藍の尻尾が目に入った。
あれなら布団としてちょうどいいだろう。……橙やルーミアなんかも入り込んでいるし。
私は咲夜の体を抱き上げ(予想以上に軽くて驚いた。ちゃんとご飯食べてるのかしら?)藍の尻尾に降ろす。
尻尾の中に咲夜の体が入るように寝かせると、ぼんやりと開いた目でこちらを見てくる咲夜にお休みと頭を撫でる。すると、まるで子供のようににへらっと笑い、すうっと咲夜は眠りに落ちた。
「あんた、そんな顔もするのね」
最後の不意打ちの笑顔はなかなか強烈だった。普段澄ました顔をしている咲夜があんな無邪気な顔を見せるなんて思わなかったために顔が赤くなっていく。
とりあえず私はこの熱くなった顔を冷ますためにもう一度縁側へと向かうのだった。