今回は咲夜さん視点。中途半端なところで区切れるな、と思う方もいるかもしれませんが、解決組との視点と交互に書いていくつもりです。
――???
「う、ん……」
目が覚める。
気が付いてまず目に入ったのはごつごつした岩肌。
続いて感じたのは固い地面に寝かせられていたことによる全身の痛みだった。
「ここは……」
「おや、起きたかい?人間」
上体を起こして周囲を確認しようとすると、声が聞こえてきたためにそちらへと顔を向ける。
そこには平らな石に腰掛け、瓢箪から(たぶんだが)酒を飲んでいる萃香の姿があった。
「はっは、悪かったね。ここんとこやり応えのある相手と戦えてなかったんでね、ついやりすぎた。具合はどうだい?」
萃香に言われて体調を確認する。
すると、先程から感じる痛みのほかにまるで全力で走ったかのような気怠さを感じた。
「……あまり良くはないわね。体が重いし」
「ああ、それはほれ、そこの鎖のせいさ。私の能力であんたの霊力を散らしてるからね」
逃げられたらかなわないからね、と朗らかに笑う萃香。
私としては萃香に会えたことは嬉しいのだけど、いきなり喧嘩を吹っかけられてそのまま攫われた身としては複雑な気分だ。
「なんでこんなことを?」
「ああ――嬉しかったんだよ。あんたみたいな人間を見て。昔の人間はさ、私たち鬼を恐れるあまり、不意打ちやら毒やらで私達を殺してたんだよ。私達が望むような心が躍る戦いを避け始めた。だから私達は地底に潜ったのだけれど。でも私としては地上の空気も酒も気持ちのいいもんだった。だから時々地上に出てくるんだけどね。今年はほら、春が短かっただろう?だから宴会を増やそうと楽しい気分を萃めてまわってたんだけど、その途中であんたを見つけた。少しばかり驚かそうと思って近づいたら私に気づいて攻撃してきたもんだから嬉しくなっちまってねえ。人間相手に正面から攻撃されるなんて久しぶりだったもんだから攫いたくなっちまったのさ」
酒が入っているからなのか、それとも本当に嬉しかったからなのか、饒舌に話す萃香。
「そういえば名乗ってなかった。私は「伊吹萃香」。種族は鬼。元々は妖怪の山に住んでたけど、今は地底に住んでる」
「戦う前も名乗ったけど、「十六夜咲夜」よ。湖近くの紅魔館に住んでるわ」
「へえ、あの派手な館に。目が痛くならないのかい?」
「慣れればそうでもないわ。……ねえ、ここはどこなの?」
「ここは妖怪の山の洞窟さ。地底に連れてきたかったんだが、あっちには勇儀なんかもいるし、あんたを取られたくなかったからね、古巣のこっちに来たのさ」
「私を解放するつもりはないの?」
「無いね。あんたはこのまま地底に連れてく。ま、地上でちょっと騒ぐからそれまであんたにはここにいてもらうことになるけど」
なんとも勝手な話だ。ある意味妖怪らしいと言えば妖怪らしい。
でも私には紅魔館がある。どうにかして脱出しなければ。
「逃げようなんて思わないことだ。霊力はその鎖で封じてあるし、その鎖は人間の力じゃ千切れない。まあ、せいぜい大人しくしてることだね」
よっと、と声を上げ、萃香は石から立ち上がると、洞窟の出口に歩き出す。
「じゃあ私は少し出かけてくるけど、二刻位で戻ってくるからさ。大人しくしてるんだよ?」
そう言って萃香は疎になって消えてしまった。
ぽつんと残されてしまった私は鎖をどうにかしてほどこうと引っ張るが、びくともしない。
ていうかなんで鎖が私の首に巻かれてるの!?萃香の趣味!?
私は縛られて喜ぶ趣味はないんだけどなあ。
♢
その後も引っ張ったり、噛んだり、地面にこすり付けてみたりと様々な方法を試したが、鎖には傷一つ付かなかった。
もしかしたら萃香の能力で密度を上げて強度が増しているのかもしれない。
さすがに疲れてへたり込んでいると、洞窟の外から声が聞こえた。
萃香が返ってきたのかと思ったけど、二人分の声が聞こえたから多分違う。
じゃあ誰が?その疑問はその声の主が洞窟に近付いてきたことで話の内容が分かってきたため分かった。
「それで、こっちに伊吹様を見たのですか、椛?」
「はい、確かにあれは伊吹様の姿でした。千里眼越しに見たので伊吹様は気が付いていないようでしたが」
「ということは伊吹様が来るほどの何かがここにあるということですね、特ダネの匂いがしますよ!」
「またそんな。伊吹様に聞かれたら怒られますよ?」
「あの方はそんな小さい器じゃありませんよ。むしろ笑い飛ばすんじゃないですか?」
どうやら萃香を目撃した誰かがこっちに確認しに来たらしい。
これは逃げる絶好のチャンス!
「そこに誰かいるの?」
私が声をかけると声が一旦やみ、ひそひそ声がした後、こちらに声をかけてきた。
「誰ですか?」
「伊吹萃香に攫われた人間よ。助けて頂戴」
「……今そっちに行きます。待っててください」
その後足音がこちらに向かってきて、私にも姿が見えた。
それは私の知っている姿だった。
「あやや、貴方は確か紅魔館の」
「確か最近拾われた人間でしたね。何故伊吹様は彼女を?」
一人は烏のような黒い翼をもった天狗。
一人は白い犬耳と尻尾を持った天狗。(本人が聞いたら狼だ、と訂正が入るのだろうが)
――「射命丸文」「犬走椛」がそこにいた。
いや、確かにここは妖怪の山だって言ってたけどさ、ピンポイントでこの二人が来るとは思わなかった。
私の思考は内心の渇いた笑いと共に消えていった。