転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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どうも、車を納車して運転に苦戦してる作者です。

今回は萃香視点。

次回に咲夜さん視点を挟んで萃夢想編は終わりですね。



最高の一日(萃香視点)

 

――萃香視点

 

 

「ここにもいない、か。いっそのこと分体を作ろうかねえ」

 

私は疎になって人里に入った後に目的のものを見つけられずにぼやく。

 

「あの人間を助ける奴が一人位いると思ったんだがねえ」

 

十六夜咲夜、とか言ったか。

昔ならば鬼に攫われた人間を見捨てる人間は多かったが、ここは幻想郷。

誰かが攫われれば誰かが助けるために調べる。

そしてそこに強い人間がいれば、と思ったのだが……。

 

「もしかして違う場所を探すべきだったのかね。あいつも人里とは別の場所に向かっていたようだし」

 

だが私はあの人間の住処を知らない。

これ以上は無駄骨だろう。

私は探索をやめて妖怪の山へと向かう。

あの人間を連れて地底に行けば面白いことも起こるだろう。

勇儀に自慢するのもいいかもしれない。きっと悔しそうな顔で私を見ることだろう。

 

やがて目的の洞窟へ到着する。

だが、中に誰かの気配を感じた。同時に血の匂いも感じ取る。

 

(私が残した妖力に気が付かなかった馬鹿な妖怪が入り込んであの人間を襲ったか?)

 

私は洞窟の中に入ると、二人の妖怪が十六夜咲夜のそばに座り込んでいた。

どうも襲い掛かっている雰囲気じゃない。

これはむしろ、心配している?

 

「おいおい、これは何の騒ぎだい?」

 

私が二人に問いかけると、両方が振り向く。

だが、一人が私と目があった瞬間、咆哮を上げ、殺気をまき散らしながら突っ込んできた。

 

突然のことに反応できなかった私は突進をもろに喰らって吹っ飛ぶ。

そいつをどうにか振り払うと、空中へと移動した。

 

そいつは弾幕を張り、こちらを撃墜させようとしてくる。

しかもその弾幕は紫に教えられていた弾幕ごっこ用のものではなく、殺し合いで使うような代物だった。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!」

 

「ったく、一体何だってんだい!」

 

毒づいて弾幕を回避する。

次の瞬間、そいつはスペルカードを放ってきた。

 

そのスぺカは弾幕が弾け、さらに周囲へ弾幕をばらまいていく。

本来ならば逃げ道があるはずだが、それには存在しなかった。

 

「ちいっ!」

 

舌打ちを一つして疎になることで回避する。

弾幕が届かないところまで一旦下がったことで、ようやくそいつの姿を眺めることができた。

そして気付く。こいつは吸血鬼の異変の時に地下にいた吸血鬼ではないかと。

それで納得した。

単にこいつは私と戦うためにここに来たのだろうと。

どうやって私の居場所を特定したのかは分からないが、紫あたりにでも聞いたのだろうか?

 

襲い掛かられた理由が分かってすっきりしたのでこちらも応戦することにする。

紫に教えられて作ったスペルカードを殺傷用に調整し、放った。

 

――萃符「戸隠山投げ」

 

周囲から岩を萃め、弾幕と合わせて放つ。

避けると思った私の予想を裏切って、吸血鬼は正面から突っ込んでくる。

だけど、それはかつての戦いの焼き直しでしかない。

この吸血鬼の負傷覚悟の戦い方はすでに見切っている。

私は疎になることで吸血鬼の攻撃を回避し、背後に周って能力を解除した。

そして、吸血鬼の頭を殴り、地面へと叩きつけた。

かなりの手ごたえを感じたが、あの吸血鬼の再生能力を考えるとあまり効いてはいないだろう。

追撃するために地面へと向かおうとして、ただならぬ殺気を感じて思わず動きを止めてしまう。

吸血鬼を吹き飛ばした場所を見ると、予想通り吸血鬼が頭を再生しているのを見つけた。

そして再生した目でこちらを睨んでくる。

そこで気付く。彼女は私と戦うためにここにいるんじゃない。

あの人間――十六夜咲夜を助けるためにここにいるのだ。

何故それが分かったのか、それは彼女の眼だ。

私は彼女が前に戦った時のように狂っているのだと思っていた。

だがそれは少し違う。

彼女は「怒り」狂っているのだ。

元から持っている狂気に自ら怒りという燃料を注ぎ込み、さらに燃え立たせている。

 

そして吸血鬼はかつてと同じようにその手に炎剣を作り出した。

だがその大きさは昔見たそれの比ではない。

遥かに大きく、また、離れたこの場所からでも熱さを感じるほどの熱量。

かつての炎剣は未熟だったのか、それとも室内であった故に無意識に制限していたのか。

それとも――彼女の感情の高ぶりに炎剣が反応しているのか。

 

吸血鬼は炎剣を私に振り下ろし、私はそれを能力によって内包する魔力を散らそうと手を向ける。

だが、かつてのように炎剣が散ることはなく、むしろ炎の密度を増して私へと直撃した。

 

「がっ、あああああああああああああ!!!!????」

 

炎剣の炎は私を容赦なく焼き焦がす。

とっさの判断で空中の水分を萃めることで温度を減衰させたものの、炎は私の肌を焦がし、そして萃めてしまった水が一瞬で蒸発したために爆発が起こり、大きく吹き飛ばされてしまう。

追撃がくるかと身構えたが、いつまでたっても衝撃が来ない。

不思議に思って吸血鬼の方を見てみると、人間、いや「十六夜咲夜」が吸血鬼に後ろから抱きついていた。

きっともう一人の妖怪が解放したのだろう。

 

「ここまでボロボロになって、攫った人間にまで逃げられる。こりゃあ私の負けかな」

 

溜息交じりに言葉を零して苦笑する。

久し振りに面白い人間に会えたんだがねえ。これじゃ勇儀に笑われちまう。

根城である地底に戻ろうとした、その時だった。

 

――神霊「夢想封印」

 

――恋符「マスタースパーク」

 

――人符「現世斬」

 

色とりどりの弾幕が、凄まじい威力の砲撃が、ただならぬ斬気が込められた斬撃が同時に襲い掛かってくる。

咄嗟に疎になることで全ての攻撃を回避する。

 

「外したみたいね、なかなか厄介な能力だわ」

 

「ああ、だけど突破口はあるぜ、なにせ私達が始めるのは「弾幕ごっこ」なんだからな」

 

「あなたが咲夜さんを攫った妖怪ですね?何故そんなことをしたのかは分かりませんが……、まあ斬ればわかるでしょう」

 

いきなり攻撃してきた三人が現れ、思い思いの言葉を吐く。

 

「いきなり攻撃をしてくるなんて危ないやつらだねえ」

 

「人を攫う妖怪に言われたくはないわ。それに、今私はいつになく怒ってるのよ?」

 

「まったくだ。人の友達攫っておいてタダで済むとは思ってないよな?」

 

「そうです、咲夜さんを倒すのは私なのですから!」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

なんだか漫才じみたことを始めた三人だったが、紅白の巫女が仕切り直すようにお祓い棒を私に突き付ける。

 

「とにかく!あんたはここで退治するわ、覚悟なさい」

 

「ふふっ、はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!!」

 

「何がおかしいのかしら?」

 

突然笑い出した私に怪訝な顔で問いかける巫女。

でも悪く思わないでほしい。

だって、あまりにも嬉しかったのだ。今日一日だけで私と戦おうなんて奴が四人も現れたんだ、笑うなってほうが無理な話だ。

 

「いや、悪いね。あんたらを馬鹿にしたわけじゃないんだ。ただ、嬉しかったのさ。鬼である私と戦おうなんて奴は久しく見なかったからね」

 

三人が構える。私もそれに答えるために妖力を自身へと集めていく。

 

「さあ始めようじゃないか、鬼遊びをね!!」

 

「あんたを倒してとっとと飲み残したわいんを飲みに行かなくちゃね」

 

「咲夜の代わりにぶっ飛ばしてやるぜ!」

 

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無い!」

 

私は三人と同時にぶつかり合った。

 

 

 

 

 

「はあああああああっ!!!」

 

「ほっ、よっ、なかなかやるねえ、剣士!」

 

剣士の斬撃をいなしながら笑う。

まだまだ粗削りだが、その真っ直ぐな太刀筋にかつての剣士たちとの戦いが脳裏に蘇る。

隙を見つけて殴ろうとするが、隙を埋めるように飛んでくる弾幕のせいでなかなか反撃できない。

突然剣士が後ろへと距離を取る。

それを追おうとした私のそばを砲撃が通り抜けていった。

 

「ちっ、外したか!」

 

「ちゃんと狙いなさいよ、魔理沙」

 

どうやっているのかは分からないが、どうやら彼女たちには声を出さずに意思疎通する術があるらしい。

 

「やあああああっ!!」

 

「おっと」

 

剣士が再び斬りこんできて、私は腕でそれを妖力を萃めて作った盾で防ぐ。

しかしぶつかり合ったのは一瞬で、剣士はまた引き下がる。

 

「同じ手は通用しな――――、っ!?」

 

また砲撃を撃ってくるのかと横へ移動しようとした瞬間、白黒の魔法使いが凄まじい速さで突っ込んできた。

 

――彗星「ブレイジングスター」

 

私はそれを大きく右へ跳ぶことで避ける。

だがその時、私の体が封じられた。

 

「くっ!結界か!」

 

――神技「八方鬼縛陣」

 

「魔理沙、妖夢、今よ!」

 

「待ってたぜ、この瞬間を!」

 

「全力を叩き込みます!」

 

――宝具「陰陽鬼神玉」

 

――魔砲「ファイナルスパーク」

 

――断迷剣「迷津慈航斬」

 

巨大な霊力弾が、先程以上の威力を秘めた砲撃が、何物も断ち切らんとする斬撃が襲い掛かってくる。

 

「ああ、くそっ、私の負けかあ」

 

私はそれを笑顔で受け止めたのだった。

 

 

 

 

 

「これで一件落着。これに懲りたら人攫いなんてしないことね。少なくとも私の前では」

 

「はー、解決したらなんか疲れたぜ。紅魔館でお茶でもしてくるかな」

 

「早く帰って夕餉の準備をしなければ……。幽々子様、今参ります!」

 

私を倒した三人は各々目的の場所へと向かっていく。

私は紅白の巫女に話しかけた。

 

「なあ、博麗の巫女」

 

「何よ?まだ懲りてないようならもう一回ぶっ飛ばすけど?」

 

「いやいや違うんだ。ここ最近地底は退屈でねえ。かといって地上の方だと妖怪の山くらいしか寝床がないから見に来る天狗どもが煩くて。だからさ、ちょいと寝床を貸してくれないかい?」

 

「博麗神社に住む気?妖怪が住む神社だなんて前代未聞ね。ますます参拝客が遠のくわ……」

 

私のお賽銭が、と嘆く巫女にさらに話しかける。

 

「食うもんは自分で用意するし、なんだったら家事を手伝ってもいい。どうだい?」

 

「……まあ働くなら構わないけど。参拝客を脅かさないようにね。後、咲夜に謝っておくこと」

 

「分かったよ。明日にでも謝りに行くさ。それじゃ、これからよろしく!」

 

こうして、私は博麗神社へと居候することが決まった。

これから面白いことが起きそうだ、と私は笑うのだった。

 




書けなかったのでここで補足。
霊夢達が声を出さずに意思疎通していたのはパチュリーの魔石を使ってです。
霊夢の魔石を妖夢に渡し、霊夢は勘で、魔理沙は魔石でタイミングを計っていました。

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