今回は魔理沙回。霊夢、妖夢ときたのでこれはやったほうがいいかな、と思いまして。
次回から永夜抄の予定です。
――紅魔館 図書館
(「大天狗と白狼天狗が電撃結婚」「人里の人間と野良妖怪の恋物語」……意外に色恋ネタが多いなあ、この新聞)
午前中にするべき仕事を終え、図書館で文々。新聞を読む。
私の記憶にもある新聞にそっくりなそれは、ゴシップや幻想郷という不可思議な環境下でも眉唾物な記事が大半だ。
まあ情報媒体というよりどちらかといえば娯楽用の読み物といったところだろうか。
(へえ、あの人里の団子屋、新メニュー出すんだ、今度買ってこようかな)
私が紅茶を飲みつつ新聞を読み進めていると、図書館の扉が乱暴に開かれる。
それを感知した瞬間、私は能力を使って時間を停止させた。
そして残りの紅茶を飲み干し、新聞を自分の部屋の本棚に放り込み、厨房で紅茶を淹れ直して手作りのケーキを持って図書館に戻り、パチュリー様がいつも座っている机に到着したところで能力を解除した。
「お客様です、パチュリー様。紅茶とお茶菓子をお持ちしました」
「相変わらず仕事が速いのね、あなたは」
「職務ですから。では、これで」
来たのは十中八九魔理沙だろうし、だったら魔法の講義が始まるだろう。
同席したい気持ちはあるが、邪魔するわけにもいかないので立ち去ることにする。
休憩時間はまだあるが、午後の業務を早めに始めればいいだけのことだ。
「待ちなさい、咲夜」
出ていこうとしたらパチュリー様に呼び止められた。
何だろう、ケーキよりモンブランの方がよかったとか?
「あなたも聞いていきなさい、魔理沙もあなたがいた方が意欲が出るみたいだしね」
そうなのかな、魔理沙は一回集中したら没頭するようなタイプだと思うけど。
まあ邪魔にならないんだったら喜んで残ろう。私だって女子トークに花を咲かせたい。
「分かりました。ではこの席に座ってますね」
おっと、座る前に何か読むものを探そうかな。
新聞を取りに行くのは面倒だし、漫画でも読んでることにしよう。(この図書館、魔法で様々な書物を収集する機能があるらしく、その中に漫画も混じってた。それを整理するのが小悪魔の仕事なんだとか)
「ようパチュリー!本を返しに来たぜ。そんで分からないところを教えてほしいんだが……」
「そう思って準備はしていたわ」
「さすがパチュリー!話が分かるぜ!」
この二人、最近息が合ってきたよね。相手の考えてることを把握してるというか。
あれ、それ、で何が欲しいのか分かってしまう間柄というか。
「お、咲夜もいたのか、何読んでるんだ?」
「時を○ける少女」
「なんだかお前のことみたいだな!」
「そう?」
私はタイムスリップとかはできないけどね。できるのは時を早めることと遅らせることと止めることだけ……って、そうだ。
「魔理沙、何か私にやってほしいことはある?」
「ん、何だよ突然」
「この前の異変で私を探してくれたんでしょう?パチュリー様に聞いたわ」
「気にするなよ、友達なんだからその位は当然だ」
「何かない?私にできることなら何でもするけど」
魔理沙はしばらく考えていたけど、やがて思いついたような顔になった。
「じゃあ掃除をしてくれないか?」
「掃除?」
「ああ、私は掃除がどうも苦手でな、家の中が散らかってるんだ。それを片づけてくれたら助かるな」
「分かったわ。今度あなたの家にお邪魔するわね」
「決まりだな!」
ニカッと笑った魔理沙はパチュリー様のもとに向かい、魔法談義を始めた。
私はその声をBGMに漫画を読み進めるのだった。
♢
さて、魔理沙と約束した次の日に魔法の森にやってきました。
そういえば魔法の森に入るの初めてだなあ。
え?魔法の森の瘴気は大丈夫なのかって?
ふふん、心配ご無用、あの後パチュリー様に魔理沙の家に行くと伝えたら瘴気を無害なものに変換する術を施したお守りをくれました!
その場で一瞬で作ってしまったのはさすがに驚いたけどね。
もうパチュリー様に頭上がらないなあ。今度お礼に特製アップルパイを作ろう。
きっと食べきれないって言って小悪魔と一緒に食べるんだろうけど。小悪魔が甘いもの好きなの分かっててお菓子を分けてあげるんだから本当パチュリー様って優しいなあ。
いつもの口調で「貴方のためじゃなくて私が食べきれなくてもったいないからよ」って小悪魔に言ってた時はどこのツンデレですか!?って突っ込みたくなったけど。
魔理沙に渡された地図を見て森の中を進む。
以前霊夢に渡されたものとは違い、意外にも縮尺や目印になるものがきちんと書かれた地図は見やすかった。パチュリー様曰くこの程度は魔法使いとしての基本技能だから叩き込んだのだとか。
やがて「霧雨魔法店」という看板が掲げられた家を見つけた。
魔法使いの家の割には外装は結構普通だ。
とりあえず、入り口の前に立ち、ノックする。
すると、中からガン、ゴン、と何かがぶつかるような音がして、扉が勢いよく開いた。
「よう、待ってたぜ、咲夜」
出迎えてくれたのはいつもより少しラフな格好をした魔理沙。
こら、いくら女同士だからってそんな無防備な格好で応対するんじゃありません。
もし私じゃなくて他の人だったらどうするの。
「……身だしなみはきちんとしなさい」
魔理沙の服を整え、注意する。こういうことは自覚することが大切だからね。
「ああ、ありがとな。……さっそくで悪いが、掃除を始めてもらえるか?」
「構わないわ」
さてどれほど散らかっているのだろうと家の中に入ると、そこは予想以上に物が散乱していた。
おそらく魔理沙が生活しているのであろう場所を除けば、脚の踏む場もないほどだ。
「これは予想以上ね。結構かかりそうだわ」
「じゃあ私は邪魔にならないように森に行ってるからさ、頼んだぜ~」
魔理沙はそのまま魔法の森へと姿を消してしまう。
せめて夕方までには終わらせなきゃね、よし、気合入れますか!
♢
ふう、大分片付いたかな。
しかし用途が分からない器具はまだしも、画面が割れたゲームボーイやら充電パックが無くなってた携帯電話とかなんであるんだろう?
無縁塚あたりで拾ってきたのかなあ?
私が掃除を進めていき、あともう少しで終わるといった時、ガラクタの下から何かがひょこっと顔を出した。
それと目がバチリと合う。
メ○メガアウ~~~♪
脳内で変な音楽が流れた気がするけど、まあ気のせいだろう。
腹がポッコリと突き出ている蛇のようなそれは見たことがないけど、どういう生き物かは知っている。
――ツチノコだ。
そういえば魔理沙ってツチノコを飼ってたんだっけ。
まさか幻の生き物とご対面することになろうとは。
私はツチノコを優しく抱き上げる。
ツチノコはじっと私を見つめていたが、敵ではないと判断したのか目を閉じてこちらに身を委ねてきた。
意外に可愛いなコイツ。よし、私自慢の撫でテクで気持ち良くしてやろう。
ナデリナデリとツチノコの感触を確かめつつ堪能し、頭の上に乗っける。
まだ掃除が終わったわけじゃないし、放置しておくと何かの拍子に踏んでしまうかもしれないからね。
最後のガラクタを物置部屋らしき部屋に突っ込んで軽く箒で掃く。
ピカピカとまではいかないが、始めた当初よりかは綺麗になっただろう。
いつの間にか頭から降りて私の首に巻き付いているツチノコの頭を一撫でして厨房に向かう。
そこに紅茶の茶葉が置いてあるのは確認済みだ。アリスが置いていったのかはたまた香霖堂からかっぱらってきたのか……まあそんなことはどうでもいいか。
紅茶を淹れるためにお湯を沸かしていると、魔理沙が帰ってきた。
「おお!すげー綺麗になってる!ありがとな咲夜、助かったぜ!」
「この位ならお安い御用よ。いつもあんなに散らかすの?」
「研究に没頭するとどうしてもな。これからも何回か頼んでいいか?」
「私の仕事に影響を与えない範囲ならね」
「助かるぜ、…ん?そいつが他人に懐くとは、珍しいな」
「ああ、この子?私の首が気に入ったらしくて離れてくれないのよ」
未だに首に陣取っているツチノコを撫でながら話す。
随分人懐っこいUMAだこと。
♢
その後も紅茶を飲みながら魔理沙と雑談をしてツチノコを愛でていると、帰る時間となった。
「じゃあそろそろ失礼するわね」
「ああ、また頼むぜ」
「ええ、じゃあね……ん?」
くいくい、と袖を引っ張られる感覚を覚え、振り向くとツチノコが行かないで、とばかりに私の裾を咥えていた。
か、可愛いいいいいいいい!!!!!!くっ、不覚にもきゅんとしたよ今!
うう、魔理沙が飼ってなければお持ち帰りするんだけどなあ。
「っと、こら、咲夜が困ってるだろ?」
「大丈夫よ、じゃあね。……今度紅魔館に来るときはその子も連れてきなさい、歓迎するわ」
そう言って私は魔理沙に手を振りつつ帰路に着くのだった。
その日から魔理沙がツチノコを連れて紅魔館を訪れるようになるのはまた別の話。
今回出てきたツチノコっていつぐらいから魔理沙と一緒にいるんでしょう?
作者は書籍は持ってないのでそのあたりは分からないんですよね。