今回はレミリア様視点。
この異変で唯一単独で動いています。
深夜のテンションで書いたのでおかしいところが多々あるかもしれません。
――レミリア視点
「……ふん、腰抜け共め」
私は偽りの月が輝く夜空を飛んでいた。
そして下から感じられるのは無粋な視線。興味と怯えが混じりあったそれは言語も理解できない低級の妖怪や妖精のものだろう。
咲夜が以前に異変解決に向かった時は好戦的な様子だったと言っていたため、私に挑む度胸のあるやつもいるかと思っていたが、どうやら期待外れだったようだ。
(まあ、それも仕方のないことか)
今の私は自身の妖力を抑えきれていない状態にある。
その原因が月が偽りのものであるからなのか、それとも心の中で燻っている感情のせいなのかは分からないが。
(まさかこの私が運命を見ることができないなんて)
今回の異変、どのような結末になるのか運命を覗いたものの様々な運命が混線していて上手く読み取ることができなかった。
今まで運命が混じりあい、複数の未来を見せることは何度かあったが、それでもそれぞれの結果を観測することはできていたのだ。
しかし、今夜の運命はお互いの影響が大きすぎて正確な結果を観測できない。
そして、その中でも心に刻み込まれている未来は――
(偽りの月の下で殺し合っているフランと咲夜)
これはあくまで観測可能な可能性の一つにすぎない。
しかし、その運命を見てからずっと私の中で警鐘がなっている。
――あの運命は十分起こり得る未来だ、と。
「っ!!」
頭を振って嫌な予感を振り払おうとする。
しかしまるで泥のように私の思考にこびりついた考えは離れることはない。
だからこそ私は咲夜に自身の血を飲ませ、フランの相手をするように言っておいたのだ。
今回の異変に参加することのないように。あんな光景が現実とならないように。
「くそっ」
自身の中の焦りを吐き出すように地面の妖怪どもに弾幕を放つ。
慌てて逃げる者もいれば逃げ切れずに爆散する者もいた。
「あらあら、八つ当たりとは感心しないわね、吸血鬼」
突如、私の目の前の空間に亀裂が走り、隙間妖怪が顔を出す。
私は舌打ちを一つして、隙間妖怪を睨みつけた。
「ちっ、何の用だ、スキマ妖怪」
「いえいえ、雑魚に当たり散らす無様な吸血鬼の姿が見えたから挨拶を、と思ってね?」
「……神経を逆撫でしに来たのならばとっとと失せろ。今の私は機嫌が悪い」
「忠告しに来たのよ、この異変から手を引きなさい」
「どういうことだ」
「今回は月絡みだからね、あんたが関わるとややこしくなりそうなのよ」
「博麗霊夢か。…貴様らこそ早々に帰るがいい。月は我々吸血鬼にとって象徴の一つだ。黙って見過ごすわけにはいかん。私が解決するから貴様らはお役御免だ」
「そういうわけにもいかないのよ、面倒だけどね。それに、今のあんた、余裕がないように見えるけど?」
「……これ以上の議論は時間の無駄だ、じゃあな」
私は博麗の巫女と隙間妖怪に背を向け、立ち去ろうとして――
「今あなたが抱いている感情は恐怖、じゃないかしら?」
隙間妖怪の言葉を聞いた瞬間、グングニルを隙間妖怪の喉へと突き付けた。
「吸血鬼の私が、怖がっているだと?」
「ええ。何に対してなのかは知らないけど、貴方の眼に浮かんでいるのは紛れもない恐怖心よ?」
隙間妖怪の言葉で燻っていた感情が鎮静するのを感じる。それは今まで持て余していた物を理解できたことからくる納得だった。
「くっ、はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!」
「……とうとうおかしくなったのかしら?」
隙間妖怪が随分失礼なことをのたまっているが、そんなことは気にならない。
なるほど、私はフランと咲夜、二人を失うことを怖がっていたということか。
まったく、恐怖心などここ二百年ほど感じていなかったために完全に失念していた。
(だがまあ、愛ゆえの恐怖というのも、悪くない)
あの二人を失うのを恐れるほどに愛している。
昔ならば認めなかっただろうが、今はその感情すら心地いい。
これも咲夜の存在によって生まれた変化ということだろうか?
「いやなに、今までの不機嫌の理由が分かってすっきりしただけだ、礼を言うぞ、スキマ妖怪」
「そう、なにか釈然としないけど、まあ礼は受け取っておくわ」
「……で、どうするのよ。これから」
今まで蚊帳の外にしてしまっていた博麗の巫女は少し退屈気味に私達を見つめていた。
「そうねえ。弾幕ごっこで勝負して、負けたら手を引く、でいいんじゃないかしら?」
「私はそれで構わん。で、どっちが相手だ?」
「私がやるわ。面倒だけど、博麗の巫女としての仕事だしね」
博麗の巫女――ええい、面倒だ、博麗でいいだろう――博麗は袖から札を取り出して構える。
私はそれを見てグングニルを構え直す。
そして気付く。妖力の乱れが収まっている。どうやらあれは月のせいでなく、私の心の問題だったようだ。
「じゃあ始めましょうか。言っておくけど、この前のように勝てるとは思わないことね。今の私は以前の私よりも調子がいいの」
「あんたの調子なんか関係ないわ。私は異変を終わらせてさっさと帰りたいの」
お互いに弾幕を展開する。
ふと自分の中の恐怖を探り、それを感じ取って――愛しさのあまり笑みを浮かべる。
温かい恐怖心を胸に私は博麗へと踊りかかっていくのだった。