転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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どうも、ACfaをようやく全ルート制覇した作者です。
え、そんなことやってる暇あったら就活か卒論やれって?
たまには現実逃避、したいんですよ……(遠い目)

今回は咲夜さん視点。ようやく永夜抄編のプロットが固まってきました。
とはいっても終わりはまだまだ遠いですがw



鳥目って大変ですね…

 

 

偽られた月の光に照らされた森の中を駆け抜ける。

もはや人間の域を逸脱した視力は障害物を暗闇の中でも容易く見つけ、それを避けようと力を籠めれば体は軽く動いてくれる。

これが吸血鬼の力の一端。私の中にあるものはレミリア様のそれと比べればちっぽけなもののはずなのに、力の奔流が私の中で渦巻いている。

気分が高揚する。これほどまでに興奮したのはいつほどだろう。たぶん、美鈴とお風呂に入って体をガン見した時以来じゃないだろうか。

なんか格好つけて描写してみたが、つまり、何が言いたいのかというと――

 

(最高に、ハイッ!てやつだあああああああ!!!)

 

只今内心でひゃっほーう!などと歓声を上げつつ森を爆走中。

 

フラン様が外の出てしまった後、とりあえず壊れてしまった空間拡張の能力を紅魔館にかけ直し、右往左往していた妖精メイド達に瓦礫の撤去を任せ、美鈴には番として残ってもらうように指示した。

美鈴は最初、自分が私の代わりに行くと聞かなかったのだが、フラン様の現状と私の吸血鬼化を伝え、ある程度の無茶が許される今の私の方が適任だと説得した。(それでも不満がありありと顔に出ていたが)

そしてフラン様の暴走を止められそうなパチュリー様を伴ってフラン様の痕跡を追って今に至る。

 

パチュリー様は私に姫抱きされて運ばれている。

そして私も何故飛ばずに走っているのかというと、強化された身体能力で走った方が普通に飛ぶよりはるかに速く移動できるためだ。第三者から私の姿を見ればまるで漫画のような土ぼこりを上げながら爆走しているのが見えることだろう。

 

そしてパチュリー様を姫抱きで運んでいるのは、現状の最速の移動手段が私の走りである以上、パチュリー様を置いてけぼりにしないための措置である。

パチュリー様が軽いのか、それとも吸血鬼化に伴って私の腕力が上昇しているためなのか――たぶん両方――パチュリー様を抱えるのは問題ない。

 

私に姫抱きされているパチュリー様から声をかけられる。

 

「咲夜、前方に妖力を感じるわ、気をつけなさい」

 

「かしこまりました、パチュリー様」

 

パチュリー様に言われる前から異常なまでに強化された視力は妖力の正体をとらえていた。

大きさは子供程度、人数は二人。はっきりとは見えないが、羽のようなシルエットを見る限り、妖精か妖怪に間違いない。

このままのスピードで突っ込めば、数秒のうちに出会うこととなるだろう。

戦闘になることを予想し、ナイフをパチュリー様に刺さらないように持つ。

すると、歌声が聞こえてきた。

 

♪~♪~♪~

 

綺麗な歌声だなあ、なんて呑気な感想を抱いた瞬間、突然視界が暗闇に包まれた。

いや違う、吸血鬼化によって強化された視力が暗闇程度で見えなくなるはずがない。

ならばこれはスタンド――げふんげふん、能力による視覚妨害。

そしてそんなことを歌で為す妖怪を私は一人だけ知っている。

 

「あら、美味しそうな人間に、もう一人は――何かしら?まあいいわ。どちらにせよ、私達の糧になってもらうんだから!」

 

夜雀の妖怪、ミスティア・ローレライ。

どうやら私達は彼女のテリトリーにまんまと誘い込まれたらしい。

え、突っ込んだのはお前だって?……細けえこたあいいんだよ!(汗)

 

内心焦っている間にも視界は段々と狭まっていく。

もはやミスティアの姿すら捉えることも難しくなってきた。

暗闇から飛んでくる弾幕は幸いにも速度はそれほどでもないため避けることはたやすいが、四方八方から飛んでくるため、相手の位置を捕捉できない。

 

「咲夜、降ろしなさい」

 

パチュリー様が指示し、私はそれに従い、彼女を地面に降ろす。

 

「暗闇で見えないなら、明るく照らせば――」

 

瞬間、私の耳に何かが高速で風を切る音が聞こえた。

そして飛来するそれはパチュリー様を狙っている。

 

「パチュリー様!!」

 

私は咄嗟にパチュリー様の腕を引き、後退する。

下がり、一歩遅れてそれは先ほどまでパチュリー様がいた場所に着弾した。

 

「あれ、外しちゃったよ。勘がいいね。あともう少しだったのに」

 

ゴキ――げふんげふん、蛍の妖怪、虫の女王、リグル・ナイトバグ。

一見すると少年のようにも見える彼女は足を振り下ろした状態でこちらを見ていた。

きっと彼女の代名詞であるリグルキックを放ったのだろう、地面が少し抉れている。

 

「ちょっと、しっかり当てなさいよ、リグル」

 

「そうは言ってもね、この技は微調整が難しいんだ。とっさに避けられたら修正できないよ」

 

「ふーん、まあいいわ。だったら私と一緒に弾幕を張って頂戴。あっちに私達の場所が分からないようにね」

 

「うん、分かったよ」

 

姿の見えないミスティアの言葉に従ってリグルは再び暗闇へと姿を消す。

そして今まで飛んできていたミスティアの弾幕と、リグルの弾幕が合わさって、避けるのが難しくなってきた。

 

私はナイフを前方に散らすように放つ。

しかし手ごたえはなく、歌声は響き続けている。

 

「パチュリー様、私が合図したら上の木の枝を吹き飛ばしてください」

 

「なにか考えがあるのね?」

 

「彼女の能力が私の予想通りならば問題ありません」

 

「そう。なら任せるわ」

 

パチュリー様は頷くと、後ろに下がった。

 

私は能力の特性上、空間把握に関しては自信がある。とはいえ、鳥目にされている今、動いているミスティアやリグルにナイフを当てるのは至難だろう。

だが、これから私がやることに限っては彼女達に当てる必要はない。

 

――幻符「殺人ドール」

 

ナイフを展開し、前方へと放つ。

 

「うわっ、とと。少し驚いたけどやっぱり私達のことは見えてないみたいね。それじゃあ、そろそろ終わりにしましょう!いくわよ、リグル!」

 

――蠢符「リトルバグ」

 

――夜盲「夜雀の歌」

 

二人同時にスぺカが発動する。

視覚が妨害されている今、これらを避けるのは難しい。

そう。今のままならば。

 

「パチュリー様!!」

 

「任せなさい」

 

――火符「アグニシャイン」

 

パチュリー様が放った炎弾は私達を覆っていた枝たちを焼き払い、夜空へと消えていく。

瞬間、偽の月の光が私達に降り注いだ。

 

「っ!驚いたけど、今のあなたには月光があったとしても私達は見えないはず!」

「ええ。月光だけならね」

 

月の光が届いた瞬間、私が投げ、周囲の木々に刺さっていたナイフに反射し、まるでスポットライトのようにミスティアとリグルの両名を照らし出した。

 

「なっ……!?まさかさっきのナイフはこのために!?」

 

「動いているものは視覚に頼らないと捉えきれないけど、動いてない木なら暗闇でも当てられるわ。これでも私、ナイフ投げには自信があるのよ?」

 

そして一瞬だが二人が照らされた今、問題なく当てることができる。

 

――幻符「殺人ドール」

 

今度こそ本命のスぺカは、狙いたがわずに二人に命中した。

 

「うう、力あふれる今夜なら何とか勝てると思ったのにぃ……」

 

ミスティアが地面に倒れながらも悔しそうに呟く。

リグルはどうしただろうかと目を向けると、弾幕の当たり所が悪かったのか、目を回して気絶していた。

 

「さすがね、咲夜」

 

「いえ。それよりもフラン様を急いで追わなくては。意外に時間がかかってしまいました」

 

「そうね、行きましょう。でも、その前に彼女たちに聞いた方がいいんじゃないかしら?」

 

「そうですね。ねえ、この辺りで金髪の宝石のような羽を生やした子を見なかった?」

 

「え?ええ……。さっきとんでもない妖力をまき散らして通って行ったから知ってるわ。私達が森の中にいたのも彼女に見つからないようにするためだったし」

 

「どっちに行ったか分かる?」

 

「人里の方に飛んで行ったわ。……彼女を追いかけるの?やめた方がいいと思うけど……」

 

「その人は私の大切な人なのよ。だから追いかけないと」

 

「ふーん、妖怪が大切なんて、妙な人間もいたものね。……暇があったら私の屋台に来なさい。愚痴ぐらいは聞いてあげるわ」

 

「ありがとう。いつか必ず行かせてもらうわ。パチュリー様、行きましょう」

 

「ええ。……ねえ、私を抱き上げる以外に運ぶ方法はないの?さすがに恥ずかしいのだけど」

 

「おんぶという選択肢もありますが?」

 

「あんまり変わってないじゃない。それならさっきと同じでいいわ」

 

溜息を吐いて大人しく私に抱きあげられるパチュリー様。

いいじゃないですか。主に私がパチュリー様の柔らかさとかいい匂いとか堪能できるんですから。

 

私はミスティアに一礼して再び暗闇の中を走り抜けるのだった。

 


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