転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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お久しぶりです。いや本当に。

就活だからって間を開けすぎました。反省しなければ…。
久し振りに書いたので文が変になってるかもしれません。

追伸
ACVを買いました。主任かっこいいです。


広がる波紋

 

 

――霊夢視点

 

「そら、どうした博麗?以前、私を倒した時のようなキレがないぞ?」

 

弾幕の嵐をかいくぐる。

以前とは比べ物にならないほどの威圧感を伴って飛来するそれらは、「浮く」という回避に適した能力を持つ私でも避けることが困難だ。

 

チッチッ、と弾幕をグレイズしていくが、次から次へと弾幕に思わず眉をひそめる。

 

「私が弱くなってるんじゃなくてあんたが強くなってるんじゃない、のっ!」

 

言葉と共に針を打ち出すが、あっさりと避けられる。

 

「かもしれんな。今の私は気分がいい。いつもより好調なのは否定せん」

 

くつくつと笑いながらさらに弾幕を張ってくるレミリア。

 

悔しいが、今のレミリアは赤霧異変の時とは比べ物にならないほどに強い。

あの時は何とも思わなかった彼女からの威圧感が、今は私の動きを鈍らせる。

それは相手がかつての戦いより力をつけている紛れもない証左だった。

 

ちっ、と舌打ちを一つして能力で威圧から浮く。

しかしそれは完全ではなく、若干の違和感が私の中に残った。

 

(それもこれも紫が余計なこと言うからよ!後でぶっ飛ばす!)

 

八つ当たり気味に脳内の紫に夢想封印を十発ほど当ててから、後で紫に同じ目に合わせると決めて怒りを鎮静させる。

 

――霊符「夢想封印」

 

体勢を立て直すため、スぺカを宣言する。

弾幕はレミリアへと飛んでいくが、彼女の手前で不自然に逸れる。

 

(やっぱり厄介ねえ、あの能力)

 

ルールに反して絶対に防ぎきれない弾幕を撃っているわけでもなく、自分に当たらないようにスぺカを使っているわけでもない。

ただそこに存在している、それだけでこの世の運命は彼女に有利な状況を作り上げている。

 

(勘だけど、あいつ能力を自覚して使ってない。つまり今の状況は無意識のレベルで作られている……)

 

チッ、と舌打ちする。自分は能力を全開で使っているというのに、あいつは能力を使っている自覚さえない。実力差をまざまざと見せつけられているようで苛立つ。

いけない、と能力で苛立ちから浮くが、それでも状況は変わらない。

このままではジリ貧だ。いずれは疲れで動きが鈍くなり、弾幕に当たってしまうだろう。

レミリアの体力切れを狙う手もあるけど、夜の、しかも絶好調の吸血鬼相手では確実にこちらの体力が切れるのが先だ。

 

(このままあいつに突っ込んで至近からの夢想封印を当てる。成功するかは……五分五分かしらね)

 

私は弾幕の隙間を縫ってレミリアへと近づく。

彼女も私の意図に気が付いたのか、ニイ、と笑うと弾幕を厚くしてきた。

そして右手の人差し指をクイッと折り曲げる。まるでやれるものならやってみろ、とでも言うように。

 

(やって…やるわよ!!)

 

時折能力を使って弾幕から浮きつつも確実に弾幕の嵐を攻略していく。

そして、スぺカが全弾当たる位置までたどり着いた。

 

――霊符「夢想封印」

 

再びスぺカを宣言する。

追尾能力を持った弾幕がレミリアへと迫り、そして――――

 

――神槍「スピア・ザ・グングニル」

 

私の勘が警鐘を鳴らし、反射的にその場から飛び退る。

一泊遅れて巨大な赤い槍が先程まで私がいた場所を弾幕ごと斬り裂いて通過した。

 

「ほう、今のを避けるか。人間の危機察知能力というのもなかなか侮れんな」

 

レミリアは傲慢な笑みを浮かべて赤い槍を作り上げる。

 

「今のは私の勘よ」

 

「勘か。クックッ、咲夜がお前の勘をやたらと信用していたが、成程」

 

見定めるような視線で私を見るレミリア。

 

「なら、これはどうだ?」

 

レミリアが右手を突き出すと、そこに妖力が凝縮していく。

やがて、妖力の塊は禍々しく紅く輝く槍へと姿を変えた。

 

――神槍「「スピア・ザ・グングニル」」

 

先程放たれた槍と同じ名前をもつそれは、しかし込められている妖力、冷や汗が流れるほどの威圧感、すべてが別物だった。

 

レミリアはそれを悠然と構えると、綺麗な姿勢で投擲した。

私はそれをグレイズで避けるが、勘が警鐘を鳴らす。

危機感に逆らわず、咄嗟に槍と私の間に障壁を張る。

槍が私の横を通り抜けた瞬間、不可視の圧力に吹き飛ばされた。

風圧だけではない、まるで力の奔流のようなものをぶつけられた私は一瞬だけ方向感覚が狂ってしまった。そして気付く。まだ頭の中で警鐘が鳴り響いていることに。

能力で体勢を立て直し、レミリアへと視線を向ける。が、視界に入ったのは吸血鬼の姿ではなく、先程私の横を通過したはずの紅い槍だった。

 

「――っ!!??」

 

頭が判断するよりも先に本能的に障壁を張る。が、急造のそれで膨大な妖力が込められた槍を止められるはずもなく、容易く障壁を貫き、私に直撃した。

衝撃で吹き飛ばされた私は月を背にこちらを見下ろす吸血鬼を睨みながら意識を失った。

 

 

 

 

――紫視点

 

 

(――霊夢が負けた、か)

 

意識を失って落ちてくる霊夢を受け止めながら考えを巡らせる。

あいては偽りのものとはいえ満月によって力が増している吸血鬼だ。むしろ負ける確率の方が大きいだろうと予想していたとはいえ、ここまで一方的にやられるとは想定外だ。

見る限りでは、レミリアの威圧に押されていたようにもみえる。能力である程度浮いていたようだが、それでも振り切れていなかったところを見ると、二人の力に大きい差があることが分かる。

大人しくなって以降、性格も実力も丸くなったと思っていたが、そうではなかったようだ。戦うことを止めた妖怪が衰えるとは限らない。それに、レミリアはむしろ、かつての吸血鬼異変の時よりも力を増しているように見える。

心当たりがないわけでは、ない。

 

(十六夜、咲夜)

 

あの吸血鬼は彼女を見つけて以降、ずいぶんとあの人間に執心している。その執着がレミリアに力を与えているのではないか――?

これは即席の仮説だが、あり得ない話ではない。妖怪は精神に重点を置いていることが多い。無論スキマ妖怪である自身もそうであるし、吸血鬼であるレミリアもそうだ。

強い感情が妖怪を強くするのはよくある話だ。その多くが恐怖や憎悪であることは間違いないが、ごくまれにそういう負の感情からではなく、正の感情が妖怪に作用することもある。陳腐な言い方をすれば、「愛」だ。

妖怪が人間に愛情を抱くことは少ない。ほとんどの妖怪は人間を見下しており、食料としてしか見ていないだろう。吸血鬼とて例外ではなかったはずなのだが。

 

(しかし、事実、レミリア・スカーレットは十六夜咲夜に「愛情」を抱いている)

 

それが親愛なのかそれとも恋愛感情であるのかは判断できないが、それがレミリアを強くしているのは間違いない。

そう結論付けてはあ、と溜息を吐く。

 

(予想以上ね……、あの娘の影響力は)

 

レミリア・スカーレットだけではない。フランドール・スカーレット、紅美鈴、パチュリー・ノーレッジなどの紅魔館の面子を始めとして、十六夜咲夜と交流がある者達は十六夜咲夜との出会いによって何かしらの変化が訪れている。

最近では霊夢もそうだ。今までは全く興味を持たなかった化粧などもあの娘に会って以来身だしなみに気を使い始めている。

私の周りで最も変化が大きかったのは橙だろう。

十六夜咲夜との弾幕ごっこの後、橙は実力をめきめきと伸ばしている。

今までは藍という目標がいたものの、いつか追いつく、という一生の目的だったのに対し、十六夜咲夜に追いつく、という目前の目標が見つかったことでやる気も今まで以上なのだろう。精神的にも成長しつつあるのか、広い視野を持つようになりつつある。

 

十六夜咲夜を中心として広がりつつある波。これが幻想郷にどのような効果を及ぼすのか、賢者と呼ばれる私からしても未知数ではあるが、何となく、面白いことになりそうだ、という期待をしている私も、もしかしたら彼女の影響を受けているのかもしれない。

 

「さて、私の勝ちだ、スキマ妖怪。約束通り今回の異変からは手を引け」

 

そんな私の思考を遮るようにレミリアが声をかけてきた。

 

 

 

 

 

 

「異変そのものから手を引くわけにはいかないわ、特に今回のような異変からは。ですが、貴方達に干渉するのは控えましょう」

 

「……ふん、まあ私に手を出さないならそれでいい。……私は先に行く。じゃあな」

 

レミリアは紫に告げて月の気配がする方向へと飛んでいく。

紫たちが見えなくなり、レミリアはニヤリと笑んだ。

 

(あの時の巫女の予想外といった顔、なかなか痛快だったわね)

 

先の弾幕ごっこでレミリアが放った二つのグングニル。あれは、スペルカードを二つ同時に宣言することで発生したものだった。

この技、元々は咲夜がどうにかして弾幕の密度を上げられないかと試行錯誤していた技術であるが、咲夜本人は自分の弾幕がお互いの弾幕を撃ち消してしまい、未だに成功例が無かったりする。

 

(咲夜も面白いことをすると思っていたけれど、この技、なかなか使えるじゃない)

 

夜空を飛びながら内心で面白いことを思いついた咲夜を称賛する。

やがて、レミリアの眼下に竹林が広がった。

 

(ここから月の気配がする。おそらく本来の月はここにあるのだろうな)

 

レミリアは浮かべていた笑みを消すと、竹林を睨みつける。

 

(返してもらうぞ、私の象徴を)

 

レミリアはスピードを上げ、竹林へと突入していった。

 


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