珍しく筆が乗ったので二日連続投稿。奇跡かも。
もう一回咲夜さんのターン!
相手は5ボスだけど、一人だし、吸血鬼化してるし楽勝、楽勝!
――そう思っていた時が私にもありました。
「せいっ、はっ!」
「くっ……!」
鈴仙が近づき、手足を自在に使って近接戦闘を仕掛けてくる。
私はそれを吸血鬼化によって強化された身体能力でなんとか捌いていく。
ていうか鈴仙が予想以上に強いよ!?
今の私が殴ったりしたら普通は吹き飛ぶどころの話じゃないのに、あっさりと受け止め、それどころかカウンターまで返してくる始末。
私もナイフで応戦してるのに怯んだ様子なんかまるでない。むしろナイフを見てから血がうずくぜえ……!!みたいな凶悪な笑顔で殴り掛かってくるんですが!?
なんとか鈴仙のラッシュを捌ききって隙をついて後退する。
鈴仙は追撃をせずに油断なくこちらを見つめていた。
「私の月仕込みの軍式サバットを捌くとはね。やっぱりあなた戦士の才能があるわよ?どう?私の下で修業しない?」
「悪いけど、軍人よりメイドの方が性に合ってるのよ、私は」
「あら、振られちゃった」
残念、なんてクスクス笑ってる鈴仙だけど、目が全然笑ってない。すごい怖い。
「あなたなかなかやるみたいだし、私もそろそろ本気で行かなくっちゃね」
そう言って鈴仙は懐から二本の大ぶりなアーミーナイフを取り出す。そして、ナイフの鞘を投げ捨てると、二本とも逆手に持って構えた。
この子私のことガチで殺しに来てない?今のところどっちも弾幕撃ってないんだけど。
いや、まあ障害物が多いこの場所で弾幕を撃つことは大きな隙を晒すことに等しいことは理解できるけど。
「行くわよ、今度は捌ききれるかしらっ!?」
二本のアーミーナイフが複雑な線を描いて閃く。
私はそれを的確に対処し、両手の銀ナイフで捌いていく。それを何合か続けたとき、異変は起こった。
「っ!?」
突如、鈴仙のナイフの刀身がぶれた。そしてぶれた刀身はそのまま実態を持つかのように分身する。
突然のことに動揺した私は、右腕に斬撃を喰らってしまった。
攻撃を喰らって硬直する私に鈴仙のナイフが襲い掛かり、体中が切り刻まれた。
痛みを堪え、何とか後ろに下がる。
鈴仙のナイフを注視するが、それぞれのナイフは当然一つしかなく、分身などしていない。
そこでようやく一連の仕掛けに思い当たる。
「幻術、いえ、認識の誤認かしら?」
「……驚いたわ、まさか初見で見破られるなんてね。私の部下たちは結局最後まで分からなかったのに」
原作知識のおかげです、とは言えないよね。
「まあ、見破ったところで防ぎきれるかしら?それに、貴方の右腕はもう……あら?」
鈴仙が私の右腕を見て首をかしげる。すでに傷が治っていることに驚いたのだろう。
「吸血鬼の回復能力に関しては知っていたけど、ここまでとはね。ますます油断できないわ」
ゆらり、と鈴仙はナイフを構え直す。それを見て私もナイフを構え直した。
そしてお互いに肉薄する。
鈴仙はさっきと同じく能力を使ってナイフを分身しているように見せてくる。
けど、私はもうその攻撃の対処法を思いついた!
小刻みに時間を停止させ、ナイフを注視する。
鈴仙の能力は波長を操っている。それでこちらの波長を崩し、幻覚を見せているのだ。
しかし、波長は停止した時の中では動かない。つまり、時が止まっている間は幻覚が見えないのだ。
波長による幻覚攻撃、破れたり!なんて心の中で喝采を上げて霊力を限界まで込めたナイフを鈴仙のナイフへ叩き込む。
限界を迎えた私のナイフと同時に鈴仙のナイフも砕け散る。
幻覚が二回目であっさり破られるとは思っていなかったのか、一瞬呆然とした鈴仙だったが、瞬時に正気を取り戻し、砕けたナイフを躊躇なく投げ捨て、私に組み付いてきた。
私が反応する間もなく、鈴仙は私の腕を捻り上げ、背中で拘束する。そしてそのまま近くの太い竹に体を抑え込まれた。
「さすがに今のは驚いたわ。こうもあっさり私の技を破るなんて。けれど、このままあなたを気絶させれば……っ!?」
鈴仙の言葉は私が次にとった行動によって遮られる。
私は無理矢理下半身を動かし、竹を駆け上がり、そのまま宙上がりをして、鈴仙の後ろに着地したのだ。
しかしこの行動、私が鈴仙に腕を拘束されていたため、当然腕が曲がってはいけない方向に折れ曲がり、鈴仙を飛び越えるときに腕からボキッ!と非常に嫌な音が聞こえた。凄まじい激痛付きで。
私はその痛みを思いっきり歯を食いしばることで耐え、拘束されていなかったために無事だった方の腕で鈴仙の延髄を思いっきり叩いた。
急所に大きな衝撃が与えられた鈴仙は気絶し、前のめりに倒れた。
私はそれを瞬時に回復した両腕で支える。
鈴仙を近くの竹に寄りかからせるように座らせ、そこでようやくふう、と一息ついた。
竹を駆け上がるのは咄嗟のアイディアだったけど、何とかうまくいった。
予想以上に鈴仙が強かったせいで身体的にはともかく、精神的にすごく疲れた。
私は鈴仙の隣に座り、ぼんやりと空を眺める。
本当はこんなことしてる場合じゃないんだろうけど、戦闘後の小休憩位許されるよね?
ぼーっと空を眺めていると、ふと違和感を感じた。
夜空を注意して見ていると、一部に亀裂が走っているのが見えた。
(あー、ひびだー。ひびかー。罅……罅!?)
ようやくその罅の意味を理解して勢いよく立ち上がる。
罅が入っているということは竹林の結界が壊されかけているということだ。
おそらく永琳と輝夜が作ったのであろう結界を無理矢理破壊できる人物は幻想郷でもそうはいない。そして私の予想が正しければ恐らくは……。
「あはっ♪なーんだ、咲夜、こんなところにいたんだあ♪」
結界が砕け散り、上空から無邪気な声が降ってくる。そこにいたのは私の予想通りの人物。
見慣れた姿であり、私が探していた人の姿。
「フラン、様……!!」
最悪のタイミングだ。消耗しているときに見つけて……いや違う。見つかってしまうとは……!!
「ねえ咲夜。あの後いろいろ考えたの。それで考えた結果、やっぱりあなたが欲しくなっちゃった。それで、あんな館出て行って二人で一緒に暮らしましょ?魔理沙が住んでる魔法の森なんかちょうどいいと思うのよ!そして二人でずーっと、ずーっと幸せに暮らすんだ♪ね、いい考えだと思わない?」
「フラン様、今のあなたは月の狂気に当てられているのです。帰りましょう、紅魔館に。皆も心配しています」
「だーめ。あそこに戻ったらまた咲夜はお姉様のものになっちゃう。私は咲夜を独り占めしたいの」
「我が身はレミリア様の物でもあり、フラン様のものでもあります。どちらか一人にしろという命令は承服しかねます」
「だから、ね?思いついたのよ。私が咲夜を浚っちゃえばいいんだわ!そして誰も見えないところにしまっておけばあなたは私だけのものになる!」
「話し合いの余地は、ありませんか」
「ないわ♪だから大人しくついてきてちょうだい、咲夜」
「……フラン様に刃を向けるこの不敬、お許しください」
「あら、刃向うの?うーん、仕方ないわね。少しお仕置きしてから連れていくことにしましょう」
フラン様が炎剣を出現させ、私は新しいナイフを出して構える。
そして、私達がぶつかり合った瞬間、竹林に爆音が轟いた――