今回は咲夜さん視点と鈴仙視点。
きりのいいところで切ったのでいつもより若干短めです。
アンケートに答えてくださった方、ありがとうございます。
設定の方は永夜抄が終わり次第、アドバイスを取り入れつつ、上げたいと思います。
――咲夜視点
私十六夜咲夜は、フラン様を見つけ、盛大に啖呵を切って戦い始めました。けれど――
今、全速力で逃走しています。……鈴仙を抱えて。
「ほら咲夜、さっきまでの勢いはどうしたの?」
(うわあああああああああん!!!こわいいいいいいいいいいい!!!!!)
内心泣き叫びながらフラン様の弾幕を避けていく。
当たった端から地面が爆散していくのを見て、当たれば現在吸血鬼ボディである自身の体もただでは済まないと悟る。
何でこんなことになったのか。それは私がフラン様と戦い始めた時まで遡らないといけない。
私がフラン様と戦い始めて数分は自分としても互角の戦いだったと思う。
炎剣をナイフで受け流しつつ、フラン様に封印用ナイフを当てる隙を探している間はまともに戦えていた。(その代わり愛用している銀ナイフが高熱で溶けて何本か駄目になりはしたが)
しかし、もう何本目か分からない熱で変形したナイフを投げ捨てたところでふと気が付いたのだ。ここの近くにはもう一人いたことに。
鈴仙である。
そのことに気が付いた私は咄嗟に能力を使って鈴仙のそばに行き、抱えてそのまま逃走を開始した。
フラン様がそれに気が付いて弾幕を撃ちながら追いかけてきて、今に至るわけだ。
鈴仙を抱えている以上、反撃などできるわけもなく、必死に逃げ続けているが、そのせいか自分の現在地などもはや分からなくなってしまった。
しかし鈴仙を地面に置けば流れ弾に巻き込まれて大怪我、もしくは死ぬ可能性が目に見えて高い以上、そうするわけにもいかない。
私は竹林を必死に走り回りながら頭を回転させる。(え?飛べるくせになんで走ってるかって?空を飛んだら狙い撃ちされて落とされる未来しか見えなかったからだよ!)
(どうにかして鈴仙を安全な場所に移動させないと――)
一番いいのは永遠亭に辿り着いてその中に逃げ込むこと。
永遠亭は半壊、もしくは全壊するだろうけど鈴仙の命を投げ捨てるよりはいいだろう。
しかし、案内役のパチュリー様が先に行き、道を知っている鈴仙が気絶中となると、いずれ常識を投げ捨てるであろう現人神かレミリア様みたいな能力を持っていない限り辿り着くのは不可能に近いだろう。
どうすればいいんだ……!!と内心絶望していた私の目の前に見知った光景が現れた。
それは、妖夢が落とし穴に引っかかっていた場所だった。
そこで私はキュピーンと閃く。
(この穴の中に鈴仙を隠して私がフラン様を引き付ければ……!!)
まさしく完璧。ここまで冴えた答えを出したの初めてじゃない?
幸いフラン様とは少し距離がある。すぐに鈴仙を隠せば気が付かれることはないだろう。
私は急いで穴に飛び込むと、持ち歩いている四次元鞄から毛布を取り出し、穴の底に敷く。その上に鈴仙を降ろしてすぐに穴を出た。
そして私はフラン様を見つけると、私に意識を向けるために霊力弾を彼女のすぐ横に撃ち、この場から離れるために逃走を再開したのだった。
♢
――鈴仙視点
「…なよ、…せん。起きなってば!」
声が聞こえる。聞きなれた声だ。これは――。
「あ、起きた。まったく、私の仕掛けた罠にあんたがかかってどうすんのよ!」
「て、ゐ?」
「そうだよ、みんな大好きてゐさんだよ。ったく、どんな感じかと思って様子見に来ればあんたが落とし穴に落ちてるんだもん、驚いたよ」
呆れ顔で話すてゐをぼんやりと見て、それから周囲を見渡す。そこですべてを思い出した。
「っ、そうだ!てゐ、この辺りでメイドを見なかった?」
「え?見たよ。なんだか変な羽持った奴に追いかけられてたけど」
てゐの答えを聞いて私は高速で頭を働かせる。
そうだ、私はあのメイドに負けて――。
でも、どうしてここに?私がやられた場所はここじゃない。私はてゐが仕掛けた罠地帯を避けていた。一体誰が?
決まっている。あのメイドだ。ならば何故?
その時、見慣れない毛布が目に入った。私はこんなもの持ってきた覚えはないし、てゐだって持っては来ないだろう。そういえばてゐは彼女が誰かに追いかけられていると言っていた。まさか、信じられないけど、私を守るために穴に隠した?でもそれなら辻褄が合う。
だとしたら、あのメイドは……。
「鈴仙?どうかした?黙りこくっちゃってさ」
「てゐ。メイドがいた方角を教えてくれる?」
「え?ここから西に少し行ったところだけど……って、ちょっと、鈴仙!?」
てゐに方角を聞き、答えを聞いた瞬間、私は走り出す。
後ろでてゐが騒いでいるが、気にしてはいられない。
(敵を助けるなんて甘いわね。でも……嫌いじゃないわ、そういうの)
命を助けられた借りは敵であったとしても必ず返す。それが私の軍人としての矜持。
私は、借りを返すべく、彼女の下へと向かうのだった。