仕事と提督業が忙しくてなかなか書く時間取れんなあ…。
サブタイもそろそろ思いつかなくなってきました。
――第三者視点
パチュリー・ノーレッジは強者である。
友である吸血鬼も、普通の魔法使いも、七色の魔女ですら、それに賛同することだろう。
滅多に自身のテリトリーである図書館から出ないため分かりづらいところではあるものの、暗黒時代を生き抜いた吸血鬼のそばにおり、かつその友人として認められている。それは、紛れもなく彼女がそれだけの実力を備えている、という証明になりえるのである。
魔術の原理を解明し、それを自在に操る七曜の魔女は、しかしこの場においてはただ相手の攻撃を受けるだけの使い魔に対する盾でしかなかった。
「つっ、くうっ……!!」
魔理沙のような子供が絵にかいたような可愛らしい星ではなく、本来の宇宙に存在しているような武骨な石の塊は、並みの攻撃では罅すら入らない障壁を菓子でも割るかのように気軽に粉砕していく。
顔を歪ませ、防戦一方な者と、偽りの宇宙(そら)を作り上げ、その星々を自在に操る者。
幼子が見てもどちらが優勢かなど理解できる。
しかし、優勢であるはずの八意永琳の顔に余裕はない。
(攻めきれない……っ!)
元より永琳の標的は魔女ではない。
その後ろで結界の持続を妨害している非力な悪魔だ。
なのに、彼女の攻撃は全て魔女に防がれる。
それどころか、魔女から悪魔に意識を移せば、この圧倒的な状況をひっくり返されかねないとすら感じていた。
♢
魔女の操る術は知っている。
当然だ。今この世に存在する全ての術は自分が作り上げた術の末端の、更に末端にすぎない。
本来の術を扱う自分が、原形の一部すら再現しそこなった術に負けるわけがない。
だがこの現状はどうだ。負けてはいない。劣勢でもない。しかし、あと一歩が攻めきれない。
弾幕ごっこという形に納まってはいるものの、これ程の差があればすでに勝敗は決している。それが当然だ。
だが現実として、自身の攻撃は捌かれている。受けられ、逸らされ、弾かれる。
八意永琳は思考する。月の頭脳と称されたその思考に焦りはない。怒りもない。
ただただ現状に対する回答を巡らせるのみだ。
本来ならば勝利の方程式となるその回答も、目の前の魔女はそれは不正解だとばかりに攻略する。
戦いが始まってから数えきれないほどに繰り返された光景に、永琳は口の端を笑みへと歪める。
――いつ以来だろうか、こんなにも心がざわつくのは。
月で豊姫、依姫に慕われていた頃でさえ、これほどまでに高揚したことはなかった。
――いつからだろうか、友人を作るのを諦めたのは。
対等な者などいなかった。輝夜が一番それに近いが、結局は姫と従者という位置に落ち着いた。
――いつだっただろうか、他人を素直に称賛できなくなったのは。
他の者が見ていたものは当然のように見えていた。それ以上のものすらも。
口では称えても、心中ではその程度しか見えていないのか、と落胆していた。
だがこの魔女は違う。「特別」だ。
私には見えないものが見えている。でなければあの緻密な弾幕(答え)を防ぎきれるはずがない。
いつまでもこうしていたい、と思う。
私は戦闘好きな性格だっただろうか、と自問する。否、と自答した。
相手が彼女だからこうしていたいのだ。他の誰かだったならばこんなことは考えなかっただろう。
まるで恋する乙女のようだ、などと年甲斐もないことを考える。
いつの間にか意識は魔女から離せなくなった。
当初の目的だったはずの悪魔は意識から外れていき、目の前の魔女に向いていく。
だが、それがいけなかった。
突如、自身の掌握していた結界に違和感を覚えた。
それを感知し、即座に修復しようとするが、それよりも早く違和感は結界全体に広がり、やがてそれは欠陥として結界の機能を停止させた。
偽の宇宙が剥がれ、崩れていく。
結界が完全に崩壊し、見慣れた和室へと姿を戻した。
「私の負け、ね」
ふう、と一つ息を吐く。
魔女を見ると、むきゅう、などと珍妙な鳴き声を上げて床に伏せっていた。
使い魔はそれを見て主人に近付こうとはするものの、自身も酷く消耗しているのか、滝のような汗がその赤く長い髪を濡らしている。
先程まで私と渡り合っていたとは思えないその姿に少しだけ苦笑すると、お茶を入れるために部屋を出る。
きっと私を楽しませてくれるであろう、「特別」な魔女との会話に思いをはせ、笑みを浮かべながら。