転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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お久しぶりです(小声)

ようやく永夜抄もそろそろ終わりです。

とりあえず咲夜さんサイドはこれで終わり。

予定ではあとはお嬢様サイド書いてエピローグです。

次はいつ投稿できるか分からないけど…(汗)


良かった…

 

 

――咲夜視点

 

どのくらいの間逃げ続けただろう。

吸血鬼の体力を持った肉体はまだ十分動けるが、何時間も追いまわされるという体験に私の精神は疲労していた。

当然と言えばそれまでだがまず地力からして違いすぎるのだ。

なにせこちらは半日限定のなんちゃって吸血鬼なのに対し、あちらは正真正銘本物の吸血鬼である。

弾幕を撃てば炎剣の一振りでかき消され、ナイフを投げれば警戒されているのか全て避けられる。ならばと近づけば桁外れの膂力で吹き飛ばされた。どないせいっちゅーねん。

 

「咲夜も強情ねえ。いい加減諦めたら?」

 

私を上空から見下ろすフラン様の言葉には呆れが多分に含まれている。

実際、鈴仙を隠してから私がしたことは所詮悪あがきでしかない。はっきり言ってこの状況からフラン様を抑え込むのは不可能だろう。

 

――だが、それでも。

 

「いい、え。まだ、です。まだ、私は……」

 

それでも私は諦めるわけにはいかない。

レミリア様にフラン様を頼まれたのもある。しかし、一番の理由は。

 

(ここで諦めたら、この後のフラン様を悲しませてしまう)

 

フラン様は優しい。だからこそ、狂気に囚われる自分を恐れているし、抑え込もうとしている。

そんなフラン様が狂気のせいで誰かを傷つけてしまったら、きっとフラン様は自分を責める。もしかすれば、心を壊してしまうかもしれない。そんなことは、あってはならない。絶対に。

 

「私は、今のフラン様のご命令には、従えません……!!」

 

こんなダメなメイドの私にだって、矜持はある。

誰にも、紅魔館の皆を傷つけさせない。たとえそれがフラン様自身であろうとも、それだけは、許容できない。

私が好きなのは、紅魔館の皆が笑っている、そんな日常なんだから――!!

 

 

「そう、じゃあ、もういいわ」

 

膝を震わせながらもフラン様の前に立った瞬間、背後の太い竹に叩きつけられた。

 

「かっ、は……!?」

 

「なんでか分からないけど治るみたいだから少しの傷で済ませてあげてたけれど、もういいわ。こんなに言って分からないなら――」

 

――手足の一本か二本、千切れば言うことを聞くかしら?

 

首をしめる細い右腕をどけようと必死で力を振り絞るが、びくともしない。それどころか首を絞める力はだんだんと強まっていく。身体能力が底上げされているとはいえ、呼吸を止められれば意味をなさない。

フラン様の腕を握る力も、徐々に弱まっていき、視界が霞んでいく。

右腕が凄まじい力で引っ張られ、ミチリ、ミチリと嫌な音を立てる。

 

(ごめ、んな、さい)

 

脳に酸素が送られなくなったためか、朦朧とした思考の中で誰に向けたのかも定かではない謝罪を浮かべたところで。

 

ズドン、という銃声のような音と共に私は解放された。

 

「げほっ、けほっ、けほっ」

 

地面に落とされた瞬間、はいつくばりながらも、空気を取り込むために咳をする。

そしてなんとか呼吸が回復し、誰が助けてくれたのか確認するために顔をあげた。

 

そこには、鈴仙がフラン様の顔面に回し蹴りを喰らわせるという色んな意味で物凄い光景があった。

蹴りをまともにくらったフラン様は吹き飛ばされるが、手を地面につけることで勢いを殺し、体勢を整える。

しかし、鈴仙が弾幕を張り、フラン様の動きを牽制する。

 

「こっちよ!」

 

鈴仙が私の腕をとって走り始める。

しかし、私の体は今までの疲労で上手く動かず、鈴仙に体を預ける形になってしまう。

 

「置いて、いきなさい。このままじゃあなたもやられるわ。これは紅魔館の問題。他人のあなたが関わる必要はないわ」

 

今のフラン様はスペルカードルールなんて頭から吹っ飛んでいるだろうし、捕まったら私はともかく、鈴仙に待っているのは死だろう。

 

しかし、鈴仙は私を置いていこうとはせず、私を横抱きにして走り続ける。

 

「その他人を守るためにあんなところに私を隠した貴方が何を言ってるの。ご丁寧に毛布まで敷いて。……借りは返すわ。今度は、私が貴方を守る番よ」

 

やだ、かっこいい……!!抱いて!いや、まあ今抱かれてるっちゃ抱かれてるんですけどね。

 

「どこへ行こうというのかしら?」

 

高速で私たちの正面に回り込んできたフラン様が腕を振り上げる。

鈴仙の顔へ向かって放たれた拳を、一部の空間を時間停止し、即席の盾とすることで防ぐ。

その隙に鈴仙はフラン様へと目を合わせた。

 

――幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)

 

「ぎっ!?」

 

目があった途端、フラン様が頭を押さえて怯む。

瞬間、渾身の力を込めた拳をフラン様の顔面に叩き込む鈴仙。

前が見えねえ状態になったフラン様は衝撃で吹っ飛んでいった。

え、ちょ、ええ!!??

さっきの回し蹴りもそうだけど、鈴仙なんだか血の気多くない!?

 

予想外の原始的な攻撃手段に若干引いている間に、鈴仙はフラン様を蹴り飛ばして後ろへ下がる。

 

「あなた、彼女を抑える方法はある?」

 

「ええ。一時的なものだけど、抑えることはできるわ」

 

「彼女は波長が不安定よ。精神的なものだと思うけど、それを安定させれば、何とかなるかも」

 

鈴仙の問いに答えれば、能力による解決を提案される。

確かに、現状ではフラン様を一時的に抑えられるだけで、決定打は何一つない。

ここは鈴仙の提案に乗るのが得策だろう。

 

「そうね。でもその方法はフラン様に警戒されてる。そう簡単に当てられないわ」

 

「それなら問題ありません。どんなに強力な妖怪だろうと精神を揺さぶられれば必ず怯む。そこを狙いなさい」

 

「分かったわ」

 

私は鈴仙の腕から離れ、自分の足で立つ。

 

「フラン様の狙いは私よ。囮になるから、隙を狙って動きを止めて」

 

「ええ」

 

そこでフラン様がダメージから回復する。

 

「っ痛ぅ…。なかなかやるじゃない、あのウサギ、っ!?」

 

私は弾幕を放つことでフラン様の気をこちらへとむける。

ニイ、と笑みを浮かべたフラン様がこちらへと突撃してきた。

私は後ろへ下がりつつ、それを捌く。

しかしそれはさっきの巻き直しのように私はボロボロにされていく。

一部の空間を盾にしたいところだけど、あれは集中して計算をすることでようやくできることであって、フラン様と戦っているときにそんな余裕はない。

 

フラン様の蹴りが私の脚を砕く。

脚が力を失ったことでよろけた私にフラン様の拳が突きささる。

無数の竹を巻き込んで吹き飛ばされる。受け身も取れずに地面を転がる私に追撃は、来なかった。

 

――散符「真実の月(インビジブルフルムーン)」

 

スペルカードの形をとった弾幕がフラン様へと襲い掛かる。

私への追撃に気をとられたフラン様は弾幕をまともに食らい、体勢を崩す。

その隙を逃さず、鈴仙はフラン様の襟首をつかみ、真正面から顔を覗き込む。

 

――幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)

 

「ぎぃ、ああああああああっっっっっ!!!!!!!」

 

先ほど目を合わせた時以上の精神攻撃を受けているのだろう、フラン様は絶叫を上げて暴れる。

その間に、私は霊夢謹製のナイフをフラン様に優しく当てる。

それだけでも封印の術は発現し、フラン様を拘束する。

フラン様は拘束を解こうともがくが、先程の鈴仙の精神攻撃の影響か、解けることはない。

 

鈴仙の能力で狂気が解けたのか、暴れていたフラン様は糸が切れたようにぐったりとする。

 

完全に意識を失ったことを確認して、一息つく私達。

 

「何とか、なったわね」

 

「ええ。感謝するわ、ええと…」

 

鈴仙が私を呼ぼうとして口ごもる。

そういえば、自己紹介もしてなかったっけ、私達。

 

「十六夜咲夜よ。紅魔館のメイドをしているわ」

 

「鈴仙・優曇華院・因幡。永遠亭で薬師の修行中よ、よろしく」

 

ふふ、とお互いに笑いあう。

なんだか、彼女とは気が合う気がする。

 

激しい戦闘の後のせいか、気が抜けてしまった。鈴仙とともに地面に座り込んでいると、闇夜が薄れていく。

 

「夜が、明けていくわね。師匠が負けるなんて、考えられなかったけど。夜明けってことは、そういうことなんでしょう」

 

「ええ。長い、永い夜だったわ。……っ!?」

 

鈴仙の言葉を返し、気付く。

朝になるということは、太陽が出てくるということ。

 

「フラン様!!」

 

荷物を入れていた鞄は戦闘でどこかに行ってしまった。

何か、何かフラン様の体を隠せるものはないか―――!?

 

朝日が竹林を染めていく。

光がフラン様へと近づいていく。

 

とっさの判断だった。間に合わない、そう思った瞬間、私の頭から何もかもが吹っ飛んでいた。

 

――私の体が、今は人間でないということも。

 

フラン様の体を包み込むように抱き込んだ直後、朝日が私達を照らす。

ジュウ、と肉が焼ける音がした。

 

「く、あああああああああああああああああああああああああっっっっっっ!!!!!!!!!!???????????」

 

熱い熱い熱いアツイアツイアツイあついあつあついあついあつい!!!!?????

 

太陽光が容赦なく私を焼いていく。邪悪なモノよ、消え去るがいい、と私を断罪していく。

痛みで意識が飛び、そして痛みで意識が戻ってくる。

拷問のように続くそれは、私の存在を浄化していく。

 

だけど、とフラン様を見る。

私の体によって隠されているフラン様は、太陽を浴びてはいなかった。

 

良かった、と思った瞬間、布のようなものに包まれる。

痛みが薄れ、私はそのまま意識を闇へと落とすのだった。

 

 


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