前略、ほっぽを拾いました。   作:鹿頭

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三話

「ここをちんじゅふとする!」

 

「今すぐ出て行け」

 

居間のテーブルを占領して、光射す旭日の旗を掲げる妖精たち。

最近、俺は頭が痛くて頭痛薬が手放せない。

 

「じょうだんですよ、でも、ぼくらがいなかったらだれがぜろせんとばすんです?」

 

「む……」

 

ふとほっぽを見やると、妖精が乗り込む零戦を飛ばして遊んでいる。

今ここで、ほっぽに零戦飛ばすのを辞めろ、と言えば泣き出すこと間違いない。

つまりはほっぽの笑顔を人質にとられたのだ。

 

「………他の奴らがお前らの話聞かなかったのってもしかして自業自得じゃね?」

 

「それはない」「ありえません」

 

「本当かよ」

 

性格が致命的に悪い。ずる賢い。

その事を遠回しに指摘すると、何処からその自信が湧くのか、違うと断言する。

 

「アンマリ、イジメナイデ」

 

「お前らはほっぽのお陰でこの家に存在を許されている事実を噛み締めるが良い」

 

「ははー」「ありがたやー」

 

ほっぽ大明神のお告げがあったので、一先ず奴らの存在を認める事にした。

ほっぽかわいいからね、しかたないね。

 

しかし、そんなほっぽに対して悩みがある。

 

「ムー……」

 

「?どうした、ほっぽ」

 

「レップウ、ホシイ!」

 

「わがままを言うんじゃありません」

 

ほっぽが烈風まで要求してくるようになったのだ。

コレクター気質、なのだろうか。

一個揃えると全部欲しくなるのは、俺も一緒だからなんとも言えないが……。

 

 

 

「ムー……」

 

「れっぷう、ほしいですか?」

 

「え?何、お前ら作れんの?」

 

テーブルの上にいる妖精が、そんな事を聞いてくる。

 

「むりです」「できません」

 

「出て行け」

 

すわ作れるのかと期待したら、そんな事は全然無かったので、この羽虫共を追い出そう──そう思っていると。

 

 

「そういうことじゃないです」

 

「たんじゅんに、しざいがないです」

 

 

資材が足りない。

流石は艦娘たちの装備を作っていた妖精たち。

材料があれば作れる。そう言うのだ。

 

 

「資材が有れば作れる、と?」

 

「たまにですけど」

 

「出てけ」

 

作れる事は作れるが、時々と言うのだ。

時々しか作れないとか職人の風上にも置けない。

なんと言う奴らだ。これで食費が掛かっていたら一体一体潰して回ってた。

 

 

「ドウニカナラナイ?」

 

「……っ…うーん…」

 

ほっぽのおねだり。

俺に確定の即死ダメージ!……そんな文字が浮かび上がってきそうなくらい、可愛い。

かわいいったらかわいい。

 

 

 

「………どの位必要なんだ」

 

「だいたい───」

 

「紙に書け」

 

「はーい」

 

資材のあてはある。

海軍には知り合いが居ないが、陸軍にはいる。

資材の運送を担当する部署に居る──そう自己申告しているので、時々食材と引き換えに車の燃料などを融通してもらっている。

 

 

 

「………行ける…か?」

 

「あてがあるのです?」

 

「多分、な」

 

とは言え、艦娘用の資材を融通しているかはわからない。割と一か八かだ。

 

 

「この弾薬、って本当に必要なのか?」

 

「たまがあれば、いつでもたたかえます」

 

「(やっぱこいつら厄病神なのでは)………どうする、ほっぽ?」

 

弾が有れば戦える───事実ではあるが物騒な言葉に、ほっぽの意思を仰ぐ事にする。

 

 

「………タタカイ……」

 

「オキルトマキコム……タマ、イラナイ」

 

「だ、そうだ」

 

「たたかわない、です?」

 

「平和に、平穏に暮らしたいだけだからな」

 

「ウン。モウ、マケルノハヤダ」

 

「なるほどー」「べんきょうになります」

 

「ふむふむ」

 

「……?」

 

 

 

 

「じゃあ、これくらいですね」

 

改めて資材の要求表を貰う。

そのまま電話を知り合いにかける事にした。

 

 

 

 

『………今、大丈夫か」

 

『へえ、珍しいね。どうした?燃料でも欲しいのか?』

 

いつもの要求だと思っているのか、燃料の事を尋ねてくる。

しかし、今回はそうではない。

 

 

『端的に言うと、資材が欲しい』

 

『………例えば?どんなだい?』

 

『鉄と、燃料。それにボーキサイト。量は───」

 

『………艦娘でも拾ったのかい?』

 

溜息と共に聴こえてくる。

あながち間違いではないが、当然の質問とも言える。

 

 

 

『おいおい、俺は何処に住んでると思ってんだよ。内陸部の農家様だぜ?』

 

『ハハ、そういうことにしておこう』

 

『……………』

 

電話越しの奴は確実に俺が艦娘を拾ったと思っているだろう。

だが、その事を咎める様子はない。

 

『とは言え、流石の僕でも厳しい。対価はちゃんと貰うよ』

 

『はいはい、いつもの奴をかなり大目に………酒と…タバコでもいるか?両方自家製だが』

 

ほっぽを拾ってからは両方やってない。

当たり前だ。教育に悪い。

 

『随分と手広くやってんねぇ……それくらい有れば……ま、海軍のバカ共は誤魔化せるよ。どうせ、もう艦娘にはほとんど使えないだろうし』

 

『それ、どういう───」

 

『おっと、口が滑ったか。じゃあ明日、家の敷地まで運んどくよ』

 

『……おっけ』

 

電話を切る。

色々と不穏な話は有ったが……。

 

兎も角、都合をつける事が出来た。

 

「ドウナッタノ?」

 

「資材は……まあ、何とか、な」

 

「おー」「すげえです」

 

「やればできるんですね」

 

妖精たちが拍手をしている。

見下されているようでとても腹が立つ。

やっぱりコイツらの話聞かなかったのって自業自得だって。

 

 

 

「レップウ、デキルノ?」

 

「やるだけやるです」

 

「まかせるです」

 

「どっちだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

「おーい、持ってきたぞー」

 

「モッテキタゾ!」

 

「はやかったですね」「あとはまかせろー」

 

いつもの場所に置いてあった資材は、予想以上に多く。

時間も掛かったが、ほっぽの手伝いもあって、無事運ぶ事に成功した。

 

やはり、子供の姿をしているとは言え、深海棲艦なのだろう。

だからどうした、と言う話ではあるが。

 

それに、資材を一生懸命運ぶほっぽの姿は、かわいかった。

 

 

「じかんかかるから、そとでじかんつぶすといいですよ」

 

「え、時間かかるの?」

 

「せつびがないんで、じかんがかかるです」

 

「すべててさぎょうです」「めんど…なんでもないです」

 

「おい……じゃあ……うん、そうするか。歩こうか、ほっぽ」

 

「ウン!」

 

一名くらい失礼な事を言ってくるが、今の俺は機嫌が良いので不問にする。

 

 

 

 

 

「さて、どこ行こうかね」

 

「ウミ!」

 

「わがままを言うんじゃありません」

 

当然の如く要求される海へ行きたいと言う要求。

流石に今回ばかりはそれは聞けない。

 

「ムムム……」

 

「そんなかわいい顔したって駄目なものはダーメ」

 

「ジー……」

 

しかし、かしこいほっぽは学習している。

俺には上目遣いでのおねだりに弱い、と言うという事を。

バカめ、そうそう同じ手を喰らいはしないさ。

 

「ちょっとだけだぞ」

 

「ヤッタ!」

 

(車の燃料も要求すりゃ良かった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、海に来た。

最近、頻度が高くなってる気がする。

と言うか、深海棲艦だという事を俺が知ってから、遠慮しなくなったと言うべきか。

 

 

「………ン?」

 

(なんか刺さって……浮いて…る……?)

 

海の上に見える影。

その影は、人影の様にも見える。

 

「!」

 

刹那、駆け出すほっぽ。

今までにない勢い。

必死、とも言える形相だ。

 

「あ、おい」

 

慌てて俺も駆け出す。

影との距離が縮まるつれ、その影はほっぽに似た白い肌をした───つまり、深海棲艦だとわかる。

 

 

 

「……オネーチャン」

 

「なんと」

 

しかも、それがほっぽのお姉さんと来た。

俺は驚きのあまり現実がいまいち飲み込めていない。

 

 

 

「…………」

 

(息は……ある…か)

 

額から大きなツノが生えている。

ほっぽとは違って、いろんな所が大きい。

そして、傷だらけだった。

 

 

「オネーチャン!オネーチャン!」

 

ほっぽが泣きそうな顔をして、姉を揺さぶっている。

だとしたら、俺のやる事は一つだけだ。

 

「よし、わかった、連れて帰るぞ」

 

「ウン、オネガイ!」

 

「よいしょっ……と…」

 

(やべえ、めっちゃ重たい)

 

と言うのが正直な感想。

一体何処にこんな重さがあるのだろうか。

深くは考えない事にした。

 

なんとか車に積み込み、家へと車を走らせる。

道中、気づくが、ほっぽが不安そうな顔をしてる。

 

「大丈夫だ」

 

「………ホント?」

 

「ああ、幸い、妖精もいるしな。なんとかなるだろ」

 

「ダヨ……ネ。ウン」

 

左手でほっぽの頭を撫でる。

妖精が、深海棲艦を治せるかは知らないけど、今はそれにかけるしかなかった。

 

 

 

「おかえりー」

 

「お、あたらしいこつれてきたです」

 

「おもったとおりです」

 

「さすがです」

 

「御託はいい、助けられるか?」

 

何か騒いでいるが、そんな時間はない。

今は、彼女を助けられるかどうか。

それだけが気がかりだ。

 

「ふっふっふ、こっちにくるのだー」

 

「……?」

 

先導され、妖精に着いて行くと。

 

「なん……じゃ、こりゃあ……」

 

知らない場所に知らない階段が空いている。

なんのこっちゃと恐る恐る降りてみると、そこには広大な────

 

 

 

「だんなさんがいないあいだにこのいえかいぞうしたです」

 

「ざまぁ、なのです」

 

入渠ドック、と妖精供が言うソレ。

勝手に地下を掘り抜き、建設したらしい。

 

その面積は明らかに家より多く、周りの田畑の地下まで及んでいる事が推察される。

 

「ほんとはこのあたりにこーしょーもつくるよていだったんですが」

 

「さっさとかえってきやがって、この」

 

「お前ら資材過剰に要求したな!?」

 

『艦娘でも拾ったのかい?』

 

奴の言葉が、頭で繰り返される。

こういう事だったのだ。

 

普段の俺だったら問答無用で元に戻させるが、彼女を治せる、と言うので一先ず、は。

 

「おふろにどぼーんさせるです」

 

「あとはこっちでやっとくです」

 

「お、おう」

 

言われた通りに、風呂に浸からせる。

妖精たちの言う通り、後は任せることになる。

 

 

「オネーチャン……」

 

「心配なら居てやれ」

 

不安そうにしているほっぽに話しかける。

 

 

「イイノ?」

 

「お前の姉さんなんだろ?当たり前だ」

 

俺が身内、と呼べるのはほっぽくらいしかいないから、どんな心境かは未だにわからないし、わかりたくもない。

だが、想像する事はできる。

だからこそ、居てやった方がいいのだ。

 

「ウン」

 

「よし、良い子だ」

 

ほっぽの頭を撫でてから、ドックを後にする。

俺の役目は一先ず終わった。

だから────。

 

 

 

「さて、お前ら説明しろ」

 

家を愉快な事にしてくれた元凶供を問いただす事にした。

 

「えー」「だんこきょひする!」

 

「だんなさんのおうぼうにはんたい!」

 

「お前ら全員追い出すぞ」

 

ロクなことしない癖に口だけは一丁前に達者なコイツら。

ああ、頭が痛い。

 

「って旦那さん?どう言うことだ?」

 

いつのまにか変な呼び名で呼ばれている事に気づく。

 

「だんなさんは、ていとくさんじゃないです。でもぼくたちがいるです。だからだんなさん」

 

「つまり居座る気満々って事じゃねえか!出て行け!」

 

「ふっふっふ、われわれをおいだしたら、もうあのせつびはつかえないですぞ」

 

腰に手を当て、ドヤ顔を決める妖精。

しかしだな。

 

「それがどうした。姉さん治したらもう用済みだ」

 

「なんと」「おに!あくま!りくぐん!」

 

「おい最後喧嘩売ってんのか」

 

お前らの使ったその資材はその陸軍から横流しして貰ったんだぞ───そう声を大にして言いたい。

 

 

「むむー、わかった、せつめいします」

 

「最初っからそうしなさい」

 

「まずはここをちんじゅふにします」

 

「ぶっ殺すぞフェアリーズ」

 

「ひぃ」「ぼうりょくはいけません!」

 

「はなしあおう、はなせばわかる」

 

 

「はぁ……」

 

頭が痛くなる。

兎に角、この後どうすれば良いか。

この話の通じない妖精共を放っておくことにした。

 

俺は、ほっぽのお姉さんも深海棲艦だとすると、最初は嫌われるんだろうな───と言う事に不安を抱くのだった。

 

「仲良く出来れば、良いんだけど」

 

頼むぞほっぽ。

お前の力が必要だ。

そんな事を、考えていた。

 




方向性が決まった

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