前略、ほっぽを拾いました。   作:鹿頭

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増えた


四話

「だんなさん、めざめたですよ」

 

「………そうか」

 

数時間後、妖精さんがそんな事を知らせてくれた。

 

「いくのですか?」

 

「話さない事には、始まらないからな」

 

今回はほっぽの時くらいには長引かないだろう。

根拠は無いが、そう信じている。

 

 

「がんばっていってきてください」「しんだらここはぼくたちのものー」「やったぜ」

 

「お前らさ……俺に情ってものは無いの?」

 

異口同音。

全てが俺の悲惨な末路を願う言葉。

やっぱりこいつら妖精なんかじゃなくて悪鬼羅刹、悪魔の仲間だって。

 

 

「そんなものうみにおいてきたぜ」

 

「りくぐんにでもくわせてやれ」

 

「お前ら今すぐ出て行け」

 

ひと段落したら妖精を全て追い出そう。

俺は何度目かの決意を新たに固めるのであった。

 

 

 

「はぁ……」

 

とは言え緊張する。

開幕爆撃とか雷撃とか砲撃とかされないだろうか。

いや、ほっぽが居るから大丈夫……か?

 

 

「(良し……)入るぞ」

 

 

「……………」

 

此方を射殺すつもりなのか、と思わんばかりの鋭い眼光。

怖い。思わず後退りしたくなる。

 

「オネーチャン、メ!」

 

ほっぽが此方を庇うように立つ。

ここまで信頼してくれたか、と感慨深いものがこみ上げ、涙が出そうになる。

 

「…………ナゼ」

 

絞り出すような声がする。

 

「ナゼ……タスケタ」

 

彼女───と言うより、深海棲艦からしたら当然の疑問なのだろう。

だが、そんなものは決まりきっている。

 

「そんなもの、助けたかったからに決まっているだろう」

 

「………ナゼダ」

 

「ほっぽがお前のこと姉ちゃんって言うから?」

 

「…………」

 

彼女はほっぽの方を見る。

その視線の先のほっぽは、首を縦に何度も頷いている。

 

「ホッポ……ネ」

 

「ナンデ、サイショニタスケタノ?」

 

「いや、そら人が海辺で倒れてたら取り敢えず助けるじゃん。まさか深海棲艦だとは思わなかったけどね」

 

「ハァ……モウイイ」

 

「俺の事は信用できないかもしれんが、ほっぽの事は信じてやってくれよ」

 

「………レイハイウワ」

 

「そりゃどうも。で、どうするんだ、これから」

 

改めて聞く。

ほっぽの時とは違って、入渠ドックが有るから、直ぐに動けるようになっているからだ。

どうするかは、本人の自由だが……

 

 

「………カエル」

 

「そう…「エ?」

 

予想していた答えを聞くも、ほっぽが口を挟む。

 

 

「オネーチャン、カエッチャウノ?」

「カエルノ…ッテ……ワタシタチノ イバショハ ココジャナイデショ」

 

そう言われるとそうだ。

ほっぽも彼女も深海棲艦。

違和感なさすぎて気付かずに居たが、恐らくは海こそが本来の家なのだろうか。

 

 

 

「………………アー……」

 

「アー、ッテ………」

 

ほっぽの如何にも忘れてました、と言わんばかりの声が、口を開いたまま終わらない。

彼女も心なしか呆れている。

 

 

「ソウダ、ホッポ、ココニスム。オネーチャンモ、ココニスム」

 

個人的には嬉しい事を言ってくれるほっぽ。

 

「ナニヲイッテ……!」

 

 

「………モウ、タタカウノハ、イヤ」

 

「……ほっぽ」

 

「イツニナッタラ、オワルノ?」

 

「…………………」

 

「あの……ちょっと良いか?」

 

ここで、そもそもの疑問をぶつける。

ずっと前から疑問に思っていたが、ほっぽに聞くのは酷だろうと、ずっと避けていた話だ。

 

「……ナンダ」

 

「そもそも、何でお前ら人間攻撃してんの?」

 

「……………サア?」

 

しかし、想像とは裏腹。

わからない、といった趣旨の返答が返ってくる。

 

 

「さあって……お前…」

 

聞いといてなんだが、これには俺も呆れる。

 

 

「イヤ、サイショハリユウガアッタトオモウ」

 

「ふむ」

 

けれども、そのまま話は続く。

 

 

「コロシコロサレルウチニ、ワレワレモ、イロイロトカワッタ」

 

「ダカラ……ワタシモ、ホッポモ、ホカノコモ、シラナイコガホトンド」

 

そう。

 

 

 

「………お前らも一緒、なんだな」

 

同じなのだ。

人類…艦娘も、深海棲艦も。

最初の理由を忘れてまで、お互い引けずにここまで戦っている。

それだけ。

 

 

「………ソウ、ネ」

 

「……………」

 

誰も、振り上げた拳を、下ろす事が出来ていないのだ。

 

 

「なあ」

 

「ナニ」

 

「お前が良ければさ、一緒に住まないか?」

 

だからこそ。

俺らだけでも、手を取り合えないだろうか。

俺と、ほっぽが出来たように。

 

 

「ハ?」

 

「ああ、ほら。ほっぽも居るし。面倒見ると思って、さ?」

 

「……………」

 

「オネーチャン……」

 

「俺の事は信用しなくてもいい。だけどさ、ほっぽを信じると思って、な?」

 

信頼は、後から積み重ねていけば良い。

その事を、俺はよく学んでいる。

 

 

「…………ヘンナヤツダナ、オマエ」

 

「よく言われる」

 

実際にはそんなにない。

てか人との関わり自体……うっ、この話はやめよう。

 

「ホッポガイルカラ、ダ。ソコヲハキチガエルナヨ」

 

「勿論」

 

「オネーチャン!」

 

「ワワ、イキナリトビツカレルト、アブナイ」

 

感極まったほっぽが飛びつく。

座っているから、そんなバランス崩す事はないんと思うんだけど……とは言わない。

 

 

「……先、上がってるから。気が済んだら上がって来てくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、いろおとこ」「すけこまし」

「どうしてあんなんでいけるのか。うらやましいです」

「おれもなー、むかしはなー」

 

「お前ら全員黙ってろ」

 

居間に上がった途端に、妖精共が囃し立てる。

最早分かり合えぬ。

 

「ちぇっ」「まあいいです」

 

「これから、どうするです?」

 

「どうする、って?」

 

妖精がよく分からない事を尋ねてくる。

 

「せつび、ふやさないとたぶんおいつかないです」

 

「……マジ?」

 

「まじまじ」「おおまじです」

 

なんて事を言うんだこいつらは……

まだ工廠設置を諦めていないのか……!?

 

 

「もしほかにふえたらどうするですか?」

 

「……いや、流石に無いだろ」

 

確率的には、捨てきれないとは言え……。

 

「はは、こいつめ」

 

「もしかしてほんきでいってます?」

 

 

 

「怖い事言ってくれるじゃねえか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アラタメテヨロシクタノムゾ」

 

その後落ち着いたのか、上がって来た二人と。その中の「港湾棲姫」とは先程名前を聞いたばかりだった。

 

 

「ああ。此方こそ。港湾棲姫……港湾……」

 

「スキニヨベ。ショセンハタダノキゴウダ」

 

「じゃあこーわんで」

 

「…………」

 

む、ほっぽが「北方棲姫」なのだから、良い案だと思ったのだが……。

どうも不評のようだ。

 

 

「………わんこ……「コーワンデイイ」

 

「良し、決定。宜しくな」

 

ふと天啓が降りて来たが、速攻で前者の案が採用されたので、ボツになった。

 

「ヨロシク!オネーチャン!」

 

「………ヨロシク、ホッポ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ナツカシイユメヲミタ…」

 

ある日、こーわんを起こしに行ったら、彼女はそんな事を呟いていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「ナンデモナイ……」

 

「そっか」

 

 

「ン………ホッポハ…?」

 

「先に起きてる。妖精さんと飛行機ごっこしてると思うよ」

 

「ソウ………」

 

「ほら、起きて」

 

「ウーン………カタカシテ…」

 

「もう……しゃーないな…」

 

言われた通り、彼女の手を取り、自らの肩にかける。

柔らかな膨らみが腕に当たる。

 

だから苦手なんだよ……

 

 

 

 

「ア、オハヨウ!」

 

「おはよう」「オハヨ」

 

居間に行くと、ほっぽが艦載機……なんじゃこの数。

 

「……なんか増えてない?」

 

「フヤセルヨウニナッタ!」

 

「おおー、凄いじゃないか、ほっぽ。編隊ごっこが出来るな」

 

「スゴイネ……」

 

(何でだ、全く理屈が解んねえ)

 

どうやったら増えるんだ。

おい、説明しろ、とそこら辺に転がっている妖精の方を見るが、無視される。

踏み潰してやろうか。

 

 

「フフーン……」

 

「ア、ソウイエバ、キノウ、キンジョノカタカラオヤサイモラッタワ」

 

近所……と言ってもキロ単位なのだが。

まあ、貰える分には有難い。

年寄り方も特に深海棲艦だとか気にしていないようで何よりだ。

多分知らないだけだろうけど。

 

……そう言えば、最近アイツ何してんだろ。

 

『君のお陰で僕は大忙しさ!』とか言ってたけど……

 

それでも、資材を定期的に持ってくる辺り、辺に義理堅いと言うか、何というか。

 

「やったのです」「きょうはやさいじゃー」

 

「かれーたべたいなぁ……」「こうしんりょうがほしい」「かれーようのこひろわないと」

 

「………最早お前らには何も言うまい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キョウハナニスルノ?」

 

「今日かい?」

 

食事も終わり、ゆっくりしているとほっぽが尋ねてくる。

 

「ワタシハイエデコノママダラダラシテタイワ」

 

「アナタモツカレテルダロウシ、タマニハイイデショ?」

 

「む……」

 

こーわんが俺に話を振ってくる。

最近、その頻度が多くて困る。

意外と決めるのって難しいからなぁ。

 

三人寄れば文殊の知恵、とも良うが、三人集まれば派閥が出来る、とも言うし。

まあ、彼女達の意思を優先はするが。

 

「ホォラ」

 

「うおっお、おま」

 

そのまま頭を両手で引かれ、抱き竦められる。

ギリギリ呼吸が出来るようにはしてある辺り、気遣いが出来る人だ。

いや、今はそんな話をしている場合ではない。

 

「ヨシヨシ」

 

顔に柔らかな膨らみを感じつつ、そのまま後頭部を撫でられる。

 

自然と、彼女の頭が俺の頭に乗っかるような形になってくる。こうなるともう、抜け出せない。

 

人間をダメにするソファならぬ、俺をダメにする港湾棲姫だ。

 

 

「かおがにやけている」「やわらかそう」

 

「なんとうらやま」「しょす?しょす?」

 

「おとこたるもの……ぬぐぐ」

 

何やら外野が騒いでいるが、余りよく聞こえない。

 

「ムムム……」

 

「ズルイ!」

 

「アラアラ」

 

何を思ったのか、ほっぽが背中に抱きついてくる。

 

前後挟まれ、これじゃあ終日堕落コースだ。

最近、そんな事が多い。

 

 

(大丈夫かな……俺)

 

 

「これいじょうふえたら、このこうけいどうなるんでしょうね」

 

「たのしみなような、みたくないような」

 

「かんむすも、しんかいせいかんも、ねっこはかわらないんですかねぇ」

 

 

 

 

 

 

 


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