Fate/stay night ~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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その14(完)

 

 

 

 ある日のこと。ギルさんと一緒に町を歩いていたら、腹ペコさんと鉢合わせした。

 

「貴様……なぜ貴様がここに………!」

「まあ待て。ここで暴れれば、いったい何人が巻き添えを食うかな? 我は構わないが……お前は違うだろう?」

 

 ニヤリ、と格好よく笑うギルさんと、苦々しげに歯軋りをする腹ペコさんの二人には、どうやらそこそこ深い因縁があるようだ。

 なんだろうか? 前回の聖杯戦争に二人とも召喚されてて、その時になにかふざけたことでもされたのか?

 例えば、貧乳貧乳ってからかわれるとか。腹ペコさんは否定できなかっただろうし、屈辱に身を震わせていたりしたんじゃなかろうか。

 

 そう考えている間にも状況は動き、ギルさんが腹ペコさんの体(の一部)を注視している。

 

「……ハッ」

 

 ギルさんが鼻で笑った瞬間、腹ペコさんの左米神にかなりはっきりとした青筋が走った。なにかが引きちぎられたようなような嫌な音も同時に聞こえてきたから、たぶん結構マジで切れている。

 だが、だからと言って腹ペコさんはこんな衆人環視の真っ只中で武装したりギルさんに斬りかかって行ったりはしない。ただ、激憤と羞恥に頬を染めてプルプルと震えているだけだ。

 

「……それにしても、胸が小さいと言うのは便利だな? ただ男の服を着るだけで性別を誤魔化せるのだから」

「………アーチャー。貴様……それほどまでに死に急ぐか………ッ!」

 

 このまま放っておいたら冬木全土が焦土あるいは更地になりそうだ。その時はまたブルーファルコンで跳ねるか。ロードローラーで轢くのも一つの手だが………ロードローラーはあんまり速くないからなぁ。

 

「ドリーマーもそう思うであろう?」

「ごめん途中までしか聞いてなかったからわからない」

 

 どうやら考え事の間にも話は進んでいたようで、ギルさんに急に話を振られてちょっとびっくりした。

 俺の答えを聞いたギルさんは少し怒った顔で俺の頬をつねりあげる。

 けど、正直に言って痛くもなんともない。せいぜいちょっとしゃべりづらい程度で、こんなところにまでギルさんの優しさが滲み出ている。

 そんなギルさんを腹ペコさんは信じられないものを見るような目で―――もっと具体的に言うと、生真面目な元風紀委員長が卒業から10年くらい過ぎた頃の同窓会で当時犬猿の仲とも言えるほど険悪な付き合いをしていたヤンキーが、なんか異様に性格が丸くなって普通に挨拶しているところを見てしまった時のような目で―――見詰めているが………いったいこの二人の過去には何があったのやら。

 

「ドリーマー」

「ふぁい」

「他の雑種の話はどうでもいいが、王であるこの我の話を無視してこの程度で済むのはエンキドゥの他には貴様くらいなものだぞ?」

「ふぁい」

「自らの置かれた立場に感謝するのだな」

「ふぁい」

 

 よろしい、と頬を放されたが、ヒリヒリしたりとかそんなことは一切無い絶妙な力加減だった。真の王にもなると、こんなことまでできるようになるのか。

 

「……ドリーマー。あなたはどうなのです」

「主語が無いから何がなんだかわからないんだけど」

「あなたも、アーチャーと同じように人の価値は胸の大きさで決まると言うのですかっ!」

「そんなこと言ってないんだけど。って言うか、何で俺に聞くの?」

 

 そんな感じで腹ペコさんに詰問されるが、正直何がなんだかわからない。

 俺としては胸の大きさにはあんまり興味がない。あえて言うなら、その人らしい胸がいい。大きい小さいは正直言ってどちらでも……。

 

「つまり、貴様のような小物には小振りなその乳がお似合いだと言うわけだ」

「わぁなんて意地の悪い解釈の仕方をするんだろう。確かにそういう風に取れるように言った俺も悪いけど、よっぽど悪意にまみれてないとそういう解釈はできないよ」

「ははははは。王を目の前にしてのその口振り。貴様でなければ首を飛ばしているところだ」

 

 なんだかギルさんは俺に対しては異常なほど寛容だ。あんまり寛容すぎて逆に怖くなってくるくらいに寛容だ。

 なんでギルさんはこんな風なんだろうね? 確か他の人にはもっと上から目線だったりしてるのに。特に大人の時はそれがかなり凄いって聞いたんだが……。

 子供の時は子供の時である意味凄いんだけど、一応礼儀正しいしそんな簡単に殺人しようとはしないし人を雑種呼ばわりしないし他人に話しかけられても受け答えはちゃんとするし困っている人がいたら余裕があれば助けてるし……って、普通にいい人だよな。

 どうしてこんなに高飛車に育っちゃったのやら……。まるで俺と出会ったばっかりの頃のセシリーをもっと酷くしたみたいだ。

 

 やっぱり孤独に苛まれていると人間の性格ってのはどんどん歪んでいくものなのか? 自覚はなくても周りから見れば歪んでいってるとわかりそうなものだけど………。

 俺は……どうかね?

 

「……ドリーマー。あまり我を無視し続けていると、持ち帰ってしまうぞ?」

「そいつはちょっとばかし困るね。その後何をされるか簡単に予想できちゃうし」

「安心しろ、お前は痛くない。むしろ気持ちが良いだけだ」

 

 良すぎて苦しくなるかもしれないが……とか言われても怖いだけなんだが。特にその目が。

 

 するりと離れようとしたんだが、シルバースキンの端っこを掴まれて抱き寄せられる。後頭部の辺りにちー姉さん以上束姉さん未満って感じの感触がある。

 

 …………うん、ギルさん女だよ? だから一人称が『(オレ)』って言うのは珍しいねって話をしたんだし。

 まあ、俺ならともかく(オレ)って言うのは男でも珍しいとは思うけど。

 

「それではな貧乳(セイバー)。我はドリーマーとデートの続きをしなければならない。邪魔をするなよ?」

「……貴様、今なんと書いてセイバーと読んだ?」

「言わなければわからないのか? どうやら貧乳(セイバー)は胸だけではなく頭の方まで貧しいのだな?」

「ギルさんギルさん。言い過ぎだって」

「そうだ!ドリーマーの言った通り、私の胸が小さいのではなく、貴様の胸がありすぎるのだ!」

「腹ペコさーん? 俺はそんなこと言ってないよー?」

「そもそもそんな胸など。年を取ればただ垂れるだけの無駄な脂肪の塊だろう。そんなものを誇るとは、随分と器と視野の狭いことだ。英雄王の名が泣くな」

 

 ……あれ、俺の言葉は完全に無視?

 

「ほざけ雑種。今の我はサーヴァントだ。年を食おうがこのまま保たれる。大きくなることもできずに成長を止めてしまった自らの貧しい乳を恨むのだな?」

 

 ギルさんは俺を抱き締めたまま、高笑いをして腹ペコさんの前から去って行く。

 そこにはただ怒りに震える腹ペコさんだけが残されていた。

 

 …………あ、腹ペコさんが聖杯に巨乳にしてもらおうと頼むような気がする。

 しかも聖杯の叶え方が『腹ペコさんより胸が大きいやつがみんな死ねば腹ペコさんは世界一巨乳になる』っていう馬鹿な方向に歪んでる叶え方をする気がするね。

 

 まあ、腹ペコさんは後で止めるけど。

 今はのんびりご飯でも食べようか。麻婆豆腐とか?

 

 

 

 この後、麻婆豆腐をみたギルさんが虚ろな目をして逃げ出そうとしていたが、ギルさんには別のを頼んであげたら収まった。よかったよかった。

 

 

 

 




 



これでFate編は終了です。
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