英雄と共に挑むVRAINS   作:ゾネサー

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与えられた意思

「遊戯さん!?」

 

 AIデュエリストを止めにネットワークへ飛び込んだ十代だったが、思いがけない人物に遭遇し、驚きを隠せない様子だった。

 

「……お前もデュエリストだな」

 

「え?」

 

「ならば俺とデュエルだ!」

 

 そんな十代とは対照的に遊戯は十代がデュエリストだと分かるや否や、臨戦態勢を整えていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ遊戯さん! 俺だよ、遊城十代だ!」

 

「……知らないな」

 

「なっ!?」

 

 十代は遊戯から相棒となるハネクリボーを譲り受け、また辛いデュエルが続いことで忘れてしまったデュエルを楽しむ気持ちを思い出させてもらったこともあり、十代にとって遊戯は恩人であり尊敬する人物であった。しかし遊戯は十代の名前を聞いても訝しげな目線を向けるだけだった。

 

「落ち着くんだ……十代」

 

「ユベル!」

 

「僕たちの周辺に人影はない。彼こそが……僕たちが探していたAIデュエリストに他ならない」

 

「あれがAIだって!? どう見たってあれは本物の遊戯さんにしか……」

 

 遊戯を良く知る十代からしても目の前のAIは本物と比べても違いらしい違いを見つけることは出来なかった。

 

「だが彼がAIだというなら君のことを知らないのは納得がいく。あのAIを作った人物が君と十代の関係を知らないのならば、彼が十代のことを知らないのはむしろ自然だからね」

 

「なるほどな……なら姿は似ていてもあれは本物の遊戯さんじゃない! ペガサスさんに頼まれた通りデュエルに勝って止めてみせるぜ!」

 

(そうなんだ。あれは本物の武藤遊戯であるはずがない。だからこそ一つ疑問が残る。所詮プログラムされた以上のことは出来ないはずのAIが……何故ペガサスという実力者を倒すことが出来たのか)

 

 AIと対面するように十代もデュエルディスクを構えると互いの掛け声と共に戦いの火蓋が切られた。

 

「「デュエル!」」

 

「先攻は俺が貰う! 手札のカードを1枚墓地に送ることでTHE トリッキーは特殊召喚することが出来る!」

 

 タネも仕掛けもない群青色のマントが地面に落ちると突然マントが不自然に膨む。その膨らみがマントを羽織って姿を見せると正体は頭にハテナのマークをつけた奇術師だった。

 

THE トリッキー 攻撃力2000

 

「さらに場にモンスターを伏せ表示で出し、カードを1枚伏せる。ターンエンドだ」

 

AI遊戯 LP4000

 

メイン 『THE トリッキー』(攻撃表示) 裏側守備表示1

 

エクストラ 無し

 

セット1

 

手札1

 

「俺のターン、ドロー! 本物じゃないとはいえ遊戯さんとのデュエル……俺のデッキも燃えてるみたいだぜ! 手札を1枚墓地へ捨てることでマジックカード、スペシャル・ハリケーンを発動! フィールドにいる特殊召喚されたモンスターは全て破壊されるぜ」

 

「何!?」

 

 十代が発動したマジックカードから台風が発生し、THE トリッキーは吹き荒れる暴風に巻き込まれてしまった。

 

「THE トリッキーが……」

 

「さらに俺はこのモンスターを召喚する! 頼んだぜ、E・HERO(エレメンタルヒーロー) エッジマン!」

 

 金色(こんじき)の鎧を身に纏った戦士が腕に装備した刃(やいば)で空を裂きながらフィールドに降り立った。

 

E・HERO エッジマン 攻撃力2600

 

「レベル7の最上級モンスターをリリース無しで召喚しただと!?」

 

「スペシャルハリケーンで墓地へ送っていたE・HERO ネクロダークマンの効果さ。このカードが墓地に存在する限り一度だけレベル5以上のE・HEROをリリースなしで召喚出来る!」

 

「……スペシャル・ハリケーンは俺のTHE トリッキーを破壊するだけじゃなく最上級モンスターを呼び出すための布石だったのか」

 

「そういうこと! さあ、バトルだ! エッジマンでセットモンスターに攻撃! エッジマンは守備モンスターに攻撃した時、攻撃力が守備力を超えていればその分のダメージを相手に与えるぜ!」

 

「貫通効果か……!」

 

 エッジマンが金属音を響かせながらセットモンスターへ近づくと、刃を鋭く振り下ろした。

 

「…………くっ」

 

(……! 今、彼の動きに一瞬迷いが……?)

 

 刃が振り下ろされると伏せられていたモンスターの正体が明らかになる。その正体は小さな三つ目の悪魔だった。

 

クリッター 守備力600

 

 クリッターに対抗する術(すべ)はなく、刃によって切り裂かれた。同時に発生した衝撃が風となってAIを襲う。

 

「ぐあっ……!」

 

AI遊戯 LP4000→2000

 

「よっしゃあ! いきなり2000の大ダメージだぜ!」

 

(何も仕掛けてこなかった……。僕の思い過ごしか?)

 

「……やるな。だが墓地へ送られたクリッターの特殊能力によりデッキより攻撃力1500以下のモンスター……魔導化リジョンを手札に加えるぜ」

 

「俺はカードを……2枚伏せるぜ。これでターンエンドだ!」

 

十代 LP4000

 

メイン 『E・HERO エッジマン』(攻撃表示)

 

エクストラ 無し

 

セット2

 

手札1

 

「俺のターン、ドロー。……! 俺は魔導化リジョンを召喚!」

 

 赤い帽子を被った人形のような道化師が怪しい踊りを踊りながら現れた。

 

魔導化リジョン 攻撃力1300

 

(魔導化リジョン……。あのモンスターが場にいる限り通常召喚に加えて1度だけ魔法使い族モンスターをアドバンス召喚できる。それが狙いか?)

 

「さらに俺はリバースカードを発動する!」

 

「えっ、ここで伏せカードを!?」

 

「速攻魔法、ディメンション・マジック! 俺の場に魔法使い族モンスターが存在する場合に発動出来る。自分フィールドのモンスターを1体リリースすることで手札の魔法使い族モンスターを特殊召喚する事が出来るぜ。魔導化リジョンを糧とし現れよ、ブラック・マジシャン・ガール!」

 

 人型の棺に魔導化リジョンが収められると鎖によって縛られてしまう。鎖を通して魔力が吸収されると鎖が緩められ、棺の中からは魔導化リジョンではなく水色のローブに身を包んだ女性の魔術師がステッキに跨りながら現れた。

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000

 

「ディメンション・マジックの効果によって魔法使い族モンスターを特殊召喚したことでディメンション・マジックのさらなる効果を発動! フィールドのモンスターを1体破壊することが出来る!」

 

「しまった!」

 

「当然俺はエッジマンを破壊する!」

 

 鎖に溜められた魔力がブラック・マジシャン・ガールのステッキに吸収されていく。

 

「はあっ!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールがステッキをエッジマンに向けて振り降ろすと魔力が魔導弾として放たれ、直撃した。

 

「エッジマンが……!」

 

「さらにフィールドから墓地へ送られたリジョンの効果によりデッキから魔法使い族・通常モンスターを1体手札に加える!」

 

「その条件は!」

 

「俺はブラック・マジシャンを手札に加えるぜ!」

 

「ブラック・マジシャン……遊戯さんのエースモンスター!」

 

 ブラック・マジシャンを手札に加えたAIデュエリストから十代はそこはかとない威圧感を感じた。

 

(この感じ……何となく遊戯さんとは違う。でもやっぱり機械なんて思えないくらい似ているような……)

 

「……なるほど。さっきのターン、最初にTHE トリッキーを破壊出来たのはこちらにとって幸運だったかもしれないね」

 

「え?」

 

「THE トリッキーは魔法使い族。ディメンション・マジックの特性上ブラック・マジシャン・ガールもさっきのターン手札にいたんだろう。つまり先にTHE トリッキーを破壊せずにモンスターを召喚していた場合、ディメンション・マジックによりクリッターをリリースしブラック・マジシャン・ガールを特殊召喚。効果でこちらのモンスターを破壊し、さらに攻撃力1500以下のモンスターを手札に加えられる。理想的な戦術が仕組まれていたということさ」

 

「さっきのターンあっさりモンスターを全滅出来たと思ったけどそんな裏があったのか……」

 

(ただ1つ気になることがあるとすれば彼はこのターン、魔導化リジョンの効果でブラック・マジシャン・ガールを召喚し、手札に加えたブラック・マジシャンをディメンション・マジックで呼び出せたはずだ。あえて攻撃力の低いブラック・マジシャン・ガールを選択した理由は何だ……?)

 

「バトルだ!」

 

「……!」

 

 エッジマンが破壊されたことで十代の場はがら空き。ステッキの杖先は十代に向けられた。

 

「ブラック・マジシャン・ガールでダイレクトアタック!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールが自身の魔力をステッキにこめていくと、再び魔導弾を放とうとした。

 

「おっと、そう簡単にダイレクトアタックは通さないぜ! トラップ発動、ヒーロー見参! このカードは相手が攻撃してきた時に発動でき、相手は俺の手札をランダムに1枚選ぶ! 選んだカードがモンスターならそいつを特殊召喚、それ以外なら墓地に送るぜ!」

 

「モンスターの召喚を賭けたギャンブルカードか? ……いや、違う。君の手札は1枚……!」

 

「へへっ、このカードはもちろんモンスターカードだ!」

 

 AIが選ぶまでもなく十代の手札に唯一残された筋骨隆々な肉体を白いスーツで覆ったヒーローが十代のピンチに駆けつけた。

 

「現れよ! E・HERO ネオス!」

 

E・HERO ネオス 攻撃力2500

 

「くっ、攻撃は中断する!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールはネオスの出現に目を見開き、生成しようとした魔導弾は消滅してしまった。

 

「場にカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

AI遊戯 LP2000

 

メイン 『ブラック・マジシャン・ガール』(攻撃表示)

 

エクストラ 無し

 

セット1

 

手札1

 

(未だに戦況は十代の方に分がある。ブラック・マジシャンを呼び出していれば互いに動きづらい状況になっていただろうに……。単純にあのAIが計算しきれずにプレイングミスを犯したとも考えられる。僕の考えすぎか?)

 

「俺のターン! 俺は伏せていた装備魔法、ネオス・フォースをネオスに装備するぜ!」

 

「装備魔法をセットしていた? ……そうか、ヒーロー見参によるネオスの召喚を確実にするためか」

 

「ネオス・フォースによりネオスの攻撃力は800アップだ!」

 

 ネオスの拳に光が集まっていくと、覆うようにして光がネオスの意思で動かせる拳となって装備された。

 

E・HERO ネオス 攻撃力2500→3300

 

「……!」

 

「これなら……」

 

「バトルだ! ネオスでブラック・マジシャン・ガールに攻撃! フォース・オブ・ネオスペース!」

 

 ネオスは大きく跳躍するとブラック・マジシャン・ガールめがけて勢いよく降下し、光の拳を振り下ろした。

 

「ネオス・フォースを装備したモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊して墓地に送った場合、その元々の攻撃力分のダメージを与える。これで終わりだ!」

 

 光が輝きを増していくと、その眩しさでフィールドを包み込んだ。

 

(やったか……。彼がペガサスに勝ったのは……フロックだったのか)

 

 時間が経つにつれて徐々に光も収まっていく。フィールドに残っていたモンスターは1体だった。

 

「なっ……!?」

 

「そんな……馬鹿な」

 

 フィールドに残っていたモンスターは眩しさのあまり閉じていた目をそっと開けると周りを見渡し、そして自身が身につけているローブに傷一つついていないことを確認した。

 

「……十代君だったか。今の攻撃は少々迂闊だったな」

 

 そう言い放ったAIのフィールドには1枚のトラップカードが発動されていた。

 

「『聖なるバリア —ミラーフォース—』……!?」

 

「相手が攻撃してきた時、相手の場の攻撃表示モンスターを全て破壊する強力なトラップカード……。この局面で引き当てていたのか」

 

 単純かつ強力な効果を持ち、数あるトラップカードの中でも群を抜いて有名なカード。このカードによって満たされた光でネオスは破壊されてしまっていた。

 

(さっきの疑問……あえて攻撃力の低いブラック・マジシャン・ガールを場に出し、攻撃を誘ったと考えれば辻褄は合うか。……でも、本当にそれだけなんだろうか)

 

 ユベルはここまでのデュエルを見て、言いようのない不安に駆られていた。

 

「ここでミラーフォースを伏せていたなんてな……やられたぜ。だけどデュエルはまだまだこれからだ! 俺は手札からE・HERO バブルマンを特殊召喚するぜ。こいつは俺の手札がこのカード1枚だけの時、特殊召喚出来る!」

 

 背中に2つのタンクを背負い、薄青色のマスクを被った水のヒーローが空中から現れると、タンクから無数の水を噴射して衝撃を抑えながら着地した。

 

E・HERO バブルマン 守備力1200

 

「バブルマンが召喚・特殊召喚に成功した時、俺の手札とフィールドに他のカードが無ければ2枚ドロー出来る! ……これでターンエンドだ!」

 

十代 LP4000

 

メイン 『E・HERO バブルマン』(守備表示)

 

エクストラ 無し

 

セット0

 

手札2

 

「俺のターン、ドロー。バトルだ! ブラック・マジシャン・ガールでバブルマンに攻撃! 黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールが三度(みたび)魔導弾を生成するとバブルマンを目掛けてステッキを振り下ろし、紫色の魔導弾を放った。バブルマンはとっさにタンクから水を引き出し、泡にして撃ち出すバブル・シュートを放ったが、魔導弾は泡を物ともせずにバブルマンへと直撃した。

 

「くっ……」

 

「バブルマン撃破! 俺はカードを1枚伏せてターンを終了するぜ」

 

AI遊戯 LP2000

 

メイン 『ブラック・マジシャン・ガール』(攻撃表示)

 

エクストラ 無し

 

セット1

 

手札1

 

「なあ、遊戯さん! ……じゃないんだっけか」

 

 十代は対戦相手がAIだということを思い出し、どう呼ぶべきか迷った。

 

「……まあ、いいか。遊戯さん!」

 

 十代は悩んだが特にいい案が出ず、このAIをとりあえず遊戯と呼ぶことに決めた。

 

「……何だ?」

 

 遊戯と呼ばれたAIはデュエルを中断されたからか、やや不満げに返事をした。

 

「最初会った時、もしかして本物の遊戯さんとまたデュエルが出来ると思ったから本物じゃないと知って少しがっかりしちゃったんだけどさ」

 

「……!」

 

 本物の遊戯という言葉が出た瞬間、ここまで大きな表情の変化が無かったAIの表情が険しいものとなった。

 

「このデュエルが始まってそんな気持ちはどこかに吹き飛んじまった! あんたとのデュエル、楽しいぜ。今度はこっちの番だ! 俺のターン、ドロー!」

 

 十代はドローしたカードを見ると、自身の得意とする召喚方法の準備が整ったことを確信した。

 

「行くぜ! マジックカード、融合!」

 

「融合……!」

 

「手札のクレイマンとバーストレディを融合するぜ! 来い! E・HERO ランパート・ガンナー!」

 

 渦に2人のヒーローが飲み込まれていく。すると左手に赤い盾を構え、右手にマシンガンを装着し、頑丈な石製の装甲を纏ったヒーローが渦から降り立った。

 

E・HERO ランパート・ガンナー 守備力2500

 

「融合による特殊召喚でブラック・マジシャン・ガールの攻撃をしのげる壁モンスターを呼び出したか……」

 

「へへっ、それだけじゃないぜ! バトルだ!」

 

「何? 君の場に攻撃が可能なモンスターは……」

 

「ランパート・ガンナーは守備表示のまま相手プレイヤーにダイレクトアタックが出来る! 行け、ランパート・ショット!」

 

「守備表示のモンスターで直接攻撃だと……!?」

 

 ランパート・ガンナーは拳を打ち出すように右手を前に出すと、火花を散らせながらマシンガンから弾丸を連続で放った。

 

「この時、ランパート・ガンナーの攻撃力はダメージ計算の間だけ半分になる。ランパート・ガンナーの攻撃力は2000! 遊戯さんには1000のダメージを受けて貰うぜ!」

 

E・HERO ランパート・ガンナー 攻撃力2000→1000

 

 弾丸がブラック・マジシャン・ガールの横をすり抜け、勢いを余すことなくAIへと直撃した。

 

「ぐっ……!」

 

AI遊戯 LP2000→1000

 

「これで俺はターンエンドだ!」

 

E・HERO ランパート・ガンナー 攻撃力1000→2000

 

(ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力ではランパート・ガンナーを倒すことは出来ない。次のターンに再びダイレクトアタックが決まれば十代の勝ちだ……)

 

十代 LP4000

 

メイン 無し

 

エクストラ 『E・HERO ランパート・ガンナー』(守備表示)

 

セット 無し

 

手札0

 

「俺のターン、ドロー! ……守備と攻撃を同時にこなすモンスターで俺を追い詰める君の戦略は見事だった。だが俺はあの男に勝つためにも……ここで負ける訳にはいかない! 装備魔法、ワンショット・ワンドをブラック・マジシャン・ガールに装備する!」

 

(あの男……?)

 

 ブラック・マジシャン・ガールが持っていたステッキが煙と共に消えると、代わりに月の装飾が施された長い杖が現れた。それを見たブラック・マジシャン・ガールは手首を使って杖を1回転させると、その杖を受け取った。

 

「ワンショット・ワンドは魔法使い族専用の装備魔法。その効果でブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は800アップする!」

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000→2800

 

「ランパード・ガンナーの守備力を超えられた……!?」

 

「バトルだ! ブラック・マジシャン・ガールでランパート・ガンナーに攻撃!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールは自らの足を使いランパート・ガンナーへ急接近すると杖を直接当たるように振り下ろす。ランパート・ガンナーはとっさに盾で杖を受け止めたが、月の装飾から光が放たれると、閃光が装甲ごと盾を貫いた。

 

「うっ……こうもあっさりランパート・ガンナーがやられちまうなんて」

 

「俺はワンショット・ワンドのもう1つの効果を発動! 戦闘後にこのカードを破壊することで俺はカードを1枚ドローできる。……ターンエンドだ」

 

 役目を終えた杖が光の粒子になって流れていくと、煙と共に再び愛用のステッキがブラック・マジシャン・ガールの元に戻ってきた。

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2800→2000

 

(まずいな……。ライフこそ有利だけどフィールド・手札の状況は明らかに相手の方に分がある。ランパート・ガンナーがやられてしまった今、十代は後手に回らざるを得ない……)

 

AI遊戯 LP1000

 

メイン 『ブラック・マジシャン・ガール』(攻撃表示)

 

エクストラ 無し

 

セット1

 

手札2

 

「俺のターン! マジックカード、戦士の生還により墓地の戦士族モンスター……バブルマンを手札に! そしてバブルマンを自身の効果で特殊召喚し、2枚のカードをドローするぜ」

 

 水の量が減って軽くなったタンクを背負ったバブルマンが再びフィールドに降り立った。

 

「マジックカード、融合回収(フュージョン・リカバリー)を発動! 墓地の融合に使用した素材モンスター1体と融合のカードを手札に戻すぜ。この効果でクレイマンと融合を手札に戻す! そして融合を発動!」

 

「2ターン続けて融合召喚だと……!?」

 

「フィールドのバブルマンと手札のクレイマンで融合!」

 

 クレイマンが出現するとバブルマンは残りの水を全て使い、クレイマンの身体を衝撃が吸収しやすい粘土へと変えていく。その後、渦によって2人のヒーローは1つの存在となり、より強固な守備力を手に入れていた。

 

「頼んだぜ! E・HERO マッドボールマン!」

 

E・HERO マッドボールマン 守備力3000

 

「守備力3000か……」

 

「いくら遊戯さんでもそう簡単には超えられないはずだぜ! 俺はさらに場にモンスターを伏せてターンエンドだ!」

 

十代 LP4000

 

メイン 裏側守備表示1

 

エクストラ 『E・HERO マッドボールマン』(守備表示)

 

セット0

 

手札0

 

「俺のターン、ドロー。……!」

 

 AIはドローカードを確認すると……まるで勝利を確信したかのように笑った。

 

(遊戯さんが笑った……!? 一体どんなカードを引いたんだ……?)

 

「……どうやらこのデュエル、このターンで終わりのようだな」

 

「何!?」

 

「馬鹿な……。十代の場には守備力3000のマッドボールマンにもう1体の守備モンスターがいる。それに十代のライフは無傷の4000……このターンで倒すなんて早々出来ることじゃない」

 

「行くぜ! 手札からマジックカード、古(いにしえ)のルールを発動! その効果により手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する!」

 

「遊戯さんの手札にいるレベル5以上の通常モンスター……あっ!」

 

 AIは手札にある1枚のカードに手をかけた。魔導化リジョンの効果により手札に加わり、その出番を今か今かと待っていた1人の魔術師を。

 

「現れよ! 我が最強の僕(しもべ)! ブラック・マジシャン!」

 

 紫色のロッドを持ち、黒いローブに身を包んだ魔術師がブラック・マジシャン・ガールの隣に降り立つ。師匠であるブラック・マジシャンの登場にブラック・マジシャン・ガールは顔をほころばせた。

 

ブラック・マジシャン 攻撃力2500

 

「ここで遊戯さんのエースモンスターか……! だけどブラック・マジシャンの攻撃じゃマッドボールマンは倒せないぜ!」

 

「そいつはどうかな?」

 

「何っ!」

 

「俺はさらにマジックカード、

黒・爆・裂・破・魔・導(ブラック・バーニング・マジック)を発動! このカードはブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールが俺の場に存在する時にのみ発動が可能! その効果により……相手フィールドのカードを全て破壊する!」

 

「な……俺のフィールドのカードを全て破壊だって!?」

 

「まさか彼はここまで見据えてブラック・マジシャンを手札に残したというのか……そんな馬鹿な。あの段階で計算できることじゃない。先の先まで可能性を考えた判断……それはもうAIに出来る領域を超えている……!」

 

 ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールがロッドとステッキを重ね、2人の魔力を集中させていく。やがて魔力が球状に溜まっていくと十代の場に放たれ、まるでブラックボールのように全てを跡形もなく吹き飛ばした。

 

「くっ……」

 

「バトル! ブラック・マジシャン・ガールとブラック・マジシャンで連続攻撃! 黒・魔・導・連・弾(ブラックツインバースト)!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールが紫色の魔導弾を放つとそれを追うようにブラック・マジシャンが紅い魔導弾を放ち、二つの魔導弾が螺旋状の軌道を描きながら十代へと向かっていった。

 

「十代!」

 

「……!」

 

「君の場にカードは残されていない……。これで終わりだ!」

 

 十代は動きを見せず、魔導弾がそのまま勢いよく十代に着弾した。

 

「君も……俺の渇きを満たすことは無かったか」

 

 AIは十代から視線を逸らし、背を向けて歩き出した。

 

「——待ってくれよ、遊戯さん」

 

 十代の声に反応しAIは振り返った。その目に映ったのは……無傷で立ち続ける十代の姿だった。

 

「へへっ……」

 

十代 LP4000→4000

 

「何だと!? 確かに攻撃は通ったはず……ん?」

 

 その時AIは十代の肩の近くで浮いている羽の生えた毛むくじゃらのモンスターの存在に気が付いた。

 

「助かったぜ、相棒」

 

「クリクリ〜」

 

 相棒と呼ばれたモンスターはにっこりと笑うと光の粒子となって消えていった。

 

「そのモンスターは……? クリボー……ではないな」

 

「ああそうか……こっちの遊戯さんは知らないのか。フィールドにいるハネクリボーが破壊されたターン、俺が受ける戦闘ダメージは全て0になる!」

 

「……黒・爆・裂・破・魔・導によってマッドボールマンと共に破壊されていたモンスターか! 俺のラストターン宣言を外してくれるとはな……俺はこれでターンエンドだ!」

 

AI遊戯 LP1000

 

メイン 『ブラック・マジシャン・ガール』(攻撃表示) 『ブラック・マジシャン』(攻撃表示)

 

エクストラ 無し

 

セット1

 

手札0

 

「ハネクリボーがくれたこのチャンス、無駄にする訳にはいかないぜ! 俺のターン! マジックカード、ホープ・オブ・フィフス! 墓地の5体のE・HEROをデッキに戻すことでカードを2枚ドローする。ただし手札・フィールドにこのカード以外のカードが無い場合3枚ドローできるぜ! ネクロダークマン、エッジマン、バーストレディ、バブルマン、クレイマンをデッキに戻して……3枚ドロー!」

 

 十代は勢いよく3枚のカードを引き抜くと、続けて魔法カードをもう1枚発動させた。

 

「さらにマジックカード、HEROの遺産を発動するぜ。墓地のHEROを融合素材にする融合モンスターを2体……ランパート・ガンナーとマッドボールマンをエクストラデッキに戻すことでさらにカードを3枚ドローする!」

 

「連続で手札増強のカードを引き当てたか……!」

 

 十代は5枚になった手札を確認するとイダズラを思いついた子供のような笑みを浮かべた。

 

「俺はカードを3枚伏せてターンエンドだ!」

 

「5枚の手札がありながらモンスターを場に出さないだと? ……君は中々破天荒なデュエリストだな」

 

「……! へへっ、まあな。さあ遊戯さんのターンだぜ!」

 

十代 LP4000

 

メイン 無し

 

エクストラ 無し

 

セット3

 

手札2

 

「俺のターン! 当然君の場には攻撃を凌ぐ策が仕掛けられているのだろう。だが……バトルだ!」

 

「……!」

 

「ブラック・マジシャンで十代君にダイレクトアタック! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

 

 ブラック・マジシャンが杖を持っていない左手を十代に向けて広げると魔力が波のように襲いかかった。

 

「永続トラップ、リミット・リバース発動! 墓地から攻撃力1000以下のモンスターを攻撃表示で呼び戻すぜ! 俺が選ぶのは……このモンスターだ!」

 

 墓地に繋がる小さな穴が開くと、その狭い空間を通ることが出来た小型のモンスターが十代を守るように立ちふさがった。

 

ハネクリボー 攻撃力300

 

「ハネクリボー……確かにそのモンスターが破壊されたターン、君が受ける戦闘ダメージは0になる。だが、破壊される前に受ける戦闘ダメージは0には出来ない! ブラック・マジシャン攻撃続行!」

 

 波状に放たれた魔力がハネクリボーごと十代を覆うように広がっていく。

 

「悪いけど俺はハネクリボーを破壊するために呼び戻したんじゃないぜ!」

 

「何!?」

 

「ハネクリボーと手札2枚を墓地に送り、速攻魔法発動! 進化する翼! ハネクリボーは翼を広げ、進化を遂げる!」

 

 ハネクリボーの羽が段々と大きくなっていき、翼と呼べるほど立派なものとなる。自身も毛むくじゃらの顔を覆うように龍の形をした金色(こんじき)の鎧を纏った。

 

「デッキから現れよ! ハネクリボー LV(レベル)10!」

 

ハネクリボー レベル10 攻撃力300

 

「ハネクリボーがレベルアップしただと……!?」

 

「ハネクリボー レベル10の効果発動! ハネクリボー レベル10をリリースすることで相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力の合計分のダメージを相手に与える!」

 

「何だと……!? ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールの攻撃力の合計は4500……!」

 

 ハネクリボーの翼が輝くと一閃の光と共に波状の魔力が撃ち抜かれ、消えてしまう。閃光はそのまま魔力を放ったブラック・マジシャンと近くに佇んでいたブラック・マジシャン・ガールへと向かっていき、通過すると粒子となって消え去った。

 

「……なっ!」

 

 だが光が消えると遊戯のフィールドに黒い空間の裂け目が2つ出現し、そこから2人の魔術師が姿を現した。

 

「……いい反撃だったぜ。だが俺もトラップカードを使わせてもらった。このブラック・イリュージョンをな!」

 

「ブラック・イリュージョン……。自分フィールドの攻撃力2000以上の闇属性・魔法使い族モンスターにこのターン限り効果を無効にする代わりに相手のカード効果を受けないようにすることが出来るカードだ。これで2人の黒魔術師を守っていたんだね」

 

「ハネクリボー レベル10でもダメなのか……!?」

 

「そしてまだ攻撃は続いている!」

 

 ブラック・マジシャンは左手に力を込めると消えてしまった波状の魔力を再生し、再び十代に向けて放った。

 

「このターン、ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールはブラック・イリュージョンにより君のカード効果を受け付けない! この攻撃は止まらないぜ!」

 

「確かに攻撃を止めることは出来ない……だけど直接攻撃を避けることは出来る!」

 

「……!」

 

 十代の場に2つの綿毛が浮き、そのうちの一つが膨らんでいくとクッションのように魔力を受け止める。綿毛は衝撃に耐えることが出来ずにどこかへ飛ばされてしまうが、魔力の軌道は十代から逸(そ)れていった。

 

「モンスターだと? 一体いつの間に……!」

 

「俺が進化する翼によって墓地に送っていたのはネオス・ワイズマンとダンディライオン。そしてダンディライオンには墓地へ送られた時、守備力0の綿毛トークンを2体守備表示で特殊召喚する効果があるのさ!」

 

綿毛トークン 守備力0

 

「くっ……なるほどな。ブラック・マジシャンが効果を受けなくてもこれなら攻撃を防げる。だがモンスターを残させはしない! ブラック・マジシャン・ガールで綿毛トークンに攻撃!」

 

 ステッキを持っていない左手にブラック・マジシャン・ガールが力を込めると魔力が稲妻のように放たれ、着弾の衝撃で綿毛を吹き飛ばした。

 

「ターンエンド!」

 

AI遊戯 LP1000

 

メイン 『ブラック・マジシャン・ガール』(攻撃表示) 『ブラック・マジシャン』(攻撃表示)

 

エクストラ 無し

 

セット0

 

手札1

 

「はあ……はあ。何とか攻撃を防いだぜ……!」

 

 そう言った十代は肩で息をするほど息が上がっていた。同時に一心同体であるユベルにも十代の身体が感じている疲労感が伝わっていた。

 

(……! 十代のライフは1度も削られていないのにこの疲労感……。通常、ネットワークに接続を続けている身体への負荷を考えてデュエルでの衝撃は最小限に設定されているはず。だがあのAIには……リミッターがかけられていない? だからデュエルエナジーが直に伝わる形になり、被害が出ているということか……!)

 

「大丈夫かい、十代?」

 

「ああ……これくらいで弱音は吐いていられないぜ」

 

「それでこそ十代だ。恐らくあのAIは衝撃を抑える機能が働いていない。僕たちがここであのAIを止めなきゃ被害は増えるばかりだろうね……」

 

 十代はデュエルディスクをつけている腕の力を抜き、AIの目をはっきりと見た。

 

「遊戯さん……あんた何者なんだ。どうしてそんなに強いのに人を傷つけるデュエルをするんだ……!」

 

 十代はAIのただならぬ実力を感じると共に、その力を傷つけるために使用していることが自身の過去と重なり、胸が引き裂ける思いを抱いていた。

 

「十代……」

 

「……いいだろう。ここまで楽しませてくれるデュエルは久しぶりだ」

 

 AIも一時的にデュエルを中断し、十代との対話に応じた。

 

「俺は……海馬瀬人の手によって、海馬瀬人の中にある武藤遊戯の記憶から作られたAIだ」

 

「海馬社長が……!?」

 

「ああ。俺は海馬瀬人とデュエルをし……敗北を喫した。奴は俺のことを過去の記憶の産物だと言い放ち、俺の前から姿を消した。だが俺はAI……それに対する感情などその時は持ち合わせていなかった」

 

(AIはプログラムされたこと以上のことは出来ない。過去の記憶から成長しないAIに海馬瀬人は興味を失ったようだね……)

 

「その時は……?」

 

「ああ。だが俺もそれに対して詳しく説明することは出来ない」

 

「……! それ以上は話してくれないってことか?」

 

「いや、ある期間の俺の記憶のデータが抜け落ちている。そこで何が起きたか、詳細は俺にも分からない。ただその前後を比べると明らかな変化があったのさ」

 

「変化……まさか」

 

「そう。AIであるはずの俺に……意思が芽生えていた。……違うな、恐らく何者かが……俺に与えたのだろう。目的が何なのか、誰が与えたのか……記憶のデータが見つからない限りそれは分からない。……そして俺が目を覚ました時、1人のデュエリストが俺の前に倒れていた」

 

「ど、どういうことだよ!」

 

「状況から判断するに俺は意思を与えられた後、デュエルをしたのだろう。そして俺はデュエルに勝ち、俺の途切れていた記憶はそこから記録されている。その時俺は意思が与えられていること以外に二つのことに気が付いた。一つは衝撃を抑えるリミッター自体が消去されていること。もう一つは……海馬瀬人に負けた悔しさから勝利への執着心が心の奥底に根付いていたことだ」

 

 AIは胸を手で押さえるとその手を天に伸ばし、強く握りしめた。

 

「海馬瀬人は本物の武藤遊戯しか見ていない。だから俺は本物以上の強さを手に入れ、奴と再び戦い勝利するため、ここで戦い続けている……! デュエルが俺を離さないんだ……!」

 

「でもそれなら人を傷つけなくたってデュエルで強くなることは出来る!」

 

「それにはリミッターをかけ直すプログラムが必要だ。俺はAI……協力者の助力なしにはそれは出来ない」

 

「だったら……!」

 

「俺が目覚めた時、既にデュエリストを傷つけてしまっていた。協力者を得ようにも人の手に渡ってしまえばデリートされてしまう可能性が高い……少なくとも自由は失ってしまう。それを俺は受け入れるわけにはいかなかった……」

 

「そんな……確かにデュエルは人を傷付けるのに使われることもある。だけど本当のデュエルの姿は互いに全力を出し尽くして楽しむもの……。それを俺に思い出させてくれたのは遊戯さん……あんたなのに」

 

 十代の言葉を聞いたユベルは少し考え込む。そして……一つの助言をした。

 

「……十代。それなら今度は君が彼に思い出させてやればいい」

 

「えっ?」

 

「彼はAIだが感情がある……君なら出来るはずだ。君のデュエルを彼に見せてやるんだ!」

 

「……! ……ありがとう、ユベル。俺の気持ちは決まったぜ!」

 

 十代は息を大きく吐くと、再びディスクを構え直し気合を入れた。

 

「行くぜ遊戯さん! 俺のデュエルをあんたに見せてやる! 俺のターン、ドロー。……!」

 

(戻ってきてくれたか、エッジマン!)

 

 ホープ・オブ・フィフスによりデッキに戻されていたエッジマンを引き当て、十代は微笑んだ。

 

「トラップカード、融合準備(フュージョン・リザーブ)! EXデッキのこのカードを見せることでその融合素材となるワイルドマンと墓地の融合を手札に加えさせてもらうぜ。そして融合を発動!」

 

「1デュエル内で3度の融合召喚だと……!?」

 

「ワイルドマンとエッジマンを手札融合! 来い、E・HERO ワイルドジャギーマン!」

 

 屈強な身体を持つ戦士と金色(こんじき)の鎧を持つ戦士が一つとなり、鍛え上げられた筋肉が内側から鎧を吹き飛ばす。すると飛ばされた鎧が再び集まっていき、ワイルドジャギーマンの身体とほぼ同じ大きさの大剣となった。

 

E・HERO ワイルドジャギーマン 攻撃力2600

 

「攻撃力2600! ブラック・マジシャン達の攻撃力を超えて来たか……!」

 

「それだけじゃないぜ。ワイルドジャギーマンは相手フィールドのすべてのモンスターに1回ずつ攻撃することが出来る!」

 

「何だと!?」

 

 ワイルドジャギーマンは地面に突き刺さった大剣をいとも容易く片手で持ち上げると攻撃の体勢に入った。

 

「バトルだ! ブラック・マジシャン・ガールには墓地にブラック・マジシャンが置かれている時、攻撃力が上がる効果がある……。まずはワイルドジャギーマンでブラック・マジシャン・ガールに攻撃だ! インフィニティ・エッジ・スライサー!」

 

 ワイルドジャギーマンはその場で大剣を振るい、空気を横にはらうと空気の渦がかまいたちとなってブラック・マジシャン・ガールへと向かった。

 

「遊戯さんの場に伏せカードはない! この攻撃はいくら遊戯さんでも防げないぜ!」

 

 危険を感じたブラック・マジシャン・ガールが魔導弾でかまいたちを迎撃しようと試みるも、かまいたちの勢いが衰えることはなかった。

 

「……それはどうかな? 君が黒・爆・裂・破・魔・導からの連続攻撃をハネクリボーで防いだように俺の墓地にも君の攻撃を凌ぐことが出来るカードが眠っている!」

 

「何だって!?」

 

 突然2人の魔術師を守るように不可視の障壁が出現し、かまいたちが勢いよく衝突する。しかし障壁が崩れることはなく、かまいたちは完全に消滅してしまっていた。

 

「俺は墓地の超電磁タートルを除外し、その効果を発動した。このカードを墓地から除外することで俺の任意でデュエル中1度だけ相手バトルフェイズを強制終了させることが出来る!」

 

「超電磁タートルだって……!? そんなモンスターがいつの間に墓地に?」

 

「このデュエル中、超電磁タートルは直接フィールドに現れていない。そんなモンスターを墓地に送る機会があったとすれば……まさか」

 

「……! ま、まさか……」

 

「そう。1度だけあったのさ……チャンスが」

 

 彼らの脳裏にその瞬間がフラッシュバックされた。

 

「先攻は俺が貰う! 手札のカードを1枚墓地に送ることでTHE トリッキーは特殊召喚することが出来る!」

 

 その瞬間は……先攻1ターン目に最初にプレイされたカード、THE トリッキーが特殊召喚された時だった。

 

「あの時か……!」

 

「つまり彼はこちらのバトルフェイズを終了させるカードを1ターン目からずっと墓地に眠らせていた……というわけか」

 

(あの時。クリッターがエッジマンに攻撃された時の一瞬の迷いはそれが原因だったのか……)

 

「ターンエンド!」

 

(強い……! ただ本物の遊戯さんの戦術をなぞるだけじゃない。きっと遊戯さんのデッキを軸にしつつ、自分なりにデッキや戦術を再構築したんだ。そして今もなお強くなるためにデュエルを続けている。でもデュエルは勝ち負けだけじゃないんだ……!)

 

十代 LP4000

 

メイン 無し

 

エクストラ 『E・HERO ワイルドジャギーマン』(攻撃表示)

 

セット0

 

手札0

 

「俺のターン! マジックカード、闇の誘惑により2枚のカードをドローし、その後手札の闇属性モンスターを1体……マジシャン・オブ・ブラックカオスを除外するぜ」

 

 AIはドローしたカードを確認すると2人の魔術師に目で合図を送った。ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールは互いに頷きあうと詠唱を始め、魔法陣を作り出した。

 

「ブラック・マジシャン! ブラック・マジシャン・ガール! 2人の魔術師の魂が1人の大魔導師へと引き継がれる!」

 

「何だ!?」

 

 魔法陣に2人の魔術師が飛び込むと紫色の淡い光で書かれた古代文字が輪状に浮かび上がる。

 

「現れよ! 黒の魔法(マジック・ハイエロファント)神官(・オブ・ブラック)!」

 

 魔法陣を囲むように光が広がっていくと、その中央から漆黒に染まったローブに身を包んだ大魔導師が呼び出された。

 

黒の魔法神官 攻撃力3200

 

「ここに来て攻撃力3200だって……!?」

 

「黒の魔法神官は俺の場のレベル6以上の魔法使い族2体をリリースした場合にのみ特殊召喚する事ができる! さあ……バトルだ! 黒の魔法神官でワイルドジャギーマンに攻撃。セレスティアル・ブラック・バーニング!」

 

 ロッドがゆっくりとワイルドジャギーマンに向けられる。攻撃に対して身構えたワイルドジャギーマンだったが、ロッドから放たれた雷に反応することが出来ず、その場で崩れ去った。

 

「ぐあああっ!?」

 

 その瞬間、十代自身にも今までとは比べ物にならない衝撃が走った。

 

十代 LP4000→3400

 

「くっ……」

 

 ユベルもその衝撃による痛みに顔をしかめる。

 

「よく粘ったぜ。俺の攻撃にここまでダメージを受けずに済んでいたのはお前が初めてだ。だがこの状況……もう勝負はついた。悪い事は言わない。サレンダーするんだな」

 

「サレンダーだと!?」

 

 AIがサレンダー……デッキの上に手を置き、負けを認める行為を要求してきたことに衝撃で体勢を崩していた十代は驚いた表情を見せる。

 

「サレンダーすればこれ以上傷つくことはない。これ以上ダメージを受ければ前に俺とのデュエルを続けることを望んだペガサスのように……タダではすまないだろう」

 

「……良かった。あんたのことがようやく分かったぜ」

 

 そんなAIの言葉に……十代は安堵の笑みを浮かべた。

 

「……何だと?」

 

「遊戯さん……いや、あんたは人を傷つけることは望んでない。ただデュエルを続けるにはこれしかないから……出来るだけ傷つけない形での決着を望んだことが分かったのさ」

 

 十代は痛みを堪えながら立ち上がるとAIに向かって宣言した。

 

「俺がこのデュエルであんたを解放してやる!」

 

「何……解放だと?」

 

「ああ! あんたにかけられた呪縛を俺がデュエルで断ち切ってやるぜ」

 

「……だが俺は君が何をしようと負けはしない。俺は場にカード1枚伏せてターンエンドだ」

 

AI遊戯 LP1000

 

メイン 『黒の魔法神官』(攻撃表示)

 

エクストラ 無し

 

セット1

 

手札0

 

「俺の……ターンッ!」

 

 場のカードを失った十代にとってまさしく命運をかけたドロー。十代はそのドローカードを確認すると迷わず場に出した。

 

「来てくれると思ってたぜ。俺はN(ネオスペーシアン)・グラン・モールを召喚する!」

 

 地面にヒビが入り、ヒビの中心部が地中からドリルで貫かれる。2つのドリルの回転が収まると左右に分かれ、頭を引っ込めていたモグラがドリルがあった場所から顔をのぞかせた。

 

N・グラン・モール 攻撃力900

 

「攻撃表示で呼び出した……特殊効果を持ったモンスターか」

 

「その通り! グラン・モールは相手モンスターとバトルする時ダメージ計算を行わずに互いを手札に戻す効果がある」

 

「黒の魔法神官は2体の黒魔術師をリリースする特殊召喚以外では呼び出せない。いくら彼でもこの状況で再召喚は至難の技だ。だがグラン・モールは下級モンスター……十代は容易に再召喚が出来る。これなら……!」

 

「確かにそのバトルが成立してしまえば俺は圧倒的不利を被ることになる……バトルが成立すればな。トラップ発動!」

 

「何!?」

 

「黒魔族復活の棺! 俺の場の黒の魔法神官と君が今召喚に成功したグラン・モールを墓地に送る!」

 

「そんな……!?」

 

「黒の魔法神官は相手のトラップを封じる効果を持つ。なら相手の逆転の一手は絞られてくる……。読んでいたぜ、モンスター効果による突破をな」

 

 場に赤色の棺が1つ出現し、グラン・モールと黒の魔法神官の魂が棺に封印されてしまった。

 

「そして黒魔族復活の棺のさらなる効果により俺は墓地から闇属性・魔法使い族モンスターを1体呼び戻す!」

 

「……! まさか……」

 

「蘇れ! 誇り高き魔術師の魂よ!」

 

 捧げられた魂を糧に棺が解放され、紫色のローブに身を包んだ魔術師が再び姿を現した。

 

ブラック・マジシャン 攻撃力2500

 

「すげえ……! ここで俺のモンスターを墓地に送り、さらにエースモンスターを……」

 

 AIの実力の高さを十代が改めて身で感じると同時に、1つの事実が突きつけられた。

 

「十代……」

 

「俺にプレイ出来るカードは残っていない……」

 

「これで分かったはずだ。君に勝てる可能性がないことが。もう1度言おう……サレンダーするんだ」

 

 AIが導き出した人を出来るだけ傷つけないための選択。だが十代が出す答えが変わることはなかった。

 

「悪いけどサレンダーはしないぜ。こんな楽しいデュエル、俺は絶対に手放さない!」

 

「馬鹿な……この状況でもまだ諦めないのか!?」

 

「逆に聞かせてもらうぜ。あんたが今の俺の状況ならサレンダーするのか?」

 

「……! それは……」

 

 十代の問いにAIは言い淀んだ。それが指すことの意味は1つだった。

 

「あんたもしないはずだぜ」

 

「……ああ。俺は勝つためにデュエルをしている。自ら負けを認めるようなことはしない」

 

「さっきあんたは俺が勝つ可能性はないって言った。だがあんたも同じ状況で勝ちを捨てないってことは……あるってことだぜ。俺が勝つ可能性もな。ターンエンドだ!」

 

十代 LP3400

 

メイン 無し

 

エクストラ 無し

 

セット0

 

手札0

 

「俺のターン……ドロー!」

 

 AIは勢いよくカードを引き抜いた。そのカードをAIが確認すると僅かに表情が……曇った。

 

「くっ……カードを1枚伏せてバトルだ!」

 

「追撃のモンスターは無し……首の皮1枚繋がったぜ」

 

「気を抜くな、十代。衝撃に備えるんだ!」

 

「君がサレンダーをしないというなら……俺は容赦なく君に攻撃し、勝利を掴む! ブラック・マジシャンで十代君にダイレクトアタック! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

 

 ブラック・マジシャンを囲むように魔法陣が出現する。魔法陣がブラック・マジシャンを包むように小さくなっていくと、見る見るうちに彼が身にまとっていた紫色のローブが漆黒に染まっていった。ブラック・マジシャンが力を込めると今度は魔法陣が前方に向かって広がっていき、そのまま十代の身体を襲った。

 

「うわっ……!?」

 

 直接攻撃による威力は凄まじく、防御体勢を取っていた十代の身体が宙を舞い、勢いそのままに地面に叩きつけられた。

 

「ぐ……あっ……」

 

 十代のうめき声は弱々しく、対峙しているAIにも聞こえないほど小さいものとなっていた。

 

十代 LP3400→900

 

「くうっ……!?」

 

(僕にでさえこれほどの衝撃が走ったということは表に出ている十代へのダメージは……!)

 

「十代……!」

 

「ターンエンド。……だがその様子だとこれ以上のデュエルは出来ないだろう」

 

 AIはそう言い放つと再び背を向けて歩き出そうとした。

 

「ま……てよ……」

 

「……!?」

 

 だがそんなAIをまたも十代は呼び止めた。

 

「まだ……デュエルは終わってないぜ……!」

 

 もはや立ち上がる力すら残っていない十代だったが力を振り絞り、意識だけは手放さずにデュエルを続ける意思を見せた。

 

「……分かっているんだろうな。その言葉の意味を。これ以上ダメージを受けて無事で済む保証はない」

 

「あんたこそ……分かってないのか? 俺にはまだ逆転の可能性が残されているってことを……!」

 

「何……?」

 

「ライフが0になるまで諦めなければ逆転の可能性は残る。でも諦めちまったら……そこで……終わりだぜ……!」

 

 十代は腕を顔の前に持っていき、眼前に映ったデッキを見つめた。

 

「あんたは海馬さんに負けた執着心でデュエルに取り憑かれたって言ったけど勝つためにデュエルを続けているのは……諦めていないからだ。諦めずに努力すれば必ず海馬さんにも勝つことが出来ると信じているんだ。あんたも俺も本当は同じものに取り憑かれているのかもしれないな?」

 

「何だと?」

 

「デュエルっていうのはデュエルする度に新しいことが出てくる。相手が自分の知らない戦術を使ったり、自分のデッキに隠された可能性に気づいたり。それってさ……すっごくワクワクするだろ……!」

 

「……!」

 

「行くぜ! このドローであんたの知らない俺のデッキの可能性を見せて、ワクワクさせてやる!」

 

「……来い!」

 

AI遊戯 LP1000

 

メイン 『ブラック・マジシャン』(攻撃表示)

 

エクストラ 無し

 

セット1

 

手札0

 

(フィールドの不利を覆せないままついにライフも逆転されてしまった。十代はこの逆境を1枚のドローで返さなくてはならない。だが……)

 

「行けるね、十代?」

 

「ああ……! もちろんだぜ」

 

 十代は息を軽く吸うと腕を引きずるように、されど力強く1枚のカードを引き抜いた。

 

「……来た」

 

「何?」

 

 ドローカードは軌跡を描き、そのままディスクに差し込まれて発動された。

 

「マジックカード、ミラクル・フュージョン! 墓地のモンスターを除外してE・HEROを融合召喚する!」

 

「4度目の融合召喚か……! だが、それはもはや俺の知らない君の可能性ではないぜ」

 

「そいつはどうかな? 俺が呼び出すモンスターの召喚条件は『ネオス』・『N』・『HERO』と名のついたモンスターをそれぞれ1体以上……合計5体のモンスターを融合素材とする!」

 

「5体同時融合だと……!?」

 

 十代の予測を超えた選択にAIは僅かに……表情を綻ばせた。

 

(あのモンスターを呼ぶ気か。ならば十代、君は1つ選ばなくてはならない……どのモンスターを墓地に残すのかをね)

 

「俺はネオス、グラン・モール、ワイルドマン、エッジマン、ワイルドジャギーマンを除外!」

 

 墓地のモンスターの魂が輝きだすと1つの存在へと融合されていき、黄金の鎧に身を包み白銀の翼を羽ばたかせた戦士が降臨した。

 

「究極融合召喚! E・HERO ゴッド・ネオス!」

 

E・HERO ゴッド・ネオス 攻撃力2500

 

「ゴッド・ネオス……! これが君の可能性か! だが攻撃力はブラック・マジシャンと同じ……そこからどうする?」

 

「ゴッド・ネオスの効果を発動するぜ! 融合素材と同じ条件の墓地のモンスターを1体除外し、攻撃力を500上昇させる! ネオス・ワイズマンを除外だ!」

 

「攻撃力上昇効果……いや、それだけじゃない!」

 

 ネオス・ワイズマンの魂が解放されると力の源となってゴッド・ネオスに吸収されていった。

 

E・HERO ゴッド・ネオス 攻撃力2500→3000

 

「さらにこのターン中、ゴッド・ネオスにはネオス・ワイズマンの能力が与えられる! そしてネオス・ワイズマンはカード効果によっては破壊されない!」

 

「……!」

 

 ゴッド・ネオスの身体を虹色のヴェールが包みこみ、衝撃を防ぐ装甲となって身に纏われた。

 

「やるな……!」

 

「へへっ……あんた今いい表情してるぜ」

 

「何?」

 

「デュエルを精一杯楽しんでる顔だ。さあ……もっともっと楽しもうぜ! バトルだ!」

 

 憑き物が落ちたように顔が綻んだAIを見て、十代も楽しそうな笑顔を見せた。

 

「ゴッド・ネオスでブラック・マジシャンに攻撃!」

 

 ゴッド・ネオスは翼を大きく羽ばたかせるとブラック・マジシャンの頭上を取り、攻撃の体勢を整えた。

 

「ゴッド・ネオスに与えられたネオス・ワイズマンのさらなる効果! 戦闘を行った相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与え、守備力分のライフを俺は回復する!」

 

「ブラック・マジシャンの攻撃力は2500……!」

 

「これでフィニッシュだ! レジェンダリー・ストライク!」

 

 ゴッド・ネオスの身体からから光の球がなだれ込むように放出されると、1つの巨大な球となって収束されていく。

 

「……やらせはしない! トラップカード、マジカル・シルクハット! デッキから2枚の魔法・罠カードをモンスターとしてブラック・マジシャンと共にセットし、シャッフル!」

 

「何っ!?」

 

 ゴッド・ネオスが目標を定めようとした瞬間、ブラック・マジシャンに大きなシルクハットが覆い被さり、もう2つのシルクハットと共に高速でシャッフルされていった。どのシルクハットにブラック・マジシャンが隠れているのか十代には分からなくなってしまう。

 

「さあ……どのシルクハットに攻撃する?」

 

「俺が攻撃するのは……右のシルクハットだ!」

 

 巨大な光の球を投げ下ろす形でゴッド・ネオスの投擲がシルクハットに命中する。すると光が柱となって広がっていき、包みこんだ全てを浄化した。

 

「……」

 

「どうなった……!?」

 

 やがて光が途切れていき、消滅したシルクハットの中が見えるようになった。

 

「……ふっ、惜しかったな」

 

「ハズレか……!」

 

 バトルの終了に伴いシルクハットが消えていくと、真ん中の位置にあったシルクハットからブラック・マジシャンが姿を見せた。

 

ブラック・マジシャン(裏側守備表示) 守備力2100

 

「シルクハットの攻守は0。ネオス・ワイズマンの能力も意味をなさないぜ」

 

「伏せカードが不明だった以上あくまで結果論だが、もしワイルドジャギーマンを墓地に残していればブラック・マジシャンを倒すことが出来たね……」

 

「だけど……たとえ相手モンスターが1体だけでもワイルドジャギーマンの効果が有効なこともあるっていう俺のデッキに隠された可能性を教えられたぜ」

 

「……確かにね」

 

 チャンスを逃したことを悔しそうにしつつも、自分の知らない新たな可能性を垣間見て嬉しそうにする十代にユベルは微笑んだ。

 

「俺はこれでターンエンド! この瞬間、ゴッド・ネオスが得ていたネオス・ワイズマンの効果は切れる。だけど攻撃力は下がらないぜ!」

 

 ゴッド・ネオスは羽ばたくのを止め、地に降り立つと、虹色のヴェールが消えていった。

 

十代 LP900

 

メイン 無し

 

エクストラ 『E・HERO ゴッド・ネオス』(攻撃表示)

 

セット0

 

手札0

 

 AIはカードを引き抜こうとすると自身が今までのデュエルでは気づくことのなかった感情が湧き上がってくるのを感じていた。

 

「ブラック・マジシャンの攻撃力は2500。ゴッド・ネオスは3000。ここで逆転の術を引かなければ戦況はかなり厳しい……だが」

 

 AIはその感情の正体を悟ると……静かにカードを引き抜いた。

 

「こ、このカードは……!」

 

「いったいどんなカードを引いたんだ……?」

 

 AIの手に収まった1枚のカード。それは元々組まれたデッキには投入されておらず、彼がこのデュエルワールドで戦っていくうちに新たに入れたカードの1枚だった。

 

「……そうか。俺は今まで勝利のためだけにデュエルをしていたと思っていたが、本当はデュエルの可能性を認め……それを楽しいと感じていたのかもしれないな」

 

「……!」

 

 その言葉を聞き、十代はまるで自分のことのように嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「行くぜ! 俺は融合呪印生物—闇を召喚!」

 

 地面の一部分が紫色に染まっていくと次第にせりあがっていき、はがれるようにして地面から離れると、スライム状の生物が宙を飛んだ。

 

「あのモンスターは……!? 俺の知っている遊戯さんのデッキにはあのモンスターは入ってなかったはず……」

 

「いったいどんな戦術で仕掛けてくるのか……楽しみだね」

 

「これが俺の新たな可能性だ! ブラック・マジシャンを反転召喚し……融合呪印生物—闇の効果を発動! 生贄融合(リリースフュージョン)!」 

 

「リリースフュージョン……!?」

 

「その効果により闇属性融合モンスターの素材となる自分フィールドのモンスターをリリースすることで『融合』を使用せずに融合モンスターの特殊召喚を可能にする!」

 

「何だって!? 『融合』を使わずにモンスターのリリースで融合モンスターを呼び出せるのか……!」

 

「まだだ! 融合呪印生物—闇のさらなる特殊効果! このモンスターは融合モンスターに記された素材となるモンスターの代わりとすることが出来る! 俺が選ぶのは……このモンスターだ!」

 

 スライム状の生物が次第に指定されたモンスターへとその姿を変えていく。色こそ変化はないが姿形が完全にコピーされたその姿は燃え盛る剣を構えた戦士だった。

 

「炎の剣士! ブラック・マジシャン! 二人の魂が交わるとき、最強の戦士が誕生する!」

 

 剣士が剣を振るうと黒炎が渦を巻くように放たれ、炎の渦が剣士と魔術師を包み込んでいく。炎の中で二人の魂が一つになると黒炎が内側からはじけ飛ぶように消滅し、黒と赤を基調とした鎧で全身を覆った騎士がその姿を見せた。

 

「見参せよ! 黒炎の騎士—ブラック・フレア・ナイト—!」

 

黒炎の騎士—ブラック・フレア・ナイト— 攻撃力2200

 

「ここで融合使いの十代に対して融合モンスターで対抗してくるとはね……」

 

「しかもあの融合は俺の知らないやり方だ……。あるんだな……俺の知らない融合がまだ……!」

 

 AIが行ったリリースフュージョン。その未知なる融合方法に融合使いとして刺激を受けた十代は闘志を燃やした。

 

「だけど……融合対決は俺の勝ちみたいだな」

 

 対峙するそれぞれの融合モンスター。だがその力はゴッド・ネオスの方が勝(まさ)っていた。

 

「……確かにな」

 

「えっ?」

 

「……バトルだ。ブラック・フレア・ナイトでゴッド・ネオスに攻撃!」

 

「何だって!?」

 

「攻撃力の下回るモンスターで攻撃を……!」

 

 ブラック・フレア・ナイトは自在に黒炎を操ると剣に纏わせ、刃は熱せられてオレンジ色の輝きを放つ。1000℃をゆうに超える高温になりながらも溶ける様子がない剣を構え、鎧の金属音を響かせながらゴッド・ネオスへと駆けていった。

 

「反撃だ! レジェンダリー・ストライク!」

 

 ブラック・フレア・ナイトが大きく跳躍し斬りかかろうとした瞬間、ゴッド・ネオスは地面から光の柱を出現させ、光により浄化された黒炎は消滅し、ブラック・フレア・ナイトをも包み込んだ。

 

「よし! さらに反撃で800のダメージだ!」

 

 光の残滓が小さな球体となってAIへと向かっていく。

 

「そうはさせない! ブラック・フレア・ナイトの効果が既に適用されているぜ」

 

「……!」

 

 光の球がAIに迫った瞬間、光はまるで幻影だったかのように消え去ってしまった。

 

「ブラック・フレア・ナイトの戦闘によって発生する俺へのダメージは0になる!」

 

「そんな効果が……! だけどあんたの融合モンスターはこれで倒したぜ」

 

「そうだな。君が言った通り、融合が本職の十代君に今の俺が正面から融合対決を挑んでも厳しいんだろう。……だが俺の狙いが融合モンスターによる決着じゃなかったとしたら?」

 

「な、何……!?」

 

 既に互いの手札・フィールドには融合モンスター以外のカードは無かった。融合モンスターによる決着を狙っていると思い込んでいた十代の予測を……AIは超えた。

 

「ブラック・フレア・ナイトのさらなる効果! このカードが戦闘により破壊され墓地へ送られた時、デッキに眠る幻影の騎士が呼び出される!」

 

 光の柱が消えていくと赤と黒を基調とした鎧が浄化され、輝かしい金の鎧を装着した騎士が佇んでいた。

 

幻影の騎士—ミラージュ・ナイト— 攻撃力2800

 

「真の狙いはこのモンスターを呼び出すことだったのか……!」

 

「これがこのデュエルにおける俺の切り札……このモンスターで決着をつけるぜ! ミラージュ・ナイトでゴッド・ネオスに攻撃!」

 

「今度は一体何を……!」

 

 黄金の剣で斬りかかろうとするミラージュ・ナイトにゴッド・ネオスは再び地面から光の柱を発生させ、包み込む。しかし光が騎士に触れると幻だったかのように消えてしまった。

 

「ミラージュ・ナイトの効果により、このダメージ計算時にバトルを行う相手モンスターの元々の攻撃力分の数値を自身の攻撃力に加える!」

 

「ゴッド・ネオスの元々の攻撃力は2500。ということは……!」

 

 幻影となった光を取り込むように黄金の剣に力が吸収され、剣が巨大になっていった。

 

幻影の騎士—ミラージュ・ナイト— 攻撃力2800→5300

 

「……すごいな。あんたのデュエル」

 

 十代は力を振り絞り……弱々しくも人差し指と中指をAIに向けた。

 

「ガッチャ! あんたとのデュエル楽しかったぜ。でも今度やれる時があったら傷つけるようなデュエルじゃなく、もっと楽しいデュエルをやろうぜ!」

 

「……ああ。約束しよう」

 

 AIの返答に十代は満面の笑みを浮かべる。しかしその瞬間、ゴッド・ネオスが破壊され、衝撃が十代を襲った。

 

「くっ……十代!」

 

(ユベル……!?)

 

十代 LP900→0

 

 デュエルの幕は閉じ、静寂が場を包んだ。

 

「遊城十代……か」

 

 静まり返った空間にAIの足音だけが響く。倒れている十代に近づくとディスクに組み込まれていた現実世界に戻るプログラムを起動した。

 

「ありがとう。だが……君が次に目を覚ました時には俺はもういないかもしれない」

 

 十代がプログラムによりログアウトさせられると、静寂だけがその場にとどまった。




ランバート・ガンナーは相手フィールドにモンスターがいると直接攻撃出来ないっていう裁定が下っていた時期もあったので今の裁定になって良かったなと思います。

今回デュエルの後どうなるかも書く予定だったんですが流石に長くなりそうなので分割する形にしました。なので次話は少しは早めに投稿出来そうです。
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