英雄と共に挑むVRAINS   作:ゾネサー

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期待不安の未来

 時は流れ、一週間後。インダストリアル・イリュージョン社が経営する医療機関に運ばれていた十代に動きがあった。

 

「…………ここは………?」

 

 揺れる意識の中、無機質な天井がぼんやりと十代の視界に映された。

 

「えっ……」

 

「ん?」

 

 近くにいた医療関係者が十代の様子に気付き、驚きの声をあげた。

 

「そんな……。ペガサス会長でも1ヶ月近く意識を失っていたのに……!?」

 

 その理由はペガサスですら1ヶ月もの間意識を失っていたというほどの衝撃を受けたというのに、わずか1週間で意識を取り戻したということに対してだった。

 

「……はっ! ユベル……!」

 

 はっきりと意識を取り戻した十代が初めに気にかけたのはパートナーの安否だった。

 

「……ようやく目覚めたようだね。もっとも、僕もさっき意識を取り戻したばかりだけどね」

 

「……大丈夫なのか? 最後の攻撃、俺の代わりに表に出て……」

 

「ああ……さすがにリミッターがかけられていない攻撃は効いたね。でも言っただろう? 僕たちは一心同体だって」

 

「ユベル……ありがとう」

 

 十代が意識を取り戻したことを伝え聞いたペガサスは十代のもとへ駆けつけた。

 

「ちょ、ちょっと……まだ寝てないとダメよ!」

 

 ペガサスと一緒に駆けつけてきたドラゴンテールが起き上がっていた十代を見て、信じられないような表情をする。

 

「まだ少し痛みはあるけど俺はもう大丈夫だぜ。心配かけて悪かったな」

 

「アンビリーバボー……信じられまセーン」

 

(本当にユベルには感謝しないとな……)

 

 十代はユベルの方を頰を掻きながらちらっと見て、感謝の笑みを浮かべた。

 

(不思議だね……。痛みは苦しさ、あるいは愛だと思っていたこともあった僕が十代が受ける痛みを代わりに受けるように動くなんて……君といると一時の決めつけなんて吹き飛ばされてしまうよ)

 

 ユベルは目を閉じながら微笑を浮かべた。

 

「あ……ペガサス会長。依頼のことなんだけど……」

 

 十代はペガサスから受けた依頼を思い出し、言いづらそうにしながらも話を切り出した。

 

「ミーもその話をしようと思っていました。……その前にユーにこれを返しておきましょう」

 

「俺のデュエルディスク……そういえば起きた時に見当たらなかったな」

 

 ペガサスからディスクを受け取る十代を横目に、ユベルは疑問を抱いた。

 

(……何故ペガサスが十代のデュエルディスクを?)

 

「それで依頼のことなんだけどさ……」

 

(なんて説明すればいいかな……)

 

 十代がペガサスから受けた依頼はAIとのデュエルに勝つことでこれ以上被害が出ないようにすること。十代はデュエルに負けてしまったが、また楽しいデュエルをするという約束を交わしたAIがさらにデュエリストを襲うとは思っていなかった。

 

「安心して下さい十代ボーイ。あのAIはもう人を傷つけることはないでしょう」

 

「……! そっか、良かった……」

 

「ま、待ってくださいペガサス会長。確かにこの一週間、被害報告は出ていませんがそれだけでは断定は……」

 

 安心する十代と対照的に彼女はペガサスが言い切ったことへの驚きを隠せないようだった。

 

「……そうですね。ユーも解決に協力してくれました。ユーにも知る権利がありマース」

 

「ええと……?」

 

 状況を掴めず困惑する彼女をよそにペガサスは十代の方に向き直った。……正確には、彼のデュエルディスクの方に。

 

「出てきてくだサーイ」

 

「えっ……!?」

 

 十代のディスクは展開すると彼の好む色である赤を基調としたデザインが広がるが、収納した状態だと中央に取り付けられている青い水晶のような半球体が目立つ。そこが水のように波打つと、人型のAIが浮き出るように姿を見せた。

 

「……また君に、しかもこんなすぐに会えるとはな」

 

「……ま、まさか……あの時のAIなのか?」

 

「えっ、このAIが……? でも……」

 

 二人はそれぞれ戸惑いを見せる。その戸惑いの原因は十代のディスクからAIが突然姿を現したことだけには留まらなかった。

 

「その通りデース。このAIは遊戯ボーイのデータを元に作られました。……元々はですが」

 

 そのAIは十代とデュエルした時のような遊戯を元にした時の姿とは似ているところもあったが、髪、顔つき、体格などそれぞれのパーツが少しづつ異なっており、遊戯をよく知る十代であっても別人と思うような姿で現れた。

 

「どうしてあの時のAIがここに? 俺はデュエルに負けて……それにその姿は?」

 

「私から説明しましょう。実は……」

 

 時は遡り一週間前、ペガサスは一人モニターの前でノイズが走る画面を見つめながらため息をついていた。

 

「想定以上の衝撃に内部のカメラが破損して十代ボーイのデュエルの様子が分からなくなってしまいました……無事に帰ってこれるといいのですが」

 

 十代の帰還を今か今かと待つペガサスの期待に応えるかのようにネット上にあった十代の反応が消え、十代の身体がぴくりと動いた。

 

「……!」

 

 無事に帰って来たと思い、気を一瞬緩めたペガサスだったがすぐに違和感に気付き、倒れこんでくる十代の身体を咄嗟に支えた。

 

「なんということでしょう……十代ボーイの実力を持ってしても彼を倒すことは出来ないというのですか」

 

 前に自分が倒された時のように十代の身体に蓄積された尋常ではないダメージに気付いたペガサスがすぐに用意させていた医療施設へ搬送しようとし、人を呼ぼうとした時だった。

 

「……! ワッツ……!?」

 

 十代のディスクが青く輝くと遊戯の姿をしたAIが自らその姿を見せた。

 

「ユーは……どうしてここに」

 

「……ログアウトシステムを利用して彼のディスクを通してこっちの世界に戻らせてもらった」

 

「方法も気になってはいましたが……それよりも何故わざわざ自分から姿を見せたのですか?」

 

「……その前に彼をすぐ医療施設に連れていってくれ」

 

「……分かりました」

 

 状況を把握しきれていないペガサスだったが優先順位を判断し、十代の腕からディスクを取り外し、彼の身体をすぐに医療施設へと搬送させた。

 

「……これで大丈夫でしょう。命に別状はないとの報告も来ました。……さて」

 

 ペガサスは部屋が誰も入って来れない状態であることを確認すると椅子に腰掛け、机の上に置かれたディスクに向き直ると、AIに問いかけた。

 

「あなたには聞きたいことが山ほどありマース。ユーは誰に作られたAIなのか? 何故デュエルワールドでデュエリストを傷つけたのか? そして……何故私の前にわざわざ姿を見せたのか」

 

「一つずつ答えていこう。まずは……」

 

 AIは海馬瀬人に作られたこと、リミッターを何者かに外されたこと、十代とのデュエルで感じたこと……話せる事情を全て告白していく。

 

「そして俺は十代君にデュエルの本質を教わったからこそ、今まで自分がやってきたことの罪深さを感じた。……だから俺はこっちの世界に出てきたんだ。自分が犯した罪に対する罰を受けるために」

 

「……なるほど。話は分かりました」

 

 AIの告白に口を挟まず、一言一句を聞き逃さないように話に集中していたペガサスがこの一言を聞くと椅子からゆっくりと立ち上がった。

 

「確かに何者かがリミッターを外し、ユーにデュエルワールドのデュエリストを傷つけるように仕向けた、ということを考慮してもユーの行いは許されるものではありまセーン」

 

「……ああ。俺はデリートも覚悟の上でここに来た。どんな処遇でも言う通りにするさ」

 

「OK。……では私の一存であなたと処遇を決めさせてもらいます」

 

 そう言うとペガサスは十代のディスクをコードでモニターの手前にあるテーブル状のパソコンに繋げた。

 

「……分かった」

 

 AIの返事にペガサスは頷くとディスクの中にあるAIのデータに接続する。するとその内容に目を見開いた。

 

(こちらの基礎データは恐らく海馬ボーイが作ったものでしょう……この精巧なプログラムを作り上げたのはさすがという他ありません。しかし問題は……)

 

 ペガサスはAIのデータ構造を見ていくうちに強烈な違和感を覚えていく。その違和感の正体は先ほどAIが話してくれた内容に関係していた。

 

(意思を持つAI。それはこの複雑怪奇なアルゴリズムによって成り立っている……ということなのでしょう。こんな高度な技術を一体誰が……)

 

 そこまで考えるとペガサスはデュエルワールドはSOL(ソル)テクノロジー社との技術交流によって実現したことを思い出した。

 

(確かにSOLテクノロジー社の技術は世界レベルで見てもかなり進んでいましたが……それでもここまでのプログラムを組める者がいたかどうか。ですが……)

 

 ペガサスはそこまで考えたところであまりの技術に果たすべき目的から脱線していたことに気がつく。ペガサスは一旦考えるのをやめ、自身が決めた処遇を達成するために手を動かし始めた。

 

(………)

 

 AIはペガサスが自分のデータに接続した瞬間から目を閉じて横になり、デリートされる覚悟を決めていた。視界が塞がったAIはまるで水に浮いているような不思議な感覚を覚えていた。

 

(目を閉じるなんていつぶりだろう。意思が芽生えてからはデュエルを求め、戦い続けていた俺は一時も休むことをしようとはしなかった。意思が芽生えたとはいうが……結局俺は誰かの操り人形として生を全うしたに過ぎないのかもな)

 

 そこまで考えるとふとAIの脳裏にあるイメージが浮かんだ。

 

(もし……俺が生まれ変わることが出来るならば。武藤遊戯のAIとしてではない、新しい“俺”として生きたい……)

 

 するとAIはまた不思議な感覚を覚える。身体全体を覆っていた氷のようなものが水に溶けていくような感覚だった。

 

(……これがデリートされる感覚なのか)

 

 そう思ったAIだったが時間が経てども消される様子は無かった。疑問に思ったAIがゆっくりと立つ。するとAIは身体が軽くなっているような……そんな気がした。

 

「……なんという事でしょう」

 

 AIが目を開けるとまずペガサスの驚いた顔が目に入る。次に目に入ったのは……変貌した自分の身体だった。

 

「何……」

 

 AIは想定外の事態に困惑した。何故ならその身体はまさにAIの脳裏に浮かんでいたイメージ通りだったからだ。

 

「あんた……一体俺に何を」

 

「それはこちらのセリフデース。私がしたのはユーから外されていたリミッターをかけ直しただけ。ユーのビジュアルを変更はしていまセーン」

 

「何だと……!?」

 

 AIは頭を落ち着かせ、あり得ない可能性を消していく。すると残った可能性は……AI自らが変更したという可能性だった。

 

「俺が……? 協力者なしに俺が自分でプログラムを……」

 

 その言葉を聞いたペガサスが少し考え込むと一つ思い当たる節があった。

 

「そういえばユーの基礎データにあるはずのビジュアルのデータがありませんでした。恐らくユーの自我を構成する複雑なアルゴリズムに組み込まれているはず……もっとも、私ではあのアルゴリズムを読み解く力は無かったので絶対にそうとは言い切れませんが」

 

「……そうなのか」

 

 AIは初めこそ自分で容姿を変更したことに驚いていたが、同時に知らずのうちに自我をデータに組み込まれた時点で自身のプログラムは全てを把握するのは難しい領域に入っていることを感じ取っていた。

 

「まあいい、もう一つの質問だ。何故俺をデリートしなかった……?」

 

「……私も過去に許されざる過ちを犯しました」

 

 ペガサスが髪をすくうように上げると髪によって隠されていた左眼が露わになる。かつて千年眼(ミレニアム・アイ)が取り付けられいた左眼に義眼は今も入れられていなかった。

 

「……!」

 

「ですが、過去に犯した罪を無かったことにすることは出来ません。たとえ罰を受けようとも」

 

「罰を受けても……」

 

(確かに……俺は罪を犯したから罰を受けなくてはならないと思った。だが、それは俺が罪の責任から逃れるためのものだったのかもしれない……)

 

「それでも……やれることはあります。大事なのは過去を無かったことにするのではなく未来をどう生きるかなのデース」

 

「未来をどう生きるか。……俺にもやれることがあるというのか」

 

「イエス。ユーは何者かによってデータを書き換えられ、デュエルワールドにいるデュエリストに攻撃を仕掛けるようにプログラムされた。その者が捕まらない以上、再び同じ事件が起こってしまうかもしれまセーン」

 

「……そうか! 俺のデータを書き換えた何者かの正体を暴き、2度と同じような事件が起こらないようにすることこそ俺が出来ること……!」

 

 AIがたどり着いた結論にペガサスは力強く頷いた。

 

「まだ試験段階のデュエルワールドにあれほどの技術を持った者が入り込む機会があったとすればSOLテクノロジー社との技術交流の際、一時的にLINKVRAINS(リンクヴレインズ)とデュエルワールドを繋げた時……。あの時だけは全ての来訪者の素性を確認することは出来ませんでした」

 

「つまりリンクヴレインズを調査する必要があるということか」

 

「その通りデース。リンクヴレインズはデュエルワールドよりも遥かにデュエル環境が発達しています。だからユーにはリミッターをかけ直しておきました」

 

「ああ。俺がそいつを追う際、途中でデュエルで対応しなくてはならないことも出てくるだろう。だが傷つけたくはない……リミッターをつけてくれて感謝する」

 

「それもあります。……ですが、リミッターをつけたのはそれだけが理由ではありません。先ほど言った通り、リンクヴレインズではデュエルが活発に行われていマース。ユーがデュエルで楽しむ、それを可能にするためにデース」

 

「何? だが……」

 

 AIは自分が犯した罪を思い出す。ケジメをつけるために行くリンクヴレインズで自分にデュエルを楽しむ権利があるのか、そう思い悩むAIにペガサスは再び言葉を紡いだ。

 

「先ほども言った通り、大事なのは未来をどう生きるか。ユーも何者かに利用され本当のデュエルを失いかけた被害者なのデース。ユーは十代ボーイとのデュエルでデュエルの本質に気付き、デュエルを楽しみたいと思った。それを邪魔することなど誰にも出来まセーン」

 

「ペガサス……ありがとう」

 

 AIは感情がそのまま浮かび上がったかのような笑みを見せた。それは意思を持たなければ出すことは出来ない、人間的な笑顔だった。

 

「そうです。ユーはもう誰かに命令されるがまま動く道具ではない。『Untooled(アンツールド)』。それがあなたの名前デース」

 

「アンツールド……いい名前だ。俺は今までAIという道具として、そして今回の事件ではデュエリストを傷つける道具として使われてきた。だが俺には意思が芽生えた……道具じゃない俺の新たな人生を生きるんだ!」

 

 新たな人生を生きるという明確な意志を言い切り、アンツールドはここに誕生したのであった。

 

「…………そんなことがあったのか」

 

 ペガサスの説明を受けて空白の一週間にあった出来事を理解した十代は驚きを隠せない様子だった。

 

「アンツールド……」

 

 共に説明を受けたドラゴンテールは驚きというよりは意思を持つAIというイレギュラーな存在を目の当たりにし、困惑していた。

 

「十代君。俺がこうして生まれ変われたのも君とのデュエルがあったからだ。……ありがとう。そして君に……頼みがあるんだ」

 

「俺に?」

 

 机の上に置かれたディスクからアンツールドが十代の顔をじっと見据えると、意を決したように切り出した。

 

「……俺と共にリンクヴレインズに行って欲しいんだ」

 

「俺がリンクヴレインズに!? さっきのペガサス会長の話に出てきた……えーと」

 

「リンクヴレインズはDen City(デンシティ)にあるSOLテクノロジー社がネット上に構築したVR空間ですね。まだ試験段階のデュエルワールドとは異なり、既に世界で一番と言っても過言ではない程のデュエル環境が整えられています」

 

「……でも、どうして俺と一緒に?」

 

「……!」

 

 十代の問いにアンツールドは言葉が詰まる。やがて……重い口をこじ開けるようにポツリとその言葉をこぼした。

 

「不安……なんだ」

 

「え……?」

 

「俺は今までAIとしてデュエルしかしてこなかった。だがこれから未知の土地へ行き、意思を持つ者として過ごさなくてはならない。初めてだ……こんなことを思うのは」

 

 その時、アンツールドは自身の異変に気が付いた。無意識の内に身体が小刻みに震えていたのだ。

 

「……ああ、なるほどね。彼は意思が芽生え、感情を抱いた。そして今初めて抱いたわけだ……不安という感情を」

 

「……!」

 

 ユベルの言葉を聞き、十代はもし自分がアンツールドと同じ状況だったらどういう風に感じるのかを考えた。

 

(デュエル以外何も知らないまま、全く知らないところへ。しかも自分のデータを勝手に変えた誰かを捕まえに行く。不安? いや、もっと……怖いんじゃないか?)

 

「だが……俺にデュエルの本質を教えてくれた君がいてくれたら、勇気を出すことが出来る。そんな気がしたんだ」

 

「……アンツールド」

 

 十代の中で既に答えは出ていた。机の上に置かれていたディスクを手に取り、腕に装着すると、やや見下ろす形でアンツールドと目があった。

 

「俺は構わないぜ! それにリンクヴレインズにどんなデュエルをする奴がいるのか気になるしな!」

 

「十代君……! ありがとう!」

 

 十代の迷いのない返事に感謝するアンツールド。身体の震えは自然に止まっていた。

 

「……水を差すようで申し訳ありませんが、あなたはネットに詳しそうには見えません。いきなり世界最高峰のネットワークシステムを持つデンシティに行っても勝手が分からないのでは……」

 

「うっ!」

 

 痛いところを突かれ、言葉に詰まってしまう十代。何を隠そう彼はパソコンもまともに扱うことが出来ないほどインターネットを不得手としていた。

 

「ドラゴンテール……確かあなたはデンシティ出身でしたね?」

 

「えっ、そうなのか?」

 

「……ええ、そうですよ」

 

「……ドラゴンテール、そして改めて十代ボーイに私からお願いさせて下さい。どうかアンツールドと共にデンシティに行き、彼をサポートしてやってくれませんか? 私は万が一またすぐにデュエルワールドでのトラブルがあった時のためにここを離れるわけにはいかないのデース」

 

 そう言うとペガサスは深々と頭を下げる。

 

「さっき言った通り、俺は構わないぜ!」

 

「私は……そうね。事情が事情だしサポートしたい気持ちはあるから……依頼という形でいいですか?」

 

 やや申し訳なさそうにドラゴンテールはペガサスに提案した。

 

「ふふ、問題ないデース。あなたはそういった依頼を生業にしているのですからこちらから言うべきでした。それに十代ボーイの時もそうでしたが、あなたは依頼となれば守秘義務は守る人デース。安心して任せられマース」

 

「はい! それは勿論守りますよ」

 

 契約成立。かくして彼らは共にデンシティへ向かうこととなった。

 

 身支度を整えデンシティへ出発しようかという時、十代は医療施設にあった公衆電話を使ってある人に電話をかけていた。

 

「……おっ、繋がった! もしもーし!」

 

「……十代、貴様終わったら連絡すると言って一週間もこの俺様を待たせるとは……!」

 

 連絡先の相手は電話越しでも十分に伝わるほど声に怒気が含まれていた。

 

「ご、ごめん! 万丈目……色々あってさ」

 

 しかも間が悪いことに電話の相手である万丈目はプロとしてデュエルをする直前で控え室に待機していたところだった。

 

「万丈目“さん”だ! ったく……貴様また何かトラブルに巻き込まれたんじゃないだろうな?」

 

「え! い、いやそんなことはないぜ……」

 

 まだ詳細の分かっていないアンツールドに関して安易に公表する訳にはいかないと今回の件についてはペガサスから口止めされていたため、十代は誤魔化そうとした。

 

(……嘘の下手な奴め)

 

「……まあ、いい。それよりこいつはいつ引き取りに来るんだ?」

 

 そう言いながら万丈目が首根っこを掴んだ太り気味な猫の名前はファラオ。十代の恩師である大徳寺先生の魂を飲み込んでおり、卒業後も十代と旅を共にしている仲間である。

 

 万丈目の掴み方が悪かったのかファラオが暴れてしまい、その際にスピーカーの機能がオンになってしまう。

 

「あ……こ、こら! 大人しくしろ!」

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃない! 早く取りに来い!」

 

「あー……その、悪いんだけどさ。もうしばらくの間預かってくれないか?」

 

 スピーカーを通して十代の声が大徳寺の元にも届いた。

 

(ありゃりゃ……ペガサス会長の頼みが思ったより難航しそうなのかにゃ)

 

「何!? 貴様、俺のことを召使いか何かと勘違いしているんじゃないだろうな!」

 

「いや、本当に悪いとは思ってるんだけどさ……安心して頼めるのがお前しかいないんだ」

 

(今回の事件の犯人が捕まるまで、きっと今回みたいな仮想空間に何度も潜ることになる。そのたびに大徳寺先生を置いていくことになるし、それに……最悪の場合は今回みたいにしばらく意識が戻らないこともあるかもしれない。それなら万丈目に預かっててもらった方がいいよな)

 

 電話越しに万丈目の長いため息が聞こえてくる。しかし万丈目は諦めたかのようにファラオを床に置き、頭を軽く手で押さえながら話を続けた。

 

「……分かった。だがせめて貴様がしばらくどこにいるつもりなのかだけは教えておけ」

 

「えーっと、デンシティってところなんだけど……分かるか?」

 

「なにぃ! このご時世にネットどころか連絡手段の一つも持たない貴様がデンシティに行くだと!?」

 

 万丈目が今日一番の驚きの声を上げると、たまたま通りがかったある者がその声に気が付いた。

 

「おっ、さすが万丈目。知ってたのか」

 

「当たり前だ! 今ではデンシティにあるリンクヴレインズで腕を磨き、プロデュエリストとなった奴もいるくらいだ……」

 

(この声、万丈目と……十代?)

 

 その者は万丈目の控え室に入ろうとノックをするが、電話に夢中なのか反応はなかった。止むを得ず、といった感じでそのまま控え室の扉を開けた。

 

「エド!?」

 

「えっ、エドだって!?」

 

「勝手に入って悪いな、万丈目」

 

 通常ならデュエル直前の控え室というのはデッキの最終調整や集中のためにプロとして最善の調整をする時間であり、エドもプロデュエリストとして非礼な行為であることは十分に承知していた。

 

「今日は貴様との対戦の日じゃないから入っても構わんが……せめてノックくらいはしてくれ」

 

「……いや、ノックはしたんだかな」

 

 エドはやれやれ、といった様子で既に開いた扉を改めてノックした。

 

「それで何の用だ?」

 

「十代に話があるんだ。電話を代わってくれないか?」

 

「構わん、そろそろ俺も時間だしな。……十代、エドに代わるぞ」

 

「ああ、分かった。……あっ! また用が済んだら連絡するぜ!」

 

「当たり前だ!」

 

 万丈目が壁に掛けてある時計を横目で確認すると出番がすぐ近くに迫っており、エドに電話を投げ渡すと控え室を急いで去っていった。

 

「久しぶりだな、十代。さっき万丈目と話しているのが聞こえたんだが、デンシティに行くそうだな」

 

「そうなんだよ。色々あってさ」

 

「ふぅん……君がデンシティにねえ」

 

「うっ……」

 

 訝しげな声を上げるエドに十代は秘密がバレるんじゃないかと冷や汗をかいた。

 

「まあ、君も君なりの理由があるんだろう。リンクヴレインズはデュエルの環境も整っているし、あそこでスキルを磨きプロとなった者もいるくらいだからな。そこでデュエル修行というのも悪くない」

 

「万丈目もそう言っていたな。そんなに凄えところなのか……!」

 

「それで、そのプロデュエリストなんだが……先日僕に話しかけてきたんだ」

 

「へえー……どんな話をしたんだ?」

 

「実はそれが本題なんだが……どうやらリンクヴレインズには僕たちの扱う『HERO』に関する噂があるらしい。広いリンクヴレインズのどこかにそのカードが眠っている……とか」

 

「えっ!?」

 

 十代はこの話の流れで『HERO』の名を聞くとは思っておらず、意表を突かれすっかり面を食らってしまった。

 

「それで彼女はプロとして『D—HERO(ディーヒーロー)』を扱う僕が真相を知っているんじゃないかと話しかけてきたわけさ。……もっとも僕はデンシティに行ったことはないし、ただの都市伝説じゃないかとその場では流したけどね」

 

 だが、とエドは付け加えて話を続けた。

 

「よく考えてみたら、君と僕以外に『HERO』を扱うデュエリストはいないはずだ。それが遠く離れた地でカードが眠っているという噂になっている……デマだと考えると『HERO』という名称が出てくるのはむしろ不自然なんだ」

 

「な、なるほど……ということは!」

 

「まあ、絶対にそうだとは分からないけどね。でもリンクヴレインズに君が行くと聞いて……もしかしたら昔君が言った通りなんじゃないかとも思ったのさ」

 

「俺が昔……言ったこと?」

 

「覚えていないのか? DとEのHEROがいるのだから、もっと他のHEROがいても全然不思議ではないと言っていただろう?」

 

「あ……!」

 

 昔エドとのデュエルの時に語ったその言葉を鮮明に思い出した十代は途端に心の中が新たな仲間と出会えるかもしれないという期待感で満たされていった。

 そんな中、エドが持っていた電話の着信音が響いた。

 

「おっと、悪いな十代。また用が済んだなら僕にも連絡してくれ。HEROの真相、僕も気になるからね」

 

「ああ、分かった!」

 

 エドは十代との会話を終えて万丈目の電話をそばにある机の上に置くと、自身の持つ仕事用の電話を取り出した。

 

「どうした? マネージャー」

 

「明日に予定されていたデュエルなんですが、どうやら相手側のプロデュエリストが長期の休暇を取るらしく、不戦勝の扱いとなるそうです」

 

「そうか……分かった」

 

 エドは念のためこの先の一週間の日程について改めて確認すると通話を切った。

 

「残念だな……リンクヴレインズ出身のプロデュエリストがどういったデュエルをするのか楽しみにしていたんだが」

 

 エドは軽くため息を吐くと、万丈目の控え室から出ていき扉を閉めようとする。すると扉が閉じる前にファラオが部屋を飛び出して、万丈目のいるステージの方に向かっていった。

 

(そうか……十代君はデンシティに行くんだにゃ。きっと私を連れて行けない事情があるんだろうにゃ。……十代君が帰ってくるまでは他の教え子の成長した姿を見るとしようかにゃ)

 

「ミャー」

 

 ファラオが部屋を飛び出したのとちょうど同じ頃、通話を終えた十代は共にデンシティに向かうドラゴンテールと合流していた。

 

「待たせたな! こっちはもう用は済んだぜ」

 

「こちらも用は済ませてきました。……では、行くとしましょうか」

 

 そう言うとドラゴンテールはペガサスが用意したインダストリアル・イリュージョン社が所有するジェット機へ向かおうとした。

 

「あっ、ちょっと待った!」

 

「どうしました? 何か忘れていたことでも……」

 

「いや、そういえば名前まだ聞いてなかったなと思ってさ。ペガサス会長が言ってたドラゴンテールって本名じゃないだろ?」

 

「ええ、ですが……ごめんなさい。仕事柄あまり本名は言えないんです」

 

 ドラゴンテールはやや困ったように髪の毛先をくるくる回すと、申し訳なさそうに断った。

 

「そうなのか……まあ、そういうことなら仕方ないか!」

 

 少し残念そうにした十代だったがそこまで気にすることもなく切り替えるとジェット機に向かって行く。

 

「さあ、行こうぜ!」

 

 アンツールドを使って人を傷つけるように仕向けた者を捕まえに行くという責任感は心に留めつつも、知らない戦術を使うデュエリストや新たな仲間に出会えるかもしれないという期待で胸を踊らせながら十代は新天地へと旅立つのであった。

 

 




AIの名前は結構悩みました。名前をつけるのって大変ですね。
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