計画を達成するためラインアークへと向かうが…。
低度のコジマ汚染が散見されます。
低度というのは深刻度ではなくクオリティの方です
照明を落とした部屋で、オーメルの仲介人、アディ・ネイサンはブリーフィングを行っていた。
「唯一の拠り所たるホワイト・グリントを失えは、ラインアークの抵抗の意志はもろくも崩れ去るでしょう」
きっちりとしたスーツを身にまとい、清潔感の一言で済む彼の印象は、それでいて何処か冷たい。
「それと、ランク1たるオッツダルヴァ様を疑っているわけではないのですが、アスピナ機関のフラジールも同行させます。貴方は我々の切り札です。これも当然かと」
プロジェクターが映し出す映像が終わり、部屋の明かりが点く。ネイサンは指示棒を両手で縮めると、右手でメガネの位置を直してからこちらへ向き直った。
「ブリーフィングは以上です。無事の帰還を、願っています」
心がこもっているとは思えない声色でネイサンはそう締めくくった。良くも悪くもビジネスに忠実で、下手に人情的であるよりは付き合いやすい。
「当たり前だ。私を誰だと思っている」
私はカラードのランク1、オッツダルヴァである。
尤も、それは今日までの話だ。
全ては計画通り。完璧だ。
――だったはずなのだ。
「ミッション開始。ラインアークの主力ネクスト、ホワイト・グリントを撃破する」
実際にラインアークへ赴いてみれば、隣りにいたのはあの特徴的なネクストではなく、いや、こちらもまた特徴的ではあるのだが。
丸い頭部。コイルの突出した、青いボディ。
いつかカラードを騒がせた、アクアビットマンが立っていたのだ。それも、右腕を天に、左腕を地に伸ばし、右膝を腰まで上げ、左足は開いてピンと立てた格好である。どうやってバランスを取っているのかが全くわからない。
「…フラジールはどうした」
アクアビットマンのオペレータ、セレン・ヘイズに問いかける。
「ランク1と共同すると聴くやいなや、『期待から、光が逆流する…』などと言って倒れたらしい」
「ルーラーは! あいつなら…!」
「そいつのことは知らんが、企業連の奴らは『オーメルで動けるのはステイシスのみだ』とぼやいていたぞ」
「くっ…空気にもなれんか…!」
記念すべきテルミドールの帰還の日に、かような不確定要素とは…。メルツェルは手を打っているのだろうか。
「まあ、言いたいことは分かるが、うちのリンクスは役に立つぞ?」
ヘイズの声に便乗して、アクアビットマンがガッツポーズを取る。随分と余裕な振る舞いだ。
「それと。なぜリンクスが喋らない?」
これは前々から気になっていたことだ。こんな特徴的なネクストの搭乗者がどんな人物なのか、興味が惹かれないはずがない。今まで共同した下位のリンクスもそう思いコンタクトを取ろうとしたらしいのだが、会話は全てオペレーターが行い、リンクス自体の意思表示といえばジェスチャーぐらいのものだったらしい。
「悪いな。こいつはシャイで、話したがらないんだ」
内股になり、両手で顔を覆うアクアビットマン。さっきから随分と感情的な行動だが、ほんとにシャイなのか。
「…分かった。せいぜい気張ることだな。それと、邪魔だけは、するな」
いつも以上に上から釘を刺す。くそ、こんな筈じゃ。
「こちらホワイト・グリント、オペレーターです。あなた達は、ラインアークの主権領域を侵犯しています。速やかに退去して下さい。さもなければ、実力で排除します」
時間は待ってはくれなかった。無情にも、戦闘は始まってしまう。
やつが変なことをしなければ、予定と何ら変わりない。よく考えれば、フラジールだってマトモではない。
もしかすると状況はあまり変わっていないのかもしれない。そう思うと、少し気が楽になった。
「そうだ、言い忘れていた。私達はアサルトキャノンを使う。くれぐれも、巻き込まれるなよ?」
アサルトキャノン? それは銀翁が言っていた、トーラスの新型兵装じゃ…。
いや、違う。あれはなんだ。さっきアクアビットマンを見た時は気づかなかったが、背中に搭載された2つの半円は…。
銀翁から聞いていたのは、せいぜいネクスト1機分のサイズだったはずだ。アクアビットマン――いいや、あの変態が背負っているのは、およそネクスト数機分…それどころではない。おそらく、ソルディオス・オービットとほぼ同等のサイズだ。馬鹿げてる。
――説明しよう!
アサルトキャノンとは、新型ネクストの必殺技「アサルトアーマー」を指向化し、馬鹿げた威力を実現したコジマ臭い武器なのだ!
ゲーム中ではここまで大きくないが、コジマに汚染された筆者の脳内世界ではトーラスによって巨大化されたぞ!
つまりはご都合主義だぞ! 許してください!
「よし、コジマ供給は絶好調だ。ランスタンの意地を見せつけてやれ」
ヘイズの号令で、アサルトキャノンが緑色に輝く。コジマ収縮だ。
キャノンは展開し、前方に傾く。そして―――
―――ッシュゴオオオオオオオオオオッ!!!!
巨大な緑色の光球が放たれた。
銀翁は「当たれば殺れるが、当たりにくいのが難点だな。まあ、そこが可愛いんだが」と笑いながらアサルトキャノンを評価していたが、これは「弾が大きければ大きいほど当たりやすい」という脳味噌が黴びても分かる単純なコンセプトで作られている。
海上都市であるラインアークの上部で放ったにも関わらず、海面には光球がを中心として波紋ができている。
付近に居る生身の人間は即座に死ぬ。そう直感させる。
「ッ!? 避けて! いくら貴方でも、アレを食らったら!」
開幕早々のド派手な攻撃に、ホワイトグリントのオペレーター…フィオナ・イェルネフェルトも焦ったようだ。先程までの冷静とした口調は見る影もない。
しかしホワイト・グリントはオペレーターの必死さとは対照的に、危なげなくそれを避ける。いくら巨大とはいえ、ただバカ正直に突っ込んでくる球に当たるはずもない。
立場としては悲しむべきなのだが、いまヤツに斃れられては私が困る。
ほっと安堵し、オーバード・ブーストでホワイト・グリントとの距離を詰める。
…オーバード・ブーストが発動しない。何故だ? ENは十分にあるはずだが…。
と、気がついた。PAが消えている。
ジェネレーターがイカれたわけではない。ということは、展開を妨げるなにかがあるということ。
「ふむ…流石に避けるか。まあ、これでやつのPAも剥がれた。一気に攻めるぞ」
考えるまでもなかった。変態のアサルトキャノン。こいつが原因だ。
「私のPAも剥がれた! 邪魔はするなと言っただろう!」
「さてな。整波性能が低いからそうなるのだろう? ほら見ろ、私のリンクスを」
見れば、変態は両腕を空へ向けて広げ、両足は肩幅ほど開いている。
…ちゃっかり巨大アサルトキャノンをパージしている。豪放磊落が過ぎるだろう。
そして肝心のPAは、全開でこそないが確実に充填され、再展開されている。バケモノか。
「…バケモノが」
気づかないうちに口から漏れていた。ヘイズはそれを聞き逃すことはなく
「バケモノで結構。"普通"のランク1様は、そこで指でも咥えてみているが良い」
と言い捨て、コジマの化身はオーバード・ブーストで吹っ飛んでいった。
まだPAが展開されていない私はそれを通常ブーストで追いかける。
ステイシスの名が泣く。
全てはあの闖入者のせいだ。
そしてホワイト・グリントと変態が会敵し、戦場は海上へと移された。
変態はあのアセンブルから想像だにしない俊敏さで海上を駆ける。
やつが通ったあとには緑の軌跡が伸びており、確実に海へとコジマ汚染が広がっている。
恐ろしい。ラインアークの民からすれば溜まったものではないだろう。
しかしあのアセンブル、割と本気だ。
右手にはレイレナード製のマシンガン。左手にはアクアビット製のコジマライフル。基本はマシンガンで削り、チャンスと見ればコジマの一撃を加える。見た目の派手さとは裏腹に、地道な戦法だ。
なるほど、これがあの変態がここまで生き残っていた理由か…。ん?
「おい、背部武装はさっきパージしたはずじゃ…キノコが生えているぞ」
「キノコとは失礼な。整波装置だ。キャノンに格納しておいた」
「そんなことが…」
――出来ないぞ!
説明しよう!
アクアビットマンはその活躍、そしてコジマ製品、特にアクアビット社製のものを使うことで、トーラスの各種商品の販売に貢献し、今では独立傭兵ながらトーラスのマスコットリンクスになったのだ!
アクアビットマンの言うことはトーラスがなんとかしてくれる!
さすが変態企業!
大企業じゃないくせに自社製品のみでネクストを組める理由はその行動力にあったのだ!
「…ええい、ちょこまかと! コジマライフルの弾速ではやつを捉えられん! アサルトアーマーでケリをつけるぞ!」
ヘイズがそう叫ぶと、変態は両手武器をパージした。こいつ、弾薬費をなんだと思ってやがる!
しかも、そのがら空きになったはずの両手にはなぜかアサルトアンプが握られていた。きっとトーラスの仕業なのだろう。しかし、整波装置を2つ背負って、肩にも追加整波装置。ダメ押しのアサルトアンプとは、機体負荷はどうなっているんだ。そもそも動くのか、これは。
――説明しよう!
レギュレーションを特別仕様『1.15』を採用したアクアビットマンには、敵は無いのだ!
「行けアクアビットマン! コジマの真価を見せてやれ!」
もはやキャラがおかしいヘイズ。声からしてもっとキツい人間かと思っていたが、そうではないらしい。
引き撃ちに徹していたホワイトグリントに突っ込んでいく変態。
バックブースターを全開で後退するホワイト・グリントだが、OBと2段QBをあわせたアクアビットマンの推力に勝てるわけがなく、接近を許してしまった。
せめてもの反抗として両手のライフルを撃ちまくるが、それは変態のPAによって全て無効化されてしまう。
まずい。ここでホワイト・グリントに死なれると、チャンスを逃してしまう。こうなったら…!
「アサルトアーマー発動ッ! …よし、これでホワイト・グリントは撃破したは…ず…」
「ホワイト・グリント、戦闘…不能…じゃない…?」
「「なぜここに! オッツダルヴァ!」」
ホワイト・グリントの盾になり、アクアビットマンのアサルトアーマーを一身に受ける。ステイシス、大破。
「なぜ! こいつなら、ホワイト・グリントを一瞬で撃破できたのに! まさか、手柄が欲しかったのか!?」
「違う…」
「だったら!」
「私は、ホワイト・グリントと敵対している。しかし、ヤツの強さは認めているつもりだ」
「やけに強かった分裂ミサイル。適正距離を保つセンス。そして何より…素敵性能において、ホワイト・グリントを超える者は…いない」
「だからこそ、貴様のような、アクアビットマンの皮をかぶったクズに倒されたくなかったのだ!」
「皮をかぶったクズだと!? アセンブルを見てみろ! 頭の天辺からつま先まで、全部アクアビットだ! コアとかはレイレナード製だが」
「私が言いたいのは、そういうことじゃない。もとよりアクアビットマンとはひとりじゃない。プライマルアーマーに魅せられた、コジマを愛するものが使う機体だ。そしてそれは、誰もが作ることが出来なくてはならない」
「何が言いたい…オッツダルヴァ」
ステイシスはもう限界だ。しかし、これだけは言わねばならない。
「貴様のその、トーラス特注という名のご都合主義に固められたアクアビットマンなど、アクアビットマンではない!」
「!!」
「アクアビットマンとは、プライマルアーマーを極めた、最強の戦士だ。しかしPA貫通力の高いレーザーや減衰力の高いグレネードやアスピナチェインをふっかけられると一瞬で産廃戦士と化す。その特化ぶりが好きで、アクアビットマンを志すんだ!」
「低いAP、高いPA、カツカツのEN。継戦能力はまるで無く、一撃一撃が双方にとって重い存在となる。それがアクアビットマンの魅力じゃないのか! 一見どうしようもない機体だが、それを使いこなしてこその達成感! 愛着!」
「どんなに強い機体でも、いやだからこそ弱点は存在している。それが魅力なんだ。完全に完璧な存在など、面白くもなんともない。ただのメアリー・スーだ」
ステイシスが沈んでいく。
「メインブースタがイカれたか…」
「オッツダルヴァ…」
「心しておけ。貴様の惰弱な発想が、コジマを壊死させるのだと…!」
―――そして、ラインアークのホワイト・グリントは斃れず、ただカラードのランク1、オッツダルヴァのみが没した。クレイドルで最も優れたリンクスたちの戦いは、ただ一人だけが失われて終わり、ラインアークはその最も重要な戦力を保有したまま、確固として企業への反抗を続けていた。
しかしこの日を境に、ひとつ、ホワイト・グリントの象徴たるその色に変化が現れた。
輝くような緑色。これよりホワイト・グリントはグリーン・グリントと呼ばれるようになる。この色に隠されたコジマへの熱い憧憬は、しかし誰にも伝わることはない。
ただ、コジマを愛する者たちを除いて。
「ステイシスは海中に没し、オッツダルヴァは生死不明。状況でこそ予定通りだが」
「まったく、手間を掛けさせる。コジマ汚染が深刻な中の救助は苦労したぞ」
「すまんな。助かったよ、メルツェル」
「例なら銀翁に言ってくれ。私はただの参謀だ。時期もある、クローズプランを開始しよう」
「そのことだが…少しだけ待てないか?」
「パートナー、か」
「ああ。強いだけの阿呆ではないらしい。試す価値くらいはあるだろう」
「…感傷か?」
「…違うといえば嘘になる。未熟だが、コジマへの愛は本物だろう」
「レイレナードのコジマオタクの名は伊達じゃないらしい」
「止めてくれ。過去の遺物だ」
「じゃあ、もう一つの遺物を清算しに行こうか」
「焦るんじゃない、メルツェル。事態は手遅れだが、同時に緩慢だ。今更急くまでもあるまいよ」
水没王子は演技説支持派です