ジオンと連邦が覇権をかけて戦った一年戦争。
華々しくかつ破滅的なこの大戦争の前に、ジオンの指導者たちはどのような計画を立てていたのだろうか。総力戦の観点から、ジオンの戦争計画とその問題点を考察する。

※私の知識不足と考察不足が目立つ点があったため、加筆修正しました。

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ジオンと連邦が覇権をかけて戦った一年戦争。
華々しくかつ破滅的なこの大戦争の前に、ジオンの指導者たちはどのような計画を立てていたのだろうか。総力戦の観点から、ジオンの戦争計画とその問題点を考察する。

※私の知識不足と考察不足が目立つ点があったため、加筆修正しました。


加筆修正版

ジオン公国首都、ズムシティ

ジオン事実上の指導者であるギレン・ザビはジオン軍参謀本部(総司令部とも)の地下室で参謀らと共に苦悩していた。

 

 

ギレン「腐敗した連邦政府は、我々スペースノイドを植民地人と見下し、

長年にわたって搾取を続けてきた」

 

ギレン「だが、文民統制の文弱政府は衆愚政治によって混乱していると聞く」

 

ギレン「精強なる軍人政府を戴くジオンが独立戦争を起こせば、

堕落した連邦軍を撃破して宇宙の覇権をわが物にできるだろう」

 

ギレン「我々の軍事技術は連邦より進んでいるが、時間が経てばその優位も失われるに違いない」

 

ギレン「連邦を倒すなら今しかないのだ」

 

 

ギレンは居並ぶ軍人に力強く語った後、ふいに顔を曇らせ、珍しく弱音を吐いた。

 

 

ギレン「・・・だが、これは危険な賭けだ」

 

 

ギレン「開戦劈頭で連邦軍を殲滅できる保証も無く、失敗すれば我々は連邦との長期総力戦に突入することになる・・・

わがジオンは国力を充実させつつあるとはいえ、連邦との国力差は如何ともなし難い」

 

ギレン「果たして、我々は連邦に勝てるのだろうか・・・?」

 

参謀A「統帥、これをご覧ください」

 

参謀の一人が狭い地下室の中央を占めるテーブルに書類を差し出す。

分厚い書類の表紙には「極秘」の刻印と共に「連邦との総力戦における長期的予測」と書かれていた。

(ちなみにジオン軍の統帥権は公王デギン・ザビではなくギレンが掌握しており参謀総長と国防大臣を兼任している)

 

ギレン「ほう、ようやく完成したか。要点を述べよ」

 

ギレンは軍人らしく簡潔に問い、書類を差し出した参謀も簡潔に答えた

 

参謀A「はっ。我々と連邦が総力戦を行えば、わが国は一年で滅びます」

 

ギレン「一年・・・」

 

一年。一年か。ギレンにとっては短すぎる数字であった。

補足する形で別の参謀が説明を行う。

 

参謀B「わが国と連邦の工業力はおよそ35倍の開きがあります。

総人口は1億5000万人対100億人、およそ百倍です」

 

参謀C「編制動員課の見積もりによれば、わが国は現在徴兵制を施行していますが、

経済への影響を考えての最大動員数は人口の5パーセントにあたる750万人。

国力を無視し、学徒や女性を含めた総動員を行ってもおよそ1000万人の動員が限界です」

 

参謀C「しかし、連邦軍は軍縮と志願制により平時の兵力は70万人ほどであるものの、本格的に動員を開始すれば

5000万人が動員可能であり、総動員ともなれば1億を越すでしょう」

 

ギレン「そうか」

 

ギレンは頷く。宇宙世紀になって、戦争は再び大量の予備役を招集し膨大な兵力をぶつけ合う戦へと回帰した。

ジオンは動員下令後の軍の急激な拡大に備え、将校の大量育成と大学生の軍事教育によって予備士官を大量に召集する計画がある。

(後の一年戦争開戦後の連邦軍の深刻な将校不足は、緒戦の大敗以上にこうした備えの不足によるところが大きい)

 

参謀D「それだけではありません」

 

眼鏡をかけた参謀が口を開く。

 

参謀D「わが国が目下開発中の新兵器、通称モビルスーツの装甲である「超鋼スチール合金」ですが、

原料である銑鉄やコークスは連邦からの輸入に頼っています。

軍需に必要な各種資源も自給不可能であり、戦時の膨大な軍を養うには半年で底を突くとの試算も出ています。

モビルスーツの燃料であるヘリウム3供給地、木星とのスペースレーン(シーレーンの宇宙版)への通商破壊対策も必要であります」

 

ギレンは押し黙ったまま思案する。ジオンの科学力は部分的には連邦より先進性を誇る。科学的加工で補えないものか。

ギレンの心を読むように、先ほどの参謀が続ける。

 

参謀D「もちろん、わがジオンの優勢なる科学力によって人造資源の生産体制構築に全力を傾けております。

しかしながら、未だ総力戦の膨大な需要に応える程度にまでは達しておりません」

 

地下室は重苦しい沈黙に包まれる。ギレンは宇宙覇権の野望がいきなり打ち砕かれた気がして項垂れた。

連邦と戦争をしても勝てないではないか。その場に居る男達は誰もがそう思っていた。

 

しかし、一人の女性軍人の発言が空気を一変させる。

 

「今の弱腰の議論は一体何であるかッ!!!それでも貴様らは軍人か!!!!」

 

一同はその発信源を注目する。参謀本部作戦部長のキシリア・ザビ少将である。

統帥ギレンの実妹であり、若干24歳で少将の位に就いたのは「作戦の天才」と呼ばれるほどの優秀さの賜物である。

ジオンの誇る新兵器、モビルスーツの研究に先鞭をつけたという先進性も持ち合わせていた。

 

ギレン「キシリアか。流石の貴様でもジオンと連邦の差はどうしようもあるまい」

 

ギレンは半ば諦観の念でそう問いかけた。しかし、キシリアは思いもよらぬ言葉を発する。

 

 

「連邦に勝つことは、可能です」

 

 

居並ぶ軍人たちがざわつく。連邦に勝てるだと。

興味を持ったギレンは鋭い眼差しでキシリアを見つめた。

 

ギレン「貴様がそう言うのだから、根拠が無いわけではあるまい。続けよ」

 

キシリア「はっ」

 

キシリアは頷くと、滔々と語り始める。

 

キシリア「確かに、連邦の国力は巨大です。本格的に戦争経済に移行し動員を開始すれば、

ジオンはたちまち踏み潰されるであろうことは火を見るより明らかであります」

 

キシリア「ですが」

 

キシリア「それは連邦が戦時体制へ移行してからの話であります」

 

 

一同は再びざわつく。自分たちがこれまでしてきた議論の根底が覆されたからである。

 

キシリア「連邦は確かに超大国、巨大な国力を持つ巨人ですがその力をフルに稼動させるには時間がかかります」

 

キシリア「わが作戦部の試算では、連邦が兵力の動員を終えるには三ヶ月かかります。

地球圏全域から兵力を召集編成するのですからそれくらいはかかるでしょう」

 

キシリア「わが軍の勝機は連邦のこの巨体ゆえの動きの遅さにあると断言します。

かのフリードリヒ大王は、『戦の勝利は、機先を制するのみ』と言いました。

連邦の準備が整う前にその戦力を殲滅し、敵の戦闘能力を奪う以外に勝利はありません」

 

 

なるほど、短期決戦か。国力に劣る国がとるべき戦略の一つである。

ギレンもそれを構想していたが、リスクの大きさに躊躇していたのだ。

 

ギレン「しかし、開戦直後の短期間で連邦軍を殲滅できるという保障はどこにあるというのだ?

それに、失敗すれば我が国には万に一つも勝ち目はないのだぞ」

 

キシリア「連邦軍に必勝を期すべく、わが作戦部では戦争計画を練ってまいりました。

今次大戦は間違いなく機動戦になります。モビルスーツも連邦軍に最大限速く、かつ確実に勝利すべく開発された兵器です」

 

キシリア「モビルスーツは、これまでの宇宙空間における戦闘艦の平面的戦闘を立体的戦闘へと革新する可能性を秘めています。

モビルスーツに相当する概念の未発達な連邦に優位に立つことは間違いありません」

 

保守的な連邦軍に比べ、軍備に劣るジオン軍では技術革新の気風が著しい。モビルスーツは物量でも劣るジオン軍の逆転の秘策であった。

 

キシリア「更に、戦闘の勝利の他にも敵の戦闘能力を奪う策があります」

 

キシリア「宇宙世紀以前の世界大戦の時代から、ドクトリン(戦闘教義)というものは敵の指揮系統の破壊を重心に置いてきました。

そして、わがジオン軍のドクトリンにおいても最強の新兵器を組み入れています」

 

そういってキシリアは新兵器の概説書を提示する。これはジオン軍部内でも最高クラスしか知りえない機密である。

 

 

キシリア「ミノフスキー粒子。これを散布することで連邦軍のネットワークシステムを破壊、指揮系統とミサイルによる防衛網を完全に無効化します。

指揮系統が破壊された各部隊は孤立したも同然、これを各固撃破することはたやすいでしょう。

敵のシステムの回復が間に合う前に打撃を与え続け戦意をくじけば、連邦軍は組織として戦闘不能になり降伏する部隊もありましょう」

 

ギレン「ほう。新兵器がこれほど有用だとは」

 

ギレンは統帥たる自分でも思いつかぬ発想に若干の不快感を抱きつつも、

にわかに可能となりつつある短期決戦に俄然興味を抱く。

 

キシリア「他にも、わが軍は連邦軍に比べ多くのことで優れております。かのクラウゼヴィッツに範を取った、

現地の有能な指揮官へ多くの権限を与えることで柔軟性を持たせる訓令戦術や、士官学校の成績にのみ縛られない実力主義の昇進制度などは

官僚主義と学歴主義で硬直した連邦軍に一日の長があります」

 

キシリア「緒戦で連邦軍を殲滅するだけでは足りません。制宙権(宇宙優勢)の確保と共に、連邦側コロニーの破壊と質量兵器による連邦軍総司令部の破壊、月面からの爆撃で連邦の国力に大打撃を与えれば、国力の差も幾分は埋まりましょう」

 

キシリア「僭越ながら、こうした優勢なるジオン軍による戦争計画を、既に立案しております」

 

 

居並ぶ軍人がどよめいた。彼らの顔には困惑ではなく、作戦の天才への期待が滲んでいる。

ここまで来るともはや聞かないわけにはいくまい。自らの権力基盤である軍内部で妹の権威が高まるのはあまり望ましくは無いが、

なにより戦争に勝たなければならない。

 

ギレン「実に興味深い。述べよ」

 

 

そこでキシリアによって述べられた戦争計画は、分刻みで組まれた綿密な「戦争の工程図」であり、

後の一年戦争前半で多くが実行されることになった。概要は以下である。

 

フェイズ1

 

連邦からの独立と宣戦布告を宣言、同時にミノフスキー粒子の散布による連邦軍指揮系統の遮断。キシリア集団、通称「突撃機動軍」による連邦軍への先制攻撃による前衛部隊の殲滅もしくは無力化。月面都市を制圧し橋頭堡としつつ連邦側コロニーの破壊。

連動して「B作戦」による連邦軍総司令部の破壊。(ここまで一週間を予定)

 

フェイズ2

 

ドズル・ザビ将軍隷下の宇宙攻撃軍の陽動により連邦軍主力艦隊を釣り出し殲滅もしくは無力化。制宙権(宇宙優勢)確保。月面から地球本土の軍事基地の爆撃。

 

フェイズ3

 

残存部隊の掃討。艦隊による地球への経済封鎖。全地球圏へプロパガンダによるジオンの勝利を喧伝。

降伏勧告に近い講和条件の提示。戦争終結。(ここまで一ヶ月を予定)

 

 

この計画は直ちに採用されて「キシリア・プラン」と名づけられ、ジオン軍の司令官クラスから小隊長まで全軍にわたって実行されるべき金科玉条となる。

 

そして、この「キシリア・プラン」を元にジオンは連邦との戦争へ突き進んでいく。

 

 

 

 

0078年12月、ジオン軍ドズル将軍の幕下にある一人の将校が思い悩んでいた。

士官学校を次席で卒業した、金髪の若き中尉は自軍の戦争計画への明確な疑問を抱いていたのである。

 

??「キシリア・プランは確かに国力に劣るわが国が取るべき理想の計画だ・・・。

しかし、あまりにも計画の予定通りに戦争を進めることを前提としており、想定外の事態に対する対策が皆無だ。

戦争は多くの人間が行うものであるにも関わらず、全てを機械的にこなすことが求められ、

敵もこちらの想定する動きしかしないと考えられている・・・」

 

??「また、短期決戦に固執する余り、もし講和が成立しなかった場合の長期戦争計画が用意されていないとは信じられない。コロニーの破壊と投下により連邦の国力に一時的に大打撃を与えても、屈服させなければ必ずや立ち直り、反撃に出るに違いない。

惰弱とされている連邦軍にも気骨のある将軍はいよう、そう簡単に屈服するだろうか・・」

 

??「最初の一撃で連邦を殴り倒して再起不能にする。それがキシリア・プランの戦略だ。だが連邦が倒れなければ、殴り倒されるのはジオンだろう」

 

??「愚かなザビ家はジオンを簒奪したばかりか、連邦と無謀な戦争を始めようとしている。許し難いことだ」

 

その時、俄かに部隊が騒がしくなりはじめた。将兵たちは、口々にいよいよ開戦するらしいと叫んでいる。

 

??「賽は投げられたか・・・」

 

中尉は天を仰ぎ、仮面を着けて言った。

 

シャア「功績を立てることで出世すれば、いずれザビ家を倒す機会も訪れよう。

いざ戦地へ征かん!」



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