残念ながら、宝具レベルは上げられませんでしたけど。
絶体絶命のピンチとはまさにこのことだろう。
敵に居るのは今の自分達では叶わないサーヴァントが複数人。そしてたった今そのサーヴァントに対抗できるカルナは倒されてしまった。
敵の総大将であるクー・フーリンはここでカルデアのマスターを見逃すような遊びを挟むような人物ではない。ラーマという力強い味方はいるが、クー・フーリンは宝具開放の準備に入っている。マシュの宝具を差し込む暇はない。流石の立香も己の最期を悟った。その時、
ぬるりと、ナニかが這出てくるのを、この場に居た全員が感じ取った。
「………」
「………!?」
「えっ」
何時の間に、と言うほどのものではなかった。その存在の出現は英霊だけでなく、一般人である立香ですら感じ取れるほど。
しかし誰もがその存在に注目した。特別な力は感じない。サーヴァントが持つ霊基反応も感じ取ることができない。だからこそ、不自然で不可思議で……不気味なのだ。その風貌も警戒心を煽る一要因だろう。纏っているのは黒いローブ。体の体格すら見せないほど大きなもので。顔の部分も黒く塗り潰されているかの如く覗くことはできない。
「……何者だ」
「…………………」
クー・フーリンの問いかけに、ローブの人物は答えない。ただ、警戒を露にする彼らから視線を外し、カルデアの――――いや、藤丸立香の方へ顔を向ける。男の動きに立香は身体を震わせる。彼が感じるのは警戒。絶体絶命の状況で現れた第三勢力。敵か味方かわからない存在に対して行う当たり前の行動だ。
それを確認したかのように、ローブの人物は立香から視線を外して身体をクー・フーリンの方に向けた。
「……一先ずこの場は引いてくれないか?」
聞こえて来た声は、想定よりも若いもの。恐らく二十代にも差し掛かっていないだろう。丁度立香と同世代だと思われる。
言葉が聞こえたことでロマニ達も急いで解析を始めるが、該当者はなかった。
「それはできない相談だ。今ここでカルデアの連中は殺す。それを変えることはない」
クー・フーリンは当然のことのように返す。その姿に、立香がかつて冬木で見た面影は見つからない。何処までも冷徹で、何処までも残酷に、機械的に答える。
「――――やっぱりか」
ローブの男―――いや、ローブの少年と表現するべきだろう。彼はクー・フーリンの回答に大した反応を返すことはなかった。ただ粛々と彼の言葉を受け止め、佇むだけである。
「くだらないおしゃべりは終わりだ。……そこを退け。後ろの連中と一緒に死にたくなければな」
「……■■■・■■■■、■■■・■■■■■。――――偽・■える■眼」
それは、まさに唐突に起きた。
~~
自分達は何を見せられているのだろう。あのローブの少年が何かしたのだろうか。元々魔術に詳しいわけではない俺には理解できなかった。
「グッ、お前、何をした?」
「………世界の見方を変えただけ。暫くすれば直に戻るよ。でも、これ以上戦うというのであれば、無事は保証はしない」
クー・フーリンが問う。ローブの少年が答える。つい先程も見ることができたやり取りだが、力関係は逆転している。今度はローブの少年が優位に立ち、クー・フーリンが不利な立場になっていた。よく目を凝らして見てみれば、彼の額には汗が流れており、何かしらの術にはまっていることだけは分かった。
「成程……お前……漸く合点がいったぞ」
「そういえば、キャスター適性持ってたっけ」
「……今回はお前に免じて退こう」
余裕を持って対峙していた彼らはもうこの場には居ない。
その後彼らはこちらのことを見ることなく、自分達の本拠地に帰還していった。その様を俺達はただ眺めることしかできない。追い打ちをかけるチャンスだったのだろうけど、あの様子を見ると無理だった。
結局その場に残ったのは俺達とローブの少年?だった。彼は、自分が現れた場所から一歩も動くことはなく、ただ不動で佇んでいる。
「ドクター。あれはサーヴァント、ではない……んですよね」
『正直、わからない。反応がないわけじゃないんだけど
「安定していない……ですか……?」
『反応が人でもあり、サーヴァントでもある。けれどどちらでもない……そんな感じだ。なんだこれ!?』
ドクターの動揺が画像越しでも感じ取れる。マシュに視線を向けてみれば、彼女も同じような反応をしていた。俺自身もいくつもの特異点を越えて来た中で、計器で観測できない存在がどれほど異常なのか理解ができる。しかも、安定していないと来た。結局のところ、機械だけでは彼が何者かわからないということだろう。
「君は、一体……」
思わず、そう問いかけていた。
抱いていた警戒はいつの間にかどこかに行き、ただ知りたいという欲求にかられる。というのも、今までの会話で引っかかることがあるのだ。
この声の主を知っている。顔も見たことがあるかもしれない。しっかりと覚えているわけではないけれど、監獄塔で覚えた違和感に似たものを感じている。だから、我慢ができなかったのだ。答えが返ってこないかもしれないと思っていても聞かずにはいられなかった。
「……そうだなぁ」
ローブの少年は小さく呟いた後に、再び黒く塗りつぶされたフードを俺の方に向けた。一寸先も見渡すことのできない暗闇に支配され、不気味さを感じた筈の人物なのに、今はどうしてか安心すらしている自分がいる。いや、安心ではない。安堵に近いかもしれない。
「いずれ分かる――――なんて遠回しな言い方はやめよう。取り敢えず、こちらのスタンスだけははっきりさせておこう」
彼はここで、言葉を切り、直に次の言葉を紡いだ。
「俺は、
「そう、か……うん。そうか」
普通なら、どこぞの誰かもわからない人の言葉なんて信用することはできないだろう。ましてや、その風貌が真っ黒ローブを身に纏っていることしか確認できないような人物なら尚更だ。
しかし、俺はそう思うことができなかった。人理を守る旅をはじめ、誰であろうと信頼し、共に戦うことの重要さを学んできたことも理由としてはあるが何より、彼とは他人の気がしないのだ。
心の中を整理して、一先ずお礼を言おうとローブの少年を見やる。
だが、そこにもう姿はなくなっていた。確かに先程まで居た筈なのに、瞬きをした直後、彼はその場に初めからいなかったかのように消えていた。
「えっ?」
『えっ!?』
他の人も驚きの声を上げているところを見ると、本当に忽然と居なくなってしまったようだ。その内皆は一旦思考を切り替え、今後はどうやってクー・フーリンと首都攻略を進めるのかということに思考が向いて行く。
こちらも仲間達に倣い、一度思考を切り替えるのだった。
彼をもう人間でないと思いますか?
力に溺れて調子に乗ってるぅ~と感じますか?
アハハッ!! 結構結構。人によって感じ方はそれぞれ、別に意見を強制したりはしませんとも。
いや、それにしても彼女に見つからなくてよかったですねぇ。もし見つかっていたら確実に厄介でしたよ! 何故なら彼女は、ワタクシ達と同じモノを感じることができるのですから。