神であり魔王である者も異世界から来るそうですよ?   作:ケミ

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第10話 本拠地へ

噴水広場を越えて天真達は半刻ほど歩いた後、“ノーネーム”の居住区画の門前に着いた。

 

「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この近辺はまだ戦いの名残がありますので………」

 

「戦いの名残?魔王との戦いのか?」

 

「は、はい」

 

「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」

 

黒ウサギは躊躇いつつ門を開ける。視界には一面の廃墟が広がっていた。

 

「っ、これは………!?」

 

「………」

 

街並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥と耀は息を呑み、十六夜はスッと目を細め、天真は顎に手を当ててなにかを考えている。

 

(時間を操る魔王がいるのか?そんな強大な力を持つ魔王が無名とは思えない。少なくとも白夜叉クラスの大物であることは間違いなさそうだ)

 

思考に没頭する天真をよそに、十六夜は木造の廃墟に歩み寄って囲いの残骸を手にとる。少し握ると、木材は乾いた音を立てて崩れていった。

 

「………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは―――今から()()()()()()()?」

 

「僅か三年前でございます」

 

「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

そう、彼ら“ノーネーム”のコミュニティは―――まるで何百年という時間経過で滅んだように崩れ去っていたのだ。

 

「………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」

 

十六夜はあり得ないと結論付けながら、目の前の廃墟に心地良い冷や汗を流していた。黒ウサギは廃墟から目を逸らし、朽ちた街路を進む。

 

「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」

 

力のあるコミュニティと魔王が戦えば、その傷跡は醜く残る。黒ウサギは感情を殺した瞳で風化した街を進む。飛鳥も、耀も、複雑な表情で続くが、十六夜と天真は瞳を爛々と輝かせ、不敵に笑って呟いていた。

 

「この魔王は全力を出して戦えそうだ」

 

「魔王―――か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」

 

―――“ノーネーム”・居住区画、水門前。

五人と一匹は廃墟を抜け、徐々に外観が整った空き家が立ち並ぶ場所に出た。五人はそのまま居住区を素通りし、水樹を貯水池に設置するのを見にいく。貯水池には先客がいたらしく、ジンとコミュニティの子供達が清掃道具を持って水路を掃除していた。

 

「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は調っています!」

 

「ご苦労様ですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

ワイワイと騒ぐ子供達が黒ウサギの元に群がる。

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

 

「眠たいけどお掃除手伝ったよー」

 

「ねえねえ、新しい人達って誰!?」

 

「強いの!?カッコいい!?」

 

「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね」

 

パチン、と黒ウサギが指を鳴らすと子供達は一糸乱れぬ動きで横一列に並ぶ。数は二○人前後で、中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。

 

(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)

 

(じ、実際に目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)

 

(………。私、子供嫌いなのに大丈夫かなあ)

 

三人は三者三様の感想を心に呟く。そして天真は、

 

(いろんな子がいるな。後で遊びたいな)

 

と優しい目で子供達を見ていた。しかし、鋭い目つきのため子供達に若干怯えられているとは、天真はつゆ知らず。コホン、と仰々しく咳き込んだ黒ウサギは四人を紹介する。

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、潺天真さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

 

「あら、別にそんなの必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」

 

「駄目です。それでは組織は成り立ちません」

 

飛鳥の申し出を、黒ウサギは厳しい声音で断じる。

 

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事が出来ない掟。子供のうちから甘やかせばこの子達の将来の為になりません」

 

「………そう」

 

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言い付ける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですよね?」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

キーン、と耳鳴りがするほどの大声で二○人前後の子供達が叫ぶ。四人はまるで音波兵器のような感覚を受けた。

 

「ハハ、元気がいいじゃねえか」

 

「そ、そうね」

 

(………。本当にやっていけるかな、私)

 

「やっぱり子供は元気が一番だよ」

 

笑っているのは十六夜と天真の二人だけで、他の二人はなんとも言えない複雑な顔をしていた。

 

「さて、自己紹介も終わりましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」

 

「あいよ」

 

黒ウサギは水樹を抱え、貯水池の中心にある柱の台座まで大きく跳躍する。

 

(これだけ大きな貯水池に、張り巡らされた水路に水が通ったら壮観なんだろうなあ)

 

そんなことを思っていると、黒ウサギの号令がかかる。

 

「それでは苗の紐を解いて根を張ります!十六夜さんは屋敷への水門を開けてください!」

 

「あいよ」

 

十六夜は貯水池に下りて水門を開ける。黒ウサギが苗の紐を解くと、根を包んでいた布から大波のような水が溢れ返り、激流となって貯水池を埋めていった。水門の鍵を開けていた十六夜は驚いて叫ぶ。

 

「ちょ、少しはマテやゴラァ!!流石に今日はこれ以上濡れたくねえぞオイ!」

 

今日一日、散々ずぶ濡れになった十六夜は慌てて石垣まで跳躍する。

 

「うわお!この子は想像以上に元気です♪」

 

「凄い!これなら生活以外にも水が使えるかも………!」

 

「なんだ、農作業でもするのか?」

 

「近いです。例えば水仙卵華などの水面に自生する花のギフトを繁殖させれば、ギフトゲームに参加せずともコミュニティの収入になります。これならみんなにも出来るし………」

 

「ふぅん?で、水仙卵華ってなんだ()()()

 

え?とジンは半口を開いて驚いた。『御チビ』という尊敬語と嘲笑を交えたなんともいえない愛称に。水仙卵華の説明をした際の十六夜の一言にジンは言い返そうとするが、その前に十六夜が話す。

 

「悪いが、俺は俺が認めない限りは“リーダー”なんて呼ばねえぜ?この水樹だって気が向いたから貰ってきただけだ。コミュニティの為、なんてつもりはさらさらない」

 

ジンは言葉に詰まる。大戦力だと期待していただけに、この言葉の衝撃も大きかった。

 

「それに黒ウサギにも言ったが、召喚された分の義理は返してやる。箱庭の世界は退屈せずに済みそうだからな。だがもし、義理を果たした時にこのコミュニティがつまらねえ事になっていたら………俺は躊躇いなくコミュニティを抜ける。いいな?」

 

十六夜の指す“つまらないこと”が何かはわからないが、だからこそジンも覚悟するように強く頷いて返す。

 

「僕らは“打倒魔王”を掲げたコミュニティです。何時までも黒ウサギに頼るつもりはありません。次のギフトゲームで………それを証明します」

 

「そうかい。期待してるぜ()()()()

 

一転してケラケラと軽薄な笑いを滲ませる十六夜。ジンとしてはイラっとする呼び方だが、黒ウサギに依存してきたジンと違い、新たな同士である十六夜の方がコミュニティに貢献できているので仕方がない事だと言葉を呑みこむ。

 

(初めてのギフトゲーム………僕が頑張らないと)

 

水面に浮かぶ十六夜の月を見下ろし、ジンは一人で呟いた。

 

 

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