本拠の最上階・大広間に連れてこられた天真達。
「どういうつもりですか!?」
「“打倒魔王”が“打倒全ての魔王とその関係者”になっただけだろ。“魔王にお困りの方、ジン=ラッセルまでご連絡ください”―――キャッチフレーズはこんなところか?」
「捻りが無くて直球だけど、わかりやすくていいんじゃない」
「全然笑えませんし笑い事じゃありません!魔王の力はこのコミュニティの入口を見て理解できたでしょう!?」
「勿論。あんな面白そうな力を持った奴とゲームで戦えるなんて最高じゃねえか」
「お………
「それに、これはコミュニティの発展に必要不可欠な
「作戦?………どういうことです?」
「先に確認したいんだがな。御チビは俺達を呼び出して、どうやって魔王と戦うつもりだったんだ?あの廃墟を作った奴や、白夜叉みたいな力を持つのが“魔王”なんだろ?」
ぐっとジンは黙り込み、幼い知恵を駆使して答える。
「まず……水源を確保するつもりでした。新しい人材と作戦を的確に組めば、水神クラスは無理でも水を確保する方法はありましたから。けどそれに関しては十六夜さんが想像以上の成果を上げてくれたので素直に感謝しています」
「おう、感謝しつくせ」
「ギフトゲームを堅実にクリアしていけばコミュニティは必ず強くなります。たとえ力のない同士が呼び出されたとしても、力を合わせればコミュニティは大きくできます。ましてやこれだけ才有る方々が揃えば………どんなギフトゲームにも対抗できたはず」
「期待一杯、胸一杯だったわけか」
十六夜は全く悪びれた様子はなく、ジンは我慢できずに口調を崩して叫ぶ。
「それなのに………それなのに、十六夜さんは自分の娯楽の為だけにコミュニティを危機に晒し陥れるような真似をした!!魔王を倒すためのコミュニティなんて馬鹿げた宣誓が流布されたら最後、魔王とのゲームは不可避になるんですよ!?そのことを本当に貴方は分かっているんですか!?」
ジンは大広間の壁を強く叩く。そんなジンを見つめる十六夜は侮蔑の目を向ける。
「呆れた奴だ。そんな机上の空論で再建がどうの、誇りがどうのと言っていたのかよ。失望したぜ御チビ」
「な、」
「ギフトゲームに参加して力を付ける?そんなもんは大前提だ。俺らが聞いているのは
「だ、だからギフトゲームに参加して力を付けて」
「じゃあ前のコミュニティはギフトゲームに参加して、力を付けていなかったのか?」
「そ………それは」
「加えて聞くが、前のコミュニティが大きくなったのはギフトゲームだけだったのか?」
「………。いえ」
「俺も聞きたいことがある。前のコミュニティには隷属した魔王、もしくは強力なギフト保持者は何人くらいいた?」
「………。今とは比べ物にならないくらいは」
「なら、ジンは魔王や強力なギフト保持者がいない状態でコミュニティの入口をあんな風にした奴と戦うつもりだったの?はっきり言って自殺行為だよ」
「さらに俺達には名前も旗印も無い。コミュニティを象徴出来る物が何一つないわけだ。これじゃコミュニティの存在は口コミでも広まりようがない。だからこそ俺達を呼んだんだろ?」
「……………」
「今のままじゃ物を売買するときに、無記名でサインするのと大して変わらねえ。“サウザンドアイズ”が“ノーネーム”を客として扱わなかったのは当然だろうよ。“ノーネーム”ってのは所詮、名前の無いその他大勢でしかない。だから信用すると危険なんだ。そのハンディキャップを背負ったまま、お前は先代のコミュニティを超えなきゃいけないんだぜ?」
「先代を……超える………!?」
ジンはその事実に、金槌で頭を叩かれたような気がした。この箱庭の都市で一目置かれるほど強大だった、先代のコミュニティ。才も乏しく、身の上と成り行きでリーダーになったジンが“打倒魔王”と口にする事はあっても、天真と十六夜の言葉こそ目を逸らし続けていた現実なのだ。
「その様子だと、ホントに何も考えていなかったんだなオマエ」
「……………っ」
ジンは悔しさと、言葉にした責任の大きさで顔を上げられなかった。しかし十六夜はジンの肩を力強く握りしめ、悪戯っぽく笑い、
「名も旗印も無いとすると―――他にはもう、
ハッとジンは顔を上げる。同時に天真と十六夜の意図に気づく。
「僕を担ぎあげて………コミュニティの存在をアピールするということですか?」
「やっと気付いたね」
「ああ。悪くない手だろ?」
「た、確かに………それは有効な手段です。リーダーがコミュニティの顔役になってコミュニティの存在をアピールすれば………名と旗に匹敵する信用を得られるかも」
「けどそれだけじゃ足りない。噂を大きく広めるにはインパクトが足りない。だからジン=ラッセルという少年が“打倒魔王”を掲げ、一味に一度でも勝利したという事実があれば―――それは必ず波紋となって広がるはず。そしてそれに反応するのは魔王だけじゃない」
「そ、それは誰に?」
「同じく“打倒魔王”を胸に秘めた奴ら、だろ?」
「その通り」
魔王にコミュニティを崩壊させられた者は星の数ほどいるだろう。惜しくも魔王に敗れ去った実力者が、打倒魔王を胸に秘めている可能性は高い。ジンは想像もしていなかった具体的な作戦に、胸を高鳴らせていた。
「僕の名前でコミュニティの存在を広める………」
「そう。今回の一件はチャンスだ。相手は魔王の傘下、しかも勝てるゲーム。被害者は数多のコミュニティ。ここでしっかり御チビの名前を売れば」
魔王の傘下に苦しむコミュニティに恩を売れば、水面下で徐々に噂は広がっていくだろう。
「まあ、ジンが懸念するように他の魔王を引き寄せる可能性は大きいと思う。でも魔王を倒した前例があるようだし、むしろ魔王を倒して隷属させてコミュニティを強化するチャンスとも考えられる」
「だが今のコミュニティに足りないのは人材だ。
彼らの作戦は筋が通っていた。だから賛成するのは簡単だったが、大きな不安要素があるのも忘れてはならない。それを踏まえた上で、ジンは条件を出す。
「一つだけ条件があります。今度開かれる“サウザンドアイズ”のギフトゲームに、十六夜さん達二人で参加してもらってもいいですか?」
「それは俺達の力を見せて欲しいってことかな?」
「それもあります。ですが理由はもう一つあります。このゲームには僕らが取り戻さなければならない、もう一つの大事な物が出品される」
名と旗印。それに匹敵するほど大事な、コミュニティの宝物。
「まさか………昔の仲間か?」
「はい。それもただの仲間ではありません。元・魔王だった仲間です」
十六夜の瞳が光る。
「へぇ?元・魔王様が昔の仲間か。コレの意味する事は多いぜ?」
「はい。先ほど天真さんに言った通り、先代のコミュニティは魔王と戦って勝利した経験があります」
「そして魔王を隷属させたコミュニティでさえ滅ぼせる―――仮称・超魔王とも呼べる超素敵ネーミングな奴も存在している、と」
「十六夜ってさ、ネーミングセンス皆無だよな」
「そ、そんなネーミングで呼ばれてはいません。魔王にも力関係はありますし、十人十色です。白夜叉様も“主催者権限”を持っていますが、今はもう魔王とは呼ばれていません。魔王とはあくまで“主催者権限”を悪用する者達の事ですから」
「えっ」
「どうしましたか、天真さん?」
「い、いやぁ。“主催者権限”を相手の同意なしに使った事があるからね………黒ウサギと十六夜に」
ばつが悪そうに頭を搔く天真。その言葉にジンは驚く。
「えっ。天真さんは“主催者権限”を持っているのですか?」
「あー、うん。持っているよ。その話は後でしてあげるから話を戻そうか」
「は、はい。ゲームの主催者はその“サウザンドアイズ”の幹部の一人です。僕らを倒した魔王と何らかの取引をして仲間の所有権を手に入れたのでしょう。相手は商業コミュニティですし、金品で手を打てればよかったのですが………」
「貧乏は辛いってことか。とにかく俺らはその元・魔王様の仲間を取り戻せばいいんだな?」
「はい。それが出来れば対魔王の準備も可能になりますし、僕も十六夜さん達の作戦を支持します。ですから黒ウサギにはまだ内密に………」
「あいよ」
「了解」
十六夜が席を立ち、大広間の扉を開けて自室に戻る時、ふと閃いたようにジンに声をかけた。
「明日のゲーム、負けるなよ」
「はい。ありがとうございます」
「負けたら俺、コミュニティを抜けるから」
「はい。………え?」
そう言って十六夜は大広間から出ていく。天真はジンの肩に手を置き、
「大丈夫だよ。あれは十六夜なりの激励だから」
「はい。ありがとうございます」
ジンは笑顔でお礼を言った。